コロナ禍で増大した強制貯蓄。経済再活性化のキーとなるのか

コロナ禍に関連して、外食や旅行などができず強制的に蓄えられた個人のお金のことを日銀の定義で「強制貯蓄」と呼んでいます。この強制貯蓄が、日本のみならず世界各国で増加しています。締められた財布のひもは、コロナ禍を脱出した後、緩められるのでしょうか?本記事では、各国で増加する貯蓄の動向と、アフターコロナの経済の見通しを予測するために、貯蓄がどのようにして経済に影響するかについてご説明します。

 

世界各国で増加する家計の貯蓄

貯蓄のグラフ

米国連邦準備制度理事会(FRB)は、2021年6月10日、第1四半期(1~3月)の家計純資産は約136兆9,171億ドルで、過去最高を記録したと報告しました。コロナ禍で外出が規制されて貯蓄が増えた人口は、日本だけでなく全世界で上昇しています。

日本では、コロナ禍が始まり約1年半経過し、国内で緊急事態宣言が初めて発出された2020年4・5月の落ち込みは、リーマンショックや東日本大震災後を大幅に上回りました。その後、経済活動の再開により改善しましたが再び下向きになり、まだコロナ前の水準には戻っていません。

消費グラフ

 

感染者数は増えているにも関わらず、第一波の感染拡大に比べ、第二波や第三波による消費の落ち込みは浅くなっています。感染防止対策の習慣化で人々の気が緩み感染不安が弱まったことや、緊急事態宣言発出区域・店舗施設の営業自粛要請が限定的であることが考えられます。

次に、ワクチン接種と消費の関係ついての面白いデータがあります。接種が進むイスラエル、米国、ドイツでは接種のペースに比例して回復が見られています。

ワクチンと消費のグラフ

 

貯蓄と経済の関係とは

新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、消費機会の消失によって抑制された部分を「強制貯蓄」「家計貯蓄」と言いますが、以下「家計貯蓄」に統一してお話しします。ある試算によると、2020年の「家計貯蓄」の合計金額は10万円の特別定額給付金から貯蓄に回った額を除き、20兆円程度といわれています。またこの定額給付金が、個人の貯蓄の増加に大きく寄与したとは考えにくいとされています。2020年末における家計の金融資産総額は1,828兆575億円で、10万円の定額給付金が全て貯蓄されたとしても増加した金額は12兆6,700億円。つまり増加率は0.69%と貯蓄の増加への影響は少なかったのです。

東日本大震災後のリベンジ消費

可処分所得と消費のグラフ

 

近年で大きな消費機会の損失が発生した事例として、東日本大震災が挙げられます。円高デフレの影響を除いても、家計貯蓄は4兆円程度になったとされています。消費が本格的に回復したのは2013年からで、2013〜15年に関しては可処分所得を上回る消費が行われました。この間、貯蓄率はマイナスになっています。

 

新型コロナ収束後はリベンジ消費なるか

2021年現在では、今後ワクチン接種率の高まりにより感染症が収束に向かっていく中で、貯蓄は徐々に取り崩され個人消費を押し上げると見込まれています。しかし、貯蓄志向が強い日本人が多いと言われている中で、東日本大震災後のように「リベンジ消費」が実現し、経済回復のキーになり得るのでしょうか。

家計貯蓄がもたらす「リベンジ消費」を考えるにあたって、もう一つ考慮すべきものがあります。それが、「予備的貯蓄」です。予備的貯蓄とは、将来の不確実性から発生する消費に回りにくいお金で、不確実性が強いと家計貯蓄が予備的貯蓄へと移行してしまうことがあります。では、この貯蓄を「リベンジ消費」へつなげるためには、どうすればよいのでしょうか。

まず大切なことは、感染拡大を収束させる道筋を立てることです。将来が不安なままでは貯蓄から消費への移行が活性化せず、経済の好循環が実現しづらくなります。また中には、貯蓄どころの状態ではなく、生活に苦しんでいる人たちも多くいます。そのような生活困窮者に対する支援を継続的に実施することも、コロナ禍では非常に重要です。

ワクチン接種が進み、経済が正常化すれば消費は回復し一部は取り崩されるかもしれませが、コロナ禍の下で抑制された旅行や外食などサービスにおける消費は、宿泊施設や交通手段に供給力の限界があるため急激な回復は見込めないというのが現実的なところでしょう。

 

世界各国の貯蓄の動向

ワクチン接種が早くに進んだイスラエル

接種率のグラフ

 

新型コロナウイルスのワクチン接種を世界に先駆けて開始したイスラエル。一度は感染をほぼ抑えることに成功したものの、7月から感染症数が急増しています。新規感染者の90%以上がデルタ株による感染であり、ワクチンの効果も弱くなってきていることも懸念されています。そこでイスラエル政府はワクチン接種の3回目を8月から開始し、これまで人口の20%以上が3回目の接種を終えています。労働市場のデータを見ると、罹患率が悪化する前の水準を回復し求人件数が増加していることが明らかとなっています。インフレ率についても、6月の1.7%から7月は1.9%まで回復しました。

イスラエルは裕福な国ではありますが貯蓄率が高く、国民資産に占める非リスク性資産(国内の現金など)の割合が、リスク資産(国内株式指数時価総額)と比べて過去最高水準となっています。そのため、投資家のリスク志向が回復すれば、リスク資産への転換の動きが活性化することが予想されています。

確かに短期的に見ると、新型コロナウイルスの感染拡大や、感染力の強い新たな変異株の出現などの懸念材料は残っています。しかしアメリカの金融緩和、政府の経済対策、ワクチン開発の発展などから、世界の株式市場は底堅く推移すると予想されています。さらには海外の投資、貯蓄率の高さと待機資金などからも恩恵を受けることも考えられています。

ユーロ圏の実質GDPのグラフ

G7の成長率の表

 

フランスの家計消費は大幅増へ

フランスにおける家計最終消費支出と企業設備投資について、新型コロナウイルスの感染拡大前からの変化を予測しています。

家計最終消費支出は2021年、移動制限期間中に積み上がった貯蓄が消費へ移ることから、2020年からの7.2%減から5.2%増へと大幅に上昇に転じる見込みです。企業設備投資も同様、2021年は新型コロナ危機による大幅減少から9.5%増に上向くと予測されています。四半期別にみても堅調な伸びが予測される企業設備投資ですが、テレワークの普及による情報通信関連の投資の増加、政府による企業収益損失の補填などが関係しているとみられています。

両者とも新型コロナ感染拡大前の水準に回復し、2021年第4四半期にはさらにその水準を上回る見込みです。GDPについても、新型コロナ危機以前の水準に予想より早く回復するとしています。ルメール経済・財務相は2021年の成長率目標を5%と再認識し、フランス経済は2022年の1-3月までに、支出と投資の回復によって感染拡大前の水準まで回復するとの見方を示しています。クレジットカードによる支払い、休暇シーズンの旅行の予約、衣料品の購入が増加していることにも言及した上で、フランス経済が急速に回復に向かいつつあると指摘しています。

さらに、新型コロナ対策で費やした債務は、2025年以降は減少傾向に向かうと見込まれており、公共部門に関連した債務は2027年にGDP比3%を下回るとも予想されています。

 

イギリスは家計・企業の支出が持続的に増加

イギリスでは先進国の中でもワクチン接種が進んでいます。経済対策の規模は欧州諸国の水準よりも高く、夏場にかけても著しい成長が期待されています。このような見方を考慮すると、ユーロ圏全体としてのリベンジ消費やインバウンド需要の巻き返しによって、秋にかけて成長が加速するという見方も大きくなっています。

ユーロ圏経済を見てみると、緩和的な金融政策や財政政策が功を奏し、2022年初めに新型コロナ感染拡大前の水準まで回復、その後もしばらくは堅調な回復が続く予測を示しています。地域別では、南欧諸国は比較的早く回復するという見方がありますが、依然として南北格差は残ると予測しています。

一方でイギリスは、ワクチンの普及や財政政策によって、新型コロナによって打撃を受けた同国経済は、2021年末にはコロナ危機前の経済水準まで回復するとみています。イングランド銀行は2021年のGDP成長率を、5%予想から7.25%へと上方修正しており、その理由として、ワクチン接種による新規感染者数の減少、それによる経済活動の制限が解除される予定があることが挙げられます。

すでにイギリス経済の急速な回復が始まっているとする専門家もおり、家計や企業による支出が持続的に増加し消費者や企業の信頼感も回復しているとも指摘されています。イングランド銀行は今後の政策として、経済回復の予想を受け国債などの買い入れペースを8月以降、緩やかにする見方も示しています。

 

アメリカのリベンジ消費とインフラ懸念

アメリカもワクチン接種の普及によって経済活動が再開しており、景気が回復しています。その中で労働力の確保や部品・原材料の調達などで供給制約が発生している影響で、インフレも懸念されています。労働市場においては、労働需要が満たされることで雇用者数を高水準で維持できると予想されており、また労働供給の増加によって失業率の低下ペースが鈍化するとの見方も出てきています。

個人消費については、リベンジ消費の影響や、雇用や所得環境の改善によって堅調に推移すると見込んでおり、これまでの財消費からサービス消費へと移行するとの見方を示しています。住宅価格は高止まりの影響で、住宅販売の勢いは鈍いと予測されていが、リーマンショック以前と比べると住宅ローンの借り手の返済能力は高く、金融システムが懸念される可能性は低いとしています。インフレ率については2022年半ばに2%程度へ低下すると予想されていますが、その後は労働需給の引き締まりなどの影響で再度上昇すると見込まれています。

新型コロナによる過剰貯蓄が、アフターコロナで一気に消費に転じるのか。確かに貯蓄が消費や投資活動へ回ることによる経済活性化の期待もある中で、インフレを加速させてしまうのではないかとの懸念も浮上しています。

 

さいごに

株価指数の推移グラフ

 

下記の主要国の株価の動きを見てみると、世界各国が経済回復に向かう中、日本の実体経済だけは大きく出遅れている状況です。

貯めこまれた家計貯蓄がリベンジ消費となるか否か、政府がワクチン接種を含んだ経済政策の見通しを示すことができるかどうかで変わってくるでしょう。

 

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=68169?site=nli

https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/articles/20210721.html

https://www.imf.org/ja/News/Articles/2020/08/04/blog-global-rebalancing-and-the-covid19-crisis

https://www.asiainfonet.com/2020/08/04/04-28/

https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/06/4dde3592039c6e72.html

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGE17BO70X10C21A2000000/

https://www.pictet.co.jp/investment-information/market/deep-insight/20210716.html

https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2021/fis/kiuchi/0624

https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/07/e5d1c52ed213904f.html

https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=38990

https://www.tokyo-np.co.jp/article/127865

https://news.yahoo.co.jp/articles/39980ba711e0bd58c7d20ccdbf7119787dc50dd1

https://www.daiwa-am.co.jp/fundletter/20210212_01.pdf

https://jp.reuters.com/article/france-economy-le-maire-idJPKCN2DI0OY

https://www.foreland-realty.com/?p=1214504

https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=38991

https://www.businessinsider.jp/post-230188

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