世界各地の政治・経済・社会制度・法規制・自然災害・技術革新…といった様々な変化がマーケットにもたらす影響(リスク)のことを「カントリーリスク」と言います。
当コラムでは、そのような状況下で、海外貿易、投資など、グローバル経済に関わる全てのビジネスパーソンが必ず知っておくべき「カントリーリスク」とその事例について解説します。
カントリーリスクとは?
カントリーリスクとは、投資している国や地域に政治、経済、社会情勢、自然災害などの変化が起こることで企業が受けるリスクのことを指します。
昨今、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻のニュースが世界中の人々の関心を集めています。また、2019年12月に中国湖北省で発生した新型コロナウイルスによる新型肺炎の流行は止まることを知らず、現在も世界各国に猛威を奮っています。これらもカントリーリスクの重要な事例です。
政治に関わるリスクは、現地の政治的基盤が安定していないために生まれます。例えば革命や政権交代によって制度・規制や政策の変更されることで進出企業の扱いががらりと変わることなどがあります。経済的なリスクとしては、財政赤字や債務不履行などの要因が挙げられます。電力・通信・用水・輸送といったインフラの未整備や競争法等の不備なども経済的な要因です。
社会にまつわるリスクは、冒頭で述べたロシアとウクライナの軍事問題やテロ、文化、宗教等の問題によって引き起こされます。また、自然災害に関わるリスクは、地震や津波、噴火といった大規模災害などの要因が挙げられます。
カントリーリスクは、すべての国に存在しますが、一般的に中南米やアフリカ、アジア、中東の新興国において、カントリーリスクが起こりやすいといわれます。何故なら、政治情勢や経済基盤の不安定さは新興国の方が先進国と比べて高いとされているからです。新興国への投資は高い経済成長や高金利が期待される反面、こうしたリスクが伴うことは知っておくべきでしょう。
カントリーリスクの種類
日本の主要な格付会社「格付投資情報センター(R&I)」が2020年7月に実施したカントリーリスク調査によると、コロナウイルスが感染拡大する以前の同年1月の調査と比べて評価点が悪化した国と地域は、世界で67か所に及んでいます。
このように、カントリーリスクは私たちの身近にも事例があり、天災や急激な社会情勢の変化など、事前の予測がむずかしいものもあるのです。
カントリーリスクでは、具体的に以下のような事例が考えられます。
- 2016年:首都クアラルンプール周辺での大規模断水(マレーシア)
- 2018年:北アイルランド国境問題(イギリス)
- 2019年:電力公社の再国有化問題(フランス)
その他にもカントリーリスクには様々なものがありますが、下記の5種類のリスクに大別することができます。
経済情勢によるリスク
カントリーリスクの内、国債の債務不履行や政権交代など、国家規模の経済的問題が発生する可能性を、経済リスクと言います。具体的な例としては、アルゼンチンの債務問題(2001年)やジンバブエにおける大規模なインフレーション(2009年)などが挙げられるでしょう。このような経済的リスクを測る指標としては、経済成長率(GDP成長率)、消費者物価指数、国際収支などがあります。
政治情勢によるリスク
政治的基盤が安定していないために生まれるビジネス上のリスクを、政治リスクと言います。現在、ロシア軍がウクライナへの軍事侵攻を進め、欧米諸国は対ロ経済制裁を強めています。この一件は株価の暴落などにつながる恐れがあるため、政治リスクのひとつであると言えるでしょう。
政策・法律の変化によるリスク
各国の遵法意識、もしくは司法制度そのものに関する懸念を、法務リスクと言います。例えば知的財産権の問題などについて、諸外国に対する不公平な判決が前例として存在している国は、総じて法務リスクが高いと言えます。
文化・宗教など社会的要因によるリスク
その国固有の文化・宗教・歴史的な事情により、ビジネスにマイナス影響を及ぼす可能性を、社会リスクと言います。実例としては、反日世論の強い中国・韓国で起こった日本製品不買運動が挙げられます。
自然災害のリスク
不可避の自然災害も、カントリーリスクの一つとして数えられ、このリスクを自然リスクと言います。地震・津波の危険性が常々示唆され、実際に自然災害の発生件数の多い日本においては自然リスクが高い国であると言えるでしょう。その他に、昨年2021年3月オーストラリア南東部ニューサウスウェールズ州で起きた「100年に一度の水害」とも言われる豪雨も実例として挙げられます。
カントリーリスクはどのように決まる?
海外での貿易や投資を行うビジネスパーソンなら、カントリーリスクについて必ず考慮すべきでしょう。まず、カントリーリスクを知るためには格付会社や調査会社のカントリーリスクの集計・分析結果の情報を活用することです。調査項目としては、財政状況や国民所得、外貨準備高、対外債務、国際収支といった金融情報をはじめ、政治や社会の安定度などを考慮し、総合的にカントリーリスクがあるかどうかを判断します。専門の調査会社や格付機関は、世界各国・地域のカントリーリスクに応じて数字やアルファベットで評価を行っており、ランク付けの方法やランクが各機関により異なります。
以下をはじめ、複数の機関が調査結果を公開しています。
- スタンダード&プアーズ(S&P)グローバル・レーティング
- 日本貿易保険(NEXI)
- 格付投資情報センター(R&I)
「日本貿易保険(NEXI)」の評価結果は、各国のカントリーリスクが地図上で色分けされているため、地理的な情勢も読み取りやすいところが特徴です。
まとめ
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。本記事では、カントリーリスクの定義から実例、種類、カントリーリスクを認識するための指標についてまとめました。海外でビジネスを行う際は、カントリーリスクについて十分に留意し、適切なリスクマネジメントを行っていく必要があるでしょう。弊社プルーヴでは、海外進出を考える日系企業様に向けて、カントリーリスクを考慮したリスクマネジメントを含め、総合的なサポートを行っております。海外事業をお考えの際は、ご気軽にご相談ください。