世界が注目する培養肉とは?海外の動向と日本の現状を紹介

培養肉は、食品分野で注目されている代替肉の1種です。

国連によると、世界の人口は2022年11月に80億人を突破し、2058年には100億人に到達すると予測されています。これほど急激に人口が増加すると問題となるのは、食糧不足です。

食糧不足に対する1つの解決策として、培養肉の研究・開発が進められています。本記事では培養肉の概要とメリット・デメリット、海外の動向、日本企業の取り組みについて紹介します。

そもそも培養肉とは

培養肉とは、牛や豚、鶏などの動物から取り出した細胞を培養して得られる肉のことです。動物の肉の代わりとなる「代替肉」の1種で、サステナブルな食材として注目を集めています。

培養肉のメリット

培養肉には4つのメリットがあります。

・環境負荷を減らせる

牛や豚などを飼育するには、広大な土地を使用します。なぜなら1kgの牛肉を得るにはトウモロコシ11kg、豚肉では6kg、鶏肉では4kgを必要とするためです。飼育するための土地と飼料のための土地を含めると、広大な土地を利用して肉を得ているのです。

・食糧問題を解決できる

培養肉は開発・研究が進むと、工場で量産できると考えられています。食肉を必要なだけ作れるようになれば、食糧問題を解決できると期待されています。

・倫理的な問題を解消できる

日本ユニセフ協会によると、世界で生産されている肉は2億6,300万トンです。そのうち約20%が食べられずに廃棄されています。牛に換算すると7,500万頭にもなります。培養肉が普及すれば、このような無用な殺生をせずに済むでしょう。

参照:日本ユニセフ協会「12.つくる責任、つかう責任

・衛生面の管理を徹底できる

培養肉は衛生管理を徹底した状態で、細胞を培養して作られます。そのため、細菌やウイルスなどに汚染するリスクがありません。

培養肉のデメリット

培養肉のデメリットは、まだステーキ肉などのような大きな肉を作る技術がないことです。培養肉はシート状に培養し、立体的な肉にするには何層も重ね合わせる必要があります。しかし、内部に栄養を送りこむための血管がないため、ステーキのような大きな肉を作れません。東京大学では「2025年までに100g大のステーキ肉を作ること」を目標に開発が進められているほどです。

参照:日本細胞農業協会「【取材】第一人者が語る培養肉の「今」と「これから」

培養肉が注目される理由

世界で培養肉が注目されている理由は主に以下の2点です。

・食肉需要の増加

世界では急速な人口増加に加えて、新興国などの経済発展による食の欧米化が進んでいます。これにより、食肉の需要が増加しており、2050年には4.5億トンという試算もあるほどです。また急激な食肉の需要の増加は穀物の需給バランスを崩すとの見方もあります。

培養肉は大量の肉を作り出せることから、このような課題を解決できると考えられています。

・畜産が環境に与える影響

畜産は環境に大きな影響を与えています。例えば牛のゲップです。牛のゲップには二酸化炭素の25倍の温室効果をもつメタンガスが含まれているためです。

牛は世界で約15億頭飼育されており、排出されるメタンガスは世界全体の温室効果ガスの4%にもなります。培養肉はメタンガスを排出しないため、脱炭素化の取り組みとしても注目されているのです。

参照:農林水産省「農林水産技術ニュース2-3面

培養肉を解禁している国・地域

培養肉が自国で流通できるように、いち早く解禁したのはシンガポールとアメリカです。両国の取り組みについて紹介します。

シンガポール

世界で初めて培養肉を解禁したのはシンガポールです。2020年12月に培養鶏肉の販売を承認しており、すでに培養肉を使った料理を食べることもできます。いち早く解禁したこともあり、シンガポールには代替タンパク質食品を開発するスタートアップ企業が集まっています。

アメリカ

アメリカでは2023年6月に、「UPSIDE Foods」と「GOOD Meat」の2社に対して、培養鶏肉の生産・販売を承認しました。シンガポールに2年ほど後れをとったものの、アメリカでも培養肉が解禁され、一部のレストランで販売されています。

日本も培養肉解禁なるか

世界ではシンガポールやアメリカが培養肉を解禁するなか、日本では現在、培養肉に焦点をあてた法令がありません。日本には食品の事前承認制度もないため、培養肉の販売に関するルールが作られていない状態です。日本で培養肉が流通するかどうかは、今後の法整備次第といえます。

日本企業の培養肉の取り組み

解禁はされていませんが、日本でも培養肉は注目されている分野です。ここでは、培養肉の研究・開発に取り組む日本企業3選を紹介します。

島津製作所

出典:島津製作所

島津製作所は大阪大学大学院工学科とともに、培養肉の立体化を自動でおこなう装置の開発に取り組んでいます。装置の特徴は、大阪大学大学院の松﨑典弥教授が開発した「3Dバイオプリント技術」を採用している点です。

現在の培養肉は、シート状の培養肉を手作業で積み重ねることで立体化していました。島津製作所では、これらの作業を自動化できる装置を作成することで、培養肉の生産スピードの向上を図っています。

また、2025年に開催される大阪・関西万博の「大阪ヘルスケアパビリオンNest for Reborn」で、装置で作った培養肉の試食イベントが企画されています。

参照:島津製作所「未来を創造する新たな食のかたち「培養肉」

日清食品グループ

出典:日清食品グループ

日清食品グループでは、環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を策定しサステナブルな社会の実現を目指したさまざまな取り組みをしています。培養肉の開発・研究はその1つです。

日清商品グループは、東京大学の竹内教授と共同で「培養ステーキ肉」の実現を目指し、世界で初めてサイコロ状の培養肉の作成に成功しました。肉本来の食感をもつ培養ステーキ肉の実現に近づいています。

また日本で初めて研究関係者による「培養肉」の試食も実現しています。着実に培養肉の開発を進めており、製品化ができる日も遠くないかもしれません。

日立造船

出典:日立造船

日本造船はバイオ系スタートアップ企業のNUProteinと共同で、培養肉の原料の「コムギ胚芽抽出液」を自動で製造する「コムギ胚芽抽出液自動製造装置」の開発に成功しました。

培養肉を作るには細胞増殖因子が必要で、これまでは動物細胞を使用し遺伝子組み換え技術により作られていました。

そのようななかNUProteinは遺伝子組み換え技術を用いず、植物由来の成分から細胞増殖因子を作り出す技術を確立しています。この技術の自動装置を開発したことで、培養肉の製造コストの削減につながるとみられています。

参照:日立造船「遺伝子組み換え原料を使わずに培養肉を製造するための「コムギ胚芽抽出液の自動製造装置」を世界で初めて開発

培養肉が食卓に並ぶ日が来るのかもしれない

培養肉は、食糧不足の解決策として期待されています。シンガポールとアメリカがいち早く解禁し、すでに食べることが可能です。日本においても研究・開発が進められているため、培養肉のステーキが食卓に並ぶ日も遠くないかもしれません。今後の培養肉に関する動向に注目しましょう。

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