石炭火力発電の遊休設備を用いた再エネ発電設備の事業性検証

石炭火力発電の遊休設備を用いた再エネ発電設備の事業性検証

業界 : エネルギー・重工業
対象国・地域 : ドイツ

クライアントはエネルギー業界向けの機器・設備製造に強みを持つ重工メーカーです。近年のカーボンニュートラル推進により、CO2を排出する火力発電への設備投資が抑えられ、既存事業の先細りが懸念されています。そのような外部環境のなか、活動停止予定の石炭火力発電の設備を使った新規事業を検討するものの、事業化への道筋が見えていない状況でした。そこで、新規事業・技術の事業性検証をPROVEが支援することになります。支援の結果、新規事業のターゲットとすべき事業者・火力発電所の特定に至りました。現在はクライアント自身でターゲット企業との商談を行い、実証プロジェクトの実現に向けた調整を進めています。

課題

クライアントはエネルギー関連の機器・製造設備の重工メーカーで、火力発電所向けの機器・設備に強みを持っています。世界各国の発電事業者に対して設備導入するなど、豊富な実績が強みです。しかし昨今のカーボンニュートラルの推進により、CO2排出を伴う火力発電の新規建設事業は先細りの傾向にあり、クライアントにおいても脱炭素に向けた事業変化が必要な状況でした。

そこで同社の技術開発部門では、活動停止が見込まれる石炭火力発電所を再エネ電力の蓄エネ設備として再利用する新規事業を検討します。

簡単に新規事業案を説明すると、再エネで発電した電力を、独自の化学物質に変換し、その化学物質を利用し、火力発電の遊休施設である発電タービンを回すことで、火力発電所を蓄エネ設備として再利用する技術です。

しかし、事業化に向けては2つの要因により道筋が見えていない状況でした。

  • 石炭火力発電の種類が豊富で、ターゲットとすべき設備が特定できていない
  • 事業採算性が評価できていない

そこでクライアントは事業化に向けたシナリオを3つ策定するものの、以下の理由により事業性の検証については外注するという結論に至ります。

  1. 各シナリオの実現性、事業化成功時のインパクト及びリスクを評価したい
  2. 適切なアクションを立てる必要性がある
  3. シナリオ評価は、カーボンニュートラルに向けた社会変革が進んでいるドイツで実証したい

上記の理由に加えて、「エネルギー・電力業界の事業化支援実績が豊富」や「ドイツにおけるネットワークを十分に構築している」という理由から、PROVEに支援を依頼されます。

支援内容

PROVEがクライアントに対して行った支援内容は主に以下の5つです。

  1. ドイツの電力政策に関する調査
  2. 火力発電所のリストアップ及び分類整理
  3. 各シナリオのステークホルダーへのインタビュー
  4. 競合技術・代替技術の調査
  5. シナリオの評価及びアクションプランの検討

支援内容において課題となったのは、ターゲットの選定でした。

新規事業案のターゲットは、活動停止が見込まれる石炭火力発電所です。しかし一言に石炭火力発電所といっても発電の仕組みは同一ではなく、石炭の種類・温度・蒸気圧などの種類は多岐に及びます。

また熱供給を付帯している火力発電ボイラーの場合は、産業向け・住宅地向けで熱供給ニーズも異なります。

これらの前提条件に鑑みて、同社の新システムのニーズが最も期待できるターゲットを技術的側面・社会的側面・財政的側面から特定し、事業化へ向けた道筋を立てたことが課題の克服につながりました。

また支援を行うなかで注意したのは、ロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシアからのガス供給が停止し、調査対象国であるドイツ国内の電力価格が急激に上昇していたことです。通常であれば将来予測は過去のマクロデータを用いますが、地政学的な影響も考慮したうえで、将来予測を行う必要がありました。

このような社会変革のなか、従来の技術と将来の技術の特性を理解したうえでのシナリオ検証、地政学リスクを加味した事業将来性の検討が支援成功したポイントです。

支援内容からも以下のPROVEの強みが生かせた事例といえます。

  1. エネルギー業界の実績が豊富で、各国の社会変化や技術面の理解・専門性があること
  2. 諸外国における業界関係者への豊富なネットワークがあること

結果

PROVEが支援した結果、「石炭火力発電のうち、ターゲットとすべき設備を保有している企業の特定」と「受け入れ側の企業の便益に関する具体的な仮説の構築」ができました。

さらにターゲット企業のキーマンとの商談をPROVEにて手配したことで、実証プロジェクトに向けた議論が進められています。

今後は事業化へ向けたシナリオの検証において、社会経済的な側面だけではなく、さらなる技術の理解が必要と考えています。技術が社会でどのように活用されるかの理解を通じて、事業化へ向けた具体的な道筋が見えてくるためです。