EU主要国の政権弱体化!ウクライナ侵攻・ガザ紛争などの課題解決に懸念

近年、EU主要国において政権の弱体化が指摘されています。

EUは27カ国が加盟する欧州連合です。しかし、ウクライナ支援疲れやイスラエル・ハマス紛争、移民問題、環境規制疲れなどのさまざまな問題を抱えています。

政権弱体化は、このような問題解決の阻害要因になると懸念されています。またEUは世界経済に対する影響力も大きいため、日本も無関係とはいえないでしょう。本記事ではEU主要国の政権の現状について紹介します。

EUをとりまく世界情勢

EUでは欧州議会やEU理事会で定めたEU法が加盟国各国に適用されます。加えて共通通貨のユーロを使用するなど、EUは欧州一帯の共同体です。しかし、決して一枚岩というわけではありません。その主な要因はEUをとりまく世界情勢が激変し、不確実性が高まっているためです。

ロシアのウクライナ侵攻、さらにはイスラエル・ハマス紛争などの地政学リスクが顕在化したのもその1つです。また欧州は積極的に移民を受け入れてきましたが、各国で移民急増に対する反発が強くなっています。さらに環境規制疲れを背景に、EU内でも分裂がみられています。

政権が弱体化するEU主要国

EUは5億人の人口を抱え、大きな影響力を持つ共同体です。そのEUではさまざまな課題を背景に、主要国の政権弱体化が指摘されています。ここではEU主要国の現状と課題について紹介します。

ドイツ:欧州経済のエンジンがマイナス成長

ドイツの政権を語るうえで欠かせないのは、メルケル前首相についてです。

メルケル前首相は、2005年から2021年まで16年間首相を務めました。その「ドイツのお母さん」とも呼ばれたメルケル首相を引退に追い詰めたのは難民問題です。

2015年にシリア危機による難民を100万人以上受け入れたメルケル政権でしたが、世論の逆風により極右政党「ドイツの選択肢(AfD)」の躍進を許してしまいます。その責任から2018年に任期限りで引退するという表明をしました。メルケル前首相は、長らくEUをまとめてきただけに、メルケル前首相の退任はEU各国にも大きな影響を与えています。

また現政権のシュルツ首相においては、2023年に主要国のなかでドイツだけがマイナス成長となり、景気不安から支持離れが加速しています。

そのようななか行われた2023年のバイエルン州とヘッセン州の州議会選では、景気不安や移民問題、負担感のある環境保護政策への不満から極右政党のAfDが票を集めました。AfDは、反移民・反グリーン政策で支持を伸ばしており、新ロシア派としても知られています。そのため、ウクライナ支援においても影を落としています。

「欧州経済のエンジン」と呼ばれたドイツですが、経済の低迷や地政学的なリスクから政権が弱体化しているといえるでしょう。

フランス:歴代最年少の34歳首相の誕生

フランスはマクロン大統領の支持率が30%を下回り、反政権デモの「黄色いベスト運動」以来の低水準となっています。支持率低迷の要因は、「年金改革」を強行したことなどです。具体的には、年金支給年齢を62歳から64歳に引き上げたことで、国民から大きな反発をうけています。

また年金改革に対するデモが落ち着いた後も、警官が少年を射殺した事件が発生し、各地で暴動が発生するなど内政が混乱しました。EUの枢軸であるドイツの政権弱体化やフランスの内政混乱は、EUの政策にも悪影響を及ぼしています。

そこでマクロン大統領は2024年1月に政権を刷新し、新首相に34歳のアタル氏を任命しました。最年少で首相に就任したアタル氏は、フランスで人気の政治家の一人です。マクロン政権の支持率が回復し、内政の混乱に終止符を打てるかが注目されています。

イタリア:極右政党の台頭

イタリアでは、2022年に極右政党の「イタリアの同胞」を率いたメローニ氏が首相に就任しました。

「イタリアの同胞」は、独裁者ムッソリーニの考え方を継ぐネオファシスト党の流れを汲んでいる政党です。極右首相の誕生により、EU離脱などの大きな政策変更があるかと警戒されましたが、就任1年目はEU寄りの姿勢をみせています。

またメローニ氏は、2023年12月に中国の一帯一路の離脱を正式に表明しました。欧州が対中関係を再考している代表例といえるでしょう。

このように現在は、現実路線をとっているメローニ氏ですが、極右政党であるがゆえに今後も中道寄りの政策を続けるのかに注目が集まっています。

オランダ:難民政策の相違で連立政権が崩壊

オランダでは2023年7月に、難民政策で与党間が分裂したことから、ルッテ首相の連立政権が崩壊しました。

当時のオランダの亡命申請は、1年で7万件に達する見込みで、移民の流入を制限しようとしたのがルッテ首相です。しかし、4つの与党のうち2党が強く反発したことから、大幅な移民の流入制限ができず総選挙となりました。

2023年11月に実施された総選挙では、「オランダのトランプ」と呼ばれるウィルダース氏の率いる極右政党の「自由党」が第1党に躍進しました。「自由党」は反移民・反EU・ウクライナの軍事支援の停止、さらにはモスクの禁止など過激な政策を掲げている政党です。

ただし、「自由党」の獲得議席は過半数を達していないため、与党になるには連立政権を組む必要があります。連立政権により「自由党」が与党になるのか、それとも「自由党」を排除した連立政権が誕生するのかに注目が集まっています。

ポーランド:親EU路線に回帰

2023年10月にポーランドの総選挙において、与党である右派政党の「法と正義」が最多議席を獲得したものの、左派3党で過半数に達したため政権交代が起こりました。前政権は反EUを掲げていたのに対し、新政権では親EU路線に回帰するとみられています。

ただし、前政権ではウクライナに対して、兵器の供与といった支援を積極的に進めていました。国内でウクライナ支援疲れもささやかれるなか、新政権では支援を継続するのか見直すのかに注目が集まっています。

スペイン:ねじれ状態のサンチェス政権

スペインでは、2023年7月に総選挙が行われ、野党の中道右派「国民党」が第1党を獲得しました。しかし、極右政党の「ボックス」と連立を組んでも過半数に届かず政権を逃しています。

代わりに政権を担ったのは、前首相でもあるサンチェス首相です。左派勢力で連立政権を獲得したものの、上院では野党が過半数を握る「ねじれ状態」のため、政権運営は難航するとみられています。

スウェーデン:極右政党の躍進

スウェーデンでは、2023年9月に行われた総選挙で、極右政党の「スウェーデン民主党」が第2党に躍進しました。与党の社会民主労働党は第1党を維持したものの、連立の他の政党が得票を伸ばせず、結果として右派政権の誕生につながりました。

政権の中枢を担うスウェーデン民主党は、近隣国以外からの難民受け入れ停止を掲げており、今後の難民問題に対する方向性が注目されています。

欧州を中心に右傾化が進む世界

EUはウクライナ侵攻やガザ紛争、難民の流入など多くの課題を抱えています。欧州各国ではこれらの課題を背景に極右政党が躍進しており、世界の民主主義が後退しているといえるかもしれません。世界情勢を把握するためにも、欧州各国の政権の動向についてチェックしてみましょう。

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