
人口減少や高齢化の進行により、日本市場の将来性に不安を感じ、海外に新たな成長の可能性を求める企業様が増えています。しかし現在、世界経済はかつてないほど複雑化しており、海外進出は想像以上にハードルの高い挑戦です。そこで本記事では、こうした厳しい環境下でも実行可能な海外展開の手法として、「スモールスタート」に焦点を当て、その有効性やメリットをわかりやすく解説します。
日本製品が通用しなくなりつつある海外市場
すでに日本でシェアを獲得し、自社の製品や技術に対して自信を持っている企業であれば「自分たちの製品(技術)は海外にも需要があるはずだ」と考えるのも当然です。
しかし、現在の海外市場は日本製品というだけでもてはやされた一昔前と状況が変わってきていることを認識する必要があります。
欧米などの先進国のみならず、途上国と言われてきた東南アジアの市場においても、今や現地の既存プレイヤーが日本と同レベルの製品を作り、さらに日本製品よりも安く売ってシェアを獲得しています。
よほど革新的なものでもない限り、同じような製品を今から海外に持って行ったところで、すでに現地で馴染みがある製品とのリプレイスはかなり難しいのが現状です。
では、海外進出はやめた方がいいのでしょうか?答えは「No.」です。
厳しい戦いになることは必至ですが、それでも海外市場に踏み出すことには非常に大きな価値があります。
これからの海外進出において正攻法的なアプローチがあるとすれば、日本で発売されている製品をベースとしたプロダクトアウトではなく、現地のニーズに合わせて商品企画の段階から現地視点で考えることです。しかし意思決定に複雑なプロセスを要する日本企業は、販売数量が読めない不透明な海外市場において製品開発の投資判断ができないため、このアプローチが有効に働かないことが多くあります。
そこで有効となるのは、スモールスタートです。
スモールスタートとは
スモールスタートとは、新たなプロジェクトを立ち上げる際に、あえて小さな規模から開始する手法です。最初は限定的な商品・サービスで市場の反応や需要、収益性を確認し、その結果をもとに規模を拡大します。
この手法は、以下のようなビジネスシーンでよく活用されています。
・海外進出
・新規事業の立ち上げ
・新商品・サービスの開発
・既存事業の改善
このように、スモールスタートは成功確率を高める戦略として、広く活用されています。
海外進出においてスモールスタートが有効な理由

法規制や地政学リスクなど、国内市場と比較して不確実性が高い海外市場において、スモールスタートは特に有効な戦略と言えます。ここでは、その理由を解説します。
理由① 失敗した際のリスクを軽減できる
海外進出には、市場調査や販路開拓、人材の確保など、様々なコストが発生します。スモールスタートであれば、初期投資を最小限に抑えられるため、万が一失敗した場合でも損失は限定的です。企業にとって致命的なダメージを避けながら、成長を目指せることは大きなメリットです。
理由② スピーディに市場に投入できる
スモールスタートが海外進出に有効な理由の一つは、商品やサービスをスピーディに市場へ投入できる点です。機能や性能を必要最小限に絞ることで開発期間を短縮し、早期に市場の反応を確認できます。その結果、改善サイクルを素早く回せるようになり、プロジェクト全体のスピード向上につながります。
例えば新興国市場に商品を投入する場合は、いち早く参入することで認知を高め、優位なポジションを築けるでしょう。このように、海外進出においてスピーディな展開は成功確率を高めるため、スモールスタートが有効と言えます。
理由③ 改善や方向転換がしやすい
スモールスタートは、課題が表面化しやすく、改善につなげやすい点が特徴です。商品やサービスの機能面だけでなく、価格設定や販促方法なども検証しながら、改善を重ねることで質を高められます。また、投資額が少ないため、大胆な方向転換を行いやすい点もメリットです。
海外市場では、実際に進出してみると当初の想定と異なる結果になることも少なくありません。そうした場合でも、スモールスタートであれば柔軟に改善や軌道修正を行い、市場に適した形へと事業をフィットさせながら成功を目指せます。
理由④ 外部環境の変化に対応しやすい
法規制の変更、地政学リスクの悪化、急激な為替変動など、海外市場は外部環境の影響を強く受けます。スモールスタートであれば、こうした変化が起きても迅速に戦略を修正でき、ダメージを最小限に抑えられます。変化の激しい現代において、事業の柔軟性の高さは重要な要素です。
理由⑤ 社内稟議で承認されやすい
海外進出はリスクが高いため、慎重な検討が不可欠です。しかしスモールスタートであれば、必要なリソースを最小限に抑えられるため、経営層の理解を得やすく、プロジェクトを円滑に進めやすくなります。さらに、小さな成功を積み重ねながら段階的に事業を拡大していくことで、社内の合意形成もしやすくなります。
スモールスタートのデメリット
スモールスタートは、リスクを抑えながら成功確率を高められる点から、万能な戦略のように思えるかもしれません。しかし実際には、メリットだけでなくデメリットもあります。実践する前に、あらかじめ注意すべきポイントについても押さえておきましょう。
デメリット① プロジェクトが乱立しやすい
スモールスタートを採用すると、その手軽さから複数のプロジェクトを同時に立ち上げやすくなります。プロジェクトが乱立すると、人材や予算が分散し、どの取り組みも中途半端に終わってしまう可能性があります。複数のプロジェクトを立ち上げる際には、優先順位を明確にしておくことが大切です。
デメリット② 初期の売上インパクトが小さい
小規模で始めるため、スモールスタートは短期的に大きな売上や収益を生み出すことが難しい傾向にあります。その結果、社内からプロジェクトの将来性を低く評価されることも少なくありません。こうした不当な評価を避けるためには、成長機会を逃さずに事業規模を拡大していくことが重要です。
デメリット③ 競合に市場を奪われる可能性がある
スモールスタートは、事業拡大の判断が遅れると、後発の競合に市場を奪われる可能性があります。慎重になりすぎた結果、成長の好機を逃してしまうケースがあるためです。スモールスタートで成功するためには、市場の反応を見極めながら、適切なタイミングで事業規模を拡大することが大切です。
スモールスタートのありがちな失敗例
スモールスタートはリスクを抑えて海外進出に挑戦できる反面、進め方を誤るとかえって失敗につながることがあります。ここでは、そうした失敗を未然に防ぐために、スモールスタートでありがちな失敗例を紹介します。
検証フェーズからいつまでも抜け出せない
スモールスタートでは、市場の反応を見ながら検証と改善を繰り返すことが重要です。一方、この検証に過度に時間をかけすぎてしまうケースも少なくありません。「もっと良いアイデアがあるのではないか」「もう少しデータを集めてから判断したい」といった思いから決断を先送りするうちに、事業拡大の好機を逃してしまいます。スモールスタートは、一定の成果や手応えが得られた段階で、次のステップへ進む判断が求められます。そのため、あらかじめ事業拡大の判断基準を明確にしておくことが重要です。
想定以上にコストが積み上がってしまう
スモールスタートは初期投資を抑えられる反面、改善や方向転換を重ねるたびに追加コストが発生します。一つひとつは小さな修正でも、その積み重ねが結果として、当初の想定を大きく上回ることも少なくありません。スモールスタートであっても、予算の上限を設定し、コスト管理を徹底することが失敗を防ぐためのポイントです。
拡大フェーズでリソースが不足する
スモールスタートでは、事業が軌道に乗り始めた段階で、人材・資金・販売体制といったリソースを十分に確保できず、成長のチャンスを逃してしまうケースがあります。例えば、想定以上に市場の反応があった場合、急な需要増加に対応できなければ、機会損失を招くでしょう。
その結果、本来であれば取り込めたはずの市場を競合に奪われてしまう可能性が高まります。このような失敗を防ぐためには、初期段階から将来の拡大を見据え、人材確保や資金調達、販売体制の整備についても計画しておくことが重要です。
成功のコツはパートナー選定と活用
スモールスタートで海外進出を成功させるためのコツは、現地企業との提携です。現地企業とパートナーシップを結ぶことで、拡大フェーズにおける人材や資金、販売体制といったリソース不足を補えます。また、現地の市場や顧客ニーズを熟知している企業と協業することで、ニーズに即した商品開発や販売戦略を立てやすくなる点もメリットです。
提携時点では小規模な企業であったとしても、拡大する可能性のある企業に投資することで、後々大きなチャンスを掴むことができるかもしれません。
例えば、コペンハーゲン発のジュースブランド「JOE & THE JUICE」は日本未上陸ながら、2017年時点では190店舗だったのが、2023年時点には世界19ヵ国で363店舗に拡大。2023年は40店舗が新たにオープンし、収益は前年比42%増を達成しています。

このように欧米の企業は世界規模でチェーン店化するのが得意なため、こうした店舗と最初のきっかけを掴んでおけば、初めは規模が小さくとも、一緒に展開することで自社の可能性を広げていくことが可能です。
特に飲食店のフランチャイズを狙うのであれば、人気店がこぞって出店するサンフランシスコやニューヨークといった主要都市に進出し、現地とのつながりを作っておくのも海外展開の大切なきっかけとなるでしょう。
パートナー探しはゴールではなくスタート
もし本気で海外進出を検討しているのであれば、最初から現地に拠点を作るのも一つの手です。しかし、リスクなどを考慮するといきなりは難しいと考える企業がほとんどでしょう。
そこで、まずは海外進出の足掛かりとして、現地で信頼できるパートナー(代理店)を見つけることが大切です。
ただし、勘違いしてはいけないのは、代理店を見つけることはゴールではなくスタートだということです。
「代理店が売ってくれるから」と依存するのではなく、どうしたら自社製品が売れるのかを一緒に考えることが海外進出の第一歩となります。代理店に任せた結果だけを見て、失敗・成功を判断してしまうのは非常にもったいないことです。
これからの海外進出はますます厳しい戦いになると予想されますが、まずは小さな一歩を踏み出し、海外の知見を掴むことで、いつかは大きく飛躍できるかもしれません。
そして、この「とりあえずやってみる」という精神は、とても日本人らしい海外進出の仕方と言えるのではないでしょうか。

