
日本はかつて「化学大国」と呼ばれるほど、化学工業に強みを持っていました。しかし、その地位は徐々に変化し、現在は世界4位に位置しています。それでもなお、化学工業は日本経済を支える中核産業の一つです。
こうした中で、日本の大手化学メーカーが海外市場でどのように競争優位性を確保しているのかは、他産業にとっても参考となるでしょう。本記事では、化学メーカーの世界ランキングをもとに、日本企業の現状と海外戦略についてわかりやすく解説します。
※本記事は2026年1月に執筆された記事です
化学工業とはどんな産業?
化学工業と聞くと、化学繊維やプラスチックなどの石油化学系の製品を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし実際には、それだけにとどまらず、私たちの生活や産業を幅広く支える多様な製品が含まれています。化学製品は大きく分類すると以下の3つです。
- 基礎化学品
- 中間製品
- 最終製品
基礎化学品をもとに有機・無機化学品などの中間製品がつくられ、さらに塗料や洗剤、医薬品といった最終製品が製造されます。このように、川上から川下まで幅広い製品群を扱うのが化学工業の特徴です。
日本の化学工業の現状
日本の化学工業は、製造業の中核を担う重要な産業です。日本化学工業協会によると、2023年の出荷額は約51兆円(プラスチック製品・ゴム製品を含む)にのぼり、製造業全体の出荷額373兆円のうち約14%を占めています。
また、2023年の世界主要国の出荷額は以下のとおりです。
- 中国:2兆785億ドル
- アメリカ:6,632億ドル
- ドイツ:2,106億ドル
- 日本:1,559億ドル
このように、日本は世界第4位の規模を誇ります。中国やアメリカとの差は大きいものの、依然として世界トップクラスのポジションを維持していると言えます。
参考:一般社団法人日本化学工業協会「グラフでみる日本の化学工業2024」
世界の化学市場規模と成長性
Verified Market Reportsのレポート「化学市場の規模、成長、市場の概要、予測2032」によると、2024年の世界の化学市場規模は5兆7,000億ドルと推定されており、2033年には7兆5,000億ドルまで拡大する見込みです。
年平均成長率は約3.5%とされ、今後も医薬品・農業・自動車・建設など幅広い産業での需要拡大を背景に、安定した成長が続く見通しです。また、脱炭素に向けた世界的な取り組みや環境保護の意識が高まっていることから、環境負荷の低い持続可能な製品の需要は、今後さらに拡大していくと見込まれています。
化学メーカーの世界ランキング【トップ10】
市場の安定した成長が見込まれる中、世界で存在感を示す企業の動向を把握することは、日本企業の立ち位置や今後の戦略を考える上でも重要です。そこで、どの企業が業界をリードしているのかを明らかにするため、化学メーカーの世界ランキングを紹介します。
化学メーカーの世界ランキングトップ10
| 順位 | 企業名 | 売上高(2024年) | 地域・国 |
| 1位 | Sinopec Group(中国石油化工集団) | 718億ドル | 中国 |
| 2位 | BASF(ビーエーエスエフ) | 675億ドル | ドイツ |
| 3位 | Exxon Mobil(エクソンモービル) | 554億ドル | アメリカ |
| 4位 | Dow(ダウ) | 430億ドル | アメリカ |
| 5位 | PetroChina(中国石油天然気) | 422億ドル | 中国 |
| 6位 | INEOS(イネオス) | 376億ドル | イギリス |
| 7位 | SABIC(サウジ基礎産業公社) | 345億ドル | サウジアラビア |
| 8位 | LyondellBasell(ライオンデルバセル) | 322億ドル | オランダ |
| 9位 | Rongsheng Petrochemical(栄盛石化) | 305億ドル | 中国 |
| 10位 | Wanhua Chemical Group(万華化学集団) | 249億ドル | 中国 |
出典:ICIS「TOP 100 Chemical Companies」
世界トップ10には中国が4社、アメリカが2社ランクインしている一方で、日本企業は1社も入っていません。かつて「化学大国」と呼ばれた日本ですが、その地位が後退していることを示しています。とはいえ、日本企業が活躍していないわけではありません。トップ30には、次のように多くの日本企業がランクインしています。
- 15位:東レ株式会社(164億ドル)
- 16位:信越化学工業株式会社(164億ドル)
- 17位:三菱ケミカル株式会社(161億ドル)
- 24位:住友化学株式会社(141億ドル)
- 30位:三井化学株式会社(116億ドル)
つまり、中国やアメリカ企業が台頭する世界市場で成功するには、これら日本企業の戦略を学ぶことが、国際競争力を高める重要なヒントとなります。
日本大手化学メーカーの特徴と海外戦略
日本の世界で活躍する化学メーカーは、自社の強みを生かした戦略を展開しています。ここでは、上位2社の特徴と成長戦略について解説します。
東レ株式会社

出典:東レ株式会社「企業情報」
東レ株式会社は、繊維・樹脂・フィルムなど幅広い分野で強みを持つ化学メーカーです。特に炭素繊維では世界トップクラスのシェアを誇ります。炭素繊維は強靭で耐衝撃性に優れ、軽量であることから航空機の構造体にも活用されています。
同社の世界競争力を生み出している秘密は次の3つのサイクルです。
① 国内での研究・技術開発
国内のマザー工場で革新的な研究・技術開発を行い、先端材料を創出。
② 海外拠点での事業展開
現地の需要やコスト競争力を考慮し、最適な海外拠点を選択して事業を拡大。
③ 利益の再投資
海外で得た利益を国内の研究・技術開発に再投資し、さらなる技術革新を加速。
同社はこのサイクルを繰り返すことで、高付加価値の先端材料を継続的に生み出しています。つまり、積極的な研究・開発と海外拠点の有効活用を組み合わせることで、市場での競争力を高めているのが東レ株式会社の海外戦略の特徴です。
信越化学工業株式会社

出典:信越化学工業株式会社
信越化学工業株式会社は、シリコーンやセルロース、塩化ビニル、半導体製造に不可欠なフォトレジストなどの高付加価値製品で強みを持つ化学メーカーです。
同社の特徴は、積極的な設備投資によって高い生産能力と合理化を進め、高い品質を実現している点です。実際に2025年の設備投資額は4,345億円で、2024年より277億円、2023年より1,165億円増加しています。
その結果、24カ国に130の海外生産・販売拠点を有し、海外売上高比率が80%に達しています。このように、世界各地への積極的な生産・供給体制の構築により、競争優位性を確保しているのが同社の海外戦略の特徴です。
成功企業の共通キーワードは「高付加価値」
日本の化学工業の世界順位は4位で、中国やアメリカと大きな差が開いています。そのような中、東レ株式会社や信越化学工業株式会社のように技術力や生産能力を生かして、海外市場での競争力を維持・拡大している日本企業も存在します。成功企業に共通するのは、研究・開発や設備に積極的に投資している点です。高い技術力によって先端材料や高付加価値製品を生み出しており、それが海外市場での競争力につながっています。
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