USMCAとは何?基礎知識と不透明化が示す北米事業のリスクを解説

北米での事業展開を考える上で、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の理解は欠かせません。多くの企業がこの協定を前提にビジネスモデルを構築しているためです。

USMCAは2026年に見直しが予定されていますが、仮に合意に至らなかった場合、協定は毎年見直しが行われ、それでも合意できなければ2036年に失効する仕組みです。先行きが不透明な状況が長期化すれば、サプライチェーンの構築や投資判断に影響を及ぼしかねず、北米で事業を展開する企業にとって無視できないリスクとなっています。

そこで本記事では、USMCAの基礎知識と制度の不透明化が示す北米事業のリスクについてわかりやすく解説します。

USMCAとは何?

USMCAは、米国・メキシコ・カナダの3カ国で締結された自由貿易協定(FTA)です。前身であるNAFTA(北米自由貿易協定)は、米国の雇用や製造業の弱体化を招いたとされ、第一次トランプ政権下で見直しが行われました。その結果、新たに発効したのがUSMCAです。主な概要は以下のとおりです。

正式名称United States-Mexico-Canada Agreement(通称:米国・メキシコ・カナダ協定)
発効年2020年
加盟国米国・メキシコ・カナダ
域内人口(2025年)5億1,661万人 【内訳】 米国:3億4,169万人 メキシコ:1億3,336万人 カナダ:4,156万人
域内GDP(2025年)34兆7,619億ドル 【内訳】 米国:30兆6,157億ドル メキシコ:1兆8,627億ドル カナダ:2兆2,835億ドル

参考:IMF DATA「World Economic Outlook (WEO)

USMCAの目的・特徴

USMCAは、米国・メキシコ・カナダの3カ国間の貿易を強化することに加え、米国の製造業や雇用・賃金水準の保護を目的とした自由貿易協定です。具体的には、原産地規制の厳格化や最低賃金の基準の導入などが盛り込まれています。一方、米国が国際競争力を有する分野では、デジタル貿易の自由化や知的財産権の保護強化などのルールが整備されました。

このように、USMCAは自由貿易協定ですが、米国の保護主義的な政策を色濃く反映した協定である点が特徴です。以下より、USMCAを理解する上で重要な4つの特徴について解説します。

原産地規則の厳格化

原産地規制とは、関税の優遇措置を受けるために、製品に使われる部品や原材料のうち、どの程度が域内で生産されたものかを定めるルールを指します。例えば自動車産業では、域内部品の調達比率がNAFTAの62.5%から75%へ引き上げられました。また、鉄鋼・アルミニウムにおいては域内調達率70%以上です。つまりUSMCAは、北米域内での生産や雇用を促すことを意図しています。

最低賃金条項 

USMCAの特徴の一つが、最低賃金条項が盛り込まれている点です。具体的には自動車産業において、関税の優遇措置を受けるために、生産工程のうち40〜45%を時給16ドル以上の高賃金労働者が担うことが定められています。つまりUSMCAは、低賃金を背景とした生産拠点の移転を抑制し、加盟国における雇用の確保や賃金水準の維持を目的とした協定と言えます。

デジタル貿易の自由化

USMCAの特徴の一つは、デジタル貿易分野におけるルール整備です。これは、NAFTAにはなかった、現代のビジネス環境を反映した新たな内容と言えます。

具体的には、USMCAにおいて次のようなルールが新たに盛り込まれました。

  • 電子データの国境を越えた移転の自由を保証
  • サーバーの国内設置義務を禁止
  • ソースコードの開示要求を禁止

つまりUSMCAは、ITサービス企業やプラットフォーム事業者にとって事業を展開しやすい環境を整え、北米全体のデジタル経済を後押しする協定となっています。

サンセット条項

USMCAは、発効から16年後に協定が失効する仕組みです。ただし、6年ごとに見直しが行われ、3カ国が合意すれば協定はさらに16年間延長されます。一方、合意に至らなかった場合は毎年見直しが続き、それでも合意できなければ最終的に協定は失効します。

この最初の見直しは、2026年に実施される予定です。

見直し協議では協定を継続するかどうかに加えて、内容の変更についても議論されます。そのため企業にとっては制度の先行きが見通しにくく、無視できないリスク要因となっています。

2026年のUSMCA見直しの注目ポイント

2026年に予定されているUSMCAの見直しは、協定が今後も維持されるかどうかを左右する重要な局面です。その背景には、トランプ米大統領によるUSMCAへの強い不満があります。同氏は、USMCAを「実質的なメリットはなく、無意味だ」とまで表現しており、協定の存続も危ぶまれています。

一方、メキシコとカナダにとってUSMCAは、経済・貿易の基盤となる極めて重要な協定です。このように、3カ国の立場には大きな隔たりが見られます。こうした状況の中で実施される2026年の見直しでは、以下のポイントが特に注目されています。

米国がUSMCAから離脱する可能性

トランプ米大統領がUSMCAを「無意味」と捉えていることから、米国がUSMCAを一方的に離脱する可能性があります。USMCAは、合意が得られなければ2036年に失効する仕組みですが、それとは別に、書面による通告から6か月後に協定から離脱できる規定も設けられています。つまり、見直し協議の内容が米国にとって受け入れがたい場合、離脱という選択肢があるのです。

原産地規制・労働規制のさらなる強化

トランプ大統領が現行のUSMCAに不満を示していることから、米国は協定からの離脱を交渉カードとしてちらつかせながら、自国が有利になるよう進めると考えられています。例えば、以下のような要求をする可能性があります。

  • 原産地規制のさらなる強化
  • 労働規制の強化
  • 中国といった域外からの輸入に対する懲罰的措置

米国の大手自動車メーカーがUSMCAの必要性を訴えていることから、全ての要求が通らなくても交渉次第で延長される可能性もあります。

メキシコ・カナダとの2国間協定への分割案

米国はUSMCAの見直しにあたり、協定を廃止し、メキシコ・カナダとそれぞれ2国間協定を結ぶ案も示唆しています。3カ国協定を分割することで、米国は個別交渉を進めやすくなり、自国に有利な条件を引き出しやすくなるためです。

一方、この構想が実現した場合、企業は国ごとに異なるルールや制度への対応が必要となり、一層複雑化します。その結果、サプライチェーンの構築や最適化の難易度が高まり、コスト増や事業運営上のリスクが拡大する恐れがあります。

USMCAの不透明化が示す北米事業のリスク

USMCAの先行きが不透明な中、北米事業を展開する企業には以下のようなリスクが生じています。

  • 設備投資を回収できないリスク

USMCAの見直しや米国の離脱によって制度が変更された場合、当初想定していた関税優遇や貿易条件が適用されなくなる可能性があります。その結果、北米事業向けの設備投資が計画どおりに資金を回収できなくなるリスクがあります。特に、資金の回収に長期間を要する事業では注意が必要です。

  • サプライチェーン再構築によるコストの増大

多くの企業は、USMCAを前提にサプライチェーンを構築していますが、交渉が決裂した場合、この前提条件がなくなる可能性があります。その結果、サプライチェーンの再構築に伴うコストや業務負担の増加といったリスクが生じます。

  • 突発的な制度変更

USMCAは制度上、見直しの有無にかかわらず、米国が協定から離脱するリスクを常に抱えています。仮に協定が破棄された場合、関税や貿易ルールが突発的に変更され、企業は短期間での対応を迫られることになります。場合によっては、ビジネスモデルそのものが成り立たなくなる可能性もあるため、制度変更に備えた事業計画をあらかじめ立てておくことが重要です。

USMCAの見直しの動向に注目しよう

USMCAは、北米事業の前提条件として極めて重要な協定である一方、その先行きは不透明さを増しています。2026年の見直し次第では、北米事業を取り巻く外部環境が大きく変化する可能性があります。そのため北米で事業を展開する企業は、USMCAの見直しの動向に注視しつつ、複数のシナリオを想定した柔軟な事業戦略をあらかじめ検討しておくことが重要です。

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