中東は脱石油でどう変わる?中東経済の二極化と日本企業の商機を解説 

中東と言えば「石油で栄える地域」というイメージが強いかもしれません。しかし近年、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)は脱石油を目指しており、巨大プロジェクトやスタートアップ支援を進めています。

こうした動きは、中東の国々の間で成長格差を生む一方、日本企業にとって新たなビジネスチャンスです。本記事では、中東が脱石油を進める背景や現状、日本企業が狙うべき領域と進出時のリスクについて解説します。

中東各国が進める「脱石油」とは

中東で進む「脱石油」とは、石油や天然ガスに依存した国家財政を産業の多角化によって脱却する取り組みのことです。これまで中東の産油国は、いわゆる「オイルマネー」によって経済を成長させてきました。しかし近年では、持続可能な経済の実現を目指し、サウジアラビアやUAEが脱石油政策を推進しています。その代表的な取り組みは次の2つです。

  • サウジアラビア「ビジョン2030」

サウジアラビアが2016年に発表した「ビジョン2030」では、観光・健康・娯楽・教育・医療などの幅広い分野を育成し、石油依存からの脱却を明確に掲げています。具体的な目標は次のとおりです。

「石油を除いたGDPにおける非石油製品の輸出の割合を16%から50%に引き上げる」

「非石油政府収入を1,630億リヤルから1兆リヤルに増やす」

このように脱石油を目指しつつ、国民生活の質の向上や国際競争力の強化を図っているのが特徴です。

  • UAE「Ghadan21(ガダン21)」

UAEは7つの首長国で構成される連邦国家です。その中核の一つであるアブダビ首長国は、競争力強化を目的に2018年に開発計画「Ghadan21」を立ち上げました。アブダビ政府はこの開発計画の一環として、スタートアップ企業を大規模に支援し、革新的産業の育成や経済の多角化を推進しています。

サウジアラビアとUAEが脱石油を目指す理由

サウジアラビアやUAEが「脱石油」を急ぐ背景には、石油に依存した経済構造が抱える根本的な弱点があります。

まず、国家財政が原油価格に大きく左右される構造です。歳入の中で石油が占める割合が高いため、原油価格が下落するとそのまま財政収入が減少し、国家運営にも大きな影響が出ます。実際、2015年のサウジアラビアは原油価格の下落により、10兆円以上の財政赤字に陥りました。

次に、OPEC(石油輸出国機構)の影響力の低下が挙げられます。OPECは加盟国を中心に協調し、石油の生産量を増減することで、原油価格の調整役を果たしていました。しかし近年は、アメリカのシェールオイルの増産などにより市場のシェア率が低下したことで、価格決定力が弱まり、望ましい水準の原油価格を維持しにくくなっています。なお、2024年のOPECの世界シェア率は33.9%でした。

このような背景から石油に依存した国家戦略では、安定した国家運営が難しくなっています。

参考:JETRO「2024年の石油生産、中東で前年比0.4%減の日量3,012万バレル、世界全体では過去最高

脱石油が生んだ「中東経済の二極化」

中東では脱石油政策を積極的に進める国がある一方で、取り組みが遅れている国も存在します。その結果、成長する国と停滞する国の差が広がり、中東経済の二極化が鮮明になってきました。ここでは、早い段階から脱石油戦略を推進してきたサウジアラビアやUAEと、その周辺国の現状を比較します。

成長:サウジアラビア・UAEの非石油産業の拡大

サウジアラビアやUAEでは、非石油産業が新たな収益源として確立しつつあります。例えば、サウジアラビアでは2024年の非石油部門の輸出額が5,140億リヤル(20兆5,600億円)で、前年比13.2%の成長を記録しました。UAEでも同様に、2023年の非石油部門の輸出額が1兆370億ディルハム(41兆4,800億円)に達し、その存在感が増しています。特にUAEの主要都市ドバイは、早い段階で石油依存からの転換を進めた地域として知られ、観光・貿易・金融を柱とする産業構造を確立しています。

参考:JETRO「サウジアラビアのNIDLPプログラム、2024年非石油部門のGDP39%に貢献

参考:JETRO「アラブ首長国連邦の貿易投資年報 2024年版

周辺国の停滞:イエメンの現状

イエメンは、サウジアラビアの南部に位置する産油国です。しかし、経済の低迷や紛争などの影響により、食料不安が深刻化しています。南部の地域では、人口の半数が食料不安に苦しんでいるとされています。このことから、中東の最貧国と呼ばれるほどです。

同じ産油国でありながら、隣国サウジアラビアとは全く異なる経済環境となっており、中東地域の成長格差を象徴しています。

日本企業に広がる商機と注目の成長領域

脱石油を掲げる中東諸国では、産業の多角化が進められているため、日本企業にも商機が広がっています。ここでは、特に商機の多い巨大プロジェクトやトレンドを紹介します。

サウジアラビア:巨大都市計画「NEOM(ネオム)」

出典:NEOM

サウジアラビアの巨大都市開発プロジェクト「NEOM」は、「ビジョン2030」を象徴する取り組みであり、北西部で進められている4つの都市計画の総称です。特に有名なプロジェクトは、直線型の未来都市「THE LINE(ザ・ライン)」です。高さ約500m、幅200m、全長170kmという前例のない構想で、生活に必要な機能がすべて徒歩5分圏内に収まる設計となっています。また、都市全体を100%再生可能エネルギーで稼働させることを掲げている点も特徴です。

NEOM全体の総工費は最低でも75兆円規模とされており、この超大型プロジェクトでは以下のような領域で商機が広がっています。

  • インフラ
  • 都市開発関連
  • 再生可能エネルギー

UAE:イノベーションハブ「Hub71(ハブ71)」

出典:Hub71

UAEは「Ghadan21」の取り組みの一環として、スタートアップ支援の中核拠点となるイノベーションハブ「Hub71」を2019年に設立しました。2022年時点で200社を超える企業を支援しています。先端技術を活用したイノベーション創出に力を入れていることから、以下のような分野で商機が拡大しています。

  • フィンテック(金融技術)
  • ヘルステック(健康技術)
  • グリーンテック(環境負荷を低減する技術)
  • モビリティー

共通:AIデータセンターの建設ラッシュ

AI市場の拡大に伴い、世界各地でデータセンターの建設が加速しています。中東もその例外ではなく、AI向けデータセンターの建設ラッシュが続いています。

中東が建設地として注目される理由は、太陽光発電に適した土地柄です。莫大な電力を必要とするデータセンターの弱点を再生可能エネルギーにより補えるためです。株式会社NTTデータグループがサウジアラビアで同施設の建設を検討するなど、日本企業の中でも注目されています。こうした背景から、中東でのデータセンター建設においては以下のような領域で商機があります。

  • AIインフラ関連
  • 再生可能エネルギー

共通:中東で高まる日本アニメ人気

日本のアニメは中東でも人気があり、その影響はビジネスにも広がっています。例えば東映アニメーション株式会社は、2024年にサウジアラビアで「ドラゴンボール」のテーマパークを開発する計画を発表しました。建設予定地は、「ビジョン2030」の一環として整備が進むエンターテインメント特化の巨大都市「Qiddiya City(キディヤシティ)」です。こうした動きから、日本企業には以下のような領域で商機があります。

  • アニメ・ゲーム
  • IP関連
  • デジタル配信サービス

日本企業が中東進出で直面するリスク

中東は脱石油政策を背景に、巨大プロジェクトが相次いで立ち上がっている魅力的な市場です。一方で、進出する際は注意すべきリスクもあります。ここでは、日本企業が中東に進出する際の3つのリスクを解説します。

法規制・許認可の壁

中東では、国ごとに法規制や事業展開に必要な許認可が異なります。これらの手続きは複雑な上に申請に時間がかかることも多く、法制度の理解が不十分なまま進出すると、思わぬトラブルが発生するリスクがあります。

商習慣・文化の違い

中東の多くの国はイスラム教を社会の基盤としており、ビジネスにも宗教の価値観が影響しています。そのため、日本とは商習慣や文化に違いがあります。このような背景を十分に理解せずに取引を進めると、商談の停滞や認識のズレが生じやすく、思わぬトラブルにつながるので注意が必要です。

信頼できる現地パートナーの確保

海外進出では、現地パートナー企業との協業が重要で、適切な提携先を選べるかどうかが成功の鍵です。しかし、十分な情報を得ないまま提携先を決定すると、契約トラブルや事業の停滞といったリスクがあるので注意が必要です。

脱石油が進む今こそ「中東進出」のチャンス

サウジアラビアやUAEを中心に、中東では脱石油政策が進められています。具体的には産業の多角化を目指し、巨大プロジェクトの立ち上げやスタートアップ支援などが行われています。これは日本企業にとって大きなチャンスです。海外進出を検討している企業様は、この機会に中東にも目を向けてみてはいかがでしょうか。

一方で、中東進出にはリスクが伴うのも事実です。成功のためには、現地の最新情報の把握や信頼できるパートナー選びなど、専門的な知識と経験が欠かせません。このような課題を解決するために、ぜひプルーヴの支援サービスをご活用ください。

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