楽器業界は2020年のコロナの感染拡大により売上が落ち込みましたが、「巣ごもり需要」で2021年には回復・拡大した業界です。
記事をご覧の方にも、コロナの在宅期間に楽器を始めた方はいるでしょう。
そのような「おうち時間で演奏を楽しむ方」は世界中で増加しており、海外進出している日本企業の躍進につながりました。本記事では海外進出を検討している企業に向けて、日本の楽器会社3社の海外動向について詳しく紹介します。
国内の楽器業界の動向
楽器業界の海外動向を紹介する前に、まずは国内の市場規模について簡単に解説します。
参考:経済産業省「統計表一覧(経済産業省生産動態統計)」
経済産業省の調査によると、国内の楽器業界は2015年の808億円から徐々に縮小し、2020年には573億円にまで縮小しました。しかし2021年は前年比21.6%増の697億円、2022年は8.2%増の754億円となり、コロナ感染拡大後に落ち込んだ需要が急激に回復しています。
楽器業界の海外進出動向
楽器業界にとって2020年は、新型コロナの世界的な影響により大きく売上を落とす1年になりました。しかし、2021年は新型コロナの自粛生活による「巣ごもり需要」が高まり、V字回復を実現します。この流れは国内に限らず世界でもみられ、2021年以降も需要の拡大が続くと予想されています。
「REPORTOCEAN」の調査によると、世界の楽器市場は2027年まで年平均1.6%で成長すると予測され、2020年の158億米ドルから2027年には179億米ドルにまで拡大する見込みです。
「電子楽器」や「自動演奏楽器」の需要が増えていることや、世界各国の購買力の高まりが市場拡大の要因として挙げられています。
参考:PR TIMES「世界の楽器市場は2027年まで年平均成長率1.6%で成長する見込み」
ヤマハ
出典:ヤマハ
ヤマハはピアノや電子ピアノを筆頭に、エレクトーン・ギター・ベース・ドラム・管楽器などを販売している楽器メーカーです。この章では、ヤマハの会社概要や海外進出動向について詳しく解説します。
ヤマハの会社概要
ヤマハの国内・海外の進出状況を把握するために、まずは会社概要などの基本情報を紹介します。
■ヤマハの会社概要
会社名 | ヤマハ株式会社 (Yamaha Corporation) |
創業 | 1887年 |
設立 | 1897年 |
資本金 | 285億3,400万円 |
売上収益 | 4,514億円 |
主要事業 | ・楽器事業 ・音響機器事業 ・その他 (電子部品事業、自動車用内装品部品事業、ゴルフ用品事業等) |
連結従業員数 | 20,027人 |
海外拠点数 | 海外グループ会社 51社 |
楽器事業の売上収益の推移は以下のとおりです。
出典:ヤマハ「ヤマハの業績」
2023年3月期の楽器事業の売上収益は3,026億円を達成し、その大部分を占めるのが海外事業です。ヤマハは海外に51社のグループ会社があり、2023年の海外売上比率は85%を超えています。
■楽器・音響機器ハードにおける各地域の売上収益の比率
北米 | 29.3% |
欧州 | 22.4% |
中国 | 15.8% |
日本 | 13.7% |
その他 | 18.8% |
海外進出動向
ヤマハは世界の楽器市場でトップシェアを誇る楽器メーカーです。そのヤマハの主力製品は電子楽器です。電子楽器の売上収益は1,030億円で、ピアノの606億円と比較すると約1.7倍にもなります。
■ヤマハの主要商品
電子楽器 | 1,030億円 |
管弦打楽器 | 623億円 |
ピアノ | 606億円 |
ギター | 379億円 |
ヤマハの海外戦略で特徴的なのは、中国やASEANといった新興国の中間所得層の取り込みを掲げていることです。とくにインドを重要な市場と位置付けており、2019年には現地で工場を新設しています。また、インドでの中長期的な価値創造を目的として器楽演奏体験をサポートする「スクールプロジェクト」を展開しており、2020年4月時点で125校で導入されています。今後は現地生産の強みを生かし、「電子キーボード」や「ギター」のシェア獲得を目指しています。
また、フィリピン市場の開拓を急いでいることも特徴といえるでしょう。
河合楽器製作所
出典:河合楽器製作所
河合楽器製作所は日本の3大楽器メーカーの1つで、海外進出によって大きな利益を上げている企業です。本章では、河合楽器製作所の会社概要や海外進出動向について詳しく紹介します。
河合楽器製作所の会社概要
河合楽器製作所は、落ち着いた音色が特徴の「カワイピアノ」で有名な楽器メーカーです。会社概要は以下のとおりです。
■河合楽器製作所の会社概要
会社名 | 株式会社河合楽器製作所 (Kawai Musical Instruments Manufacturing Co., Ltd.) |
創業 | 1927年 |
設立 | 1951年 |
資本金 | 71億2,200万円 |
売上高 | 877億円 |
主要事業 | ・楽器の製造仕入れ、販売 ・音楽教室 ・体育教室の運営 ・金属加工品及び木工加工品の製造仕入れ、販売 |
連結従業員数 | 2,977人 |
海外拠点数 | 11拠点 |
河合楽器製作所の売上高の推移は以下のとおりです。
出典:河合楽器製作所「業績ハイライト」
また海外売上比率は46.3%で、各地域の売上・比率を以下の表にまとめました。
■各地域の売上高・比率
地域 | 売上高 | 比率 |
---|---|---|
日本 | 471億円 | 53.7% |
北米 | 108億円 | 12.3% |
欧州 | 105億円 | 12.0% |
中国 | 143億円 | 16.4% |
その他 | 48億円 | 12.0% |
海外進出動向
河合楽器製作所の海外売上は404億円で、中国が35.4%、北米が26.7%、欧州が25.8%を占めています。このように世界各国への進出に成功したポイントは、「巣ごもり需要」と「EPA・ETAの活用」です。
・巣ごもり需要
カワイピアノなどの鍵盤楽器を始め、自宅での練習にぴったりな消音ピアノがコロナ禍にヒットしました。「巣ごもり需要」のニーズに対応することで、2022年には過去最高益の857億円を達成し、2023年もさらに売上高を増やしています。
・EPA・ETAの活用
EPA(経済連携協定)とETA(自由貿易協定)により関税を抑えることで、高付加価値ピアノの海外販売を拡大しています。
今後はアジアでの音楽教室開校や、東南アジア・中南米・中近東・アフリカなどの市場開拓に取り組む予定です。
ローランド
出典:ローランド
ローランドは電子楽器に特化した日本の楽器メーカーです。本章ではローランドの会社概要や海外進出動向について詳しく紹介します。
ローランドの会社概要
1972年に設立したローランドはマイクロコンポーザーやリズムマシン、アナログシンセサイザーを開発し電子音楽・電子楽器の発展に寄与してきました。会社概要は以下のとおりです。
■ローランドの会社概要
会社名 | ローランド株式会社 (Roland Corporation) |
設立 | 1972年 |
資本金 | 96億4,100万円 |
売上高 | 958億円 |
主要事業 | 電子楽器、電子機器、ソフトウェアの製造販売・輸出入 |
連結従業員数 | 2,783人 |
海外拠点数 | 22拠点 |
ローランドも「巣ごもり需要」により売上を拡大した企業で、売上の推移は以下のグラフになります。
出典:ローランド「業績ハイライト」
ローランドの特徴は、海外売上比率が89.8%で他の2社よりも高いことです。地域別売上高比率は北米が36.4%、欧州が27.6%となります。
海外進出動向
ローランドは北米・欧州・中国などを中心に販売しており、海外売上比率は約90%です。
電子ピアノや電子ドラムなどがヒットし、2021年・2022年に大幅な売上増を達成しています。なかでも「ポータブルタイプの電子ピアノ」がEC販売と親和性が高く、コロナ禍において売上を伸ばしました。
また2022年8月に、初の直営店「ローランドストア」をロンドンに出店するなど、これからの動向も注目を集めています。
まとめ
本記事では音楽業界・楽器業界の海外進出動向について紹介しました。各メーカーは海外売上比率が高く、海外進出を検討している企業にとって参考となる事例といえます。
今後世界に進出したい企業様は、海外進出支援のプロであるプルーヴにぜひ相談してください。