インド映画と言語の関係!汎インド映画とは?

インドの人口は、2023年に中国を抜いて世界最多になると見込まれています。今後も人口増加が予想されるため、魅力的な市場と考えている企業も多いでしょう。

またインドは「世界一の映画大国」として知られ、国民的娯楽として映画が親しまれています。2016年には1,986本の映画が制作されており、米国の660本(2017年)と比べて約3倍にもなるほどです。

日本でもインド映画の「ボリウッド」を聞く機会が増えていますが、他にも「トリウッド」や「コリウッド」などがあり、多言語で展開されています。インドへ進出を考えている企業にとって、インドの言語を把握することは重要です。また、インド映画は企業によっては事業展開で考慮しなければならないでしょう。このインド映画と言語の関係性を理解することで事業展開の助けになれば幸いです。

インドの情報

インドの映画業界について解説する前に、まずは国の概要の紹介です。

■インドの概要

国名インド共和国
面積328万7,649平方km
人口14億1,717万人
(2022年世銀資料)
首都ニューデリー(New Delhi)
民族インド・アーリヤ族、ドラビダ族、モンゴロイド族等
言語連邦公用語はヒンディー語、
他に憲法で公認されている州の言語が21言語
宗教ヒンドゥー教徒79.8%、イスラム教徒14.2%、キリスト教徒2.3%、シク教徒1.7%、仏教徒0.7%、ジャイナ教徒0.4%
名目GDP3兆3,851億ドル
1人あたりGDP2,389ドル
GDP成長率7.0%
参考:外務省「インド基礎データ

インドは人口の多さが特徴です。その人口の多さから1人あたりGDPは決して高くないものの、2022年の名目GDPランキングでは、米国・中国・日本・ドイツに続く5位にランクインしています。

インドの名目GDPと人口の推移は以下のとおりです。

参考:国連統計部(UNSD)

参考:国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター

このように、人口の急増により大きな市場に成長しているのがインドになります。

インド映画業界

インド映画は1896年7月7日にリュミエール兄弟の助手であるマリウス・セスターにより、ボンベイ(現ムンバイ)のワトソン・ホテルで上映されたのが始まりといわれています。

そのボンベイでは1912年に国内初のサイレント映画、1931年にはトーキー映画(音のでる映画)が発表され、インドの映画業界を引っ張ってきました。

ボンベイで制作された映画は、ハリウッドをもじって「ボリウッド」と呼ばれています。「ボリウッド」はインド映画の総称と思う方もいるかもしれませんが、ボンベイで作られた映画を指す言葉です。この際に覚えておくと良いでしょう。

ボリウッドは主にヒンディー語で作られているため、インド全体で鑑賞されています。

またインド映画の特徴は以下の4つです。

  • 約3時間という長さ
  • 制作本数の多さ
  • 歌と踊りの入ったミュージカルが一般的
  • 多言語国家のため、各地域で映画を制作

インド映画業界の分類

インドの連邦公用語はヒンディー語ですが、他にも21の言語が州の憲法で公認されています。つまりインドは多言語国家のため、それぞれの言語で映画を制作する必要があるのです。

そのため主要言語の違う都市で、それぞれの言語を使った映画作成が行われています。各地域の言語と呼び名は以下のとおりです。

■インド映画業界の分類

分類地名使用言語呼び名
北インド映画ムンバイヒンディー語ボリウッド
南インド映画チャンナイタミル語コリウッド
トリヴァンドラムマラヤラム語マリウッド
ハイデラバードテルグ語トリウッド
マンガロールトゥル語コースタルウッド
カルナータカカンナダ語サンダルウッド
参考:「JETRO:インドのコンテンツ産業市場調査」や「Girgit spins Tulu to new heights」、「The Biggest Regional Film Industries In India You Should Know About」を元に筆者作成

このように南部・北部に別れて各地域の映画を制作しているのがインド映画の特徴です。例えば、日本でも人気のタイトル「バーフバリ」シリーズや「RRR」は「トリウッド」の作品になります。

インド映画業界規模・売上

先に説明したように、インドの映画は各地域にて制作されるため、本数が多くなる傾向にあります。主要国の映画本数制作の推移は以下のとおりです。

参考:「Diversity and the film industry

また以下のMotion Picture Associationの調査で、2021年のインド映画市場の興行収入は5億米ドルで、韓国やロシアと同規模であることが分かります。

■映画市場規模ランキング(2021年)

順位国名市場規模
(億米ドル)
1位米国/カナダ213
2位中国73
3位日本15
4位英国8
5位フランス8
6位ロシア6
7位韓国5
8位インド5
9位オーストラリア5
10位ドイツ4
参考:Motion Picture Association「2021 THEME REPORT

インドの市場規模が制作本数に比べて、順位が低い理由はチケットの安さにあります。ユネスコの調べによると、日本の平均チケット価格が12.77米ドルに対して、インドは0.81米ドルです。

これほど安い価格設定にすることで、多くの方が楽しめる娯楽に成長したのです。

インド映画の言語別割合

2016年のヒンディー語の映画制作本数は、364本で全体の18%でした。次にタミル語が304本で15%です。このように聞くと、公用語であるヒンディー語の比率があまり高くないと感じるかもしれません。

しかし売上の割合は、ヒンディー語が5.65億米ドルで全体の43%です。2位のタミル語が2.5億米ドルで19%、テルグ語が2.18億米ドルで17%と続きます。

このことからインドでターゲット数を増やすには、ヒンディー語・タミル語・テルグ語の対応が必要といえるでしょう。

参考:「Economic Contribution of the Indian Motion Picture and Television Industry

参考:「INDIAN FEATURE FILMS CERTIFIED DURING THE YEAR 2017

インド映画業界の最近の状況

インド映画業界は長らくヒンディー語の「ボリウッド」が牽引していました。しかし、最近は国外で大きな話題になる映画が他の言語で登場するなど、変化がみられています。インド映画業界の近況を知るには、以下の2つのキーワードがカギです。

  • 南高北低
  • 汎インド映画

この章ではインド映画の最近の動きを把握するために、2つのキーワードについて理解を深めましょう。

南高北低

「南高北低」とは、タミル語やテルグ語の南インド映画に勢いがあり、ヒンディー語の北インド映画が押されていることを示す言葉です。

「きっと、うまくいく」や「恋する輪廻オーム・シャンティ・オーム」など、以前は海外で成功するのはヒンディー語の映画がメインでした。しかし、最近はヒンディー語以外の映画がヒットするようになっています。具体的に2022年の全世界の興行収入TOP10は以下のとおりです。

■2022年の全世界の興行収入TOP10

  • 1位:RRR(テルグ語)
  • 2位:K.G.F: Chapter 2(カンナダ語)
  • 3位:Ponniyin Selvan: I(タミル語)
  • 4位:Brahmastra Part One: Shiva(ヒンディー語)
  • 5位:Vikram(タミル語)
  • 6位:Kantara(カンナダ語)
  • 7位:Drishyam 2(ヒンディー語)
  • 8位:The Kashmir Files(ヒンディー語)
  • 9位:Bhool Bhulaiyaa 2(ヒンディー語)
  • 10位:Beast (II)(タミル語)

参考:「2022 – Indian Films Box Office Report

このようにTOP3はヒンディー語以外の映画が占めています。とくに「RRR」は、世界興行収入が200億円を超える大ヒットを収めました。日本でもインド映画の興行記録を更新し、インド映画初の10億円を突破しています。

汎インド映画

汎インド映画とは、テルグ語・マラヤーラム語・カンナダ語・ヒンディー語など、複数の言語に吹き替えて公開するテルグ語映画の新たな動きです。

世界的大ヒットを収めた「RRR」もテルグ語で制作され、その後にタミル語・マラヤーラム語・カンナダ語・ヒンディー語に吹き替えて公開しています。つまり、テルグ語圏以外のユーザーにもアプローチすることで、観客動員数と収益の増加につなげているのです。

まとめ

今回はインドの言語と映画の関係性について紹介しました。インド映画は国民的娯楽のため、ニーズの把握やマーケティング戦略の立案に参考となる部分があるはずです。

これから市場規模の拡大が予想されるインドへ進出するには、言語や映画の存在は頭に入れておくべき事項といえるでしょう。

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