我が国の防災技術の輸出について~水害~

9月1日は関東大震災が発生した日で、「防災の日」に指定されています。日本は多くの災害に見舞われてきたため、防災に対する意識は高いといえます。しかし、日本が防災技術を他国へ輸出していると知っている方は少ないでしょう。防災に関するテーマとして、今回は水害に対する防災技術の輸出の現状について解説します。

関連コラム

日本の自然災害はかなり多いが脆弱性は低い

日本は地震に加えて、台風や大雨による災害が多い国です。国連大学がまとめた「世界リスク報告書2016年版」では、日本は「自然災害に見舞われる可能性」の項目で世界4位にランクインしています。このことから世界からみても、日本は自然災害が多い国といえます。

しかし日本では様々な対策を講じているため、同調査の「自然災害に対する脆弱性」では17位となっています。つまり、自然災害は多いが脆弱性は低い国といえるのです。

参考:国連大学「世界リスク報告書2016年版

世界の水害の歴史

世界に目を向けると、過去20年間において全災害のうち風水害が全体の71%と多く発生しています。例えば、被害の大きかった世界の水害は以下の3つが挙げられます。

  • サイクロン・ナルギス
  • タイ大洪水
  • インド・ネパール モンスーン

サイクロン・ナルギス(2008年4月/ミャンマー)

巨大サイクロン・ナルギスによりミャンマー南西部を中心に、死者行方不明者138,000人という大きな被害が発生した災害です。

2008年4月27日にベンガル湾中央部で発生したサイクロン・ナルギスは、非常に強い勢力でミャンマー南部に上陸し、大きな被害を発生させました。

とくにイラワディ管区のボガレイは低地であったため、多くの方が高波に飲まれ死者数が22,500人、行方不明者が41,000人以上と大きな被害が出ました。

この水害で150万人以上が被災したといわれており、ミャンマー史上最悪の自然災害となります。

タイ大洪水(2011年/タイ)

2011年に起こったタイ大洪水は、例年の1.4倍の雨量と大型台風の度重なる襲来により発生した水害です。死者約800人で230万人が被災したため、影響を受けた人数に関して最悪の洪水ともいわれています。

また死者のうち100人以上が感電事故によって亡くなったとされ、電柱の整備が進んでいない地域のリスクを露呈した洪水でもあります。

インド・ネパール モンスーン(2013年/インド・ネパール)

2011年6月15日から18日まで、インド北部のウッタラカンド(Uttarakhand)州を中心に降り続いた豪雨により発生した水害です。ガンジス川やヤナム川の上流で洪水が発生し、死者6,320人の被害を出しました。

2050年には20億人が洪水により被災するという予測

国連大学によると過去20年間のアジアにおいて、毎年平均4億人以上が洪水を経験しています。世界では年間5億2,000万人で、洪水により年間最大2万5,000人が死亡しました。

さらに今後、気候変動や世界の人口増加にともない、2050年には20億人が洪水により被災すると予想されています。将来の洪水の被害を軽減するために、対策の重要性が増してきているのです。

実は我が国日本は防災技術貢献、世界第一位

災害の多い日本では、古くから災害に対処・対策してきた歴史があり、それらの経験から優れた防災技術があります。自然災害という人類共通の課題に対し、技術を持つ日本が、開発途上国の安全保障を実現することは使命ともいえるでしょう。

実際に我が国は、過去20年において防災分野の直接支援で世界一位を誇っています。

日本が持つ水害に対する防災技術

水害の防災においては、ハード面・ソフト面の両面から一体的に実施することが効果的です。本記事では日本が持つ水害に対する防災技術を、ハード・ソフトに分けて紹介します。

①水害関連対策/構造物対策(ハード面)

水害対策のハード面の防災技術には、以下のような構造物の対策が挙げられます。

  • 河川改修
  • 海岸保全事業
  • 土砂災害対策
  • かんがい施設の整備
  • 治山、海岸防災林の整備

防災力を高めるためには、新規に施設を作り出すだけではなく、既存施設の改修、補強または機能増強にも取り組んでいくことが重要です。

防災技術輸出事例:ラオス/ナムグムダム再生事業

日本がハード面の防災技術を輸出した事例に、ラオスの「ナムグムダム再生事業」があります。

ナムグムダムは電力需給への対応やタイへの売電を目的に、日本工営が建設・施工管理し、間組(現在の安藤ハザマ)の施工で1971年に完成したダムです。建設から時間が経った現在、さらなる電力需給への対応のために、日本の支援のもとナムグム第一水力発電所拡張事業が2013年に着工し、2022年に竣工しました。

ナムグム第一水力発電所拡張事業は、既存ダムに穴をあけ、発電所を増設するダム再生工事で、土木部分を安藤ハザマが受注しています。ダム再生により洪水調整の機能が加わり、ダムの多目的化を達成できたのも、この事業のポイントです。

「ナムグムダム再生事業」は日本企業の海外展開により、相手国の水防災・水資源開発・発電需要などに貢献した事例といえます。

②水害関連対策/防災システムの整備(ソフト面)

水害対策のソフト面の防災技術には、以下のような観測・予警報システムの整備が挙げられます。

  • 気象レーダー等の観測機器の整備
  • 洪水予警報システムの構築
  • 水文観測所・CCTV・情報伝達システムの整備

日本ではこれらの観測・予警報システムの整備が進められているものの、海外展開にはさらなるコスト低減が課題です。

防災技術輸出事例:フィリピン・バングラデシュ/河川監視カメラリアルタイム防災システム

ソフト面の防災技術の輸出事例に、フィリピンやバングラデシュの河川監視カメラリアルタイム防災システムがあります。

河川監視カメラリアルタイム防災システムとは、その名のとおり河川監視カメラによりリアルタイムで河川状況を発信し、危険水位に達した場合にはアラートメールを送信して被害軽減に貢献するシステムです。

この河川監視カメラリアルタイム防災システムをフィリピンやバングラデシュに輸出をしたのは新潟県長岡市に本店がある株式会社イートラストです。株式会社イートラストが提供するシステムの特徴は、市町村のニーズに応じて自社開発した防災システムで、途上国にも導入しやすい価格帯を実現したことです。

加えて株式会社イートラストは、JICAの技術協力事業を活用し、途上国の防災担当者の洪水機器管理運営能力強化にも力を入れています。

例えば、フィリピン関係者を長岡市に招待して防災研修をしたり、アンゴノ町でワークショップを開催したりといった具合です。

このようにシステムと技術支援をパッケージ化し、海外展開を図っているのがポイントといえます。

日本の水害に対する防災技術の輸出

日本政府は防災国際会議や気候変動分野での資金協力など、国際的な取り組みを推進してきました。

例えばフィジーに50億円、フィリピンに500億円の災害復旧スタンドバイ借款の合意や、26.25億米ドルを緑の気候基金に拠出するなどです。

しかし、「日本として世界のレジリエンス対応への貢献を通じた社会課題解決と成長する災害対応市場の獲得」という目標については、日本の民間企業の海外展開が進んでいない状況です。その理由は以下の3つが考えられています。

1. 防災対応に係る認知の課題

日本企業の現地のニーズや事業環境の認知不足、現地の災害対応に関する意識不足など、日本の技術と現地のニーズのミスマッチが発生してしまうこと

2. 防災の公共性ゆえの課題

製品・サービスが導入されるには、現地政府との連携が必要で、民間企業のみで果たすのが困難なこと

3. 防災のビジネス上の課題

需要側の資金が限られていることが多く、民間企業にとってビジネスの機会が少ないこと

まとめ

本記事では世界の水害の解説と、日本の水害における防災技術の輸出状況について解説しました。輸出状況に鑑みて、まだまだ日本企業にとってチャンスが大きい分野でもあります。

防災技術の分野に限らず、海外進出を志す企業様は、ぜひ海外進出支援のプロであるプルーヴ株式会社にご相談ください。

関連する事例

海外進出および展開はどのように取り組めば良い?
とお悩みの担当者様へ

海外進出および展開を検討する際に、
①どんな情報からまず集めればよいか分からない。
②どんな観点で進出検討国の現場を見ればよいか分からない。
③海外進出後の決定を分ける、「細かな要素」は何かを知りたい。

このような悩みをお持ちの方々に、プロジェクト時には必ず現地視察を行う、弊社PROVE社員が現地訪問した際に、どんな観点で海外現地を視察しているのかをお伝えさせていただきます。