先日、我が国の水害に関する防災技術の輸出状況について紹介しました。しかし、世界で起きている災害は水害だけではありません。
とくに今年は異常気象を原因とする山火事が世界で頻発しました。さらに地球温暖化にともない、ますます森林火災の発生リスクが上昇すると見込まれています。
そこで今回は、火災に関する防災技術の輸出の現状について紹介します。
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日本の火災での死者数は世界192カ国中125位と低い
日本は世界と比較すると木造家屋が多いという特徴があります。そのため火災に対して脆弱な国と思うかもしれませんが、2002年のデータによると、日本の火災の死者数は世界192カ国中125位でした。
さらに総務省消防庁の発表によると、火災での負傷者数・死者数は減少傾向にあります。
出典:総務省消防庁「令和2年版 消防白書」
木造家屋の多さゆえに、火災による犠牲者は各都市で必ずといっていいほど発生しています。しかし世界と比較して死者数が少ない点から、日本の防災と消防の努力が功を奏しているといえるでしょう。
大規模な森林火災の発生リスクが2100年までに50%上昇
世界資源研究所(WRI)は、20年間で森林火災により焼失する面積が2倍に拡大していることを発表しました。実際に2021年には世界で930万ヘクタールの面積が焼失したとみられています。930万ヘクタールは、日本の森林面積2,505万ヘクタールの37%です。つまり、1年で日本の森林面積の約3分の1に該当する森林が世界で焼失したのです。
また2023年には、カナダで史上最大規模の森林火災が起きています。
このように近年増加する森林火災の原因は、地球温暖化と土地利用の変化です。地球温暖化は今後も進むと見込まれるため、国連環境計画(UNEP)によると、2100年までには大規模な森林火災の発生リスクが50%上昇すると予想されています。大規模な火災に対応するために、対策方法を根本から見直さなければならないのが世界の現状です。
防火システム市場は2030年に1,297億米ドルに達する見込み
火災による被害が拡大しているなか、世界で注目を集めているのは防火システムです。防火システムとは、いち早く火災に気づくための煙感知器・炎感知器、いち早く消火するためのスプリンクラー・消火設備などを指します。
防火システムの世界市場規模は、2020年に659.8億米ドルでした。今後、年平均成長率7%が見込まれ、2030年には1,297億米ドルまで成長すると予想されています。
このことから火災の被害を抑えるために、国・都市・企業は積極的に防火システムの導入を進めていくでしょう。
つまり防火システムは海外市場において、ビジネスチャンスのある分野といえるのです。
日本の消防機器等の海外展開に対する政府の取り組み
日本では世界各国の現場で働く日本人の安全確保、日本企業のインフラシステムの海外展開、エネルギー・鉱物資源の海外権益確保の支援を目的に「経協インフラ戦略会議」が開催されています。
その一環に「インフラシステム輸出戦略」があります。
「インフラシステム輸出戦略」の対象の産業は、エネルギー・交通・情報通信・生活環境などさまざまです。そのなかで「幾多の災害を経験した我が国は、防災の重要性を世界に訴える責務がある」とし、防災関係の問題解決に貢献する技術の輸出拡大を図っています。
また日本政府はセミナーの開催や、日本の規格の発信などにより、日本企業の海外展開を支援しています。
日本の火災に対する防災技術と輸出実例
日本で製造・販売される消防用機器は、消防法に基づく規格・認証制度により確実な作動が担保されています。加えてニーズを反映した細かな設計や容易なメンテナンス、優れた耐久性・品質が日本の防災技術の輸出における強みです。
そのため以下のような消防用機器の輸出拡大が期待されています。
- 消防ポンプ
- 使いやすい消火器
- 多彩な感知器
- デザインに優れたスプリンクラー
この章では、防災技術の輸出の具体例として「トーハツ株式会社」と「ホーチキ株式会社」について紹介します。
具体例①「地域の防災力を創る」:トーハツ株式会社
出典:トーハツ株式会社
トーハツ株式会社は、1949年に日本ではじめて可搬消防ポンプを開発した企業です。現在では、可搬消防ポンプの国内シェア50%以上のトップメーカーとして、業界を引っ張っています。
トーハツ株式会社が製造・販売している防災製品は以下のとおりです。
- 消防ポンプ
- 設備用エンジンポンプ
- 消防・特殊車両
- 防災機器
「小型・軽量・コンパクト」という特徴を持つ可搬消防ポンプは、日本の消防団でも活用され、日本全国の保有台数は約7~8万台です。その性能と保有台数から消防車が入れない火災現場での迅速な消火活動を可能にし、地域の防災力の向上に貢献しています。
トーハツ株式会社の可搬消防ポンプは、海外においても品質の高さが認められ、アジアを中心に60カ国へ年間1,000台以上を販売しています。
日本の火災に対する防災技術の強みを生かし、輸出拡大を図っている良い事例です。
今後はメンテナンスが容易で、だれでも簡単に操作できる電動可搬消防ポンプの製品化により、さらなる活躍が期待されています。
具体例②「火災の犠牲者がゼロになる世界を目指す」:ホーチキ株式会社
出典:ホーチキ株式会社
ホーチキ株式会社は、1918年に設立した日本初の火災報知器メーカーです。東京を火災から守るために、当時の警視庁が火災報知設備の設置を計画したのが設立のきっかけです。
それまでの日本の防火は延焼を防止することに重点を置いていましたが、ホーチキ株式会社が開発・製造した日本初の火災報知器「MM式火災報知器」の登場により近代化の一歩を踏み出します。
その後、ホーチキ株式会社の製品は国会議事堂や東京ドームといったランドマーク、マンション・オフィスといった建物などに導入され、大規模物件のシェア1位を獲得しています。
海外事業については、1961年にタイに火災報知設備をはじめて輸出して以来、海外市場でも挑戦を続けてきました。その結果、現在では欧米・アジアなど129カ国で製品が導入されています。
2023年3月時点の海外の拠点数は16拠点で、海外従業員数は579名という点からも、海外進出を積極的に行っていることがわかります。
また2023年3月期の連結決算によると、海外事業の売上高は135億円で、前年から29億円の増加です。海外売上高比率は16.6%で前回の13.8%から2.8ポイント上昇しています。
このように昨今の海外における防火意識の高まりにより、日本の優れた防火システムに注目が集まっていると数字からみてとれます。
日本の火災に対する防災技術の輸出状況
日本の防火システムにおける輸出状況で看過できない点は、東南アジアなどの新興国での展開です。
新興国においても、日本の防火システムの品質は高く評価されています。そのため日本と気候条件が近い東南アジアにおいて、輸出拡大が期待されていますが、実際は不利な状況が続いています。その大きな要因は、導入コストの安い中国製や韓国製の消防用機器の台頭です。
東南アジアの新興国において、火災予防対策の推進・日本の防災技術の輸出を拡大するためには、日本の強みである規格に適合した消防用機器の競争力強化が必要といえます。
まとめ
本記事では日本と世界の火災における現状や、日本の火災に対する防災技術の輸出事例について紹介しました。今後も世界において森林火災が増えると見込まれているなか、火災に関する防災技術はチャンスが大きい分野といえます。海外進出を目指す企業様は、ぜひプルーヴ株式会社にご相談ください。