我が国の防災技術の輸出について~震災~

モロッコ地震の死者が2,900人を超えたというニュースで、心を痛めた方は多いでしょう。これほど被害が拡大したのは、建物の耐震性の低さが原因と考えられています。地震はいつ起こるかわからない災害だからこそ、しっかりとした対策が必要なのです。

先日我が国の防災技術の輸出について水害と火災を取り上げました。今回は続編として、震災に対する防災技術の現状を紹介します。

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日本は地震大国である

我が国は地震の多い国で、マグニチュード6以上の地震回数は世界全体の20.8%にもなります。つまり、世界で起こる大きな地震5回のうち1回は、日本で発生しているのです。

日本で地震が多い理由は太平洋プレートとフィリピン海プレートが、陸地のある北米プレートやユーラシアプレートの下に沈みこんでいるためです。

このため日本は世界でも有数の地震多発地帯で知られ、地震大国とも呼ばれています。

世界の震災の歴史

世界に目を向けると、日本と同様に大きな被害を出した震災は多くあります。近年の被害の大きな震災は以下の3つです。

  • ハイチ地震
  • スマトラ沖地震
  • ネパール地震

世界の震災について理解を深めるために、被害状況や主な被害の原因について紹介します。

ハイチ地震(2010年/ハイチ)

2010年1月12日に発生したハイチ地震は、ハイチ共和国の首都ポルトープランスの西南西25kmという近い場所で、マグニチュード7.0の地震が発生し大きな被害を出しました。

ハイチ地震の人的被害

  • 死者数:222,517人(2010年3月時点)
  • 負傷者数:310,928人(2010年3月時点)
  • 被災者:300万人以上

ハイチ地震で被害が拡大した要因は、多くの建物が倒壊・損壊したことです。約10万戸の倒壊家屋や約20万戸の損壊家屋の下敷きとなり、多くの方が犠牲になりました。また人的被害以外にも、電気・水道などのインフラにも甚大な被害が出ています。

スマトラ島沖地震 インド洋大津波(2004年)

2004年12月26日に発生したスマトラ島沖地震はマグニチュード9.0で、1900年以降4番目の大きさの巨大地震でした。巨大地震により発生したインド洋大津波により、タイ・マレーシア・インド・スリランカ・モルディブなど、インド洋沿岸諸国に大きな被害を出しました。

スマトラ島沖地震・インド洋大津波の人的被害

  • 死者・行方不明者数:30万人以上
  • 被災者数:120万人以上

スマトラ島沖地震における被害の主な要因はインド洋大津波です。多くの地域で2~10m、地域によっては34mもの高さの津波が襲いました。

ネパール地震(2015年/ネパール)

2015年4月25日に発生したネパール地震は、マグニチュード7.8の地震により大きな被害を出しています。

ネパール地震の人的被害

  • 死者数:8,856人
  • 被災者:560万人

ネパール地震で被害が拡大した要因は、89万戸の家屋が倒壊・損壊したことです。また雪崩や土砂災害が発生し、巻き込まれて亡くなった方も多くいます。

日本の震災対策関連技術①:住宅・建築物の耐震・免震技術

日本はこれまでに多くの震災を乗り越えてきました。その中で蓄積した技術や知識を踏まえて、住宅・建築物の耐震・免震技術を発展させています。

例えば東日本大震災ではマグニチュード9.0、震度7という巨大な地震で大きな被害を出しましたが、家屋の倒壊が原因とみられる圧死や損壊死は全体の4.4%でした。これまでの教訓を生かして、耐震・免震技術を普及させた結果といえるでしょう。

しかし、ハイチ地震やネパール地震のように、世界には家屋の耐震性が低い地域もあります。そこで海外の国々に対して、震災対策関連の防災技術の普及に努めているのです。

事例①:耐震構法SE構法/株式会社エヌ・シー・エヌ

出典:株式会社エヌ・シー・エヌ

株式会社エヌ・シー・エヌは、イタリアに耐震構法SE構法を提供している企業です。同社の技術提供により、2013年にイタリアのヴェネツィア郊外にて、海外で初めてSE構法による住宅が上棟されました。

耐震構法SE構法とは、構造計算を行い科学的根拠に基づいた耐震性の高い木造の建築方法です。東日本大震災において倒壊ゼロの実績があります。

もともとイタリアには石を使った伝統的な構法がありますが、経済状況の悪化に伴い、比較的コストの安い木造構造の需要が高まっていました。そこで、環境負荷が小さく耐震性の高い耐震構法SE構法が注目されています。

事例②:薄型免震装置を博物館に設置/アイディールブレーン株式会社

出典:アイディールブレーン株式会社

アイディールブレーン株式会社は、世界一薄い免震装置「ミューソレーター」を開発している企業です。その厚さは約3ミリで、様々な設置場所に対応できることや工期が短いという特徴があります。

ミューソレーターは、滑走プレートとセルシートの2枚のシートで構成されています。大地震が起こると滑走プレートとセルシートの間が滑ることで、下部のセルシートのみが動き、上部に地震の揺れが伝わるのを抑える構造です。

日本ではサーバールームや医療機器、美術品、倉庫などに採用されています。

そのような耐震性の高い日本の技術「ミューソレーター」は、ルーマニアの首都ブカレストのアンティパ国立自然史博物館にある、巨大なマンモス象の骨格標本の下に設置されました。美術品の免震に役立つ技術として、さらなる輸出拡大が期待されています。

日本の震災対策関連技術②:防災システム

日本の震災対策関連技術には耐震性を高める免震技術以外に、防災システムもあります。防災システムとは、災害情報を共有し災害発生時に被災状況の早期把握に役立つ技術です。防災システム関連技術においても、海外への輸出が進んでいます。

事例①:防災情報処理伝達システム(DPIS)/株式会社NTTデータ

出典:株式会社NTTデータ

株式会社NTTデータはインドネシアに向けて、防災情報伝達システム(DPIS)の輸出を決めています。DPISとは、日本国内で運用されている災害情報共有システム「Lアラート」をベースに開発された、政府から災害情報を発信するためのシステムです。

インドネシアでは2004年のスマトラ島沖地震や他の災害の際に、災害状況を迅速に国民に届けられなかったという課題があります。そのような課題解決に向けて、日本で培った防災システムのDPISが役立つと期待されています。

事例②:緊急警報放送システム/八千代エンジニヤリング株式会社

出典:八千代エンジニヤリング株式会社

八千代エンジニヤリング株式会社は、ペルーの太平洋沿岸部に緊急警報放送システム(EWBS)を整備しました。

具体的には、日本の地上デジタル放送方式を活用したEWBSを、ペルー国営放送の本局と支局の合計7カ所に設置しました。加えて、津波観測のための潮位計を沿岸部8カ所に設置しています。

ペルーの津波観測の精度が向上したうえに、災害情報伝達能力も強化され、住民の早期避難に役立っています。

日本の震災に対する防災技術の輸出状況

日本の震災に対する防災技術の輸出は、2013年に安倍首相の支持のもと「経協インフラ戦略会議」が立ち上げられ、2020年にインフラ受注額を約30兆円にする目標を掲げたことが強化のきっかけでした。

それ以来、ミャンマーやインドなどのプロジェクトで成果をあげるなど、着実に実績を積み重ねています。また防災分野の二国間協力関係を強化する「防災協働対話」などを通じ、インフラシステム輸出も進めています。

最近では、2019年8月にJIPAD(防災技術の海外展開に向けた官民連絡会)が設立され、今後も政府は防災技術の輸出を強化していく方針です。

まとめ

今回は防災技術関連の続編として、日本の震災に関する防災技術の輸出事例と現状について紹介しました。日本政府が今後も防災技術の輸出を強化していく方針であることから、ビジネスチャンスの多い分野といえるでしょう。

防災技術の輸出などで海外展開を考えている企業様は、ぜひプルーヴ株式会社にご相談ください。

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