2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、注目されている技術の1つはメタネーションです。
メタネーションとは、水素と二酸化炭素を原料にメタンを合成する技術です。焼却炉施設で発生する排気ガスの二酸化炭素を都市ガスの主原料であるメタンに変えることで、循環型エネルギーシステムを実現できると期待されています。
本記事ではメタネーションの概要や課題、プロジェクト例についてわかりやすく紹介します。
メタネーションとは?
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術」
メタネーションとは、焼却炉や発電所などで発生した二酸化炭素(CO2)に水素(H2)を反応させ、メタン(CH4)を合成する技術です。メタネーションにより合成したメタンは、e-メタン(e-methane)とも呼びます。
e-メタンは焼却時に二酸化炭素を排出しますが、原料に排気ガスの二酸化炭素を回収して利用するため、二酸化炭素の全体の排出量はゼロで済みます。また都市ガスの主成分であることから、既存のインフラ・設備を活用して各家庭に届けられるのも特徴です。
1995年に日本は、世界で初めてメタネーションによる合成メタンの生成に成功しました。その後、日本では様々な企業が合成メタンを製造するための先進的な研究を進めています。
海外メタネーションのバリューチェーンイメージ
メタネーションは、どのような流れで消費者に届くのか分かりにくいと感じる方もいるかもしれません。そこで、海外で想定されているメタネーションのビジネスモデルについて解説します。
出典:経済産業省「コスト差を踏まえた支援策の導入意義について」
まずは以下の施設でe-メタンの原料を回収・製造します。
二酸化炭素:工場や焼却炉で発生する排気ガスから回収
水素:風車や太陽光発電などの再生可能エネルギーの電力を活用し、水を電気分解して製造
次のステップはe-メタンの合成です。回収・製造した原料をメタネーション設備で化学反応させ、e-メタンを合成します。
e-メタンは都市ガスの主成分のメタンと同じ成分であることから、次のステップの液化プラントで天然ガスのメタンと混ぜます。液化プラントは天然ガスから不純物や水分などを除去し、冷却して液化する施設です。
一般的な天然ガスと混ぜて冷却することで、これまでのインフラ・設備を使い流通させることができます。
しかし、e-メタンと天然ガス由来のメタンでは製造コストが異なります。そこでポイントとなるのは以下の2点です。
- 環境価値取引の仕組みの構築
- CO2カウントルールの整備
環境価値取引の仕組みの構築
環境価値とは、「化石燃料を使用しない」や「温室効果ガス排出を抑制している」など、環境の保全に貢献した際に付加される価値です。メタネーションは二酸化炭素の排出抑制に役立つため、環境価値が付加されます。
メタネーションにおける環境取引の仕組みは以下のとおりです。
- e-メタン製造事業者が製造したe-メタンについて、認証機関が合成メタン証書を発行
- 液化プラントで混ぜられるe-メタンの量を把握
- 流通時に合成メタン証書をもとに環境価値を流通業者・消費者に販売
このように環境価値取引の仕組みを構築することで、e-メタン製造事業者や再生可能エネルギー事業者、焼却炉施設などが資金を獲得し、さらなる技術の発展・普及が期待できます。
CO2カウントルールの整備
環境価値取引の仕組みの構築では、二酸化炭素排出量をどのように算出し、どのタイミングで排出ゼロになるのかといったCO2カウントルールの整備が重要です。
国内におけるCO2カウントルールは方向性が決まっています。しかし、複数の国が関係する場合のルールづくりは、これからの国際交渉により進められる予定です。現状では、以下の6つの選択肢が候補として挙がっています。
出典:経済産業省「国家間のCO2カウントルール整備の方向性について」
メタネーションの課題
日本の目標は2030年にメタネーションを実用化し、2050年に都市ガスの90%をe-メタンに置き換えることです。
都市ガスの90%がe-メタンに置き換わると、日本全体の二酸化炭素排出量の1割削減に相当します。しかし、メタネーションの普及には以下の3つの課題があります。
- 燃焼時のCO2排出のカウントルール
- 既存燃料と混在した場合の環境価値取引の仕組み
- 過渡期における既存燃料との価格差
燃焼時のCO2排出のカウントルール
メタネーションの普及は、利用する企業のCO2排出削減に貢献できるかがポイントです。企業にメリットがないと、積極的に利用されないためです。そこでe-メタン燃焼時に、CO2排出ゼロとなるCO2カウントルールの構築が求められています。
既存燃料と混在した場合の環境価値取引の仕組み
e-メタンは現状、都市ガスのすべての量を置き換えるほどの生産量はありません。そのため既存燃料と混ぜて使用する必要があります。しかし、混在させた場合のe-メタンの証書制度や環境価値取引の仕組みの構築が課題となっています。
過渡期における既存燃料との価格差
e-メタンはまだ実証段階の技術で、製造コストの高さがデメリットです。普及により製造コストを圧縮できるまでの間、既存燃料との価格差をどのように埋めるかが課題です。そこで過渡期においては、e-メタン製造コストへの支援措置が必要と考えられています。
現在のメタネーションプロジェクト
メタネーションは2030年に実用化を目指している技術です。そのため、現在多くの企業が実用化に向けたプロジェクトを立ち上げています。この章では、メタネーションプロジェクトの事例を2つ紹介します。
米国キャメロンLNG基地を活用した日本へのe-メタン導入プロジェクト
出典:三菱商事
米国キャメロンLNG基地を活用したメタネーションプロジェクトは、東京ガス・大阪ガス・東邦ガス・三菱商事の4社が共同で取り組んでいるプロジェクトです。
プロジェクトにおける各社の役割は以下のとおりです。
- 4社合併事業として米国テキサス州・ルイジアナ州でe-メタンを製造する
- 三菱商事がルイジアナ州南西部に有するキャメロンLNG基地にてe-メタンを液化する
- 東京ガス・大阪ガス・東邦ガスのインフラを活用し消費者に届ける
なぜ米国でe-メタンを製造するかといえば、海外の安価な再生可能エネルギーで水素を製造することで、競争力に優れたe-メタンを合成できるためです。
今後の流れは2025年のプロジェクトの最終意思決定、2030年に13万トン/年の輸出を計画しています。ただし、現時点で以下の2つが課題です。
- 米国との2国家間におけるCO2カウントルールの交渉
- 日本政府からの製造コスト支援策
これらの課題を解決し、e-メタンの国際的なサプライチェーン確立が期待されています。
※LNGとは液化天然ガスのことで、LNG基地は液化天然ガスの受入や貯蔵、気化などをおこなう液化天然ガスターミナルのこと
マレーシアにおけるバイオマスを活用したe-メタン製造プロジェクト
出典:株式会社IHI
株式会社IHI・大阪ガス・マレーシアの大手国営ガス・石油供給事業者のPETRONAS(ペトロナス)は、マレーシアにおけるバイオマスを活用したe-メタン製造プロジェクトに取り組んでいます。
未使用森林資源や農業残渣から微生物の力でバイオマスガスを生成し、バイオマスガスに含まれる水素・二酸化炭素を合成することでe-メタンを製造する方法です。
従来の再生可能エネルギーよりも製造コストを抑えられる手法で、競争力の高いe-メタンの製造手法として注目されています。
なぜマレーシアなのかといえば、安価な未使用バイオマスが豊富な点とPETRONASのLNG基地があるためです。
まとめ
メタネーションはこれまで排出されていた二酸化炭素と水素を、都市ガスの主成分のメタンに合成する技術です。温室効果ガスの二酸化炭素を回収し再度メタンとして活用することで、循環型エネルギーシステムの構築が期待されています。 日本では2030年に実用化し、2050年に都市ガスの90%をe-メタンに置き換えることを目標としており、今後も活発な動きが予想されます。ビジネスチャンスも多く、目が離せない分野といえるでしょう。