日本は2050年にカーボンニュートラルの実現を目指しています。その脱炭素社会の実現のカギを握っているのは、水素エネルギー技術の進歩です。
水素エネルギーには以下の3つの特徴があります。
- 枯渇の心配がない
- 環境に優しい
- 保存しやすい
本記事では、水素技術が注目される背景や世界や日本における取り組みをわかりやすく解説します。
ウクライナ問題が世界のエネルギー構造を大きく変化の波へ
日本ではガソリン補助金が延長されるなど、ガソリンの高騰が問題となっています。ガソリン補助金がなければ、1リットルあたり200円を超えていた可能性があるほどです。
日本のガソリン高騰の大きな要因は、ロシアによるウクライナ侵攻です。ウクライナ侵攻による原油価格の高騰は、世界的なエネルギー危機を招きました。そのあおりを受けて、日本では自動車だけではなく、電気代や多くの製品が値上がりしています。
ウクライナの問題は、世界のエネルギー構造を大きく変化させ、化石燃料に頼った社会のリスクを示しています。さらに、イスラエル・ガザの軍事衝突が発生し、中東情勢の緊迫化で原油価格の先行きが不透明な状況です。
そこで、脱化石燃料の実現に向けて注目されているのが水素エネルギーです。今後は脱化石燃料の流れが加速するとみられています。
CO2を排出しない水素エネルギーの魅力
そもそも、なぜ化石燃料の代わりに水素エネルギーが注目されているのでしょうか。
その秘密は、水素の燃焼反応にあります。
水素は(H2)を燃焼させると、酸素(O2)と反応して水(H2O)が発生します。水素の燃焼の化学反応式は以下のとおりです。
2H2+O2→2H2O
つまり、水素を燃やすと水しか発生しません。二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスや有害なガスが出ないため、クリーンなエネルギーとして注目されています。
反対に、水に電気を流すと水素と酸素を作り出すこともできます。水分解の化学反応式は以下のとおりです。
2H2O→2H2O+O2
燃焼と水分解で、水素・酸素を繰り返し利用できる点が水素エネルギーの特徴です。さらに、地球の地表の3分の2は水でおおわれているため、資源枯渇の心配がないのも魅力といえます。
世界の水素エネルギーに関する取り組み
世界の水素エネルギーの取り組みで転換点となったのは、2017年1月に開催されたダボス会議です。同会議でトヨタやホンダを含む13社が、Hydrogen Council (水素協議会)を設立したためです。
Hydrogen Councilは、サステナブルな社会の実現に向けて、水素の活用促進を目指しています。現在では、水素バリューチェーン会社を代表する150社が参加し、影響力の大きな機関に成長しています。
この流れを受けて、日本は2017年12月に世界で初めて水素基本戦略を策定しました。その後、EUやドイツ、アメリカなども水素戦略を策定し、水素関連の取り組みを強化しています。
EUの水素エネルギーの取り組み
EUでは欧州員会が2020年7月に「欧州の機構中立に向けた水素戦略」にて、グリーン水素推進の立場を表明しました。
グリーン水素とは、水素の製造に再生利用可能エネルギーの電力を使った水素です。水素の製造方法により、グリーン水素・ブルー水素・グレー水素があります。各種の製造方法と二酸化炭素の排出は以下のとおりです。
グリーン水素 | ブルー水素 | グレー水素 | |
---|---|---|---|
生産時のエネルギー | 再生可能エネルギー | 化石燃料 | 化石燃料 |
二酸化炭素排出 | なし | 排出した二酸化炭素を回収し、再利用する | あり |
「欧州の機構中立に向けた水素戦略」では、2030年までにグリーン水素の生産量を1,000万トンにすることを目標としています。
また欧州において、グリーン水素は定義が決まっており、「CO2排出削減量が73.4%以上の水素」がグリーン水素です。
ここでは、さらにドイツの取り組みについて紹介します。
ドイツ:グリーン水素の技術開発への支援
ドイツは2020年6月に、国家水素戦略を策定しています。グリーン水素の生産や利活用に重点がおかれ、2030年までに水素電解プラントを5ギガワットまで拡大する方針です。
ドイツの国家水素戦略のポイントは以下のとおりです。
- 水素の生産から利用までのバリューチェーンの確立
- 国内水素市場の開発
- 水素供給のためのインフラ整備
ドイツは目標の達成のために、90億ユーロの予算を確保しています。ほかにも隣国のオランダと協力し、グリーン水素の技術開発に助成する取り組みもしています。
このように、グリーン水素の分野で世界をリードしようと、積極的に技術開発を支援しているのです。
なお2023年7月に、ドイツの国家水素戦略は改定され、2030年の目標値が5ギガワットから10ギガワットに倍増されました。
アメリカの水素エネルギーの取り組み
アメリカは、2023年6月に国家クリーン水素戦略を発表しました。戦略では、2030年までにグリーン水素の生産量を年間1,000万トンにすることを掲げています。
同戦略のポイントは以下の3点です。
- グリーン水素の利用促進
- グリーン水素のサプライチェーンの発展
- グリーン水素の生産の大規模化
また最近では、アメリカ企業においても国際協調が盛んです。例えば、アメリカの石油企業ベーカー・ヒューズとオーストラリアのフォーテスキュー・フューチャー・インダストリーズは、グリーン水素のプロジェクトの実施に向けた覚書を2023年1月に結んでいます。
日本での水素エネルギーの取り組み
2023年6月、日本の「水素基本戦略」の改訂版が取りまとめられました。
同戦略では、2040年に水素の供給量を1,200万トンにすることや、今後15年間で15兆円の投資計画などが盛り込まれています。
この章では、目標達成に向けて進行している日本企業のプロジェクトを紹介します。
トヨタ:燃料電池車の本格普及
出典:トヨタ
トヨタの水素エネルギーを使った取り組みは燃料電池車(FCEV)です。仕組みは水素と酸素の化学反応で電気を生み出し、その電気でモーターを回転させて動きます。
すでにトヨタは燃料電池車の乗用車の「MIRAI」を販売しており、次の目標は、大型トラックや小型商用車向けの開発です。
現在トヨタでは、航続距離を20%伸ばせる燃料電池の開発・実用化を目指しています。商用向けの燃料電池車が実用化できると、水素エネルギーの活用が一気に加速するとみられています。
川崎重工:世界初の液化水素運搬船の開発
出典:川崎重工
川崎重工の取り組みは、液体水素運搬船の建造です。
水素は-253℃に冷却すると液体になり、気体の800分の1の体積になります。つまり、水素は天然ガスと同様に、液化することで一度に大量に運搬できます。
しかし天然ガスは-162℃で液化します。水素のほうが約90℃低いため、天然ガスのLNG運搬船をそのまま水素の運搬に使えません。
そこで川崎重工では、小型液化水素運搬船の「すいそ ふろんてぃあ」の建造を進め、試験をおこなっています。日本初のLNG運搬船を建造した川崎重工が、次は世界初の液化水素運搬船の建造を目指しています。
水素エネルギーの作るこれからの社会
脱炭素社会の実現のために、水素が脚光を浴びています。水素エネルギーは資源の枯渇の心配がなく、燃焼しても水を出すのみでクリーンなエネルギーのためです。世界中で進む普及に向けた取り組みに注目してみましょう。