インドのUPIとは?電子決済の利用拡大を後押ししたシステムとは?

インドではデジタル・インフラの整備が進められており、そのなかの1つに電子決済システムのUPIがあります。UPIは24時間365日、モバイル端末から即時送金できる利便性の高い支払い方法です。

河野デジタル大臣が日本のUPIへの参加も真剣に検討していると報道され、日本においても注目されています。本記事ではインドのUPIの概要や課題、今後の展望について解説します。

インドのUPIとは?

出典:NPCI

UPIとは、(Unified Payments Interface)の略で、直訳すると「統合決済インターフェース」です。インド決済公社(NPCI)が2016年に提供を開始したサービスで、モバイル端末から24時間365日、即時送金ができます。ほかにも以下のような特徴があります。

  • 2要素認証がワンクリックで完了
  • UPI IDまたはUPI Number宛てに送金できるため、口座番号を教える必要がない
  • 送金手数料・加盟店手数料が無料

世界的にみても最先端の決済システムで、インド決済公社(NPCI)の製品のなかでも人気のサービスです。またUPIはインド決済公社が開発し、民間に開放されています。

インドではUPIの普及に伴い、キャッシュレス化が急速に進んでいます。

UPIはアドハーを基盤とするインディア・スタックの内の1つ

インドのUPIを語るうえで把握する必要があるのは、アドハーとインディア・スタックです。

  • アドハー

アドハーとは、インドの個人識別番号制度のことです。日本で例えると、マイナンバー制度に該当します。氏名・生年月日・住所などの情報に加えて、顔写真・10指の指紋・両眼の虹彩を登録するのが特徴です。これらの生体情報を利用し、オンライン・オフラインの個人認証に活用されています。

  • インディア・スタック

インディア・スタックとはインドが推進するデジタル・インフラで、アドハーをベースに開発されたオープンAPIの集合体です。インディア・スタックは4つのレイヤーに分類され、各レイヤーと該当するAPIは以下のとおりです。

レイヤー目的API
①プレゼンスレス・レイヤーオンライン上の本人確認アドハー
②ペーパーレス・レイヤー紙を減らし効率性を向上eSign
③キャッシュレス・レイヤーオンライン上のリアルタイムな金融取引UPI
④コンセント・レイヤープライバシーの確保とデータ共有Consent Artifact

APIとは、アプリやWebサービス間でデータや機能を共有する仕組みで、オープンAPIとは自社外に公開したAPIを指します。

つまり、UPIはインドが推進するインディア・スタックのキャッシュレス・レイヤーの中核を担うAPIです。

UPIがキャッシュレス化を促進

2016年4月にサービスを開始したUPIは、以下の2つの出来事で爆発的に利用されるようになり、インドのキャッシュレス化を促進しました。

  • 2016年の高額紙幣廃止

2016年11月にインドでは、「紙幣の偽造」や「不正な蓄財」の防止を目的に、突然500ルピーと1,000ルピーの高額紙幣が廃止されました。

両紙幣は紙幣流通量の約9割にも相当し、インド市場は大混乱に陥ります。

その混乱時にインドではキャッシュレス決済が注目され、UPIが急速に普及します。実際に2017年8月以降、UPIの利用回数が急増し、2018年後半にはクレジットカードやデビットカードの決済を上回りました。

  • 新型コロナ禍

2020年に発生した新型コロナは、インドで大混乱を引き起こしました。そのようななか、非接触型の決済システムのニーズが高まり、UPIがさらに急拡大します。

インドのリテール電子決済数の推移は以下のとおりです。

出典:日本総研「デジタル・インディア

2022年の3月期のUPI決済回数は459億回で、全リテールの63.4%でした。単月では2022年12月の決済回数が78億回で、決済金額が12兆8,206億ルビーです。

新型コロナ禍直前の2020年2月と比較すると、金額ベースで5.76倍という爆発的な伸びを記録しています。

このように、UPIはインド経済の混乱を収拾しつつ、キャッシュレス化を一気に推し進めたといえるのです。

UPIの課題

UPIはインディア・スタックの主要なサービスとして、今後も拡大が期待されています。しかし、UPIは解決すべき課題も抱えています。具体的には、「サーバー負担」と「アメリカ大手企業の寡占」です。

課題① サーバー負担

インドの人口は14.1億人で世界トップです。そのインドの多くの人がUPIの決済サービスを利用すると、サーバーに相当な負担がかかるのは想像に難くないでしょう。

その懸念のとおり、キャッシュレス決済の普及により処理量が急増しています。今後の課題は、大きな負荷にも耐えられるハード面の整備です。しかしUPIは手数料が無料のため、採用している各銀行が利益を上げにくく、設備やシステムへの投資に消極的な銀行も多くあります。

課題② アメリカ大手企業の寡占

2つ目の課題は、UPIを提供する企業においてアメリカ企業が寡占状態な点です。UPIの導入により、新規参入が相次ぎ、競争が激化しました。その結果、資金力を持つアメリカ企業が、UPIの決済市場で大きなシェアを占めています。

具体的にはGoogleの「グーグルペイ」と、ウォルマート傘下企業の「フォンペ」の両社でUPIの決済回数の8割を占めているという試算もあるほどです。

UPIの展開・展望

ここではUPIの展開・展望として、3つの注目すべき話題について紹介します。

  • 日立ペイメントサービスによるインド初のUPI対応ATM
  • シンガポールのスマート決済システムとの相互接続
  • インドへの旅行者がUPIを利用できるようになる

今後の動向を把握するためにも、ぜひチェックしてみてください。

日立ペイメントサービス:インド初のUPI対応ATM

出典:日立製作所

2023年9月に日立製作所の子会社の日立ペイメントサービスは、インド国内初となるUPI対応ATMをインド決済公社の協力のもと開設しました。

複数の金融機関が共同利用できる「ホワイトラベルATM」で、ユーザーは利用銀行に関係なくQRコードにより現金を引き出せるようになります。UPIの新たな利用方法として、注目をあつめています。

シンガポールのスマート決済システムを相互接続

2021年9月、インドのUPIとシンガポールのPayNowが相互接続すると発表されました。

PayNowはシンガポールのP2P(ピアツーピア)の電子決済システムで、銀行口座情報を使わずに、携帯電話番号で送金できる仕組みが特徴です。

相互接続することでシンガポールのPayNowユーザーは、インドのユーザーのUPI IDを使用し、UPIユーザーに送金できます。反対に、インドのUPIユーザーはシンガポールユーザーの電話番号で送金が可能です。

一方のシステムに登録しているユーザーは、もう一方のシステムに登録せずに利用できるので、手軽に国際金融取引ができる手法として注目されています。

※P2Pとは、接続された端末同士が対等な関係で通信するネットワーク形態

インドへの旅行者がUPIを利用できるようになる

2023年2月、インドへの外国人旅行者がUPIを利用できるようになると発表がありました。まずは、一部の国際空港に到着するG20諸国からの旅行者を対象に導入される予定です。

これにより外国人旅行者でも、現地の人と同じように500万以上の加盟店でスムーズな支払いができるようになります。

まとめ

インドは急速にデジタル・インフラの整備が進んでいます。そのため、インドでのビジネスを考えるうえで、UPIは把握しておくべき事項といえます。また、本記事で軽く触れたアドハーやインディア・スタックは、別記事で詳しく解説していますので、そちらもあわせてご覧ください。

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