イギリスがサッカーやラグビーなどで、イングランドやスコットランドとして出場をしているのに疑問を感じている方は多いでしょう。
イギリスはイングランド・スコットランド・ウェールズを含むグレート・ブリテン島と、北アイルランドの4地域から構成される連合王国のためです。そのため、イギリスの正式名称は「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国」と呼びます。
なかでもグレート・ブリテン島の北部に位置するスコットランドは地域アイデンティティが強く、イギリスからの独立運動が活発です。本記事では今さら聞けないスコットランド独立運動の背景や、2014年の住民投票についてわかりやすく解説します。
スコットランドの歴史
まずはスコットランドの歴史を知り、独立運動がなぜ起こったのか背景を探っていきましょう。
- スコットランド王国の建国
スコットランドの歴史を紐解くと、843年に建国したスコットランド王国にたどり着きます。その南に位置するイングランドは強大な隣国で、スコットランド王国とイングランドはたびたび戦争を起こしていました。
- イングランド王国との同盟連合
1603年、スコットランド王国とイングランド王国は1人の王をいただく同君連合となります。ただし各国はそれぞれ議会があり、国としては別々に機能していました。このような背景から、スコットランドとイングランドはそれぞれ独自の文化が築かれたのです。
- イングランドによる併合
スコットランドの反乱やピューリタン革命の勃発などを経て、1707年にイングランドによるスコットランドが併合され、グレート・ブリテン王国が誕生します。グレート・ブリテン王国では、同盟連合と異なり議会が1つになりました。これにより国家としてのスコットランドは消滅し、イングランドに従属します。
- 1921年、現在のイギリスに
1801年にアイルランドが併合し、1921年にアイルランドの南部が独立したことで現在のイギリスになります。
- 北海油田の発見・採掘
スコットランドでは併合以降も独立運動がくすぶっていましたが、本格的に表面化した原因は1960年代に発見された北海油田です。北海油田の多くがスコットランドにあるのに、そこから得られる収入はイギリス全体の経済政策のために使われていました。このことに不満を抱いていたスコットランドが独立に向けた運動を加速させていくのです。
- 1999年スコットランド議会の復活
1997年に誕生したブレア政権により、スコットランドの議会設立を問う住民投票が行われた結果、賛成多数で約300年ぶりに議会が復活しました。そして、スコットランド独立を掲げるスコットランド国民党(SNP)が躍進し、2011年にスコットランドの議会で単独過半数を獲得するに至ります。
- 2012年キャメロン首相が同意
この流れをうけて、当時のキャメロン首相がスコットランド独立の住民投票の実施に同意します。
ここまでが2014年に実施された住民投票までのあらましです。
2014年の住民投票
2012年のキャメロン首相の同意により、2014年9月18日にスコットランド独立の是非について住民投票が行われました。スコットランドにとって未来を決める重要な住民投票になることから、通常の選挙権年齢である18歳を16歳に引き下げて実施しています。
住民投票の投票率は84.6%と極めて高く、スコットランドに暮らす人のこの問題に対する関心の高さが伺えます。世界中から注目を集めた住民投票の結果は以下のとおりです。
2014年の住民投票の結果
独立賛成 | 1,617,989票 | 44.65% |
独立反対 | 2,001,926票 | 55.25% |
無効票 | 3,429票 | 0.1% |
ふたを開けてみると独立反対が賛成よりも10ポイント以上も多く、32の自治体のうち賛成が過半数なのは4つにとどまっています。この結果から、スコットランド独立は否定されました。
2014年の住民投票後の流れ
スコットランド独立を問う住民投票が否決されたことをうけ、スコットランド行政府のアレックス・サモンド首相は辞任しました。同氏がスコットランド国民党の党首も辞任したことで、ニコラ・スタージョン氏が次の首相・党首に選ばれます。
住民投票が否決されたことで独立運動が下火になるかと思いきや、そのようなことはなく、現在でも独立を目指す動きは活発です。
そこでこの章では、2014年の住民投票後の重要なトピックを4つ紹介します。
- イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票
- 2度目の住民投票の実施を表明
- 最高裁のスコットランド独立の住民投票に関する判決
- スコットランドのスタージョン首相辞任
イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票の影響
スコットランドに再び独立運動の気運が高まったのは、イギリスの欧州連合離脱を問う国民投票でした。イギリスが欧州連合を離脱するきっかけとなった国民投票ですが、地域別の投票結果は以下のとおりです。
イギリスのEU離脱是非を問う国民投票の結果
離脱 | 残留 | |
---|---|---|
イングランド | 15,188,406(53.4%) | 13,266,996(46.6%) |
スコットランド | 1,018,322(38.0%) | 1,661,191(62.0%) |
ウェールズ | 854,572(52.5%) | 772,347(47.5%) |
北アイルランド | 349,442(44.3%) | 440,707(55.7%) |
合計 | 17,410,742(51.9%) | 16,141,241(48.1%) |
出典:JETRO「英国の国民投票に対する各国の反応」
スコットランド・北アイルランドではEU残留が支持されたものの、人口の多いイングランドの影響が大きく、全体としては離脱が51.9%でした。
この国民投票の結果により、イギリスはEU離脱に向けて本格的に動きだします。
しかしスコットランドは62%がEU残留に投票したことから、イギリスから独立し、EU加盟の可能性を示唆する事態に発展したのです。
2度目の住民投票の実施を表明
2022年6月に、スコットランドのスタージョン首相が「2度目の住民投票」を実施すると表明しました。対して英国政府は実施に否定的な立場を示します。
そのため、スコットランド議会に国民投票を実施する権限があるかの判断を最高裁に求めます。
つまり、最高裁により「権利がある」と判断されれば2度目の住民投票が実現し、反対に「権利がない」と判断されれば英国政府の立場から住民投票が実現しない見込みです。
最高裁、スコットランド独立の住民投票は政府同意が必要と判断
最高裁は2022年11月23日に「英国政府の同意なしには、スコットランド独立の住民投票を実施できない」と判断します。スタージョン首相はこの判断を受け入れたものの、表明していた2度目の住民投票は事実上不可能になりました。
そこで、スコットランドの人々が意思を表明できる機会創出のために、次回の英国総選挙でスコットランド独立の是非を争点にする考えを示しています。
スコットランドのスタージョン首相辞任へ
世界からスコットランド独立の動きが注目されるなか、2023年2月15日にスタージョン首相は辞任を表明します。同時にスコットランド国民党の党首も退きました。
後任にハムザ・ユーサフ氏が選出され、同氏もスコットランド独立を目指していることから今後の動向が注目されています。
まとめ
スコットランド独立運動は現在のところ、実現には至っていません。また2度目の住民投票の実施には英国政府の同意が必要なことから、実現への道のりは厳しいといえるでしょう。
しかし英国総選挙の協力の見返りに住民投票の実現や、議会選挙でスコットランド国民党が単独過半数を獲得する可能性も残っているため、今後は以下の2つの選挙がカギになるとみられています。
- 2026年より前に実施されるスコットランド議会選挙
- 2024年までに予定されている英国総選挙 世界情勢に大きな影響を与えかねない問題であるため、今後の動向を注視しましょう。