世界各国の介護業界事情。高齢化が加速する中での政策や法整備の今

日本には現在666万人の要介護、要支援者が存在します。現在「団塊の世代」と呼ばれる人口の多い世代が介護を必要とし、さらに平均寿命が伸び、少子化も進み、深刻な高齢化が進んでいます。そして受け入れ施設の不足や完璧とは言い難い介護制度によりさまざまな問題も引き起こされています。

介護はさまざまな形態が存在し、在宅でのケア、完全介護からデイケアのような施設まで多様な形で展開しています。

日本の状況とこのような日本の状況の中、海外ではどのような形での介護制度が存在するのでしょうか?

介護と介護施設の種類

介護施設

日本には介護保険制度が存在し、それは、2000年から開始されたものです。40歳以上で介護保険料の支払いを開始するような形で運用されています。そして介護の内容としても一概には言えず、その様式はさまざま。要介護者全員が介護施設で過ごすものだけではありません。

在宅ケア

家にいながら家族や、専門のスタッフなどが訪問して介護をする形です。身内を施設に預けるのが不安、自分で介護をしたい人などが在宅ケアを自ら選択することが可能です。

しかしながら実際には、介護施設の不足や介護資金の不足により在宅ケアを選択せざるを得ない場合も多く存在しています。在宅ケアは介護が可能な身内などがおり、十分な介護資金がある場合には、被介護者が住み慣れた自宅で終末期まで安心して過ごせる場所であることは確かです。

介護施設

介護施設にも種類があり、さまざまな被介護者の状態に合わせてその役割や利用可能な施設も異なります。それではその形態とはどのようなものなのでしょう。

老人ホーム

被介護者

国や地域で運営する公的な施設と、民間の施設が存在します。民間の施設は利用料金が高額である場合が多く、公的な施設では比較的利用料金が低くなります。そのため、多くの要介護者が入居を希望し、常に利用者でいっぱいになることで入所できるまでに長く待機する必要もあります。民間の施設は料金が高額であり、要介護認定の基準も低くなるので、比較的入所は決まり易くなっています。そして老人ホームには完全介護付きで終末期まで終身利用が可能な「特別養護老人ホーム」と、在宅でのケアをするのに、経済的な理由などで困難な方が利用可能だが、介護の必要がなくなれば退去の必要がある「養護老人ホーム」が存在します。

デイサービス

このサービスは被介護者が施設へ出向き、日帰りで入浴、食事など日常に関するお世話をしてくれるというシステムになっています。

訪問介護

訪問介護は専門のスタッフが自宅に赴き、日常に関するお世話や、機能訓練などの補助が可能。

このように日本では多くの種類の介護施設やサービスが存在し、各被介護者の状態により利用できるサービスや、施設を適用しています。多くのサービスが存在するとはいえ、その中にもさまざま問題を抱えています。この介護の大きな問題の1つは、介護作業の重い負担とそれに伴う介護者の不足です。これを現在、少しでも解消するため、ICT化が進められています。

介護業界におけるICT化

「ICT」とはInfomation and Communication Technology の略で、「情報通信技術」の意味です。近年ではあらゆるものがこのような技術に支えられ、その利用の幅も格段に増えています。

特に介護業界ではこの技術が重宝されており、介護業界の人材不足や労働の負担軽減を手助けする形になるでしょう。介護専用のICTデバイスを使用して、被介護者の情報を自動的に記録することや、状態の確認、心拍数のチェック等を行うことが可能で、すぐにデータとして残るため、介護士が記録をとる必要やチェックをする必要がありません。さらに正確なデータにより健康管理、介護の質の向上やデータの共有、分析も可能というメリットも存在します。ただし、デバイス購入に大幅なコストがかかることや介護士への教育が必要となることがネックともなっています。

pcとメモ帳

世界の介護業界の現状

「福祉大国」スウェーデンの介護業界

「福祉大国」と呼ばれる北欧の国スウェーデン。1950年代にはすでに高齢化率が10%を越え、高齢者保護を目的とした高齢者福祉、介護施設などに関しての議論が早い段階で開始されました。その後も高齢化は続き1990年代になると、被介護者の問題だけではなく、介護者の労働環境や人員の不足も発生し、介護者負担軽減のための支援も行われるようになりました。

スウェーデンの介護サービス制度は、1992年に実施された「エーデル改革」に基づいて行われています。介護保険を利用するのではなく、それぞれの市町村が運営を行い、その市町村と利用者が料金を支払い、その中で、市町村側が約95%を税金から支払うというシステムになっています。この改革以前は、要介護者の症状の段階によって施設が分けられ、症状が軽快すると別の専用施設に移動しなくてはならず、利用者に大きな負担となっていました。改革後はできる限り移動をせず、病院のような作りであった施設も自宅のような住まいとして過ごしやすい形に移行しています。

その中で近年では公営の施設だけではなく、民間の施設も増加傾向にあります。介護者側の負担も軽減可能なように、施設のスタッフの数も十分に雇用され、利用者とスタッフの割合は約1:1となっています。さらに役割分担も細かく決められており、一人の介護者であらゆることを賄う必要がありません。

このように被介護者への快適性や介護者の労働環境など両方の事情を鑑み、さらに早期にさまざまな高齢化福祉への対策を開始していることもあり、スウェーデンは現在のような福祉先進国へと発展しています。

世界地図

法整備が進んでいるイギリス

イギリスでは、要介護となった場合は介護施設を利用するのが一般的ですが、在宅ケアも人々の認識が見直され少しずつ増加している状況です。介護制度は低所得者に限り公的補助があり、低所得者以外は自己負担となっています。

介護施設は厳しく法律で管理されており、利用者が安全で快適な生活を送ることが可能な制度が整っています。介護施設には資格が必要で、住み込みの被介護者のための施設は「United Kingdom Care Association」(イギリス介護協会)のメンバーである必要があります。

イギリスでも介護者の負担の軽減を重視しており、全ての業務を一人でこなすことのないように、その役割分担もしっかり決められています。そして「hoist」(ホイスト)と呼ばれる、移動する際に介護者を持ち上げる運搬機械なども積極的に導入されており、介護者の体の負担も軽減する努力がされています。

アメリカでは在宅介護が増えている

アメリカには一般の市民向けの公的介護保険制度は存在せず、高齢者・障がい者・体に特定の疾患がある者・低所得者の医療保険のみが存在しています。

民間の介護保険にそれぞれ入るか、高額な費用が支払えない場合は、家庭内で介護をするような形を採ります。そのため多くのアメリカの高齢者は在宅での介護が必要となり、家族の介護負担が大きな社会問題になっています。現在は「baby boomers」(ベビーブーマーズ)と呼ばれる第二次大戦後に出生率が高かった世代が介護を必要とする年齢に達し、さらに深刻な問題になっています。

そしてもう一方で介護者の不足も大きな問題となっています。被介護者が増加するに伴い、施設においても介護者の必要性が大変高まっています。しかしながら介護者の給与は低く、労働条件も悪いため、介護者の離職率はたいへん高くなっています。

これらの問題の多くは、メディケアに対しての資金が不足しているために発生し、アメリカでは解決の糸口を模索しているような状態となります。

自由の女神像

介護保険が充実するドイツ

ドイツは社会保険という仕組みを世界で初めて作り出し、介護保険を導入した国です。1995年には介護保険制度が日本のように失業、年金、労災、医療保険に続き開始されました。

日本との介護保険の違いは、65歳以上という規定がないこと、自宅での介護のための現金給付が存在すること、介護休暇時の有給休暇と時短勤務の給料補償が受けられることなどが上げられます。施設に行くにしても自宅で介護するにしても充実した保険制度により安心の生活が保障されています。

そして介護の問題は欧米だけに留まらず、アジアの国々でも深刻な状況となっています。

高齢化が深刻なシンガポール

シンガポールは日本の次に介護保険制度を開始したアジアの国です。シンガポールはアジアの中でも特に高齢化が深刻になっており、介護制度は日本や欧州の制度を研究し、できる限りネガティブな部分を減らそうとしました。

シンガポールの医療保険制度は、積み立て方式となり、所得などでも変わってきますが、40歳以上になると介護用の積み立ても追加されていく形になり、65歳まで積み立てられます。この積み立てには年額2.5から5%の利子も付加されます。その後介護が必要になった際に月額約3万3000円がその中から支払われるような形になります。現金で支給されるのは、介護は自宅で行われることが多く、介護者が仕事を休業することや、時短で勤務する場合の補償にもなります。

シンガポールの高齢化はいまだ続き、介護保険料支払い開始を30歳に早めることや保険料の支払い開始年齢を67歳に遅らせるなどの動きが出てきています。

シンガポール

自宅介護が根強いタイ

タイも深刻な高齢化問題が発生しています。平均寿命が伸びる中、出生率は低く、2020年も出生率は1.5人となっており今後さらに低くなる予想になっています。その中で介護制度はそれほど整っておらず、ほとんどの家庭が自宅で介護をするという状況です。

介護施設は存在するものの、文化的にも施設に預けるのではなく自宅で介護するという文化が根強く残っていることが原因でもあります。

未来の超高齢化社会を見据え、政府も高齢者雇用や退職金規定、融資、介護施設整備、高齢者手当の見直しなどを行なっている状況です。

国民の介護者の傾向から鑑み、自宅での介護を主に重点を置き、高齢者自らが働けなくなってからの資金をどうするかに焦点を当てられた動きがメインとなっています。

まとめ

このように日本ではさまざまな介護についてのサービスが存在し、介護保険なども充実しています。

しかしながら人手不足や施設の不足、介護者の過酷な労働環境、そして要介護者の増加などがあり、I技術などを使用し克服する必要があります。

海外でもさまざまな取り組みが行われて日本のような問題に直面している状況です。

日本でも介護先進国の状況や制度を見習い、そして新しい技術を用いることにより解決し、すべての人が平等に恩恵を受け、介護問題が解決できるようになるといいですね。

介護のICT化
https://job.kiracare.jp/lab/article/1870/?mid=299&gclid=EAIaIQobChMI0ebe7PTd8gIVi8EWBR2JJA9IEAAYAiAAEgJoI_D_BwE

スウェーデン介護制度
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2008pdf/20080613014.pdf

イギリスの介護制度
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/20143706.pdf

elderly care in the U.K
https://www.expatica.com/uk/living/family/elder-care-in-the-uk-249260/

アメリカの介護
http://www.ilcjapan.org/chojuGIJ/pdf/03_02.pdf

Elderly care in the U.S
https://www.skedulo.com/blog/north-american-trends-in-elderly-care/

ドイツの介護保険
https://www.google.co.jp/amp/s/www.yushoukai.org/blog/germany4.amp

シンガポールの介護制度
https://www.google.co.jp/amp/s/wezz-y.com/archives/55868/amp

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