日本では高度成長期以降、ライフスタイルが大きく西洋化し、フローリングなど洋室の内装を施した住宅が多くなりました。
それに伴って、寝具の需要の主流も布団からベッドへと変わっていきました。
経済産業省の「工業統計調査」では、平成16年の「マットレス・組スプリング製造業」事業所数は36ヶ所で、年間商品販売額は約288億円となっています。近年の推移では事業所数、出荷額ともに極端な減少傾向ではないものの、規模としては非常に小さい市場です。
http://industry.fideli.com/industry/m/industry11_5_1.html
この小さい市場の中で存在感を示すのが大手寝具メーカーの西川などの老舗企業ですが、寝具市場では今新しい変化が起こっています。
ここでは主にベッドやマットレスを取り上げながら、日本の寝具業界の動向についてご紹介します。
寝具業界動向
市場規模
寝具業界の市場はここ10年、1兆2000億円前後で推移しており、ほぼ横ばいの状態が続いています。
寝具業界を取り巻く環境は、人口減少やEC販売の拡大など多様化する販売チャンネルにおいて競争が激化しています。
2019年2月、寝具メーカー大手の西川産業と京都西川(京都市)、西川リビング(大阪市)の3社が経営統合しました。婚礼寝具や冠婚葬祭の返礼品などの需要は低迷傾向にあり、またイオン、ニトリなど大手小売店が低価格のプライベートブランドの寝具に乗り出すなど、業界に変化の波が押し寄せているからです。
しかし価格帯は、低価格だけでなく高価格の商品もニーズが高まっています。特に個人向けの商品で「高いお金を払ってまでもオーダーメイドが欲しい」と人気なのが枕です。既製品ではなく自分に合ったものを購入したいとオーダーメードする人が増えています。
また、質の高い睡眠を得るための工夫が施されたテンピュールのようなブランドも非常に人気です。
https://www.bedroom.co.jp/contents/2052
日本と海外ベッドの違いとマットレスの種類
日本のベッドやマットレスの特徴
https://www.nishikawa1566.com/categories/bed/
日本では古くから布団が一般的で、ベッドやマットレスが一般的に使われ始めたのは、昭和中期以降のことです。現在はベッドやマットレス製造の国内メーカーが多く存在しますが、海外製の寝具も人気です。日本製と海外製のベッドやマットレスにはのような違いがあるのでしょうか。
日本製のベッドやマットレスの特徴
日本製のベッドやマットレスは、価格に比例して高品質である点が特徴です。耐久性や素材の安全性が重視されています。長期的な使用を考慮して作られているため修理や買い替えの頻度が少ないのがメリットでしょう。職人の匠の技が光る製品は、海外でも人気となっています。
その高価格帯がゆえに、品質を優先して寝具を国産のもので統一しようとすると、相応の出費が必要となってしまいます。
外国製のベッドやマットレスの特徴
https://www.urbanladder.com/products/baltoro-high-gloss-hydraulic-storage-bed
外国製のマットレスは、価格や品質に差が出やすいのが特徴です。生産性だけを重視した低品質なベッドやマットレスが出回ることもあるため、購入の際は注意が必要です。長期使用を想定して購入する場合は、信頼のあるブランド製品を選ぶようにしましょう。
ベッドやマットレスを選ぶ際、日本製か外国製かという基準で選ぶのではなく、具体的な仕様を確認し、自身の身体に合ったものを選ぶようにすると良いでしょう。
マットレスの種類
マットレスには様々な種類があり、材質・形状によって寝心地やメリットも異なります。
https://kaimin-times.com/mattress-types-5082
※ラテックス
天然ゴムのラテックスを使用しており、低反発と高反発のちょうど中間。沈み込みすぎない適度な硬さが特徴です。通気性があまりよくないためマットレス全体に穴が開けられています。
選ぶときのポイントは、ネットでの評判や人気も参考にしつつも、実際に店頭に足を運んで自分で試してみることです。マットレスを選ぶポイントとして下記の4つを指標にしてみてください。
- 寝姿勢が心地良いか
- 寝返りがしやすいか
- 不快な揺れがないか
- 通気性が良いか
国内の大手寝具メーカー
西川
https://www.nishikawa1566.com/
西川は戦国時代の1615年、江戸・日本橋に出店し、450年の歴史を持つ老舗企業です。幕府公認の蚊帳問屋に指定されて財を成し、1750年に京都に、1876年に大阪店を開店しました。本格的に寝具事業に参入したのは明治以降でした。
3社はもともと滋賀県発祥の1つの会社でしたが、第2次世界大戦中に会社が存続を模索する過程において、東京・大阪・京都の支店を株式会社として独立させました。終戦後も3社はそのまま別々の道で、「西川」ブランドを掲げながら地域ごとに独自の販売網を構築してきました。
<西川3社>
- 東京本社 ( 西川産業。「東京西川」と呼ばれることが多い )
- 京都西川
- 大阪西川
各地域の寝具専門店への卸売りが主流だった時代において、3社間で「あの西川はここの地域に強い」と販路の差別化が成立していましたが、イオンやニトリなどの大手小売店が低価格のPB寝具を発売し始め、問屋や地場の寝具店は徐々に減少していきました。
このような時代の流れにおいて、地域的なすみ分けがなくなっていったため、西川3社は互いに競い合うようになりました。
創業450周年を迎えた2016年、3社の経営トップが集まった際、「お互いの無意味な競争は減らして、協力して一緒にやるべきことをやろう」と合致し、3社は経営統合に踏み切りました。
経営統合によって刷新した同社は、質の高い睡眠へのニーズをとらえるために下記2つの取り組みを行っています。
・「ねむりの相談所」
総務省「社会生活基本調査」では、残業の増加や共働きの増加により、日本人の睡眠時間は、平成8年の7時間47分から平成23年の7時間42分へと減少傾向になっています。
西川は、1984年開設の「日本睡眠研究所」による知見を踏まえ、2017年に快眠コンサルティング事業「ねむりの相談所」を開始しました。専用の活動量計を貸し出し、1〜2週間/24時間装着した利用者の睡眠状態や活動量のデータを基に「スリープマスター」がアドバイスを行います。データ分析には富士通と共同開発した最新の技術が使用されています。
・スリープテック市場
新時代に向けたスリープテック市場へも乗り出しており、パナソニックやスタートアップ企業と協働しています。同社は日本の寝具メーカーで唯一、20年1月に米国・ラスベガスで行われる「CES 2020」と呼ばれる世界最大級の家電・IT見本市に出展しています。
Airweave
https://pathee.com/spots/94542
※エアヴィーブのマットレスは、東京慈恵会医科大と米国スタンフォード大学の共同研究によって効果を立証されています
老舗ばかりの存在感が圧倒的な寝具業界に、エアウィーヴという新しい企業が独自のポジションを築いています。元々、樹脂射出成形機の製造メーカーだった同社は、2007年に寝具分野へ進出。時はウレタン素材の寝具がブームで低反発寝具が主流になっていた市場に対して、高反発素材に着目した商品を開発しました。「誰もまともに話を聞いてくれなかった」と同社高島社長は当時を振り返っています。
44歳で伯父から事業を引き継いだ高岡本州会長兼社長は、工場を存続させるためにひねり出したアイデアが、釣り糸を使用したマットレス作りという発想の転換でした。試作品の段階で、寝起きが気持ち良いように感じ、商品化。
浅田真央選手など有名アスリートを広告に起用するなどして、市場に大きなインパクトを与えてて認知度を上げ、売上も2010年の4億円から2018年においては135億円にまで急拡大しました。今後は、スマートフォンのアプリを使用して体形を測定し、体に合ったマットレス販売を計画しています。
フランスベッド
https://store.shopping.yahoo.co.jp/komichi-2018/bg002-lg-zt020-s.html
日本のベッドメーカーで、日本人の身体や好みに合った製品を作り、圧倒的なブランド力を持っているのが「フランスベッド」です。
名前にフランスがつきますが、日本企業となります。名前は社内で公募したところ、「フランスがなんとなくお洒落だから」という理由で命名されたそうです。
国内シェアは戦後復興期の創建時から長く人気を保ち、一般のベッドだけでなく電動リクライニングベッドや介護ベッドにまで製品を展開しています。また、海外でも「高級ブランド家具も手掛けるインテリア総合メーカー」として有名です。ベッドやマットレスは海外で生産するのではなく、一貫して国内で生産するのは、お客さんの好みやトレンド、クレームを素早く反映させるための経営戦略のようです。
少子高齢化が注目され始めた1990年代から、同社は介助者・要介護者のサポートに対して力を入れ始めます。フランスベッドが「介護用ベッド」としても幅広く認知されるようになったのは、2009年頃からです。
フランスベッドとフランスベッドメディカルサービスが統合して、在宅における福祉用具レンタルサービスを普及させるために立ち上がったこの事業は、当時反対を押し切ってスタートした事業と言われています。社会的意義を目指すために10年間は赤字が続き、11年目にようやく黒字に転化が実現しました。
パラマウント
パラマウントベッドは、1947年に創業され、医療用ベッドや介護ベッドの分野に強みを持っています。医療用・介護ベッドの分野における国内シェア約6割、世界シェア第2位、現在世界100か国以上で利用されています。
http://www2.meijo-u.ac.jp/~onishi/industryw12/genjyou.html
同社は2019年6月に、一般向けに、形状が自動的に変化する「Active Sleep」シリーズを発売しました。ユーザーの睡眠状態を検知し、入眠時から熟睡中、起床時へと電動ベッドの背の角度を自動で変化させることが可能で、スマートフォンのアプリと連動する仕組みになっています。
ニトリ
ニトリホールディングスが2020年4月に発表した2020年2月期決算によると、売上高6422億7300万円と前期比5.6%増となりました。梱包をコンパクトにして輸送効率を上げ、物流コストを削減するなどして、近年好調の個人客向け通販は同30.4%増と伸びています。
ニトリの寝具の売上に貢献する人気商品に「Nスリープ」があります。
https://www.tv-tokyo.co.jp/plus/business/entry/2021/023107.html
ニトリは主に「価格が安い」という点で消費者の心を掴んできましたが、最近の製品は安いだけでなく「機能性が備わっている」と高評価を得ています。
外資系の大手寝具メーカー
Serta
※サータのラインナップで、実際に高級ホテルに納入されている最上級モデルである「パーフェクトスイート」
サータには、「家具店・ホームセンター向け」と、「ホテル向け」のラインナップがあり、ホテル向けのラインナップは、全米ホテル業界で最も高い評価を得ています。
https://www.serta-japan.jp/history/
マットレスに必要な「硬さ」と人体に感じる「ソフト感」を取り入れており、これらの相反する2つの要素をまとめています。アメリカ、イギリス、フランス、日本を始めとし、世界27カ国にて約60社とのライセンス契約を結んでいます。
下記は東京のホテルでサータのマットレスを使用しているホテルの一覧です。高級ホテルのヒルトンなども使用しています。
https://www.serta-japan.jp/for_hotels/
最後に
ベッドやマットレスを製造・販売する「睡眠市場」で活躍する企業は今後、良い素材を持った商品をいかにコストを抑えて製造できるかが課題と言われています。
ベッドやマットレスを家具業界全体で捉えてみると、この業界は需要が停滞気味とされていますが、今後スリープテックの需要や高齢化社会の到来により、市場の拡大は期待できるのではないでしょうか。
<参考>
https://www.hotel-bed.net/serta-bed.html
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32825770Q8A710C1X12000/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000231.000033417.html
https://www.projectdesign.jp/201911/rivals/007067.php
https://www.jmrlsi.co.jp/scto/case/2014/airweave.html
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29498840X10C18A4000000/
https://www.interior-plus.jp/blog/12404/
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00623/00004/
https://www.nitorihd.co.jp/nitorimedia/manufacturing/post-331/
http://futon-concierge.com/mattress-select/
https://www.wwdjapan.com/articles/706264
https://www.bedroom.co.jp/contents/1631
https://toyokeizai.net/articles/-/255394