7.5兆円のスマートビルディング・エレベータ市場。海外ブランド VS 三菱電機・日立・東芝・フジテック

世界のエレベーター、エスカレーターの市場規模は、2020年から2024年の間で750億米ドル(7.5兆円)にまで成長し、市場はスマートエレベーターの需要と、スマートシティへの投資増加により推進されています。

ここではスマートビルディングに伴い成長が加速する、海外・国内のエレベーター業界の動向についてご紹介します。

スマートビルディングとは

スマートビルディングとは、「高度に情報管理された建物」のことを指し、システムのベースになるのはIoTです。建物内の部屋、施設、設備にセンサーや制御装置を組み込み、それらを一元管理することによってスマートビルディングが機能します。

ビルを維持するためには、照明や空調システムを適切にコントロールしなければならないという既存の事例で考えてみると、既存の建物では主に人の手によって管理されているためエネルギーの効率化はなかなか進みませんでした。

しかし、スマートビルディングの利用においては、管理を人の手からIoTに移行することで、センサーで集められたデータが自動的に分析されます。それらのデータを元に、各オフィスの照明や空調を効率的に管理できるようになるのです。

スマートビルディングの導入事例として、東急不動産との業業によるソフトバンクの竹芝地区への本社移転計画が注目を集めました。

東急不動産×ソフトバンク

https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2019/20190709_02/

東急不動産×ソフトバンク2

スマートビルディングに移行すると建物全体の管理が簡単になり、利用する企業やビル管理者には主に2つのメリットがあります。

エネルギー管理の適切化

人の手によって照明や空調を常に管理することには限界があります。その作業をIoTで一元的・自動的に管理すれば、建物内のエネルギー効率は格段に向上させることが可能です。スマートビルディングでは建物内の全ての環境をセンサーで監視するため、空調や照明のムダな利用を自動的に検出し、コントロールすることが可能になります。

トラブル対策

建物内をセンサーで監視できれば、万が一のトラブルの際にも対応できます。火災や地震などの災害を一早く検知し、適切な対策を取れば建物内の人々の安全を保障することもできるようになります。

デメリットとして主にシステム上のトラブルが挙げられます。オフィスビルには何千以上のセンサーが接続されていることから、サイバー攻撃の攻撃対象領域も拡大されてしまうのです。

スマートビルディングのエレベーター

IoTが加速する近年において、海外ではエレベーター革命が始まっています。

最先端の事例である、独ティッセンクルップが開発した「MULTI」と呼ばれる新型エレベーターをご紹介します。

高層ビル

https://www.middleeastarchitect.com/42222-german-company-reveals-new-elevator-that-can-travel-horizontally

MULTIの画期的なポイントは、ワイヤレスのエレベーター、つまりキャビンを吊り上げるワイヤーがないことです。壁に取り付けられたガイドに沿い、リニアモーターを動力源として移動する仕組みとなっています。

それだけでなく、このエレベーターは、垂直方向のシャフトと直行する形で、横方向にもガイド付きシャフトが設置されています。そのため、一般的な上下移動だけでなく、左右へも縦横無尽に移動が可能になっています。

ユ―ザーが行きたい場所を指定すれば、ITが他キャビンの混雑状況から最短ルートを計算します。例えば、超高層マンションで自室を示すボタンを押した際は、人間は歩行することなく玄関前へ到着することができるのです。

MULTIの特徴

  • 従来のエレベーターよりもエネルギーを60%も減らせる
  • CO2排出量を減らせる
  • 乗客の待ち時間を減らせる。(15-30秒待つだけでよい)
  • 最短移動ルートを計算するソフトウェアにより無駄が省かれる
  • 従来のケーブル式エレベーターと違い建物の高さに制限なし
  • 鉄道の駅と建物を結ぶなど建物内、建物間移動の概念を変える
  • 従来のエレベーターより3~5倍の価格
  • 従来のエレベータよりも50%多くの乗客を運ぶことができる

エレベーター業界動向、市場規模

Kenneth Researchの調査レポート「グローバルエレベーターとエスカレーター市場の需要の分析2027年」では、エネルギー効率の高いエレベーターやエスカレーターの需要が高まっています。

オックスフォードエコノミクスの報告書によると、現在世界中の建設セクターが拡大しており、2030年までに建設生産量はインド、アメリカ、中国三つの主要国世界的に85%成長することが予想されています。

急速な工業化や都市化などの要因によってグローバルエレベーターとエスカレーター市場成長が期待されています。

エレベーター世界シェア

世界のエレベーター業界の企業ランキング上位4社と、とそのシェアを見てみましょう。

エレベータシェア

https://48329245.at.webry.info/201708/article_1.html

1位 OTIS(オーチス)

OTIS

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%81%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%91%E3%83%8B%E3%83%BC

2019年エレベーター世界1位は米国のオーチス(市場シェア17%)

エレベータの落下防止装置を発明したオーチス氏が、1853年、ニューヨークで設立しました。200万台以上のエレベーター、エスカレーターをメンテナンスし、毎日約20億人が同社の製品を利用しています。

米国に本拠を置くエレベーター世界最大手の企業です。世界的な歴史的建造物、例えば、パリのエッフェル塔、ニューヨークの自由の女神、エンパイアステートビル、国連本部事務局、日本では霞が関ビルに設置されており、圧倒的なブランド力を誇ります。

2位 Schindler(シンドラー)

シンドラー

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%BF

世界2位はシンドラー(市場シェア15%)

1874年に設立されたスイス本社のエレベーター専業メーカーです。2006年、東京港区のビルで、男子高校生がシンドラーエレベータ製のエレベーターに挟まれて死亡した事故が起こりました。

原因として、ブレーキ部品の摩耗や、保守管理の担当がシンドラー社から他の保守管理会社に代わる際、詳細なマニュアルが提供されないといった情報伝達の問題も存在したとされています。

3位 KONE(コネ)

KONE

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%8D_(%E4%BC%9A%E7%A4%BE)

エレベーター市場シェア3位はコネ(14%)

1908年、フィンランドのヘルシンキで開業した機械修理店を、1910年法人化したことが起源です。当時フィンランドはロシア帝国に属していたため、第一次世界大戦時はロシア軍向けに砲弾を製造していましたが、フィンランド独立後の1918年に最初のエレベータをヘルシンキ市内に提供しました。エレベーターだけでなくエスカレーターにも強みを持ち、フォークリフトなどの事業を分社化しています。日本との関わりでは、東芝エレベーターへ出資をしています。

4位 thyssenkrupp(ティッセンクルップ)

ティッセンクルップ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AB%E3%83%83%E3%83%97

市場シェア4位はティッセンクルップの12%

ティッセンクルップは、1811年創業のクルップと、1867年創業のティッセンが、1999年に経営統合をして誕生したドイツ最大級の重工業メーカーです。エレベーターの他に、自動車部品、鉄鋼、造船(軍需向け)事業も行っています。

日本国内のエレベーターシェア

エレベーターとエスカレーターの世界市場は、上記のグローバル企業4社で全体の半分以上を占めていると言われています。

これらビッグ4に次ぐ日本の代表的なエレベーターメーカーである、三菱電機ビルテクノサービス、日立ビルシステム、東芝エレベータ、FUJITECは、日本、中国に続き、今後大幅に成長が予測されているアジア・中東での地位を築こうとする動きがあります。

確固たる地位を築こうとしている。また、急速なIoT化に伴い、建築業界からはスマートビル実現へのニーズも高まっている中どのようなサービスを展開しているのでしょうか。

三菱電機(M’s BRIDGE)

三菱電機ビルテクノサービスは業界 1 位で、売上高は約3014 億です。三菱電機は約90ヶ国でのエレベーターの受注実績がありますが、中心となるのは。高価格帯の製品です。しかし、世界規模での市場の拡大に伴って安い機種の需要の高まりも無視できないため、従来よりも低価格な機種の供給が求められています。

また、世界のエレベーター市場において、利用者の安全性や利便性に対するニーズの高まっています。伊藤専務執行役は、「価格が安くても当社が保守で顧安全性も訴求したい」と述べ、保守も手がけることで収益基盤を固める狙いもあるようです。

2019年10月、三菱電機と三菱電機ビルテクノサービスは、独自のIoTプラットフォームを活用し運航状況を24時間365日遠隔監視する保守サービスであるM’s BRIDGEを香港、シンガポールにおいて提供開始しています。2021年度末までに、アジア、欧州、アメリカなど15カ国に展開する予定です。

三菱電機ビル

https://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2019/0926-b.pdf

今後、同社の世界におけるエレベーターの新設需要は、2015年の98万台から2020年には107台にまで増加するとの見込みを示しています。また、2020年までに海外のエレベーター市場に「世界統一機種」を投入する目標を掲げ、長期的には新興国を中心に拡大を目指しています。

日立製作所・日立ビルシステム(Lumada×BIVALE)

日立ビルシステムは、主な事業であるビルシステム事業において日立のIoTプラットフォームLumada(ルマーダ)をコアにした新規サービスの開発に力を入れています。

Lumadaを基盤に置いて、モビリティ、ライフ、インダストリーエネルギー、ITの5つのソリューションで顧客価値を向上させる事業です。

Lumada

https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/19/hitachi0930/

これまで売上の大半を占めていたエレベーターやエスカレーターの製造販売と保守点検のみならず、ビル設備の領域でも事業を拡大させることで昇降機とビルサービスの両軸でグローバル市場でのシェア獲得を狙っています。

Lumadaの新ソリューションとして、日立ビルシステムが保全サービスをしているエレベーターなどの昇降機を対象とし、稼働状況や保全状況をPCやスマートフォンで確認できるビルオーナー・管理者向けのダッシュボードBUILLINK(ビルリンク)を2019年11月から提供開始しています。今後、継続的に機能拡充を図り、アジアを中心にグローバル展開を進めていくようです。

Bulllink

https://ascii.jp/elem/000/001/958/1958210/

スマートフォン

「BIVALE(ビヴァーレ)」は、日立が長年で培ってきたビル管理の豊富なノウハウをクラウドで融合しています。管理するビルの使用エネルギーの集計、空調の制御などの省エネルギー対策、セキュリティポリシーの統一化、ビル設備の遠隔制御においても多様な管理・運用形態が可能になっています。

BIVALEは、日立製作所の技術を生かしたセキュリティと、日立ビルシステムが得意とする防犯カメラシステムなどのセキュリティ診断などが融合したサービスです。

日立クラウド

東芝エレベーター

3 位の東芝エレベーターは約 1246 億であり 1 位の三菱ビルテクノサービスとは約 3 倍、2 位の日立ビルシステムとは約 2 倍の差がある。2019年4月、東芝とKDDIは、IoT事業で連携すると発表しました。

KDDIのIoTや次世代高速通信5Gなどを活用したサービスの展開を目指し、東芝は強みの社会インフラとデジタル技術を組み合わせたIoT事業を収益の柱にしたいと考えています。

東芝エレベータは、2020年、FLOORNAVIのサービスが一般財団法人国際ユニバーサルデザイン協議会のIAUD国際デザイン賞銅賞を受賞しています。

東芝エレベーター

https://www.toshiba.co.jp/about/press/2020_02/tp_j1201.htm

FLOORNAVIは、エレベーターに乗車する前に乗り場に設置した「行先階登録装置」に行先階を登録し、行先階ごとに利用者を効率的にまとめるシステムです。同じ目的階に向かう利用者を同じ号機に誘導するため途中階での停車が少なくなるなどのメリットがあります。利用者が集中する出勤時などで移動時間を短縮できるようになります。

FUJITEC

滋賀県本社のFUJITECは、国内エレベーター業界のシェアでは4位の企業です。FUJITECのエレベーターは、駅や公共施設、大型商業施設などに多数採用されています。早くから海外進出し、世界各地に営業拠点、生産拠点を持ち、特にシンガポールや香港などで高いシェアを占めています。

2020年のコロナウイルス感染拡大を受けて、FUJITECはボタンに触らずに昇降や停止階を指示する「非接触ボタン」を備えたエレベーターの売り込みを強化し、利用者の不安を解消したいとしています。

これまでは研究施設や食品工場などの低層の建物を対象にしていましたが、今後マンションやホテルなどで取り付けが行われるようです。

フジテック

https://www.fujitec.co.jp/announcement/6063

最後に

スマートビルディング建設におけるスマートエレベーター導入によって私たちのオフィス生活は益々便利なものになっていくでしょう。しかし、オフィスビルには膨大なセンサーがあり、サイバー攻撃のリスクが伴います。そのため、高度なセキュリティソリューション、定期的なメンテナンス、、トラブル時への対応を常に準備しておく必要が出てくるでしょう。

<参考>
https://www.infineon.com/cms/jp/discoveries/smart-buildings/

https://www.joneslanglasalle.co.jp/ja/trends-and-insights/workplace/smart-building-that-presents-future-workplace-with-iot

https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/1910/25/news030.html

https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/2001/24/news023_4.html

https://deallab.info/elevator/

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000221.000059861.html

https://www.gii.co.jp/report/infi956709-global-elevator-escalator-market.html

https://iotnews.jp/archives/159130

https://iotnews.jp/archives/140986

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/06688/

https://newswitch.jp/p/14158

https://smartdrivemagazine.jp/technology/elevator/

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44088560T20C19A4X12000

https://news.yahoo.co.jp/articles/fe6444632fbadb8f71500a4fbe01dbdef15e5ef8

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG30HEG_Q6A830C1CC1000

https://www.kensetsunews.com/web-kan/427875

関連する事例

海外進出および展開はどのように取り組めば良い?
とお悩みの担当者様へ

海外進出および展開を検討する際に、
①どんな情報からまず集めればよいか分からない。
②どんな観点で進出検討国の現場を見ればよいか分からない。
③海外進出後の決定を分ける、「細かな要素」は何かを知りたい。

このような悩みをお持ちの方々に、プロジェクト時には必ず現地視察を行う、弊社PROVE社員が現地訪問した際に、どんな観点で海外現地を視察しているのかをお伝えさせていただきます。