中国の広域経済圏構想「一帯一路」とは?各国のメリット・デメリットと日本の加盟の行方

約2000年前、ユーラシア大陸の人々は「シルクロード」と呼ばれるアジア・欧州・アフリカの各地の大文明を結ぶ貿易と人文交流の道を切り開きました。現在もこのシルクロード精神は代々受け継がれ、21世紀を迎えシルクロードの現代版として2013年、習国家主席により「一帯一路構想」が生れました。アジアと欧州を陸路と海上航路による物流ルートを作り、貿易を活発化させ、経済成長を促そうというものです。

ここでは一帯一路の解説と、各国にとってのメリットやデメリットをご紹介します。

 一帯一路とは

一帯一路は「シルクロード経済ベルト」と「21世紀海上シルクロード」で構成されています。陸路は中国の西安からトルコ、ロシアを経由、海路は中国の南東部からマレーシア、ケニアを経由し、2つは最終的にイタリアに繋がる一本路で結ばれる貿易行路です。具体的にどのような役割を持つのでしょうか。

役割

中国鉄道

http://japanese.beijingreview.com.cn/economy/201704/t20170418_800093992.html

港湾、鉄道などを中心に、交通関連のインフラ整備が展開されています。その役割を果たす事例として「欧州国際貨物列車」と「中国パキスタン経済回廊」を紹介します。

欧州国際貨物列車「中欧班列」(China Railway Express)

中国にとって最初の運行は、2011 年 3 月、重慶からドイツ西部のデュイスブルグまでの経路でした。その後、中国では27 の都市に、ヨーロッパやユーラシアでは28 の都市に広がりました。

1 万個以上のコンテナを運ぶ巨大なコンテナ船に比べて一回の輸送量は少ないですが、輸送時間はほぼ半減したため、貨物の種類によってはコスト効率に優れているようです。この列車で、中国からは電子機器、自動車部品、自動車、衣類などが運ばれ、欧州からはワイン、チーズ、肉類が中国に運ばれています。

日本から欧州に輸送する場合、船だと約1カ月かかるところを、この列車を使うと約2週間で運べるようになりました。2011年には17本のみの運行でしたが、2017年は3,673本にまで増加しています。

中国パキスタン経済回廊

中国パキスタン

中国が長年抱えていた「マラッカ・ジレンマ」が、この中国パキスタン経済回廊によって解消されると期待されています。マラッカ・ジレンマとは、中国の物流やエネルギーにとって重要なマラッカ海峡の安全航行が、事実上米国やその他の国々にコントロールされている状態のことを指します。

また、海賊が多く出没することでも知られる海峡のため、ここを船が通ることは大きなリスクを伴います。(実は日本もエネルギーの主体である原油の輸入を中東に8割も依存しており、そのタンカーのほとんどがマラッカ海峡を航行しています。)

マラッカ海峡

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/13341?page=3

中国経済の生命線は海運業で、アジア、中東、アフリカから流れ込んでくる物資が南中国の港湾に到着しなければ、中国にとっては死活問題となってしまいます。しかし、この経済回廊が完成すれば、重要な石油シーレーンがあるインド洋への影響力を強化することで、マラッカ海峡をバイパスできるようになります。2014年に約500億ドルの投資で高速道路、鉄道、天然ガス・石油パイプラインを建設されており、2030年までに完成させる計画です。

しかし、一帯一路事業に伴うパキスタンの対外債務の増加もあり、先行きを不安視する声が上がっているようです。

多くの国々が加盟するメリット

一帯一路参加国

https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/843887

2019年4月時点で、126カ国および29の国際機関との間において、一帯一路の署名が交わされています。中国と欧州を陸路と海路で結ぶこの戦略構想は、莫大な資金を持つ中国とインフラを整備を期待するい国々の利害の一致が加盟につながっています。EU諸国、中継ルート上の国々、ASEAN諸国それぞれにとってどのようなメリットがあるのでしょうか。

EU

2017 年 6 月 2 日、ブリュッセルで開催された第 19 回 EU・中国首脳会議において、EU が域内の交通網整備のための「汎欧州運輸ネットワーク計画」と中国「一帯一路」構想の双方に基いて、EU と中国の交通網の相互連携を強化する方針が確認されました。

これらのネットワーク整備・刷新のために、中国政府・企業が港湾や空港、鉄道網、高速道路など欧州の主要な運輸基盤に対して積極的な資金投下を行っています。EU諸国の一帯一路への期待は、これまで停滞していた中国からの欧州への直接投資、これに伴う中国金融機関からの融資の活性化などが挙げられます。

中継ルート上の国々

中継ルート上は経済的に未発達な国も多く、この構想に参加することで中国政府によるインフラ整備が実現します。しかし、一方で、発展途上国などが中国から受けた融資に対して返済不能になってしまう事態や、融資返済ができなくなった代わりに土地を中国に取り上げられるという問題も発生しているようです。

ASEAN

2017年 5 月に北京「一帯一路国際協力フォーラム」が開催された際には、全ての ASEAN 加盟国が参加しました。ASEAN諸国が共通して持つ課題に「インフラ整備の遅れ」があることから、ASEAN諸国はこの一帯一路に期待をかけています。ASEANは連結性マスタープランを策定し、タイの東部経済回廊など自国のインフラ整備を中心とする計画を策定しています。

一帯一路構想ができた背景

一帯一路構想は下記3つの中国の経済的背景が関係しています。

高度経済成長の終焉

中国GDP

https://www.daiwa-am.co.jp/specialreport/market_eyes/no250.html

鄧小平の主導下1970年代末から始まった改革開放路線において鄧小平は「四つの近代化」を掲げました。

これによって中国は目覚ましい経済成長を遂げ、特に2001年に世界貿易機関(WTO)加盟後は、工業化と輸出拡大が急伸し、中国は年率10%を超える経済成長を続けた。その翌年、アメリカで起こったリーマンショックの影響を受けるも、克服。

2009年には日本を抜いて世界第2位の経済大国に浮上しまし、その5年後の2014年、中国のGDPは10兆4000 億ドルに達しました。わずか4年の期間で日本のGDPの2.2倍に迫るほど急速な成長を見せました。

しかし、1980年代以降、人口抑制のために実施された「一人っ子政策」の影響により、人口の高齢化が進む一方で、生産年齢人口の伸びは次第に鈍化しています。

国連の予測によると、中国における生産年齢人口の割合は2010年頃にピークに達した後は低下傾向に転換しているとされています。また、対米関係をはじめとした外部要因によって、中国経済には下押し圧力がかかり、実質GDP成長率は年々減少傾向をたどっています。

過度な輸出依存政策の限界

これまでの中国の目覚ましい経済発展は、著しい輸出の増加に支えられてきました。2003年から2007年まで、中国の輸出は毎年25%以上のスピードで増加し、35%を記録する年もあったほどです。

中国の主力輸出品であった衣料、紡績、玩具などが世界市場において40~60%を占めました。中国は「世界の工場」と呼ばれていたのは、コスト面での比較優位を実現できたからでした。また、中国の土地と労働力のコストが低く、外国資本に対して優遇政策の実施も効果を高める要因となっていたのです。

過度な輸出

https://wired.jp/2008/03/25/%E7%89%A9%E9%87%8F%E3%81%A7%E5%8B%9D%E8%B2%A0%EF%BC%9A%E3%80%8C%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E5%B7%A5%E5%A0%B4%E3%80%8D%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%80%81%E7%94%BB%E5%83%8F%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%83%A9%E3%83%AA/

しかし、中国製品は安全性や製品の劣悪性が問題視され始め、世界の市場からボイコットを受けるようになりました。

2004年頃から上海などの沿海地域や中西部の企業で十分な労働力の確保が難しくなり、それに伴い人件費が高騰。次第にコスト面の優位性は失われていき、この比較優位が崩れたことで多くの外国企業は工場を中国から生産コストの安い東南アジア地域などにを移転させるようになったのです。

過剰生産の緩和策として

2008年の北京オリンピック開催に向けてインフラ整備に注力しましたが、その直後にリーマンショックの影響を受けました。

経済失速を防ぐための景気刺激策として、新幹線増設するなど国内のインフラ整備を一気に進めてきました。その結果、リーマンショック後世界に先駆けて中国は成長を回復させることに成功しました。

しかしその後、過剰生産により国内で生産したものを輸出する必要に迫られ、2013年、中国政府は国内の過剰生産能力を緩和するために一帯一路を打ち出しました。

一帯一路の狙い

2020年12月末現在、アメリカの大統領選は最終的にまだ決着が着いていませんが、トランプ大統領はこれまで中国に対して高関税をかけるなどして貿易摩擦を激化させてきました。

中国は米国向け輸出の大幅削減を強いられることになり、ファーウェイの5G関連機器などハイテク製品は、米国の友好国向けの輸出においても制限を受けることになりました。今まで中国経済の高成長を支えてきた輸出が急速に悪化する中、中国経済が成長を維持するために新たな輸出先を開拓する必要がありました。

その新たな輸出先として期待されるのが、一帯一路参加国になのです。特に、アメリカの影響力が及ばない独自のエコシステム作りのために、EUの中核国を切り崩す必要がありました。

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)という新たな経済圏の外に置かれる中国と欧州の戦略的連携の側面もありますが、それだけでなく、これまで関係が薄かった欧州との関係を再構築し、中国経済の減速や停滞に備えてたいという意識の方が強いと見られています。

もちろん、成長に陰りがみられる中国が「国際社会における発言を強化したい」という狙いもあるでしょう。

一帯一路の問題点

地元との不和

中国の国有企業がインフラ事業を行っている一部の地域では、すでに地元との不和が生じています。手抜き工事、安全基準の無視、中古や低品質の資材、水力発電用のダム建設による環境破壊が非難されています。

大量資本投下による汚職

一帯一路構想のために中国によって大量の資本が投下されましたが、各地で乱開発や汚職の問題が出てきています。

返済不能の事例

インフラ整備のため中国は各国に融資をしていますが、この融資は世界の借金国に対してこれまでにない規模での貸し付けを行っているため、最も危うい国々に巨額の不良債権を抱えさせるシステムが取り込まれることになります。

中国が過剰な融資をして、返済できなくなった国において中国が勢力を伸ばすことは「債務のワナ」と呼ばれるようになりました。アメリカのペンス副大統領は以前、「中国は一部の国々を借金漬けにしている」と批判しています。

ハンバントタ港

https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Eyes/2018/ISQ201820_021.html

「債務のワナ」の代表的な事例がスリランカの「ハンバントタ港」です。当初は港を使う船から使用料をとり借金を返す予定ではあったものの、利用数が伸びずに資金回収ができなくなってしまいました。結局スリランカは、借金を返済する代わりにハンバントタ港の港湾運営権を中国企業に99年間もの期間引き渡すことにしたのです。このことにより、中国は最初から経済支援ではなく、安全保障上の権益のために融資をしたのではないかとも言われています。

一帯一路への日本の対応は

中国外務省の耿爽副報道局長は「一帯一路」に関して、「日本がより積極的な姿勢で一帯一路に参加するよう希望する」と述べました。

安倍前首相は、2017年6月5日に国際交流会議において、中国の経済構想「一帯一路」に対して、「同構想が地域と世界の平和と繁栄への貢献を期待する。日本はこうした観点からの協力をしたい」と述べています。

しかし、日本はまだ加盟する兆しが見えていません。それでは日本において、一帯一路構想に対してどのような意見があるのでしょうか。

参加すべきという意見

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の瀬口氏は、2018年のボアオ・アジアフォーラム開幕前に、新華社記者に対して「一帯一路に日本は積極的に参加し、協力とウィンウィンを実現するべき」と答えました。

中国企業は高い市場能力、世界戦略経営能力、応用型革新能力を持っていますが、一方日本企業は基礎的革新分野で一定の実力を持ちますが、応用型革新能力は低いと瀬口氏は考えているようです。

自由で開かれたインド太平洋

貧しい国々は中国の低金利ローンを喜んで受け入れ、未来の指導者に返済を任せようとしており、ジンバブエ、スリランカ、ベネズエラへの融資は既に返済不能の兆し出ているようです。

インド太平洋

https://special.sankei.com/a/politics/article/20201030/0001.html

安倍前総理大臣が4年前に提唱した「自由で開かれたインド太平洋」という名前をニュースで聞いたことがあると思います。アジア太平洋からインド洋を経てアフリカに至る地域において法の支配に基づく秩序を形成し、繁栄と平和をもたらそうとする構想です。

質の高いインフラ整備により各国の間のつながりを強化することも柱の一つであり、これは一帯一路と同じコンセプトです。日米に加え、アメリカの同盟国のオーストラリア、中国との領土紛争を抱えるインドがそれぞれ独自の構想を打ち出しました。

この構想は国際社会から幅広い支持を得ています。過去1世紀半の日本外交の歴史の中で日本が提唱した外交構想がこれほど国際社会に浸透したことはないとも言われています。

最後に

シルクロードの現代版と言われる一帯一路の内容や各国のメリット・デメリットをお分かりいただけましたでしょうか。

2020年11月菅内閣が、中国主導とも言われるRCEPにサインをしましたが、日本は今後中国の一帯一路構想どのように付き合っていくかが世界から注目されるでしょう。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42934450W9A320C1PP8000

http://www.china-embassy.or.jp/jpn/zgyw/t1250235.htm

https://www.sbbit.jp/article/cont1/37797

https://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/PolicyBrief/Ajiken/114.html

https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2019/fis/kiuchi/0509

https://ippjapan.org/archives/2646

https://www.sankei.com/world/news/201127/wor2011270010-n1.html

https://honcierge.jp/articles/shelf_story/8660

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66964760T01C20A2910M00?unlock=1

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/01/post-6844_3.php

https://boxil.jp/beyond/a6951/#6951-11

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO52488250S9A121C1TM3000?unlock=1

https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/437071.html

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/13341?page=3

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1905/31/news031_2.html

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