いつでもどこでも個人を特定?中国の「顔認証」の今!監視カメラ、信用スコアも併せて紹介

「顔認証」と聞くと日本で思い浮かべるのは空港の出入国やスマートフォンのロック解除機能などではないでしょうか。接触不要の認証形式である顔認証は新型コロナウイルスの蔓延以降世界で関心が集まっています。

中国では2015年に公安部が「いつでもどこでも、完全にインターネットに接続し、完全にコントロールされた」ネットワークの実現を目指す方針を明らかにしています。

それ以降中国の大手企業が政府と提携し、顔認証技術の向上、普及を加速させてきました。

同年以降は監視カメラも急速に増えています。中国の監視カメラ数は2019年2億台を突破しました。

さらに、監視カメラとAIを組み合わせた「天網」というシステムが構築され、国民の顔認証を行い、犯罪歴の有無などをすぐに識別することが可能になっています。

中国カメラ2

https://new.qq.com/omn/20201209/20201209A04UIE00.html

さらに、中国では2014年に国家主導で「社会信用システム」の構築が進められ、今年2020年はその基本構造の完成が目標とされています。

その構築のために始まった信用スコア制度は、国民の信用度合いを格付けするという中国ならではの驚きのシステムです。

顔認証、監視カメラ、信用スコアの普及によって、多くの海外メディアは「中国では監視社会の構築が進んでいるのでは」との見方をしています。今回はこれらの現状、また、関連事項について国民が自国のSNSでどう発言しているかも入れながら紹介します。

買い物も「顔」一つ

Smart to pay

2017年、電子マネー大手の「支付宝(アリペイ)」は世界初となる顔認証支払いサービス「Smile to pay」を中国杭州市のケンタッキー・フライドチキンに導入しました。

以下の動画では、ある女性が顔認証を使用してオーダーする様子や、同一の女性が厚化粧をしたりカツラを被ったり、複数人でカメラの前に立ったりしても認証機械が女性を識別できる様子を紹介しています。

サービス導入時、中国版ツイッター・ウェイボーでは「すごい!」「便利」という声もありましたが、「QRコードの方が安全では?」「安全性が心配」「悪用されそう」など、顔認証で決済が終了することに抵抗を感じるコメントも多数上がっていました。

ユーザー数は大幅な増加傾向

2019年は中国の「顔認証元年」と言われます。

アリペイは「蜻蜓(チンティン)」と呼ばれる顔認証決済ユニットを発売し、コンビニやレストラン、小規模な商店での顔認証決済を可能にしました。IT大手のテンセントも同様のユニット「青蛙(チンワー)」を発売しました。

電子カメラ

https://www.sohu.com/a/338088035_120314575

中国の調査会社、艾媒諮詢(iiMedia Research)が公表している「2019年中国顔認証決済技術応用社会価値特別研究報告」の中では、顔認証決済ユーザーは2019年1億1800万人に達したことが伝えられ、2022年には7億6000万人まで増加すると予測されています。

「顔交換技術」は障壁にならないか?

以前、自分の顔写真を登録すれば映画などの登場人物の顔が自分のものになるアプリ「ZAO」が中国で大流行しました。

顔認証

https://www.sohu.com/a/337862209_483391

しかしこの利用規定に、アップロードしたデータは「完全無料、取り消し不能、永久に、譲渡可能な形で」ZAOサイドに所属することが明記されており大問題となりました。

中国メディアの人民網などによると、顔認証に対しては、多くの人たちがこの「顔交換技術」がさらに進化すれば、自分の顔も悪用されるのではと懸念しています。

アリペイはこれに対し、「顔認証には3D顔識別技術を採用し、登録時はパスワード入力が必要。識別前にはソフト面、ハード面結合型の方法で検査し、スキャンする顔に異常がないか判断している」とコメント。

ユーザー保護のために努力している旨を説明しています。

さまざまな場面で使われる顔認証

信号機

中国メディアの観察者網が2019年5月、中国山西省のとある横断歩道に設置された顔認証システムを取り上げたところ、ネット上で議論となりました。

赤信号を渡った歩行者の顔が撮影され、その画像が交差点近くのスクリーンに1週間程度個人の身分証写真と共に「晒される」というものです。未成年も含まれており、「未成年はさすがにモザイクをかけてあげるべきでは」という声が一部の市民から上がりました。

交通

https://www.guancha.cn/politics/2019_05_28_503445.shtml

新浪科技が同社のウェイボーアカウントで「顔写真にモザイク処理すべきだと思うか。未成年に対してはモザイク処理が必要か」という趣旨のアンケートを行ったところ、回答者の多くが「モザイクは不要」と答えています。

https://www.guancha.cn/politics/2019_05_28_503445.shtml

具体的な意見には「信号を守らない方が悪い。こういうやり方の方が効果的」「事故が起きたら未成年かどうかは関係ない」「子どもこそ、社会の中でしっかり教育されるべきだ」「未成年だから何なのだろうか?」などがありました。

この一件で注目すべきは、そもそも顔写真が晒されることが前提で議論が起こっていることです。日本であれば一般人の顔写真を、しかも身分証の顔写真と一緒に不特定多数へ向けて公開するという時点で大問題になるのではないでしょうか。

交通ルールの順守率の低さが長年問題視されている中国だからこその措置なのでしょう。一部は抵抗を感じつつも、全体的には「モニターがあることで交通マナーが向上するなら良い」という考えの人が多いようです。

トイレ

最近、広東省東莞市の公衆トイレに設置された「顔認証トイレットペーパー供給機(借訳)」という設備が話題となりました。文字通り、トイレに入る前に顔をスキャンすればトイレットペーパーが自動で出てくるものです。

https://new.qq.com/rain/a/20201206a0cu3u00

今月3日に中国中央テレビ(CCTV)が本件を伝えると、すぐにネット上で物議を醸します。さまざまなコメントが上がっていますが、その多くが懸念、抵抗を示すものでした。

https://new.qq.com/omn/20201204/20201204A0B4RG00.html

具体的な内容は「ここまでする必要が…?」「トイレットペーパーの無駄遣いをなくしたいんだろうけど、データを抜き取るためでしょ」「どこに行っても顔認証ばっかり」「どんどんエスカレートしてく」「顔認証の濫用だ」などのものです。

また、「スマホ決済にして、紙を売ればいいじゃないか」といった意見や「広州の白雲山にもある」「杭州にも同じのがある」といった情報も上がっています。さらに「トイレ行く人の中には緊急を要する人もいるだろうに、これはひどい」という声も。

設置サイドは、「トイレットペーパーの無駄遣いを減らすためだった。顔認証の記録は一定時間内で削除されるようになっている」と説明していますが、クレームの多さから、翌日には設備の使用を終了する事態に追いやられました。

東莞市の関連局が発行した設備の使用を中止した旨を説明する文章

CCTVは専門家の話として「機械に情報が記録されなくても、システムに記録される可能性はあり、情報漏洩の危険性を排除できない」と伝えています。中国各地で藍認証システムの導入が進むにつれ、情報漏洩の心配をする人も増えているようです。

コンサート会場

2019年、張学友(ジャッキー・チュン)、劉徳華(アンディー・ラウ)など香港の有名歌手らのコンサート会場で、監視カメラが当局のリストにあった犯罪者を識別し逮捕に至ったケースが多数ありました。

張学友

張学友

張学友のコンサートは1度に5万人が訪れるほど人気ですが、その中でも犯罪者を特定できるカメラの能力に、SNSでは「1億7000万台のカメラがあるんだ、牢獄にいるのと一緒」という声が上がる一方「サイエンス国家中国!」など称賛の声も上がっています。

マスクをつけていても認証可能

また、1日に十数万人が訪れる浙江省の銭塘江でも、ある窃盗犯がマスクをつけていたにも関わらず監視カメラの顔認証識別を通じて逮捕されました。

SNSでは「治安が良くなる」「犯罪者はどこでも見つかるようになった」など歓迎の声が多く上がっているようです。

芝麻信用(ゴマ信用)

個人の信用度を測るスコア

アントフィナンシャルが提供するサービス「芝麻信用(ゴマ信用)」は、アリペイの人気機能の一つです。個人の信用度を「学歴や勤務先」「支払い履歴」「履行能力」「人脈」「行動」で評価し、スコア化しています。

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1685571416156344046&wfr=spider&for=pc

スコアが高いときのメリット

スコアが高ければ高いほど、社会生活の中で以下のように様々なメリットを受けられるようになります。

  • スコア550点以上:デポジット不要でモバイルバッテリーがレンタルできる、後払いの買い物を楽しめる
  • 同600点以上:デポジット不要でシェア自転車、ホテルを利用できる
  • 同650点以上:デポジット不要で車をレンタルできる
  • 同700点以上:アルゼンチンやラトビアへのビザ免除
  • 同750点以上:カナダへのビザ免除

https://s.weibo.com/weibo/%23%E8%8A%9D%E9%BA%BB%E4%BF%A1%E7%94%A8%E5%88%86%23

スコアが低い場合

スコアが550点以下は一般的に信用度が低いと判断され、就職や結婚に影響するケースもあるようです。ゴミの分別、ポイ捨て、信号無視、シェア自転車の指定場所以外への乗り捨てなどのマナーを遵守するかどうかもスコアに影響します。

サービスへの反応

ユーザーの関心事はスコアを上げてより多くのメリットを享受したい点にあるようです。SNSや百度(バイドゥ)知道(Yahoo!知恵袋のようなもの)、ネット記事では「スコアを上げるにはどうしたらいいか」という内容がよく見られます。

ウェイボー掲載の信用スコアアップに関連した記事例

また、「スコアを減点されないためにやってはいけないこと」をテーマとした記事も上がっています。

中国メディアの捜狐網は「やってはいけないこと」として、光熱費など生活関連の支払いの遅滞、ネットショッピングでの安く劣悪な質の商品の購入、信用スコアの低い友人と繋がりを持つ事、など詳細に記事を書いています。

当局批判、デマの抑制にも

中国ではネット上で当局批判やデマを流せば警察から事情聴取を受けることも珍しくありません。このような行為を行えば信用スコアが減点され社会生活で不利益を被る事態になるため、本サービスはユーザーを能動的に自粛させる側面があります。

「監視」の不便よりも享受できる「メリット」

ここまで読むと、上述の「ゴマ信用」サービスを附帯しているアリペイは「監視アプリ」としての機能もあるように感じてしまいます。ただ、そもそもサービスをアクティベートした時点でスコアは600点以上にはなるようで、社会生活に支障することはありません。

そのため、自分のスコアが何点か全く知らない人も多いようです。「過度に気にする人は借金している人や犯罪者などでは?」と考える人もいるようです。ただ、はポイントが高くなればメリットも増えるため、利用できる点は利用すべき、と考えられているようです。

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1670361744762478904&wfr=spider&for=pc

監視カメラ台数や顔認証についても、「安全になり、マナー向上につながるなら仕方ない」と考えている人が多くいます。実は中国は人身売買・取引を目的とした子どもの誘拐が後を絶たず、年間行方不明になる子供の数は20万人以上とも言われています。

治安の改善のためにやむを得ない部分もあるのです。多くの人たちは「まっとうな暮らしをしていれば、監視カメラで顔認証されようが何も困らない」と考えているようです。

最後に

いかがでしたか?今回紹介した顔認証、それを利用した監視体制や信用スコアは今後もさらに発展し、中国のこれからの社会体制を大きく支えるものと考えられています。引き続き注視していく必要がありそうです。

参考URL
https://www.sohu.com/a/429087130_100194541

https://zeimo.jp/article/21299

https://www.recordchina.co.jp/b715961-s0-c30-d0145.html

https://smartdrivemagazine.jp/technology/sensetime/

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201012/k10012659621000.html

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27291460T20C18A2000000

https://www.sohu.com/a/338451012_463824

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1685144104964111057&wfr=spider&for=pc

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1650861056457381496&wfr=spider&for=pc

https://www.guancha.cn/politics/2019_05_28_503445.shtml

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58185]

https://new.qq.com/rain/a/20201204A0B4RG00

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1685489012215546705&wfr=spider&for=pc

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1674155239570112651&wfr=spider&for=pc

https://www.sohu.com/a/84152649_114984

https://honichi.com/news/2020/02/27/sesamecredit/

https://media.dglab.com/2019/06/27-ncc2019-02/

https://www.nippon.com/ja/in-depth/bg900045/?pnum=3

https://news.livedoor.com/article/detail/15878344/

https://weibo.com/1708763410/JnOy3v1y0?refer_flag=1001030103_&type=comment#_rnd1607757879783

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