5Gの商業化は、2020年にスタートしたばかりですが、早くも世界各国では6G実現に向けて必要な通信技術について議論を始めています。通信規格の標準化は約10年のスパンが必要となるため、6Gは2029年には標準化し、2030年代に商用化されると言われています。
https://realsound.jp/tech/2020/01/post-490453.html
導入が開始し始めたばかりの5Gと、2030年商用化を目指す6Gには、どのような違いがあるのでしょうか。ここでは、5Gと6Gの相違点や、各国の6Gの動向についてご紹介いたします。
5G
https://robotstart.info/2020/01/22/5g-evolution-6g.html
5Gが浸透するとともに、AIやIoTの社会実装が進み、私達の社会は現実世界とサイバー世界が一体化します。この空間は「サイバー・フィジカル・システム (CPS )」と呼ばれます。
※サイバー・フィジカル・システム(CPS)
Cyber-Physical Systemの頭文字を取った略称で、「フィジカルシステム」と呼ばれる現実世界において、センサーシステムによって収集した情報をサイバー空間にあるコンピューター技術で解析します。経験や勘に頼る方法ではなく、定量的な分析で様々な産業へ役立てる取り組みのことです。
一番事例として分かりやすいのは、自動運転でしょう。自動車のセンサーが現実世界の様々な情報を収集します。そして、AIやIT技術によって分析し、駆動系(フィジカル)を動かします。自動車だけでなくロボットやドローンなども活用される概念です。
https://blogs.itmedia.co.jp/itsolutionjuku/2015/10/post_141.html
CPSでは、デジタル時代の大量のデータから、新たな価値創造が行われ、必要なモノ・サービスを、必要な人、必要な時、必要なだけ提供することで様々な社会課題解決する「Society 5.0」が実現します。
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/
人類の共通基盤としてDSGsが掲げる「持続可能な開発目標」で記載されている「誰一人取り残さない持続可能で多様性と包摂性のある社会」、「地球の維持」等の実現にも大きく貢献するでしょう。
6Gとは
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/nnw/18/041800012/081900113/
6G(6th Generarion)は、「第6世代移動通信システム」の略で、以下6つの特徴があります。
超高速・大容量通信
例えば100Gbpsを超える無線技術により、現実の体感品質と同等、もしくはそれを超越する新体感サービスを実現できます。
超カバレッジ拡張
現在の移動通信システムがカバーできていない空・海・宇宙などを含むあらゆる場所での使用を想定した「超カバレッジ拡張」を将来的には目指します。このことにより、人・物の活動環境のさらなる拡大と、それに伴う新規産業の創出が期待できます。
超低消費電力・低コスト化
ネットワーク及び端末デバイスの超低消費電力・低コスト化によって、無線の信号を用いた給電技術の発展により、デバイスが充電不要になることが期待できます。
超低遅延
AIとデバイスをつなぐ無線通信によってロボティクスなどの店舗無人化において、人の表情を見て人間のように気の利いた対応が可能になるかもしれません。
超高信頼通信
産業向けの使用では、遠隔制御や工場自動化など、必要な性能を担保することが要求されます。そのため、信頼のある制御情報の無線通信は重要な要求条件です。
超多接続・センシング
6G の時代には、ウェアラブルなデバイスや実世界の映像及びセンシング情報などを収集する超多数の IoTデバイスがより普及します。5G の要求条件のさらに10倍の超多接続が実現すると言われています。
6Gの社会は、バックグラウンドでの通信を意識することがなく、社会に溶け込んでいるかのような世界であると言われています。少子化で働く人が減り、機械の遠隔制御や工場の自動化などが進む社会において、機械を正確に動かすため、通信は従来の「ベストエフォート」ではなく、一定レベルの通信クオリティが必要とされるのです。
https://descartes-search.com/media/moonshot/
総務省は2020年、「ムーンショット」と呼ばれる研究開発を推進する方針を発表しています。ムーンショットとは、「破壊的イノベーション創出に向けた挑戦」のことを指し、解決困難な社会課題を目指す計画です。
ムーンショットでは複数の目標があり、その中に示されている「身体、脳、空間、時間から解放された社会を実現する」の項目では、「サイバネティックアバター」という技術がCPSにおいて使用されます。サイバネティックアバターは、6GをインフラとするSociety 5.0完成後から2050年までの実現が目標とされており、多様な個人が社会に参画できるようになるでしょう。
https://descartes-search.com/media/moonshot/
6Gと5Gの最も大きな違い
4G、5Gはデジタル化とコネクティビティが特徴で、6Gはこれらに加えて、通信、計算、保存が融合した「スマート化」がキーワードになります。下記の図で、「6Gで実現できること」を見てみると、私達の社会は見違えるほど変化することが分かるでしょう。
https://www.jst.go.jp/moonshot/program/goal1/files/goal1_explanation2.pdf
- 実世界にいる時と同じ感覚でバーチャル空間へアクセスできる
- 実世界で遠く離れた場所に自分のホログラム(※)を送り、現実同様のコミュニケーションができる
- バーチャルの自分がオフィスで働く高度なテレワーク
- 旅行やスポーツなどの体感が必要となるエンターテイメントをリモートで楽しめる
※ホログラムとは立体映像のことで、SF映画などで見たことがあるでしょう。
例えば、忙しくて遠く離れた実家に帰れないとき、ホログラムを使用して帰省できるなどが実現します。5Gのホログラムは「これは映像だ」と分かってしまいますが、6Gでは、ホログラムなのか人間なのかの見分けがつかなくなると言われています。本人が移動しなくても希望の場所に人物を登場させることができるため、リモートワークでも活用されるでしょう。
日本と海外の5Gの動向
日本
日本の5Gサービスは、2020年3月から、全国で一斉ではなく都市部を中心とした一部のエリアで、段階的に始まっています。
ソフトバンクでは2022年3月末までに人口カバー率9割達成を目標としてインフラの整備を進めており、2021年12月の人口カバー率9割の達成に向け、端末との接続試験、基地局の整備やセキュリティ対策などに取り組んでいます。
※5Gサービスを利用するためには5Gに対応した端末が必要なため、4Gの端末のままでは5Gは利用できません。
それでは次に、各国の5Gの動きはどうなっているのでしょうか。先陣を切っ米国・韓国・中国から見てみましょう。
米国
2018年9月、Verizonが5Gサービスを提供開始し、2019年4月から商用モバイルサービスも販売されるようになりました。
2018年10月の「5G FAST Plan」に基づき、スモールセル設置審査の迅速化や5G向けの高帯域周波数の開放に取り組んでいます。
韓国
2019年4月に、大手キャリア3社が5Gの商用サービスを開始し、2019年9月末時点で5G加入者が350万人増加しました。
韓国は、2025年までに実感型コンテンツ、スマートシティ、デジタルヘルスケア、スマートファクトリー、自律走行の分野で社会実装を目指しており、そのための政府横断型で優先的に公共投資されています。2026年までには世界の5G市場の15%を占めることを目標としています。
中国
2019年11月に大手キャリアが5Gサービスを開始し、対象エリアを50都市。サービス開始前でも1000万件以上の契約予約があり、サービスエリア・加入数で見ると中国が世界最大の5Gネットワークとなるでしょう。
製造業のアップグレードや、遠隔疾病診断等に5Gを活用しています。
https://www.tencent.com/en-us/articles/2200933.html
欧州
2016年10月に発表された「5G Action Plan」に基づいて、2019年5月の英国、スイスを皮切りにして、2020年末までに全EU加盟国で5Gサービスを開始することを目標にしています。
VodafoneやTelefonicaの欧州の事業者は「オープンな無線アクセスネットワーク」への取り組みを推進しています。
- 英国:Vodafoneはフル5Gといえる「スタンドアローンネットワーク(SA)」サービスを開始。SAとは、5Gの新技術で、独立してネットワークを構成する方式。
- ノルウェー:水産業で5GによるDXを推進しています。従来は、海中ゲージに設置されたカメラで鮭の養殖状況を監視するシステムに4Gを活用していましたが、5G活用によってカラー画像となりより養殖状況を把握しやすくなったようです。
日本と海外の6Gの動向
世界の6G市場における主要プレーヤーは下記の通りです。
- Nokia
- Samsung Electronics
- Huawei
- Ericsson
- Cisco
- AT&T
- LG Electronics
- Qualcomm
- ZTE
- Verizon
世界的な大手キャリアの他には、GoogleやAppleも参入しており、熾烈な競争が予想されます。
それでは6Gの各国の動向を見てみましょう。
日本
総務省は、5Gの次の世代に向けて議論するために「Beyond 5G推進戦略懇談会」を立ち上げ、2020年1月に第1回会合が開催されています。
ソフトバンクは情報通信研究機構や大学と6Gの共同研究を進めており、NTTドコモは2020年1月に「5Gの高度化と6G」のホワイトペーパーを公表しました。
総務省内の有識者会議において、2025年の日本国際博覧会が開催されるタイミングまでを「先行的取組フェーズ」として設定しており、万博で6Gが生み出す未来の社会像を世界に示す方針を打ち出しています。
米国
2019年に当時のトランプ大統領は「できるだけ早く」6Gが欲しいとツイートしており、同年3月、6G実現に向けた意向を踏まえ、米国FCCは試験用に95GHz超の周波数を開放しました。
トランプ前政権はファーウェイなど中国のテクノロジー企業に対して厳しい措置を打ち出しましたが、中国が5Gで世界をリードすることを許してしまいました。そのため6G開発はワイヤレス技術で米国にとって挽回のチャンスになると言われています。
米コンサルティング会社フォレスト・アンド・サリバンは「5Gとは違い、6Gでは米国は主導権移行の機会を逃すことはない」と指摘しています。
韓国
2019年1月、LG Electronicsが韓国科学技術院の研究機関と「6G研究センター」の設立を発表し、Samsung Electronics は2019年6月、6Gコア技術の開発のためのセンターを立ち上げました。
「6Gオープンシンポジウム2020」において、Samsung、LG、SK Telecomが参加し、「国際標準化の主導権を握ることが重要」との意見で合致し、韓国政府は6G等の次世代ネットワーク戦略を進めています。
中国
中国における6Gは、2030年頃に実現すると予想されており、5Gと比較すると伝送速度は10倍以上とも言われています。
広東省に本社を置くスマートフォン大手のVivo(ビボ)は5Gが商品化されたにも関わらず、すでに6Gの開発体制を整え、次世代に向けていち早く研究に取り組んでいるといいます。
https://jp.techcrunch.com/2020/01/25/2020-01-24-vivo-samsung-realme-xiaomi-india-smartphone/
欧州
2018年4月、The Academy of FinlandがOulu大学が提案する6G研究開発プロジェクトであである「6Genesis」を国家研究資金プログラムに指定しました。Nokiaなどが参画し、8年間で日本円にして約299億円が投入される見込みです。また、2019年3月に開催された「6G Wireless Summit」において、規制当局、学界、主要ベンダー、事業者を含む29カ国から約300人が参加。2019年9月に、その議論を踏まえたホワイトペーパーがに公開されました。
最後に
日本は便利な社会であるがゆえにデジタル化が進まないとの指摘があります。都心は公共交通機関が充実し、現金の信頼性が高いために交通機関のスマート化やキャッシュレス化がが普及していません。
しかし、日本の課題である人口減少や少子高齢化は避けられません。今、日本が地域社会を存続させるために5Gや6Gを導入し、社会がスマート化に転換する格好のチャンスが来ているのではないでしょうか。
<参考>https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd142100.html
https://www.icr.co.jp/newsletter/wtr372-2020330-ishimizu.html
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd141220.html
https://www.sbbit.jp/article/cont1/46170
https://frontier-eyes.online/6g/
https://innovation.mufg.jp/detail/id=346
https://www.afpbb.com/articles/-/3272767
https://type.jp/et/feature/12399/
https://www.softbank.jp/biz/5g/column2/
https://www.upr-net.co.jp/info/iot/csp.html