下記は2011年時点の世界GDPランキング上位に入った国のGDP推移を示したグラフです。
長年アメリカが覇権国家としてGDP首位を守り抜いてきましたが、2030年頃には2位の中国がアメリカを抜くと言われています。
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2012/2012honbun/html/i1410000.html
2020年は新型コロナウイルスの世界的な蔓延によって、各国はどこもGDPが落ちてしまいました。しかし、武漢を発生源としたにも関わらず、いち早く収束に向いコロナ不況から抜け出したのは中国でした。このことはGDPの逆転に影響するのでしょうか。
ここでは、新型コロナウイルスによってアメリカと中国のGDPはどのように影響を受けているのか、日本にはどのような影響があるのかについてご説明します。
2030年に起こるGDP首位の逆転
2030年、中国のトップが習近平のままであるかはまだ未定ですが、誰が国家主席になろうと、中国がGDP首位になるという見解が有力です。
2021年3月現在、中国の経済成長率は、新型コロナウイルスの感染拡大前の水準に戻っています。
早期にウイルスを抑え込むことに成功し、2020年通年も主要国で唯一プラス成長を維持しています。
GDP1位のアメリカの経済が未だに出口が見えずに苦闘している中、この中国の経済回復は、2030年に起こるとされているGDP首位の逆転を前倒しするのではないかという見解もあります。
※日本は現在3位ですが、2035年には4位に下がると予測されています。
それでは次に、今まで中国がどのようなGDPの成長を成し遂げてきたかを見ながら、実際に1位になるかどうかを様々な視点から見てみましょう。
世界首位を目指す中国のGDP
新型コロナウイルス感染拡大前の中国のGDP
https://mainichi.jp/articles/20201019/k00/00m/020/257000c
下記のように、中国の実質GDP成長率は年々下がっています。しかし、アメリカや日本はそれ以上に下がるか、停滞するため、中国は相対的に有利になるというのが大きな理由です。
中国は1970年代末から、経済の改革開放路線に踏み切り始め、市場経済化や外資の導入を開始し、2001 年にはWTO にも加盟。30 年以上年平均10%近い実質経済成長を遂げてきました。
その結果、2000 年代後半に、名目ドルベースで換算した中国のGDPは欧州主要国を、2010 年には日本を抜き、米国に次ぐ世界第二の経済規模へと成長しました。特に世界経済危機後の 5 年間(2008年~2013 年)は、先進国が伸び悩む中、人民元レート上昇も影響し中国の名目ドルベースGDPは約 2 倍に拡大しています。
習近平は2015年に「中国製造2025」を掲げ、先端分野に多額の補助金を投じてきました。対米摩擦の長期化をにらみ、21年からの新5カ年計画でも国内供給網の強化を狙ってきました。
https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2010s/2017/06/gir/index.html
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO38656320X01C18A2EA2000/
感染拡大後の中国GDP回復を後押しした2つの要因
中国国家統計局が発表した2020年10~12月の実質GDPは、前年同期比6.5%増となり、新型コロナ前の19年10~12月と比較して6.0%上回りました。
https://www.asahi.com/articles/photo/AS20200717000270.html
GDP成長率が増えた主な理由は下記の2つとされています。
新型コロナウイルス感染防止に関する輸出が増えた
中国では低迷していた海外への輸出額が、前年同月比で4か月連続のプラスとなり、GDPを押し上げました。
特に、感染防止に関連する製品の輸出が伸びていて、1月から9月までのマスクをはじめとする繊維品は、去年の同時期に比べて37.5%増えました。
国有企業が主に担うインフラ投資と20年後半の輸出が好調
金融緩和によって溢れたマネーが不動産市場に流れ込み、マンションの投資開発も鋼材やセメントなど原材料の生産が伸びました。
海外の工場がコロナ禍で稼働率が高まらず、中国に代理生産の需要が発生しました。20年後半は輸出も好調となりました。
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/190425/mcb1904250500001-n1.htm
しかし今後、中国にとって大きな悩みとなってくるのが、人口ボーナスの喪失と高齢化です。
これまで中国では、人口ボーナスで生産年齢にある人口が増加していたため、生産活動の拡大に有利に働いていましたが、今後は一人っ子政策の影響で高齢化が進むことが予測されており、経済成長の鈍化や高齢化社会への対応、社会保障の問題など避けて通れない問題に直面します。
一人っ子政策の緩和が打ち出されたものの、人口に効果が現れるまでには長い時間がかかるとされています。
中国に後を追われるアメリカ
それでは次にアメリカのGDPが近年どのような推移をしているのかを見てみましょう。
新型コロナ感染拡大前のアメリカのGDP
米商務省が発表した2019年の実質GDPは、前年比2.3%増と、16年以来3年ぶりの弱い伸びとなりました。
貿易摩擦に伴う設備投資の低迷が経済の重しとなり、資本支出の低迷が問題視されていました。
https://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh19-01/s1_19_1_2.html
米中貿易摩擦の影響は、製造業を中心に表れています。輸出は、サービス輸出が伸びを維持する一方で、製造業輸出は18年半ば以降急速に鈍化し、19年4月にマイナスに転じていました。
感染拡大後の落ち込みはリーマンショック以来
米国商務省が2020年1月28日に発表した2020年第4四半期の実質GDP成長率は、前期比年率4.0%となりました。
ブルームバーグの調査による市場コンセンサス予想の前期比4.2%を下回り、前期の33.4%から大きく回復が鈍化。
2020年通年の実質GDP成長率は、感染拡大の影響で前年比マイナス3.5%となり、通年では、リーマン・ショック時2009年以来11年ぶりのマイナス成長となってしまいました。
https://www.bbc.com/japanese/52481978
バイデン政権発足後初めてとなる。総額200兆円規模の経済対策の法案が可決・成立しました。
新型コロナウイルスで打撃を受けた労働者や家計を重視した内容で、日本円にして15万円の現金給付や失業保険の積み増しを2021年9月まで延長し、新型コロナの対応によって財政が悪化している州や自治体に向けても支援を強化する方針です。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66181990T11C20A1FF8000/
バイデン政権は、ウイグル自治区の少数民族ウイグル族の人権侵害への対処を最優先課題とし、米通商代表部は、バイデン政権の2021年の通商政策課題に関する報告書において、対立する中国の不公正な貿易慣行に対して「あらゆる手段を用いて対抗する」と表明しています。
今後の対中外交関係、米中貿易摩擦の行方が注目されています。
中国は本当にアメリカを抜くのか
2030年までに、中国はアメリカを抜くのではないかという意見が有力です。
しかし、ここ最近になって、「それは不可能だ」という少数派の意見も出てきました。両者の見解を見てみましょう。
中国が世界首位になるという意見・仮説の根拠
中国が2030年までにGDP首位になるという意見を主張する人は、どのような観点から言っているのでしょうか。
主に下記の4点が挙げられます。
新技術の開発力のレベルが高い
新型コロナウイルス向けのワクチンを例に取ってみると、アメリカやイギリスといった新薬開発で世界トップの国と互角に戦っており、1日当たりの製造量がそれらの国に比べて圧倒的に多いと言われています。
あらゆる分野の研究者数が多い
優れた大学院生など高度な研究者予備軍が非常に多いため、人材面で経済効果が期待できます。
鉱物資源が豊富
http://earthresources.sakura.ne.jp/er/Rres_CH.html
中国には、世界で知られている鉱物資源で採れないものはないと言われています。海外から鉄鉱石や石炭を輸入していますが、自国にある未掘削の価値のあるものは温存しています。例えば、石炭、無煙炭や高熱炭はたくさん採取できるものの、輸入した方が安く上がるものは輸入しています。
消費者の購買力がまだ成長途上にある
中国の人口の半分以上の中間層以上はその購買の勢いを持ち続けており、その下のクラスの層はまだ追い付いていない状態です。中国の消費者が買いたいもので、まだ手に届いていないものに車と住宅があります。この2つが売れる社会の産業は、全体的に強さを持つ傾向にあります。
中国は世界首位にならないという意見・仮説
中国の経済力が近い将来世界一の経済大国アメリカを超えるという説は一般的です。
しかしこれを覆す意見を、ロンドンの経済調査会社キャピタル・エコノミクスが発表しています。
中国の経済は2050年になってもアメリカを上回ることはできず、永遠に2番手のままと述べています。
中国の経済的影響力はアメリカのように着実には増加することはないと主張するのは、2030年までに中国の労働人口が年間0.5%以上減少し、アメリカの労働人口は移民増加と中国よりも高い出生率によって、今後30年間で拡大すると考えているからです。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所長のも下記2つの点で、「中国は首位にならない」と見ています。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000087.000011466.html
嶋中氏の予測の詳細を見てみましょう。
中国は2030年にGDPで米国を一旦上回ったとしてもその後失速する
- 社会インフラの投資周期をもとにした景気トレンドを示す「コンドラチェフ・サイクル」で考えると、中国は11~47年まで下降局面にある
- 「一人っ子政策」の副作用によって30年以降は人口減少に転じ、一方アメリカは、移民流入により高い出生率を維持し、40年にはGDPで中国を再逆転する
- 確かにアメリカも34年にはコンドラチェフ・サイクル上ではピークを迎えるため、その後は徐々に勢いが衰えるが、そこで中国が取って代わるのが難しいのは、ポルトガルに対するスペイン、英国に対するフランス・ドイツなど、「挑戦国」が覇権国に取って代わった例はない
- 覇権国に対抗して軍事拡大を急ぐあまり経済への対応がないがしろになったという多くの国の失敗事例が今の中国に当てはまる
- そのため、GDPで一時的に首位に立っても覇権国になることは無理である
次の覇権国はインドが有力である
- インドが最有力とする理由は、インドのコンドラチェフ・サイクルは2032年に底入れし、59年まで上昇が続くため
- インドは中国と異なり人口増加が続くだけでなく、年齢構成も相対的に若い点
- カースト制度の名残や性差別、不十分な衛生環境などの文化的未成熟な面が改善されれば期待ができる
https://www.coindeskjapan.com/93823/
米中のGDPは日本へどのように影響するのか
世界3位の日本経済は昨年4~6月期、パンデミックが国内消費や輸出に打撃を与え、戦後最悪の落ち込みを記録しました。
NEEDSは、日本経済は21年度の実質成長率が0.8%と、緩やかな拡大が続くと予測しています。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-03-12/QPVEXEDWLU6G01
新型コロナウイルスの拡大は,世界各地で経済活動に急ブレーキをかけ、物流を滞らせました。2020年の世界貿易の状況は非常に厳しい状況に陥り、各国の貿易は大幅な後退を余儀なくされ、日本も同様に2020年1~6月期の輸出は前年同期比14.0%減と落ち込みました。
自動車関連品目は急減
特に打撃を受けたのが輸送機器で、上半期の輸出額をみると、4月以降は世界各地で工場の稼働停止が相次ぎ、自動車は前年同期比29.9%減となりました。
半導体等電子部品類は増加が続く
一方、前年同期比プラスとなったのが、集積回路などの半導体等電子部品類で、前年同月比5.3%増となりました。
もともと世界の半導体需要が上向きのトレンドにあり、2019年8月から、コロナウィルスの影響を受けつつ2020年8月まで拡大が続きました。
感染拡大によってサプライチェーンの分断などマイナスの影響があった一方で、テレワークの急速な広がりやオンラインのニーズが高まり、半導体に対する底堅い需要が増加を後押ししました。
中国が2021年のGDP成長率の目標を「6.0%以上」と設定したことは、日本経済に追い風になると期待できます。
新型コロナウイルスの感染拡大をいち早く収束させ、経済活動を再開させた中国に対して、輸出のさらなる増加が見込まれているからです。
それでは対アメリカの輸出はどうでしょう。2020年5月における日本の対米貿易収支の黒字額は103億円でしたが、これは、1979年1月以降の最低となりました。自動車を中心に米国向け輸出が前年同月比50.6%も減少となって、対米収支が赤字になったのは非常に珍しいことです。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-06-17/QC1PEXT0G1KW01
しかし、農林中金総合研究所の南主席研究員は対アメリカの貿易赤字は「単にコロナの影響を反映したものだ」と指摘しており、コロナウイルスが収束すれば同時に回復するだろうと見ています。
最後に
2020年のパンデミックからいち早く脱出した中国ですが、2030年に中国がアメリカを追い抜くという当初の予定を前倒しするのでしょうか。中国がアメリカから首位奪還せず、首位になるのはインドであるという意見も非常に興味深いですね。今後中国を除く首位の有力候補であるアメリカとインドが、このパンデミックの危機からいかに脱出するかも大きなポイントになるでしょう。
<参考>
https://www.bbc.com/japanese/56066376
https://www.sankei.com/politics/news/210305/plt2103050018-n1.html
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2014/2014honbun_p/pdf/2014_02-01-03.pdf
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210307/k10012902021000.html
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/02/post-95677_1.php
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM185AU0Y1A110C2000000/?unlock=1
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2020/1001/4fcbeeffe1e7a4b2.html