少子化が進む各国(日本・米国・中国・タイ)の状況と対策。少子化とGDPの関係についての考察

日本にとって少子高齢化社会への対策は喫緊の課題となっていますが、特に少子化問題は深刻です。少子化問題は日本だけに限らず、先進国では共通の課題になりつつあります。では、各国は少子化問題にどのように向き合っているのでしょうか。

この記事では、少子化とGDPの関連性や、日本、アメリカ、中国、タイの4カ国における少子化の状況とその対策についてご紹介します。

GDPと人口の関係性

日本は少子高齢化が深刻化した1990年代ごろから、人口オーナス期に突入しました。

下記の図で、「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」を改めてご認識いただければと思います。

人口ボーナス

総合旅行プラットフォーム企業エアトリが2019年に行ったアンケート「少子化に対して危機感を覚えていますか?」の質問に対して、39.9%の方が「非常に危機感がある」回答し、32.9%の方が「やや危機感を覚える」と回答しています。

少子化危機感

https://www.airtrip-intl.com/news/2019/3094/

多くの国民が懸念している少子化。この人口減少に伴って、GDPはどのような影響を受けるのでしょうか。

GDP国内総生産とは、国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額のことで、つまり労働生産性が同じである場合は国の総人口が多いほど、GDPも高くなります。またGDPは経済規模を表す指標でもあり、「GDPの額が大きい=経済規模が大きい」という構図が成立し、つまりGDPの増加率が経済成長率を意味します。

それでは日本の人口推移とGDPの推移を見てみましょう。

GDP

https://bangking-yeah.com/2020/08/19/depopulation/

少子高齢化で問題として挙がるのが生産年齢人口が減少した際、日本経済の生産活動がどのように影響を受けるかという点です。

一国全体の経済活動の大きさを示す実質国内総生産(GDP)は、実質GDP = 国民一人あたりのGDP×総人口と計算されます。少子化で総人口は減少すれば当然ながらGDPも減少すると予測するのが自然でしょう。

仮に中国と日本の1人当たりのGDPが同じである場合、人口14億人の中国のGDP額は、1.2億人の日本の10倍以上あると言えます。

逆に言えば、日本が中国のGDPに追いつくためには、日本国民全員が中国人の10倍以上稼がなければなりません。

それだけ人口減少というのは、GDPの減少、つまりマイナス成長の大きな要因になり得ます。特に少子化が深刻化し、若い世代の人口が減少すると、労働力の低下に伴い経済成長率の低下が懸念されます(人口オーナス)。

日本の世界におけるGDPのランキングは2000年には2位、2018年には3位とそれほど大きく変化はありません。

世界GDP

https://woman.mynavi.jp/article/200803-17/

しかし、一人あたりの名目GDPを見てみると、2000年には2位だったのが、2018年には26位へと大幅に下落しています。

1人当たりの名目GDPランキング

https://woman.mynavi.jp/article/200803-17/

日本の場合、人口の減少に伴ってGDPが落ち込んでいるということが推測できるでしょう。

しかし、人口の減少や少子化が必ずしもGDPに影響するというわけではありません。人口が減少してもGDPが右肩上がりになっている珍しいケースもあります。

ドイツGDP

https://bangking-yeah.com/2020/08/19/depopulation/

実はドイツは日本と同じように2000年頃に人口のピークが起こって以降、一度減少してから増加傾向になっています。それでも総人口は停滞気味で伸びていませんが、GDPは右肩上がりになっています。

人口増加が伸び悩んでもGDPを伸ばせる国はごくわずかですが、国の施策次第でこのような成功事例もあるのです。

出生率はなぜ低下するのか?

下記のグラフを見てみると、世界の主要各国は出生率の低下に悩まされていることが分かります。

2065年に100億人を超すと言われていますが、この人口爆発は実際どこで起きているのでしょうか。それはアフリカ南部のサブサハラと呼ばれる諸国です。

出生率低下

https://toyokeizai.net/articles/-/224706?page=2

現在のサブサハラの実質GDP成長率は3.3%で、世界全体の成長率3.3%と同じです。このままで成長すれば、将来世界の成長率を上回ると予測されています。

サブサハラ
サブサハラGDP
IMG

https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/africa/seminar_reports/pdf/201212_material_takazaki.pdf

https://thesouth.jp/281/

外務省の『開発協力白書』では、「根強い貧困、経済格差、インフラ整備の遅れ、低い農業生産性、産業人材府毒などの問題を抱えて」いるとされるサブサハラ地域の出生率は、4.8という高い値となっています。

なぜ根強い貧困の国で、出生率が上がるのでしょうか。これは、「飢餓の心配がなくなると出生率は大きく下がる」ためです。

マウスなどの動物を実験で食料不足の状態に置くと多産化する傾向が認められていることと同じ現象が、人間界でも起こっているのです。

各国の少子化対策

少年たち

http://gahag.net/004338-kite-kids/

少子化に悩む各国にとって、サブサハラ地域の人口増加に伴うGDPの急上昇は、バックグラウンドも全く異なるため、どんなに真似しようとも不可能です。それでは、各国は独自にどのような対応を取っているか、見てみましょう。

日本

日本の少子化は、1970年代の半ばから進行しています。1973年の出生数は209万人で、合計特殊出生率は2.14人でした。合計特殊出生率とは、「15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの」と厚生労働省で定義されています。女性一人がその年の年齢別出生率において、一生の間に産むとしたときの子供の数、つまり「一人の女性が一生の間に産む子供の数」を意味します。

つまり1973年では、女性は一生の間に2人以上の子供を産むとされていました。しかし2017年時点では1.43人と、平均して一人の女性の出産数が2人を大幅に下回る結果となりました。

少子化の主な要因としては未婚化、晩婚化、出生力の低下が挙げられます。女性の社会進出や、独身を楽しみたいという女性が増えたことが、女性の結婚観を変化させたと言われています。

日本の少子化対策として、子育てに焦点を当てた取り組みがあります。待機児童の問題を解消するため、「待機児童解消加速プラン」を策定しました。待機児童解消に意欲的な自治体には積極的に支援し、結果として集中期間であった2013年、2014年には保育の受け皿として約22万人を確保することに成功し、目標の22万人を上回ることができました。

アメリカ 

アメリカは人口3億3100万人(2020年現在)と、中国、インドに次いでと世界第3位の大国です。先進国の中でも人口増加している国ではありますが、最近では人口の増加率が年々減少してきています。かつては2%近くまであった対前年人口増加率も、2018年時点では0.6%程度と増加率は鈍化している状況です。

人口増加率の低下の要因はいくつかあります。死亡率の増加、移民の流入の減少なども要因の一つですが、出生率の低下が最も大きな要因であると言われています。1960年代には3.5人以上あった出生率も、1970年代に入って2.0人を下回る水準となりました。80年代後半から徐々に盛り返し、2007年では2.12人まで回復しました。しかしそれ以降は下降傾向になり、2018年時点では1.77人程度と約10年の間で減少幅は非常に大きくなっています。

とはいえ、日本と比較すればまだ高い水準をキープできています。その要因として、育児休暇などの公的な保育サービスはないものの、民間の保育サービスの発達が挙げられます。さらには、子育て前後のキャリアの継続が容易であること、子育て後の再雇用制度が充実していることが高い出生率を維持できている要因でもあります。

中国 

1960年代のピーク時、中国の出生率は6.38人と非常に高い水準でした。これほどまでに高い出生率が続いたことにより、人口が爆発的に増加しました。そこで中国政府は1979年から、人口爆発を抑制しようと「一人っ子政策」を開始しました。一人っ子政策により、一組の夫婦は1人の子供しか出産することができません。

その結果、人口の抑制には成功したものの出生数が大幅に減少し、現在では逆に少子化が大きな問題となっています。人口抑制という効果はあったものの、一人っ子政策の副作用は非常に大きかったと言えるでしょう。

少子化の流れを抑制しようと、2016年に一人っ子政策が廃止しました。結果として出生率は一旦は回復したものの、2020年では1.3人と日本と同水準まで低下しました。一人っ子政策が少子化へ与えた影響が大きかったこともあり、少子化対策の一環として、全家庭に2人の子供を持つこと、いわゆる「二人っ子政策」が2016年より開始されました。

一時的には効果はあったものの、出生数は2018年以降再び下降傾向に入り、効果は限定的でした。

そこで専門家は、二人っ子政策を廃止し、出産を奨励する取り組みを推進するべきであると主張しています。さらには親の経済的負担を低減するため、住まいや教育面に対する負担削減を呼びかけています。

2021年5月31日、習近平国家主席が開いた共産党中央政治局会議の中で、「高齢化への積極的な対応策として生育政策を改善すべき、一組の夫婦に子ども3人までの「三人っ子政策」を実施し、関連の支援策もセットで導入する」と発表し、中国国内メディアが一斉に報じました。

たちまち、百度(バイドゥ)や微博(ウェイボー)などのサイトで軒並み注目ランキング1位となって、SNSでの書き込みが溢れかえっています。

中国政府がこの政策を早晩打ち出すことは皆予想しておりました。

タイ 

日本よりも急速に高齢化が進んでいるタイですが、出生率も2017年時点で1.5人と日本とほぼ同じ水準であり、少子化も深刻です。しかし、以前は出生率が非常に高い水準であり、タイ政府は出生数を抑制しようとあらゆる政策を打ち出してきました。

1970年以前は5.0人を上回る水準で推移しており、人口増加も著しい状況でしたが1970年以降、一人当たりの教育や医療支出を増やそうと、家族計画と呼ばれる出生数を抑制する政策を奨励しました。その結果、出生率は急激に低下しました。

出生率の低下は、女性の結婚観にも顕著に現れています。ある大学の研究所が実施したアンケート調査においても、未婚化、晩婚化、出産を望む女性の低下など、ライフスタイルの多様化に伴う結婚観の変化が浮き彫りになりました。

少子化を抑制しようと、タイでは2018年から子ども一人当たりに申告できる個人所得税の控除額を2倍に引き上げました。他にも待機児童の解消、行政主導の婚活支援、不妊治療対策など、様々な取り組みを行っています。

爆発的な人口増に悩むインド

インド

https://diamond.jp/articles/-/2752

インドは世界第二の大国であり、2018年の出生数は2500万人と驚異的な数字となっています。将来的には中国の人口を上回るとまで言われているインドですが、増える人口をいかに養っていくかという問題に直面しています。他の4カ国とは違った側面から悩みを抱えています。

特に雇用の問題が深刻です。若者の雇用を守るため、インドでは国家事業として高速鉄道網を整備し、インフラの活性化を図っています。さらにインド政府は、「make in India」というスローガンを掲げ、巨大な製造ラインを保持し、製造業の雇用対策も行われています。

まとめ

現在、インドのように人口増加が問題となっている国もありますが、世界的にみれば少子化に悩む国は非常に多いです。

対策としては、いかに子どもを産みやすい環境を整備するか、待機児童の削減や親の経済的負担を低減することを重点課題として取り組んでいる国が多いと言えるでしょう。タイでは、行政の活動の一環として、結婚を後押しする取り組みも行っています。今回は紹介しませんでしたが、少子化対策の成功国スウェーデンでは、育児休業取得率を上げるために、育児休業制度の制度化を図っています。

少子化により人口減少、特に将来の働き手である若者の人口減少は、マイナス成長の要因となります。経済成長の面からも、各国の少子化対策は急務と言えるでしょう。

<参考>
https://datatopics.worldbank.org/world-development-indicators/

https://gooddo.jp/magazine/health/low_birthrate_and_aging/low_birthrate/

https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1261.html

https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1191.html

https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/rim/pdf/10950.pdf

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/16695?page=2

https://www.jcer.or.jp/j-column/column-saito/20191118-5.html

https://www.afpbb.com/articles/-/3344031

https://www.sankeibiz.jp/macro/news/210223/mcb2102231710017-n1.htm

https://fstandard.co.jp/column/asset-management/1160

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s3_2_11.html

https://www.center-mie.or.jp/frente/data/zemi/detail/469

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