2016年3月、Google傘下のAIビジネスの企業であるDeepMind社の「AlphaGo」が、囲碁で韓国のトッププロ棋士に勝利しました。囲碁でAIが人に勝つまでには、2025年以降だと言われたことから、このニュースは世界の注目を集めました。
2015年以前のAIは、アマチュアのレベルに達するのがやっとでしたが、このAIの急激な発展を支えたのが、「学習」させる技術の進化です。
AIの学習のための技術には、主に2種類の技術があります。
すでに「機械学習」や「深層学習」の2つであることをご存知の方も多いでしょう。
富士キメラ総研の調査では、日本のAIビジネスの市場規模は、2016年度の約2700億円、2030年度には約10倍の2兆円に達するとされています。業種別でみると特に公共・社会インフラでの成長率が著しく、同期間の拡大幅は約30倍に及ぶようです。
ここでは、機械学習と深層学習を分かりやすく説明し、注目の日本のAI企業と、AIで目覚ましい革新を遂げるイスラエルのAIビジネスの現状について紹介します。
機械学習(マシンラーニング)と深層学習(ディープラーニング)
AI、機械学習、深層学習はそれぞれどのような関係にあるのでしょうか。
まず、前提として、下記の図のように、広義|AI→機械学習 →深層学習|狭義という、AIという概念の中に機械学習が、機械学習の中に深層学習という概念が入るという関係性になっています。
https://markezine.jp/article/detail/29471
機械学習は、データの中のどの要素が結果に影響を及ぼしているかを人間が判断、調整することによって予測や認識の精度を上げています。一方、深層学習はデータの中に存在しているパターンやルールを発見し、特徴量の設定、学習なども機械が自動的に行います。
これらの2つには、人間が判断するかしないかの違いがあります。例えば、リンゴを使った画像認識で考えてみましょう。
機械学習の場合
1枚1枚に「赤いリンゴ」と「青いリンゴ」のタグを付けた大量のリンゴの画像をAIに読み込ませて、「色に着目して区別しなさい」とAIに指示を与えます。
そうすると、まだ解析されていないリンゴの画像が出てきた際、AIはリンゴの色に着目し、「赤いリンゴ」なのか「青いリンゴ」なのかを自ら区別するように学習します。
深層学習の場合
機械学習では「色」に着目するように指示されていましたが、深層学習では、区別するために「どこに着目すればよいか」をAIが自分で学習し、性能を向上させていきます。
深層学習は膨大なデータを見ることで、着眼点を自分で学習し、人間の指示を待たずして自動でどんどん賢くなっていくのです。
深層学習によって人間が見つけられない特徴を学習できるようになり、人の認識・判断では限界のあった画像認識・翻訳・自動運転などの技術が飛躍的に上がっています。
機械学習が使われる場面
機械学習アルゴリズムは、データの中に自然なパターンを発見し、それによって得られる洞察を基に、より良い意思決定と予測を行います。これらは、株取引などの金融工学、医療診断・創薬、エネルギー負荷予測、チャットボットなどの自然言語処理などの重要な決定を行うために使用されます。
その他の事例では、下記のようなものがあります。
メディアポータル
機械学習により何百万もの選択肢から、あなたのおすすめの歌や映画を提供します。小売業者は、顧客の購買行動からインサイトを得るために、機械学習を使用しています。
迷惑メールフィルタ
機械学習の活用例です。メールの情報を大量に学習させ、迷惑メールを自動で識別します。
画像認識
人の画像を大量に読み込ませることで画像中の人の顔を認識することもできます。
深層学習が使われる場面
深層学習では、人間の神経を模倣して作った「ニューラルネットワーク」によってコンピューターによるデータ分析と学習を強力なものにしています。
https://www.cogent.co.jp/blog/deep-learning-ai/
この深層学習を使ったタクシーのサービスをご紹介します。
https://www.nttdocomo.co.jp/biz/casestudy/kumataku/
現在から30分後までのタクシーの需要を予測し、ドライバーへオンラインで配信される「AIタクシー」は、日時や乗り降り場所などのタクシーの運行データ、周辺施設のデータ、気象データに加え、NTTドコモが保有する全国の性別や年齢の人のデータを深層学習によって解析し、移動する需要の予測をします。このことで人の流れをリアルタイムで把握でき、電車の遅延やイベントで変動する需要にも対応できます。
経験の少ない新人ドライバーがベテランと同じパフォーマンスを発揮することが可能です。このシステムを導入した熊本タクシー株式会社では、新人ドライバーの売上が上がり、ベテランドライバーの売り上げを上回る日もあるようです。
https://www.nttdocomo.co.jp/biz/casestudy/kumataku/
画像認識の場合の機械学習と深層学習の違い
機械学習は、まず人間がアルゴリズムを設定し、その後機械に学習させます。人間が「頭」や「目の位置」などの特徴を抽出・設計し、人かどうかを機械に判断させます。
それに対し、深層学習は、機械自らが特徴を、自動で抽出・設計し自動的に判断します。
深層学習のメリットは処理速度の早さです。イノシシの被害対策として導入された、画像解析のシステム構築において、従来の画像処理の場合は、檻に入った動物がイノシシなのか他の動物なのかを判別するのに半年から1年かかります。
一方、深層学習では、たったの3日間の学習で同じ結果を得ることができます。
機械学習でかかっていた時間や人件費などのコストを大幅に削減できるのが深層学習の強みです。
上場AI企業
AI分析の先端企業、ABEJA
https://jp.techcrunch.com/2018/12/04/abeja-fundrasing/
ABEJAは、深層学習を活用しプログラミングなしにブラウザ上で、自社のビジネスに合わせてAIモデルを作成し、運用できる「ABEJA Platform」を開発したAIベンチャー。
サイバーエージェント、メルカリ、トプコン、デンソーなど大手企業を含む250社以上に提供しています。ある導入企業が運用コストを50%以上削減した事例もあります。
日本経済新聞社の「NEXTユニコーン調査」によるとABEJAの推定企業価値は279億円。
DX推進を力強く支援するプロジェクトを行っている点が特徴的で、2020年から新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「ABEJA Platform」を活用したDX推進を推し進めています。
AI inside手書き書類データ化AI、金融・公共機関に積極販売
東証マザーズ上場のAI insideは、深層学習で⼿書き、活字、写真撮影した書類などを、大量の紙の書類を高精度に自動で仕分けて、データ化するサービス「DX Suite」を提供しています。
この主力商品の契約実績は、2020年6月時点で5800以上と、市場でシェア首位を誇っています。特に情報サービス業界最大手SIerと業務提携するなど、金融機関や公共機関を中心に積極的に販売しています。
株価は2020年12月の上場時から、約10カ月で約6倍となり、時価総額は2200億円規模です。
メルカリやSansanなどと肩を並べて東証マザーズ市場における時価総額ランキングでトップ10入りしています。
PKSHA: 複数のアルゴリズムモジュールを提供
東証マザーズ上場のパークシャテクノロジーは、深層学習などを用いた複数のアルゴリズムモジュールを提供しています。代表取締役の上野氏は、AI研究の第一人者とされる松尾豊東大大学院教授の研究室出身。
2012年の創業から間もなく NTTドコモ、東京電力、リクルートなどの大手企業と取引をスタートしました。
自然言語処理技術を用いた汎用型対話エンジン「BEDORE(ベドア)」や、顧客行動の予測・推論エンジンの「PREDICO(プレディコ)」などのソフトがあります。
同社は、ベンチャービジネスのコンテストにおいて受賞歴も多く、その将来性は高く評価されています。
※松尾豊
東京大学大学院工学系研究科教で教授を務める工学者。日本深層学習協会理事長、ソフトバンクグループ社外取締役。人工知能、深層学習、ウェブ工学などが専門分野で、ソーシャルメディアから現実世界の動向を分析する「ソーシャルセンサ」の概念を世界で初めて提唱した、国内で深層学習の普及、産業活用に貢献しています。
ニューラルポケット:ファッショントレンド解析AI
東証マザーズ上場のニューラルポケットは、画像や映像を解析する独自 AI 技術を用いることで、スマートシティやファッションなどの分野でビジネスを支援する企業です。
https://shopforce.jp/blog/2561/
世界初のファッショントレンド分析「AI-MD」は、「第2回深層学習ビジネス活用アワード」におけるファッション部門で優秀賞を受賞しています。三陽商会は、このサービスを導入し、シーズン展開頭での需要予測の精度やプロパー消化率、余剰在庫の抑制を図り、売上向上を図っています。
予めトレンド分析や顧客動向の予測をすることで、個々の消費者に対する最適なアプローチが可能になります。
同社はスマートシティ関連サービスも行っており、不動産デベロッパーや官公庁、小売業などの各種企業・団体にAI ソリューションを提供しています。
FRONTEO:リーガルテック、 創薬、 新型コロナ分析
FRONTEOは、自然言語処理に特化したデータ解析を行う東証マザーズ上場している企業です。少量の教師データであっても短時間で高精度な解析結果を導きす独自開発のAIエンジン「KIBIT(キビット)」が主力商品で、リーガルテックやライフサイエンス領域に強みを持っています。
近年は創薬や新型コロナウイルス関連の分野でも存在感を増しており、時価総額は300億円前後です。
https://www.fronteo.com/products/kibit/
世界のAI研究をリードするアメリカと、アメリカの研究開発拠点化が進むイスラエル
世界のAI研究をリードする国をランキングを見てみると、1位がアメリカ、2位が中国。日本は9位にランクインしています。世界のAI研究をリードしている機関はGoogleであり、その貢献度は他を圧倒しているます。
https://ainow.ai/2021/02/25/252580/
Apple、Amazon、アリババなどの世界的な企業が続々とイスラエルに研究拠点をおいています。
その数はなんと300社以上。そのイスラエルは、今となっては「IT大国」とも呼ばれ、特にセキュリティの分野において高い技術力が世界的に評価されています。
イスラエルでは、IT産業が盛んなだけでなく、AI分野でもブームが起こっています。ここではイスラエルの革新的なAI企業を3社紹介します。
Alooma:データ量の移り変わりや流れを可視化
https://www.asapdevelopers.com/portfolio/alooma/
Googleが買収したスタートアップ企業Aloomaは、企業データのクラウドへの移行し、データを整理してAIエンジンで利用できるサービスを展開しています。
例えば、自動車やスマートフォンなど複数の通信が、どのくらいのデータ流量なのかを把握することで、どこで遅延しているのか、どこでハッキングされているのかを知ることができます。
ASKA Drive & Fly: NFT
垂直離着陸で飛行もできる電気自動車「ASKA」を展開するNFTです。ASKAは、ハイブリッドエンジンを搭載し、飛行する際に使用する翼は折り畳んで収納可能で、通常の自動車サイズに収まるような設計になっています。
自動車として道路を走行することもでき、AI駆動でパイロットは不要です。車両は最大3人まで収容できます。
Edgybees:ドローン×ARで災害時の現場確認
ドローン向けのAR技術を開発する企業です。ドローン搭載カメラが、撮影している映像にリアルタイムでARコンテンツを重ねる技術を開発。災害や事故の際の現場確認に利用されるようです。
最後に
機械学習と深層学習の違い、国内外の最先端のAI企業のご紹介をしました。今後急速にAI化が進み、私達の業務も効率化される場面が増えるのは嬉しいことですね。
<参考>
https://www.oracle.com/jp/data-science/machine-learning/what-is-machine-learning/
https://innovation.mufg.jp/detail/id=93
https://ai-trend.jp/business-article/ai-service/attention-ai-company/
https://www.data-artist.com/contents/ai-company-list.html
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/2003/12/news018.html
https://ainow.ai/2019/04/19/167991/
https://www.sbbit.jp/article/cont1/37697
https://getnavi.jp/world/492353/2/
https://www.acrovision.jp/service/data/?p=401