日立のグローバル事業再編。Lumadaを軸にした製造業×IT×ダイバーシティで世界最強のデジタル会社への転換なるか

過去、世界でトップを走っていた日本の家電産業は、現在その座を中国、韓国などに奪われつつあります。それに伴い日本の家電業界は低迷、現在各社で事業再編が加速しています。

このような状況の中、家電事業も含め日本で唯一のコングロマリット企業である「日立製作所」が大きく変わりつつあります。その改革の中心にあるもの、それが「Lumada」です。

Lumada

日立はLumadaを中心とした事業改革で2008年のリーマンショック時、7千億以上の赤字計上から見事に復活を遂げています。

このLumadaとはどのようなサービスなのでしょうか。今回はその日立製作所と、DXソリューションLumadaについて徹底解説します。

※このコラムは日立グループのIRなどオープン情報を軸に整理しています。

日立製作所の歴史と現在について

まず、Lumadaの説明に入る前に、日立製作所の歴史と現在について見てみましょう。日立製作所は日立グループの中核であり、創業100年を迎えた老舗総合電機メーカーです。

日立グループは約950社の名だたる企業が名を連ね、その中には金属、化学、金融、ITなど幅広い分野にわたっています。米国誌「フォーブス」では日本で唯一のコングロマリット企業に分類されているほどです。

ただこの日立製作所、および日立グループは2000年頃より事業再編に踏み切り始めています。

特に2008年のリーマンショックにより巨額の赤字を計上して以降、主にポラリティ(変動率)の高い事業は積極的に切り離しを進めています。

それは日立御三家と言われた、日立化成、日立金属、日立電線も切り離し対象に含まれるほど、本腰を入れて再編を進めています。

日立はIoTの共通基盤Lumadaを事業の中核に舵を切り始めています。

子会社売却の判断基準の一つにはこのLumadaとの親和性も挙げられ、素材事業が切り離される中、親和性の高いとされる「日立建機」は売却対象に挙げられていません。

おそらくコマツなどと同じく、DXを利用した建機の事業展開を考えているものと考えられます。

最近では日立は、ダイバーシティー(多様性)を事業戦略に組み込む方針を打ち出したり、役員層に占める女性の比率を2030年度までに30%まで引き上げるなどの目標を掲げ、更にこの戦略を強化しています。

ダイバーシティ

https://www.hitachi.co.jp/sustainability/labor/diversity/index.html

女性管理職推移
外国人役員

今後、日立のこれらの戦略と、Lumadaへの注力化の相乗効果が期待されています。

Lumadaのサービスとは

Lumadaソリューション

https://www.hitachi.co.jp/IR/library/integrated/2019/ar2019j_19.pdf

Lumadaデジタルソリューション

Lumadaは、DXやIoTのプラットフォームとして考えられることも多いですが、実際は違います。Lumadaとは、DXを通じてお客様に新たな体験・業務のあり方を与える事であり、そのために作られたサービス・ソリューション・テクノロジーの総称と日立は解説しています。

コングロマリット企業としてあらゆる分野で活躍してきた日立でなければできないサービスとも言えるでしょう。

ITやDXに詳しくない方にとってLumadaのサービスをイメージすることは難しいかもしれません。

分かりやすく理解していただくために、まず、どのような場面で使用することができ、どのような導入事例があるかを先にご紹介します。

ユースケースと事例

下記は日立が公開しているLumadaのユースケースです。「セキュリティ強化」から「予防保守」までと多岐に渡る事例があり、様々な業界に使用されていることが分かります。

ユースケース

https://www.hitachi.co.jp/IR/library/integrated/2019/ar2019j_19.pdf

それでは具体的にどのようなシーンで活用されるのか、事例を見てみましょう。

導入事例

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車は、2017年10月、製造業向けのIoTプラットフォーム展開に向け日立製作所との協業を発表しました。トヨタの改善ノウハウと日立のIoT技術を融合、新たな事業モデルを展開することを目指しLumadaを導入しました。

現状では製造現場の改善の為、Lumada利用を拡大しています。

株式会社アマダ

神奈川県で金属加工設備を製造するアマダは2019年より日立Lumadaの活用を開始されています。

2007年より製造現場に日立製の製造設備やロボットを導入し始めており、Lumada導入によりこれら設備と連携し生産データと直結するITとの融合を目指しています。

日立大みか事業所

上記はほんの一部の事例ですが、国内の大手企業から中小企業まで、積極的に利用されています。次に、日立の大みか事業所の事例における生産ラインの最適化の成功事例について見てみましょう。

Lumada大甕

https://www.hitachi.co.jp/IR/library/integrated/2019/ar2019j_19.pdf

電力、鉄道、上下水道などの社会インフラ向けの生産型製品である制御システムを手掛ける日立の大みか事業所では、「生産工程の進捗をリアルタイムに把握する必要」に迫られていました。そこでこの事業所では、約8万枚のRFIDタグと約450題のRFIDリーダーを導入し、事業所内の作業の進捗やモノの流れを細かく収集・分析しました。

さらに工程管理のシステムや生産管理システムなどの既存の情報も組み合わせて、より精度の高い生産計画の立案を実現しました。これにより、高効率生産モデルを確立し、代表的な製品のリードタイムを5割も短縮することに成功したのです。

Lumadaの特徴

それでは次にLumadaの特徴を、2つの視点から見てみましょう。

IT(情報工学)だけではなく、コングロマリット企業ならではのOT領域(制御工学)と業務体験の提供

1つ目は、日立のコングロマリット企業だからこそ出来るOTと業務体験の提供です。

つまりLumadaにはこれまでの日立のOT、さらに言えば製造業としての体験を盛り込んだDXサービスであることです。

一般的なDXサービスはITよりのプラットフォーム部分のみ提供するだけとなります。それは主にIT企業が提供しており、IT側の知見はあるものの、OT側の知見は持ち合わせておらずそれ以上提供できないからです。

よってデータ収集基盤とよばれるプラットフォーム部分は提供できてもすべての範囲について提供することはできないのです。

それに対し、日立はこれまで多くのグループ企業をかかえ、多くの事業を実施してきました。そこには金属や化学などの素材事業から、電車、自動車部品といった製造業、サービス、IT企業まで様々な事業が含まれています。

そして彼らはその各事業においてLumadaを使って事業改善しています。また、製造設備分野も携わっているため、設備センサーを含めたOT側にも非常に詳しく、多くの知見をもっています。

つまり日立はIT、OTのデバイスやプラットフォームに加え、各事業における改善ポイントややそれをDXでどう実現していくかというプロダクトも含めたトータルでのサポートが出来るわけです。

Lumadaがなぜ全てのサービスの総称と呼ばれるのかは、日立が各事業の知見や実現方法まで提供するだけの力を持ち合わせているからで、まさにコングロマリット企業故の強みといえるでしょう。

Made by Japan のDXプラットフォーム、ソリューション

2つ目は日本製のDXプラットフォーム、という点です。日本の製造業の特徴は高い品質と納期遵守の姿勢と言われています。そしてその品質を高めるために日々改善し続ける愚直な姿勢も日本らしさと言え、このことは世界からも注目されています。

日立は日本企業であり、上記でのべたような日本の製造業のマインドを理解しています。そして彼ら自身も常に改善し続け、その内容をLumadaとして提供しているのです。

すなわちLumadaはこれまでの日立のノウハウそのものを利用環境とともに提供するサービスです。

高い品質を確保する、そのマインド自体を体験として提供できるのも、Lumadaの特徴といえるでしょう。

Lumadaの売上と買収

資料『日立グループの成長戦略』でも述べられているように、日立はLumadaの強化を推し進めています。

Lumadaの強化

https://www.hitachi.co.jp/IR/library/integrated/2019/ar2019j_19.pdf

Lumadaの売上は、現状どのように成長しており、今後どのようになっていくのでしょうか。

Lumada売上高推移

https://www.weeklybcn.com/journal/explanation/detail/20201105_178069.html

Lumada事業は数年前から伸びが顕著で、コロナウイルス感染拡大が起こる以前は、伸びはほぼ確実なものとして予測されていました。

ルマーダ好調

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59766990Z20C20A5X13000/

それでもやはりコロナウイルス感染拡大の影響はありました。Lumadaの応用先である鉄道事業や建設機械の事業がコロナ渦で影響を受け、期待されていたほど大きい伸びではありませんでしたが、Lumada事業全体の通期(21年3月期)での見通しは、前年度比6%増の1兆1000億円と伸びを示しています。

しかし、新しく定義された売上目標で見てみると、1兆370億円に減るとされています。22年3月期では1兆4000億円を目指すものの、現状では2000億円足りません。

コロナ渦の影響も受け、目標達成への遅れも出ており、今後の更なる拡大が急務です。

そこで、日立はよりこのLumada事業の売上を加速化させるために、2021年3月、米のデジタルエンジニアリングサービスGlobalLogicを買収しています。

同社 のCEO東原氏は「Lumadaをグローバル展開を加速させるため。別の言葉で言うと『世界のLumada』にするための買収」と述べました。

GlobalLogic

https://ascii.jp/elem/000/004/049/4049729/

東原氏は、2025年を想定した際にCPS(サイバーフィジカルシテステム)がどんな形になるのか、そのときに日立が不足しているものは何かという観点から、不足を補ってくれる、最もフィットする会社を探していました。

GlobalLogic2

https://www.jeita.or.jp/cps/about/

チップからクラウドまでをつなぎ、各産業分野のノウハウと経験を持つGlobalLogicだったと語っています。

日立との大きなシナジーが見込まているため、「96億ドルの買収額は妥当だ」という同氏の発言ですが、今回の1兆円の買収は、日本の電機業界において過去最大規模となりました。

現在、Lumadaの売上比率は国内が7割です。

しかし、この買収をきっかけに海外比率が高まって逆転することもあるでしょう。

まさに「世界のLumada」の実現に向けてのファーストステップになるのではないでしょうか。

Lumadaの競合サービス「Mindsphere」

日本、および世界に打って出ているLumada事業の競合サービスに、ドイツのSIEMENS社のMindsphereがあります。

SIEMENS

https://sustainablejapan.jp/2019/05/12/siemens-gas-and-power/39501

SIEMENSは日立同様、製造業としてスタートした企業であり、その事業の幅は素材事業、鉄道、自動車部品、家電事業など日立同様コングロマリット企業となります。

2019年頃からシーメンスは、これまで中核だった発電事業を分社化し始め、縮小化しています。発電事業はそのまま残しましたが、事業の中核を下記2つに絞り、DXのサービスを強化しているのです。

  • スマートシティーに対応する「スマートインフラストラクチャー」
  • スマート工場や制御機器、製造業向けのソフトウェアなどを手掛ける「デジタルインダストリーズ」

そこでSIEMENSが注力しているIoTプラットフォームがMindsphere(マインドスフィア)です。

Mindsphereは、SIEMENS社のこれまでの経験値を積み上げお客様に体験を提供するIoTサービスです。

提供内容は日立とほぼ同じ内容ですが、ドイツのIndustrial 4.0の波に乗って日立より先にシェアを広げています。今や世界一の企業、GEを追い抜くともいわれているほどです。

Mindsphere

https://image.itmedia.co.jp/l/im/mn/articles/1906/25/l_sp_190625siemens_06.jpg#_ga=2.35571049.918070522.1621050891-1894137893.1619870944

Mindsphereのユーザー・顧客には3つのパターンがあります。

  1. 機器メーカーが機器データを収集する「データ基盤」として使うケース
  2. 工場及び生産ラインなどを運営するエンドユーザーが「現場のデータ収集」に活用するケース
  3. Mindsphereを活用して新たな製品やサービスなどを展開するパートナー

①②のケースは日立のLumadaとほぼ同じです。一方、大きく異なるのは③の顧客です。

Simenes営業部長

営業部門長のベイル氏が、Mindsphereの特徴として強調しているのが、開発コンセプトにも含む「オープンさ」です。 産業用IoTプラットフォームには、数多くの企業が参入し、独自の基盤を打ち出しています。

多くのIoTプラットフォームがありますが、Mindsphereと競合するものではなく、それらのサービス事業者と連携してシナジー効果を高めていくとしています。

最後に

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO71473880Y1A420C2TJ2000/?unlock=1

上記の図を見てみると、日立はSIEMENSに対して利益で近づくも、時価総額はまだ遠いと分かります。しかし、日立が業界最大規模と言われる買収を行い、SIEMENSのMindsphereを、勢いを上げて迫っていることは確かです。

SIEMENS以外の競合として日立は今後GAFAMも視野に入れなければなりません。

特にAWS、AzureなどにはIoTやAIに関するサービス提供が始まっているからです。

しかし、Lumadaにはこれらクラウドサービスにはない「体験」があります。

この強みを持って世界市場でプレゼンスを示し始める日は近いでしょう。

また、女性比率を高めダイバーシティ経営戦略を取る日立の今後のさらなる成長が期待されます。

<参考>
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1906/25/news053.html

https://news.aperza.jp/%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%80%81%E6%96%B0%E6%88%A6%E7%95%A5%E3%80%8Cvision2020%E3%80%8D-3%E3%81%A4%E3%81%AE%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%81%AB%E5%86%8D%E7%B7%A8/

https://ascii.jp/elem/000/004/049/4049729/

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO71473880Y1A420C2TJ2000/?unlock=1

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