習近平国家主席は、昨年「軍創設100年」をうたい、2027年を対アメリカ向け戦力強化と位置づけ、戦闘力を高めていると言われており、国防という名の元に、中国は軍備を拡大し続けています。
中国国務院(政府)の3月5日の発表では、2021年の国防費予算は前年比6.8%増の1兆3553億元(約22兆6000億円)ということが判明しました。
このコロナ禍にも関わらず、中国の軍事力強化の勢いは止まらず、過去最大の軍事費を投じようとしており、インドやフィリピンなど周辺国や、米国との緊張が高まる恐れがあると懸念されています。
このことは日本にとっても他人事ではありません。中国国防省は3月1日、ホームページで「尖閣諸島周辺への領海侵入を常態化する」と公表しています。
また、ますます過激になるウイグルへの弾圧。中国に対して各国はどのようなスタンスを取っているのでしょうか。ここでは、加速する中国の軍事費に見る脅威と、ウイグル弾圧の各国の対応についてご説明します。
このコロナ禍においても、中国は軍事力を増強、その力は世界の脅威となりつつあります。まさその範囲もリアルバトルの場だけでなくサイバー攻撃の範囲など幅も広がっています。
まず軍事費の推移を見た後に、増強している軍事費は何に使われているかをご説明します。
国防費の推移
3月、中国の国会にあたる「全人代(全国人民代表会議)」が開催され、この中で年間の国防費について決定されました。その金額は日本円にして22兆5000億円で、これは、前年比6.8%増、過去最大の金額と言われています。米国に次ぐ第2位、日本の国防費の4倍です。
大昔の事実を挙げた実質上の侵略活動も活発化しつつあ、南シナ海における人工島の構築や軍事基地の設置、沖縄の尖閣諸島における中国海警局の違法な公海侵害など、その悪質性は高くなりつつあります。
「海警法」を始めた侵略を正当化するような主張もなされており、世界各国から非難を浴びている状況です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM049BE0U1A300C2000000/?unlock=1
海軍
軍事費拡大の一つの背景に、「海軍」の増強があります。米海軍は20年に「米中が保有する艦船数の差はますます広がる」との試算を公表しているように、中国の艦船数は2020年は360隻でしたが、2030年には420隻になる試算です。
一方、米国は約300隻から2034年までに355隻増えるといった状況です。
https://www.sankei.com/world/news/191217/wor1912170025-n1.html
空母
空母の状況はどうでしょう。習指導部はウクライナから購入・改修した空母「遼寧」や、初の国産空母「山東」に続いて、上海で建造中の第3の空母を年内のうちに進水させる可能性があるようです。
空母が3隻に増えると実戦配備、整備、訓練に1隻ずつ割り振ることが可能になり、東・南シナ海に常時展開しやすくなります。遼寧や山東は、すでに台湾海峡周辺の軍事訓練に参加しています。
軍人への給料
「士気向上を狙った軍人の待遇改善」へ充てられていることも見逃せません。
複数の軍関係者によれば、今回の国防費には、新疆ウイグル自治区やチベット自治区などの辺境地域を守る軍人の給料を4割上げており、他の地域の軍人も2割増やす措置が盛り込まれています。
軍事費は海軍や空母だけでなく、新たな軍事設備の開発に投じられており、具体的には、中国製ステルス戦闘機、軍艦の開発、導入が積極的に行われています。
リアルだけでなくバーチャル世界での戦いへも予算を投入
またその軍事費はリアル世界だけでなく、バーチャル世界への戦いにも投じられています。
いわゆるサイバー攻撃に向け、ハッカーの育成や攻撃の為の環境構築など、表向きには出ていませんがかなり投資していると言われています。
実際にここ最近で発生している大型のサイバー攻撃の中には間接的に中国政府がかかわっているのではないかと言われる事案が複数発生しています。今やサイバー攻撃による機能停止や情報流出は国家、企業にとって死活問題となりつつありますので、この戦略は他国への脅威となるでしょう。
増加し続けるGDP
世界中がコロナウイルス感染拡大で苦しむ中、なぜ軍事費を増やす余裕があるのでしょうか。その理由の一つに、GDPの伸びが挙げられます。
中国はコロナウイルス感染拡大の抑止に、世界で最も早く成功し、経済を復活させています。コロナウイルス発生前、中国のGDPはどのような状態だったのでしょうか。
コロナウイルス感染拡大が発生する前のGDPとコロナウイルス感染拡大後から復活を遂げたGDPの状況を、それぞれ比較してみましょう。
2019年の中国のGDP
2019年の中国のGDP成長率は、それまでの勢いを失いつつありました。2019年の経済成長率は18年の6.6%を下回り6%強に低下、20年には6%を下回るのではないかと多くのエコノミストが述べています。
その主な理由が中国の年齢人口です。国連の最新の推計で15年に10億2200万人でピークを打ち、10年を境に、生産年齢人口比率は減少に転じると分かっています。今まで人口の多さによる労働力供給増によって成長していた中国は、GDPの伸び率についてはあまり期待されていませんでした。
しかし、このように成長のペースを緩めたとしても中国のGDPは30年までには米国と逆転すると、2019年の時点では予見されていました。
中国が表向きに公表している軍事費は、不透明さが見え隠れしており、実際にはもっと多額の費用を投じていると各国は想定しています。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/21631
上記の図は、三菱総合研究所の予測です。16年から20年にかけて6.5%もあった年平均実質成長率が、26~30年には4.1%まで低下するという前提であっても、20年代後半には「米中逆転」が起きることを示しています。
新型コロナ感染拡大後のGDP
中国の発表によれば、中国のGDPの伸び率は、2019年に比べて6.1%増と、他国に比べ非常に高い伸び率を示しています。李克強首相は、2021年のGDPの成長目標を6%としています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM152WO0V10C21A4000000/
各国が新型コロナウイルス感染拡大によって対応に苦しみ経済を失速させる中、この発言はとても強気と言えるでしょう。20年の1~3月の実質ベースでのGDPは、感染拡大が始まったピーク時期だったこともあり、前年同期比で6.8%減でした。
しかし、21年1~3月のGDPは19年の同期実績をなんと10.3%上回っているのです。なぜこのように他国に先駆けてGDPを伸ばしているのでしょうか。いくつかの理由を見てみましょう。
不動産販売
1~3月の販売面積は63.8%増。大都市で住宅ローンの厳格化などの取引規制の公表が相次いだことで購入を急ぐ動きが広がりました。
輸出
ドル建て輸出が前年同期を5割上回った。マスクやPCなど新型コロナ関連以外に衣料や玩具など伝統的な輸出品も好調でした。輸出から輸入を差し引いた貿易黒字は、前年同期の9倍となりました。
新型コロナウイルスから最も早く脱出し経済を復活させたことで、2030年に起こると予測されている「GDPの米中逆転」は前倒しになる可能性もあるかもしれません。
さらなる弾圧が続くウィグル地区
https://www.afpbb.com/articles/-/3338140
ウィグル地区への弾圧はさらに強まりつつあります。1955年に設立された中国最大の自治区であるウィグル地区はイスラム教徒が多いウィグル族が支配していた地域ですが、その後漢民族が大量に流入し、それと同時にイスラム教徒に対する弾圧が始まりました。
これは世界の人権団体やイスラム国家などから強く非難を受けておりますが、中国は徹底的な報道統制を取っており、その実態は明らかになっておりません。しかしながら逆らえば強制収容所送りとなることもあると言われており、その統制方法が世界中から問題視されています。
年々過激化しつつあり、世界中の脅威となりつつある中国に対し、各国の反応はどのような状況でしょうか。各国も脅威と感じており、中国に対し警鐘を鳴らす、制裁などで牽制しつつあります。
対中国政策として各国がどのような動きをしているのでしょうか。アメリカ、欧州諸国、日本の事例について見てみましょう。
アメリカ
2021年、新大統領となったバイデン氏は、対中国政策について各国との連携を積極的に行っています。
その一つはウィグル地区への人権問題に対する圧力です。ウィグル地区への人権侵害への関与について、欧州連合、カナダ、イギリスと共に制裁を加えていくことを決定しました。
またこれらの国々と今後も歩調を合わせ、制裁を継続する旨公言しています。
バイデン大統領は日本、台湾と連携し、激化する中国との競争において足並みをそろえることを約束しました。これはアジア太平洋地域で連携の軸を作りたいバイデン氏の思いが感じられます。
欧州諸国
欧州諸国では、人権侵害に対する非難や制裁が活発化しつつあります。EU諸国の中にはイスラム教国家も含まれるため、同じイスラム教であるウィグル地区の弾圧は許せないこととなっています。
イギリスのラーブ外相はウィグル地区で発生しているこれらの虐待を「現代最悪の人権危機の一つ」と非難を強めています。制裁は国家だけでなく、ウィグル地区で実際に弾圧を行っている、新疆公安局長の陳明国氏を含む複数の共産党幹部個人に対しても行われています。
また、米国などとの連携も強化し、中国包囲網を構築しつつあり、今後は各国で連携しさらなる制裁を行っていく可能性も考えられます。
日本
日本は、米国、EUの活動については承知しながらも、現時点では避難や透明性を中国に求め、制裁を行わない姿勢を示しており、一線を置く反応を示しています。
茂木外相は、「いかに皆が共有できる価値観を創っていくかが重要」とコメントしており、今時点で制裁まで行う考えはないことをしめしています。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021032301114&g=pol
加藤勝信官房長官は、3月23日の記者会見で、「人権問題のみを直接的な理由として制裁を行う規定はない」と指摘。外国人に資産凍結などの経済制裁を科す「外為法」の要件を引き合いに説明しました。
加藤氏は、この法の制裁の要件として「国際的な平和のための努力に寄与する」、「我が国の平和及び安全の維持」などを規定し、同自治区での人権弾圧についてこれらの要件に該当しないとの認識を示しました。
日本が深刻な懸念を表明しつつも制裁に慎重なのは、中国からの経済的な報復を受けることへの懸念があると見なされています。
各国対応に対する中国の反応
一方中国はアメリカ、EU各国の制裁を受け、反発を強めています。EUの制裁に対し、逆にEUの個人10人と4団体に逆制裁を貸すことを明らかにしています。その理由は「中国の主権と国益を損なう」というものです。制裁内容は対象者に対する中国への入国と商取引の禁止となっています。この中には欧州の国会議員や新疆政策専門家、学者などが含まれています。
また、領海侵略についても、各国の反応や対応に批判的な立場を崩していません。「東シナ海も尖閣諸島も中国固有の領土であり、領海を守ることに問題はない」という独自の主張を崩しておらず、領海侵略は現在まで続いている状況です。
中国のアキレス腱は「双循環」の崩壊
そんな中国のアキレス腱は習指導部が掲げる「双循環」の低迷です。これは外需、内需双方を拡大し循環させようという目標ですが、外需に危機が生じています。理由はアメリカとの経済摩擦により、「世界の工場」としての立場である中国の立場が危うくなってきていることです。元々米国をはじめとする世界先進国の生産活動により外需拡大を図ってきた中国はアメリカとの経済摩擦により低迷しつつあります。
コロナ禍により、国内観光や外食業などの内需にも影響が出てきており、経済全体の成長に危機が生じ始めていると言われています。
まだまだ続く経済摩擦とコロナ禍の影響は経済増強を重視している習指導部方針のアキレス腱となる可能性がでてきています。経済活動への停滞に対し、世界各国、および国内に対し、習指導部が今後どう動いていくかが世界から非常に注目されています。
最後に
このコロナ禍においても経済成長を続け、GDPの伸びを示し、軍事力を高めている中国。世界各国が中国の動きに対して脅威を抱いています。バイデン氏と首脳会談を行った菅首相は「対中強硬策」を取ると言われています。
日本はこれまでの中国への姿勢を180度転換する必要があり、中国との関係に緊張感はさらに高まるでしょう。
<参考>
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM152WO0V10C21A4000000/
https://president.jp/articles/-/44115?page=1
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-03-22/QQDGWAT0G1KY01