SAFとは、持続可能な航空燃料のことです。カーボンニュートラルを実現するための技術として注目されています。
現在は供給量が少ないなどの課題がありますが、2030年あるいは2050年には当たり前の技術になっていることでしょう。
そのような近未来の技術であるSAFを知りたいという方に向けて、本記事ではSAFの原料や製造方法、メリット・デメリット、各国・企業の取り組み事例について紹介します。
SAFとは?
SAFとは「持続可能な航空燃料」を意味するSustainable Aviation Fuelの頭文字からとった言葉です。具体的には廃食油やバイオマス燃料、都市ごみ、廃プラスチックなどから生産される代替航空燃料です。
SAFの主な原料と製造方法
SAFは様々な原料から作る技術があります。主な製造方法は以下の4つです。
・FTA合成
・HEFA
・ATJ
・合成燃料
各製造方法の原料や技術の概要について紹介します。
FTA合成
FTA合成は木くずや廃プラスチックなどをガス化し、触媒を使って液化することでSAFを製造する技術のことです。
FTA合成の原料は以下のとおりです。
・木くずなどのバイオマス
・廃プラスチックなどの都市ごみ
「三菱パワー」「東洋エンジニアリング」「JERA」「丸紅」などの事業者がFTA合成の取り組みを表明しています。
HEFA
HEFAは「Hydroprocessed Estersand Fatty Acids」の頭文字をとった言葉で、廃食油などを高圧下で水素化分解・還元してSAFを製造する技術です。
HEFAの原料は以下のとおりです。
・廃食油
・牛脂
・微細藻類
「IHI」「ユーグレナ」「日揮」などの事業者がHEFAの取り組みを表明しています。
ATJ
ATJは「Alcohol to JET」の頭文字をとった言葉で、エタノールを触媒により改質してSAFを製造する技術です。
ATJの原料は以下のとおりです。
・第1世代バイオエタノール(さとうきび・とうもろこし)
・第2世代バイオエタノール(非可食植物・古紙・廃棄物)
ベンチャー企業の「Bits」がATJの取り組みを表明しています。
合成燃料
合成燃料はカーボンリサイクル技術を活用し、排ガスなどから回収した水素を合成してSAFを製造する技術です。
合成燃料の原料は以下のとおりです。
・二酸化炭素
・水素
「ホンダ」は飛行機・大型トラック・レース用の燃料として、合成燃料の開発を進めています。
SAFの市場規模
2020年の世界のSAF供給量は6.5万kLで、世界ジェット燃料供給量のわずか0.03%でした。しかしカーボンニュートラルの実現のために、今後はSAFの需要が急拡大すると予想されています。2050年の世界のSAF需要は4.1億kL~5.5億kLの見込みで、世界のジェット燃料の9割相当にもなります。
このことからも、SAFは今後注目されている技術の1つとわかるでしょう。
SAFのメリット・デメリット
SAFは2つのメリットにより注目されている技術ですが、2つのデメリットもあります。この章ではSAFについて理解を深めるために、メリット・デメリットを詳しく解説します。
メリット | ・CO2の排出量が増えない ・従来の燃料と同じように使用できる |
デメリット | ・供給量が少ない ・価格が高い |
メリット① CO2の排出量が増えない
SAFのメリットはCO2の排出量が増えないことです。例えばバイオマスを原料に製造したSAFの場合、原料が植物由来なので植物が取り込んだCO2を燃焼時に排出したと考えられるため、地表のCO2が増えたことになりません。
一方、従来のジェット燃料は原油を精製し製造しています。化石燃料を燃焼させると、本来地中に埋まっていた炭素由来のCO2が地表に増えてしまい、温暖化の原因となるのです。
メリット② 従来のジェット燃料と同じように使用できる
SAFのメリットは、従来のジェット燃料と同じように使用できることです。つまり、飛行機など従来の設備をそのまま使用できるため、ジェット燃料からSAFに移行することで脱炭素社会の実現に近づきます。
デメリット①供給量が少ない
先述したように2020年のSAFの供給量は6.5万kLで、世界のジェット燃料供給量のわずか0.03%しかありません。この供給量の少なさがSAFのデメリットです。
わずかな量しかないため、使おうにも使えないのが現状といえます。
供給量が少ない原因は、十分な量の原材料を確保することが困難なためです。例えば、廃食油は回収できる量に限界があるため、生産量を増やそうとしても上限があります。
SAFはどのように原料を確保するかが課題になっています。
デメリット②価格が高い
SAFのデメリットは価格が高いことです。価格が高い理由は、製造コストの高さと原材料の十分な量の確保が困難なことが挙げられます。2020年時点で化石燃料由来のジェット燃料と比較して、SAFは平均2~4倍の価格です。
ただし価格が高いというデメリットは、生産量が拡大することで緩和されると予想されています。
各国の目標・規制・支援などの取り組み
世界各国ではカーボンニュートラルの実現に向けて、SAF推進の動きが活発です。この章では日本・アメリカ・欧州の目標や規制、支援などの取り組みについて紹介します。
日本
日本の目標は、2030年時点のSAF使用量を「本邦エアラインによる燃料使用量の10%をSAFに置き換える」です。
目標の実現のために、技術的・経済的な課題を官民で協議・共有する場として「SAF官民協議会」を設置しています。
また原材料の確保のために、資源エネルギー庁・農林水産省・環境省・国土交通省が連携し、原材料の国内調達比率の向上に向けた各省のアクションプランを年内に策定予定です。
アメリカ
アメリカの目標は、2030年のSAF供給量を30億ガロンにすることです。30億ガロンは、アメリカ国内での航空燃料消費量の1割に相当します。
支援策として、「IRA」と「RFS・LCFS」があります。
・IRA(インフレ抑制法)
GHG削除率が50%以上のSAFをケロシンに混合する事業者に対して、最大1ガロンあたり1.75ドルを控除する制度です。GHGとは温室効果ガス、ケロシンは灯油に近い燃料を意味します。
・RFS(再生可能燃料基準)・LCFS(加州低炭素燃料基準)
燃料供給事業者に対して、バイオ燃料の混合・供給や炭素強度の低減を義務付けています。さらにSAFの製造により生じるクレジットを、燃料供給事業者に対して売却することで収益が得られる仕組みです。
このRFS・LCFSによるクレジットの売却益により、SAFの価格を抑えられると期待されています。
欧州
欧州は航空燃料供給者に対して、EU域内で供給する航空燃料に一定比率以上のSAF・合成燃料の混合を義務付けています。具体的な比率は以下のとおりです。
2025年 | 2030年 | 2035年 | 2040年 | 2045年 | 2050年 | |
SAF | 2% | 6% | 20% | 34% | 42% | 70% |
うち合成燃料 | – | 1.2% | 5% | 10% | 15% | 35% |
このように段階的に比率を上げることで、2050年にSAFの比率が70%以上になることを目指しています。
欧州の支援策は「EU-ETS」「EU課税指令」に加えて、各国空港での支援があります。
・EU-ETS(EC域内排出量取引制度)
EU-ETSとは欧州圏内における二酸化炭素や環境汚染物質の排出量を減らす取り組みのことで、対象となる企業に対して、一定期間中の排出量の上限が課されます。そのEC-ETSにおいて、SAFの場合は排出ゼロとして扱われ、航空会社においてはSAFの使用量に応じて排出枠が振り当てられます。つまり、SAFを供給・使用するほど、クレジットを売却することで利益を得ることが可能です。
・EU課税指令
EU課税指令により、航空燃料の税率を2023年~2033年にかけて段階的に引き上げる見込みですが、SAFは税率が引きあがらず税制負担がかかりません。
・各国空港での支援
来航地としての競争力強化を目的に、各国空港が実施している支援策です。例えばドイツのデュッセルドルフ空港では、SAF1トンあたり250ユーロを支援しています。
企業の取り組み事例
具体的な事例として、日本の航空会社におけるSAFの取り組みを紹介します。
JAL
出典:JAL
JALは日本政府と同様に「2030年の全燃料搭載量の10%をSAFに置き換える」を目標に、官民一体でSAFの商業化に取り組んでいる企業です。
実際に国際線定期便へのSAF搭載や、SAF製造事業への出資により目標達成に向けた取り組みを加速させています。
具体的に2021年には、衣料品を原材料にSAFを製造しフライトに搭載する「10万着で飛ばそう!JALバイオジェット燃料フライト」を実現しました。このほかにも木くずや微細木綿を原料とした国産SAFの開発に成功しています。
ANA
出典:ANA
ANAは「2030年の消費燃料の10%以上をSAFへ置き換える」に加えて、「2050年に航空機から排出するCO2を実質ゼロへ」を目標に掲げている企業です。
商業規模のSAFを調達し、2020年には成田・羽田空港を出発する定期便として初のフライトを実施しています。
2022年には「SAF Flight Initiative: For the Next Generation」をスタートさせ、SAFを活用し産業バリューチェーン全体のCO2排出削減に貢献しています。SAF Flight Initiative: For the Next Generationは、ANAが荷主企業に対してCO2削減証書を発行するサービスです。
まとめ
SAFは供給量が少ない、価格が高いなど課題がまだまだ多い技術です。しかしCO2を削減するためには、必須の技術ともいえます。 2030年の日本政府の目標をどのように達成するのか、2050年の世界需要に供給が追い付くかなど、今後の展開に注目していきましょう。