7月半ば、新型コロナウイルスが米国に大打撃を与え、中国は危機を脱して回復が見えていました。中国内の交流サイトでは、「中国が9世紀前半のアヘン戦争敗戦前に返り咲いた。」と盛り上がりを見せていたようです。
トランプ大統領による「チャイナウイルス」発言にもあるように、米中関係は「国交樹立以来で最悪」と言われほどにまで発展し、中国は米国との対立が長引くことを加味し、ハイテク技術などの内製化を急いでいます。
10月29日、中国共産党の最高決定機関「五中全会」が開催され、習近平国家主席は、自身が長期政権を築く意向を示し、「35年までにGDPと1人当たりの収入を2倍にする」との見通しを表明。
2021~25年の草案である「第14次5カ年計画」ではどのような事項が目標に定められたのでしょうか。
ここでは「五中全会」で議論された中国の今後の経済施策、中国共産党の脅威、米中関係についてご紹介します。
五中全会で議論された長期目標とは
五中全会は、中国共産党の最高指導機関とされる中央委員会が開催する会議で、通常は中期的な経済や社会の数値目標について議論が交わされます。
しかし今回の五中全会はそれだけでなく、米中関係の悪化などの非常時に備え、外需に依存せずに国内経済を揺るぎないものにする政策についても取り上げられました。
今回議論された「2035年までに社会主義の現代化を実現する」という目標、第14次5カ年計画、軍事目標について詳しくご説明します。
2035年の目標~ 14 次 5 ヵ年計画
14 次 5 ヵ年計画では、下記の項目が目標として設定されました。
- 経済力・科学技術力・総合国力が大幅に向上することを目指す。コア技術がブレークスルーを起こし、イノベーション型国家の上位となる。
- 新しいタイプの情報化、都市化、工業化、農業の現代化、現代的な経済システムの構築
- 国家の統治システム・能力の現代化を基本的に実現
- 国の文化的ソフトパワーの著しい補強。文化強国、人材強国、体育強国、教育強国、健康中国となる。
- 「美しい中国」を目標とする。グリーン(エコ)生産・生活方法が幅広く形成され、二酸化炭素の排出量がピークを付けた後に減少させる。二酸化炭素排出量を60年までに「実質ゼロにする」公約については、「資源の利用効率を高める」と発言し、具体策はなかった。
- 一人当たり GDP が中等先進国レベルに達する。
- 平和な中国の建設に向け、国防・軍隊の現代化を実現する。
※2035年までに、中等先進国であるイタリアやスペインのGDP(3万ドル前後)を目指す。
米議会予算局の予測によると、為替レートが一定と仮定すれば、30年の米GDPは31兆ドル。
30年の中国GDPは米国の8割弱に達し、30年代半ばの米中逆転も視野に入る可能性も否めません。
https://toyokeizai.net/articles/-/9745
※15年間でGDPを倍増させるためには、年平均4.7%の成長が必要。
コア技術のブレイクスルーと米中摩擦
ファーウェイへの規制などがニュースで頻繁に取り上げられたように、トランプ米政権は中国企業に対して次々と制裁措置を取り続けました。このことによって大きなダメージを受けた中国企業。
そこで習近平は今回新しいキーワードは「自主可控」を掲げました。
これは「中国が(アメリカの規制に影響されない)独自にコントロール体制を作る」という意味です。
これまで中国は米国などの海外で学んだ優秀な人材を迎えることによって国内産業の育成を図ってきましたが、対立激化で米国などでの化学の研究が難しくなっている現状を踏まえ、「自立」や「自強」を強調しています。
これまであまり注力できていなかった基礎研究も税優遇などで力を入れていくようです。
具体的には下記のような内容が議論されました。
- 国内市場の拡大を図る考えを強調
- 「科学技術を自力で今日かさせることは国家戦略の要」と発言し、米国の間にあるイテク技術の覇権争いを念頭に入れ、デジタル技術などの研究強化
- 米中対立の常態化を想定内に入れ、次期5カ年計画ではハイテク覇権の争いに対応した産業政策を取ること
- 「科学技術強国」を作るための行動綱要を制定。戦略的に人材や産業の育成を行う
- 新興産業の育成ではIT、AI、バイオテクノロジー、電気自動車(EV)、新エネルギー、新素材、航空宇宙などを挙げ、各産業との深い融合を進める方針
- 他国の制裁に影響されない中国独自のサプライチェーン構築
外交・軍事
2035年までに人民解放軍を近代化し、2050年までに世界でトップクラスの軍事力を持つことを明らかにしました。
特に、陸軍部隊を減らして空軍、海軍により予算を割く計画を立てています。
また、米海軍を意識している様子が見られ、米国との対立を念頭に「国家主権を防衛するために戦略能力を向上させる」と発言しました。中国海軍は2035年までに米海軍に追い付くことを目標としています。
戦闘機を搭載できる新たな原子力空母4隻を建造し、最終的には空母6隻で戦闘態勢を構築したいとしています。
中国の2020年の国防費予算は前年実績比6.6%増加。経済の停滞が鮮明になる中、高水準を維持しています。伸び率は鈍化傾向にありますが、予算額の1兆2680億元(約19兆1000億円)は米国に次ぐほどの大きさです。
中国共産党とは
中国共産党は20世紀初頭、旧ソビエトが誕生したロシア革命の影響によって1921年に結成されました。中国が欧米列強による侵略で半植民地化状態に陥る中、危機感を募らせた若い知識人たちが中心となりました。
中国共産党は、事実上の一党独裁で、中国大陸の唯一の指導政党です。2016年末時点で約8944万7000人、2020年時点では約9200万人。党員数自体は、2015年にインド人民党(1億1千万党員)に抜かれ、世界で2番目に大きい政党です。
中国の指導者は歴代、「失地回復」と「大躍進」、この二つのスローガンを掲げてきました。
https://mainichi.jp/articles/20170901/k00/00m/030/115000c
それでは次に中国共産党の特徴と、その脅威について触れたいと思います。
共産党の特徴と脅威
日本には三権分立という制度があります。三権分立とは、司法(裁判所)と立法(国会)と行政(政府)をはっきりと分けて、お互いに監視するシステムです。
しかし、中国では、この全ての機関が共産党の指導下にあります。このことは法律が機能しないことを意味します。
例えば、共産党の最高幹部になって法を犯した場合、警察は逮捕しません。たとえ逮捕しても、裁判で無罪になるのです。
人権擁護をしているアムネスティ・インターナショナルの調査によると、2004年の全世界の死刑執行の9割以上(約3400人)は中国で行われたものだと判明しています。
共産党の指導が憲法で定められており、裁判官の評価基準に「有罪判決数のノルマ」が存在するとも言われています。
そのため、刑事裁判では99.92%もが有罪判決を受けていることが分かっています。
言論や報道の自由もなく、国内メディアは厳しく監視されます。
かつて中国に「炎黄春秋」という名の政権に批判的な月刊誌の編集長は、習近平政権の命令によって辞任となり、その雑誌は廃刊に追い込まれました。
中国共産党の組織は、行政や司法機関だけでなく、国有企業などの全国のあらゆる部門に張りめぐらされているのです。
世界に「脅威の国」と知らしめたのが、チベッドのウイグル地区に対する弾圧でしょう。
2019年10月、CNNがドローンで撮影されたウイグル地区への弾圧をニュースで公開し、世界中にその事実が認知されました。「チベットでは家族の1人は必ず虐殺に遭っている」と言われるほど残酷な状況が起こっています。
中国共産党はそれでもなお中国で支持されているのはなぜなのでしょうか。
自由な言論、や教育を抑圧する一方、建国以来終始、紆余曲折を経ながら展開されてきたプロパガンダや「愛国教育」の存在が大きいと言われています。
中国共産党によって統治されてきた政治体制は非常に強力であることが分かるでしょう。
習近平とは
新型コロナウイルスの感染拡大によって世界中から視線の集まる習近平。
彼はこれまでに、どのような政策を打ち出してきたのでしょうか。ここでは主な政策を2つご紹介します。
中国の夢~2つの100年
習近平主席は就任以来、「中国の夢」を盛んに唱えています。
・2021年までに貧困撲滅
中国は世界2位の経済大国ですが、まだ農村に残る7000万人の貧困層が存在します。
共産党の創設から100年の21年までに、「小康(ややゆとりある)社会」を実現したいと考えています。
・2049年までに「中華民族の偉大なる復興」を実現
中華人民共和国の建国100年目にあたる2049年までに「社会主義の現代化した国家」を目指しています。抽象的な言い回しではありますが、1840年のアヘン戦争以前の、列強の半植民地に陥る前の地位を取り戻すことと解釈されています。
一帯一路構想
2014年11月10日にアジア太平洋経済協力首脳会議で、習近平総書記が提唱した一帯一路構想とはどのような内容なのでしょうか。
一帯一路とは、
一帯:中国からユーラシア大陸を経由して、ヨーロッパにつながる陸路の「シルクロード経済ベルト」
一路:中国沿岸部から東南アジア、南アジア、アフリカ東岸、アラビア半島を結ぶ海路の「21世紀海上シルクロード」
この二つの地域で、貿易促進、インフラストラクチャー整備、資金の往来を促進する計画です。
なぜこの構想が生まれたのか
習近平のこの構想に向けたトップ外交は急激に増加しています。
なぜこのような構想を急ぐかと言うと、アメリカとの摩擦激化によって中国が転換を余儀なくされているからです。国共産党の幹部、経済人の多くが、米中貿易摩擦を通して、米国の経済にコミットし過ぎることをリスクだと感じ、米国国債への偏りを脱したいと考えています。
中国だけでなく他国も「米国への依存リスク」を分散しなければならないと感じ始めたことから、加盟国が着実に増えているのでしょう。
2019年3月時点で、中国政府は125ヵ国の国々、29の国際組織との間において、173件の政府協力文書に署名があると言われています。
中国にとっての戦略のメリット
国内の生産余剰問題を解消し、新たな経済戦略となる
- 2013年までに中国が行ってきた甚大な国内投資から創出された「過剰な生産能力」を輸出し、国内で行き詰まった経済成長を国外に広めることが、経済発展につながる。
- 一帯一路の地域には世界有数の資源国が含まれていることから、その資源やインフラ権益はが中国の手中に収めることができる。
米中対立
日本にとってアメリカは唯一の同盟国で、日米同盟は日本の外交・安全保障政策の要です。
一方、中国は最大の貿易相手国。対中貿易は日本の全貿易の21%、対米貿易の15%を上回っています。
米中対立が深まることで日本は実質的に危うい状況になることは間違いありません。
すでに米中の貿易摩擦によって日本では半導体企業が制裁を受けるようなニュースも耳にするようになりました。
新型コロナウイルス感染拡大によって溝をますます深める米中ですが、コロナウイルス発生以前にあった対立を以下にまとめてみました。
情報戦
中国がウイグル人100万人を強制収容。武漢にウイルスを持ち込んだのは米軍だと主張する中国の情報戦。
米中関税引き上げ合戦
トランプ大統領は今年幾度かにわたって、中国企業に対して関税を引き上げています。
ファーウェイの排除を目的としたIT戦
現在、4Gは世界の移動通信基地の約40%を、中国のZTEとファーウェイの2社が占めています。
また、アメリカの約15倍である35万の5G基地局をすでに設置しています。
世界の約半分の情報のやり取りが中国共産党の息のかかった企業を通していると米国で恐れられており、ファーウェイを5Gから排除しようとしています。
また、その他米中にある問題として、サイバー空間戦(中国のサイバー部隊は約13万人)、米国が中国企業を米国資本市場から追い出すなどの金融戦が挙げられます。
最後に
日本政府は米中覇権戦争が起こった2018年から中国に接近するようになりました。
コロナウイルスの感染拡大の水際対策が遅れた原因が、最大の貿易国である中国に忖度であったという事実は、今回日本国民にも周知されました。
今後、あまりに中国への忖度を示してしまうと、米国から「裏切り者」としての烙印を押されてしまうリスクも出てくるでしょう。
トランプ首相からバイデン首相となったアメリカにおいても、今後米中対立は収まらないでしょう。
日本政府の外交の舵取りに注視していかなければなりません。
<参考>
https://www.ifvoc.org/threat/humanrights/
https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1805G_Y0A011C1NN8000/
https://www.dir.co.jp/report/research/economics/china/20201030_021867.pdf
https://diamond.jp/articles/-/249099