続くインフレとは?インフレが起こる原因と、日本企業の海外事業への影響とは?

最近では身近な食料品、生活必需品などの値上げのニュースをよく耳にしますよね。我々の身の回りの物の多くは海外から輸入していたり、原料が海外産であるものが多いため、海外で物価上昇が起こり、それが長引くと、日本でも物価上昇の影響がでてきます。物の物価が上がることを経済学的にはインフレーション(インフレ)と呼びますが、どのようなことが起こり、そして現在の価格上昇はなぜ起きているのでしょうか?

今回はこの現在の日本の状況を踏まえて、インフレについて論じていきます。 

インフレとは 

インフレを語るには、ベースとなる「消費者物価指数」についても触れておきます。この、消費者物価指数とは、国民が購入したりサービスを受けたりするときに支払う消費者の金額のことで、それを全体の金額を指数として表したものです。その消費者物価指数をもとに、インフレ率の算出や、公的な金額である年金の金額設定などが行われています。 

インフレになる原因にはさまざまな理由が存在します。人件費の高騰、景気の上昇による物価上昇、国外のインフレの影響、為替の影響、原料の高騰など。国内で物価が上がると、維持にかかる金額が増加し、工場や、物資、人件費、光熱費など国内に存在する多くのものの物価が関連して上昇していく流れになります。 

インフレでは次のようなサイクルがあります。 

インフレサイクル

 

国内がインフレの場合、商品を値上げすれば良いのですが、より多くの利益を求める場合、物価の低い国や地域に生産工場を建設し、材料費、人件費を抑え、支出が抑えられるため、利益を増加させることが可能です。70年代や80年代など物価が急激に上昇していた日本では、より多くの利幅を得るために、中国や東南アジアへ工場建設をするための投資を行い、効率よく利益を得ることのできる構造を構築してきました。 

デフレとは 

デフレ

デフレとは「デフレーション」の略でインフレとは逆に、物価が下がっていくことです。物価が下がることはいいことのような気がしてしまいますが、すべての価値が下がるため、給与さえも下がってしまいます。 

生活におけるすべての商品が国内で賄われているならばそれでも問題がありません。しかしながら物価が下がると相対的に海外の貨幣価値が上昇し、輸入品は相対的に高額になってしまいます。特に輸入に頼る食料品の価格はそのままの値段で、給料がどんどん減少することで、相対的に食料品が高額になるというような問題が発生します。 

インフレのデメリット 

それではインフレは給料も商品もすべてのものの値段が上昇するので、国内では何も影響がなく、輸入品は相対的に安く購入が可能。さらにそれによって景気もよくなれば最高ですよね。これは「良いインフレ」の例です。しかしながらインフレは良いことばかりではありません。 

インフレには下記のようなデメリットが存在します。 

お金の映像

 

人によって利益を得る人、損を被る人が生じてきます。 

例えば、業界により価格の変動影響の時差がある場合、影響の多い業界ばかりが損をしてしまいます。さらに、価格を先取りして値上げを早く行い儲けを出したり、便乗値上げや、値上げをしたことによる売上不振が発生。市場の混乱や経済社会への消費者の不信感も発生し、混乱ばかりで景気が良くならない場合があります。そして、海外との貨幣価値が大きく異なるため、市場の感情を無視した敵対的企業買収などが横行するなどの問題も発生します。このような状態は「悪いインフレ」といえるでしょう。 

緩やかでバランスの取れたインフレであれば国民にはメリットが多く存在しますが、急激な上昇には上記のようなデメリットが多く発生します。 

現在の日本のインフレ状況 

経済の動向は新型コロナウイルス発生以前とそれ以降では、かなり変わってきます。 

新型コロナウイルス発生以前はインバウンド需要や、東京オリンピックの決定、アベノミクスなど、需要が増加し、景気が緩やかに上昇する材料が揃っていました。しかしながら新型コロナウイルスが発生して以降、さまざまな商品の売り上げは伸び悩み、消費の落ち込み、それに加えて、寒波の影響、半導体不足、などが発生し、国内の経済は低迷しました。一方海外では新型コロナウイルスの感染対策よりも経済を優先する国々が多く、2020年下半期には、早くも景気が急激に回復する国々も多く存在しています。 

景気回復に伴い海外ではインフレ基調をさらに助長をし、消費者物価指数の上昇も発生しています。それに合わせ、燃料の高騰、輸入品目の値上がり、最近ではロシアのウクライナ侵攻の影響による輸入品の物価上昇などもあり、輸入品を中心としたインフレがまず日本には発生しています。 

(参考)IMF経済見通し 

インフレが企業に与える影響 

オフィスビル

日本の貿易額は輸出も輸入も2020年には年間約70兆円。新型コロナウイルスの影響により若干減少しましたがそれ以前は80兆円規模で年々拡大を続けていました。日本の2020年度、実質GDP525兆円なので、その割合の高さが想像できます。インフレの影響は、国内のみですべてをまかなえる企業よりも、海外との取引が多い企業の方が多く被ります。国内のみであれば上昇した金額をそのまますべてに転嫁すればいいわけですが、国外の取引先のみでインフレが起きた場合などは混乱が生じてしまうためです。 

国内外でも単純な完成品の輸出入を行う貿易から生産品を輸出入する企業などそれぞれの企業によって形態はさまざまですが、各業界では、インフレが起こるとどうなるのか。そしてこのインフレ基調の日本ではどういった状況になるのでしょうか。 

(参考)貿易額 

食品業界 

食品を生産する上で、欠かせないのが原料。現在日本での食料自給率は、カロリーベースで40パーセント弱。ということは60%を輸入品に頼っている状況なのです。 

このように輸入品が多く含まれる食品業界では、この原料価格が高騰してしまうことでコストが上がり、その上がったコストを商品に上乗せせざるをえません。そのため国内外のインフレの影響を真っ先に受けてしまう業界なのです。特に輸入食品の中でも多く使用されている小麦は以前から価格が上昇して来てました。さらにここへきてロシアのウクライナ侵攻が発生。小麦を大量に輸出するウクライナからの、輸入が難しくなるなどの影響も重なり、さらに小麦価格が高騰しています。価格が上昇した代表的な品目としては、「日清製粉」の小麦粉、「雪印メグメルク」のマーガリン、「日清オイリオ」キャノーラ油、「キューピー」マヨネーズなど。そのほか即席麺やパスタなど小麦を主に使用する加工食品商品などあらゆる食品価格が上昇しています。 

このように輸入に頼る商品業界は、インフレに即座に反応し商品価格が上昇する業界であると言うことができます。 

(参考)日本の食品自給率 

(参考)値上げ品目1 

(参考)値上げ品目2 

製造業 

工場

日本が誇る製造業。価格が上昇するインフレが起これば海外へ輸出する製造業にも影響が出てきます。さまざまな国において部品などの生産や調達を行い、サプライチェーンを構築しているような場合には、地域により部品や人件費などの価格が上昇してしまうことによってその枠組みの中で混乱が生じてしまいます。販売価格も、その製造場所や、販売場所でインフレが起こると価格の差異により損失の発生や混乱が生じてしまいます。コロナ後の景気回復でも、日本企業はこのようなサプライチェーン内の問題により混乱が発生し、回復に時間がかかってしまうと予想されています。 

不動産業 

昭和の好景気からバブル時代にかけて、不動産の価格が高騰していきました。投資目的での不動産売買が加熱し、建築しては販売することで需要も増加し、価格もさらに上昇していくという流れにありました。 

不動産の価格もインフレ率と連動しているため、インフレ対策として不動産の購入をすることが行われます。今回もそのようにインフレが進むごとに不動産価格が上昇し、不動産バブルのようなことに再びなってしまうことも考えられ懸念材料とされています。 

しかしながらコロナ後の情勢をみるとさまざまな要因により価格は高騰するものの需要はそれに追いついていかないことや、中国からの巨大なインバウンド需要が見込めないなどの理由により、不動産価格が上昇するかどうかには疑問符がつけられています。さらにコロナ後に始まったリモートワークの波が広がり、オフィスを持たないまたは、規模を大幅に縮小する企業も増加しています。東京ではその傾向が顕著で、中小企業を対象としたとしたオフィスビルでは空きが目立ち、賃貸、販売価格も下落傾向にあるためどのような見通しとなるのかいまだ不透明な状況にあります。 

(参考) サプライチェーンと製造業 

(参考)不動産とインフレ 

(参考)コロナ後の不動産 

建設業 

建設エンジニア

不動産と密接な関係がある建設業もインフレに呼応する産業のうちの一つです。 

しかしながら現在、建設業界では販売価格を売価に転嫁することが難しい状況であるにもかかわらず、インフレの影響で資材の価格が高騰してしまっています。コロナの影響にやる売上減少、建設計画の見直さなどが発生している中での原材料費の高騰は、建設業者にとって利益を大きく圧迫し、多くの建設業者が破綻してしまうのではないかという見方も出てきています。新型コロナウイルスの影響による破綻件数も、建設業が飲食業に次ぐ件数となっており、コロナ後のインフレも深刻な状況を建設業にあたえている状況です。 

(参考)倒産件数 

インフレとサプライチェーンの見直し 

日本国内では海外のインフレ影響を受けた原材料の高騰とコロナ後での需要低下で、苦しい状況に立たされる企業も多くなってきました。海外でも急激なインフレは悪影響をもたらしてしまいます。そのような状況で進められているのが、サプライチェーンの構造的改革。この再構築によってインフレなどの経済的、戦争などの政治的、台風などの環境的影響を最小限にすることが重要です。

この再構築の中の大きな流れの一つとして、中国との「デカップリング」が存在します。今までは中国に多くの投資をおこなっていたものの、それを中国から別の国に変更、または国内に投資するという機会を増加させるという動きです。中国は近年、労働者の賃金が高騰しているうえに、インフレ率も高くなっており、工場建設などをしても利益を確保するのが難しくなっています。更には政治的な問題も存在しており、リスクは高い状態です。そして世界のインフレにより、相対的に日本国内投資をした方が利益が取れる場合も多く存在し、投資家たちは日本への投資にも興味を示しています。

日本への投資が増加することにより、日本国民への利益も増加し、他の国へ流れていた資金も国内で賄うことが可能なので日本にとっては一石二鳥の政策でもあります。その他にも中国のみに工場がある場合は地域的なリスクが多く、政治的、気候的な問題も少ない東南アジアや、インドなどに分散させるなども進められています。 

近年アメリカのバイデン大統領は、国家政策としてサプライチェーンの見直しを計画しています。国内での構築を優遇し、対立する中国依存を減少させることや、海外での影響を減少させるのと同時に国内経済にもよい影響のある戦略です。 

 (参考)アメリカのサプライチェーン見直し 

コーンウォール・コンセンサス 

商談

最後に、資本主義国家として主要な先進国との協力国家にサプライチェーンが存在していることも重要な要素の一つ。バイデン大統領のサプライチェーン見直し戦略も、国家間関係が良好な国で進めることを表明しています。改めて政治的安定というのが、政治面だけでなく、インフレなどの経済面でも重要であると見直されています。 

20216月には新型コロナウイルス、2022年のロシアのウクライナ侵攻と、次々に経済に与える影響が大きい問題が巻き起こり、いまだ不透明な状況の中、G7で「コーンウォール・コンセンサス」が取りまとめられました。この「コーンウォール・コンセンサス」の内容は、「不平等に対処し、女性など伝統的に適切に代表されていなかった集団を支える国内政策に沿って、持続可能な開発目標への投資を加速し、デジタルへの包摂性を促進し、課税逃れを排し、開発途上国による世界市場への完全なアクセスを促す。」ということ。 

コロナ後の経済的復活をするとともにジェンダーについての平等を明確にし、経済再生や、雇用の復活につなげていこうという政策をG7で取りまとめました。 

協力関係のある資本主義の先進7か国がポストコロナ後の経済的対応を足並みそろえ行うことはこのような経済回復や急激なインフレなどの経済的問題に対抗するのには大変重要なポイントの一つとなります。まずはコロナ後の経済対策をしっかり行い、コロナ前の水準に戻しそれをさらに伸ばすために、公共投資や、雇用機会の平等を世界の影響力の高い国々が積極的に行い、経済の新たなステージでの成長を目指すことを目標にしています。 

(参考)7コーンウォールコンセンサス 

まとめ 

世界的に進むインフレですが、日本の各業界では苦しい状況下にあることが多くなっています。各国ともに経済について、コントロールが可能なように政策を実施し、急激な価格変動などを回避しようとする動きも存在します。しかしながら、気候や、政治的理由などで、どうしても妨げられないでいる状況が経済へ影響していることも確かです。その中で、政治的、経済的、気候的な面を踏まえて、どのように構築すれば効率よく安定したサプライチェーンを作れるのかという見直しや、各国足並みをそろえての経済対策など、さまざまな取り組みを行い経済回復への道筋を立てている状況です。 

未来には戦争も自然災害もなく、経済も安定できるような技術が発明されて、人々が平和に生活できるようになるといいですよね。 

関連する事例

海外進出および展開はどのように取り組めば良い?
とお悩みの担当者様へ

海外進出および展開を検討する際に、
①どんな情報からまず集めればよいか分からない。
②どんな観点で進出検討国の現場を見ればよいか分からない。
③海外進出後の決定を分ける、「細かな要素」は何かを知りたい。

このような悩みをお持ちの方々に、プロジェクト時には必ず現地視察を行う、弊社PROVE社員が現地訪問した際に、どんな観点で海外現地を視察しているのかをお伝えさせていただきます。