近年、クアラルンプールは経済成長が見込まれており、海外進出先として検討している事業者も多いです。今後も、日本企業のクアラルンプール進出事例は増えていくことが予想されています。
クアラルンプールへ進出するには、その国の特徴や経済状況を把握する必要があります。本記事では、クアラルンプールの特徴や経済状況、進出するにあたってのメリット・デメリットについて解説しています。クアラルンプールに進出する際におさえておきたいポイントもあわせて解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
クアラルンプールとは
マレーシアの首都であるクアラルンプールは、マレーシア語で「泥が合流する場所」を意味します。クラン川とゴンバック川の合流地点となっていることが地名の語源です。現在は国を代表する観光地として知られるツインタワーや高層ビルが建ち並び、マレーシアには欠かせないエリアとなっています。
クアラルンプールで市場開拓するには、国の特徴や日本との文化の違いについて理解することが重要です。進出先の特徴を把握すれば、市場開拓後のギャップを減らせるでしょう。ここでは次の3つの項目について、それぞれ解説します。
- クアラルンプールの特徴
- クアラルンプールの歴史
- クアラルンプールの宗教・民族
クアラルンプールの特徴
クアラルンプールは東南アジアの中でも有数の国際都市として知られています。特に治安の良さは評価されており、日本人駐在員にとっても比較的安全な都市と言えるでしょう。しかし、スリや強盗などの犯罪は日本より多いので、ある程度の注意も必要です。
また、クアラルンプールを含むマレーシアは親日国家で有名です。海外進出において、親日国家が日本にとって優位に働くことは言うまでもありません。アジアの中でもマレーシアでは日本語を話せる人が多く、日本人特有のビジネスマナーを心得ている人も多いので、進出先として選びやすいでしょう。
クアラルンプールの歴史
クアラルンプールは「錫(すず)」の採掘拠点として発展してきました。都市のシンボルとも言えるツインタワーも、錫からできています。現在、錫に少量の銅とアンチモンを混ぜ合わせた合金「ピューター」は、マレーシアを代表する特産品にもなっています。
クアラルンプールの民族・宗教
クアラルンプールを含むマレーシアは、マレー系・華人系・インド系の3つの民族が入り交じる、アジアでも珍しい多民族国家として知られています。
また、マレーシアはイスラム教が国教とされていますが、他にも仏教、ヒンドゥー教、キリスト教などの多宗教国家です。そのため、街のいたるところにモスクや寺院があります。
国民の7割近くがマレー系で、マレー語が公用語となっているので、街で目にする看板や聞こえてくる会話のほとんどはマレー語です。その他には、国民の大多数が英語を話せるので、クアラルンプールへ進出した際は多言語環境に適応できる人材確保が望めます。
クアラルンプールの経済状況
クアラルンプールで市場開拓するには、進出先の経済状況を知ることが必要不可欠です。クアラルンプールの経済状況について、次の3つを解説します。
- 期待が高まる経済成長率
- 長期的な貿易黒字
- 緩やかな物価上昇率
期待が高まる経済成長率
クアラルンプールを含むマレーシアの経済成長率は、個人消費の拡大を背景に上昇傾向にあります。2022年4〜6月期の実質GDP成長率は8.9%増を記録し、2022年7〜9月期は前年同期比14.2%増と、1年ぶりの2桁成長となりました。いずれも、市場予想を上回る結果となっています。マレーシアの中でも一人あたりのGDPは、クアラルンプールがトップです。
またマレーシアは近年、総人口と働き盛りの労働人口の増加により、人口ボーナス期にあります。特に首都クアラルンプールの労働力は大きな拡大をみせています。労働力の人口が拡大することにより経済も成長するので、今後の経済成長率にもプラスの影響を与えるでしょう。マレーシアの人口ボーナスは2050年まで継続されるといわれており、長期的にみても有望市場として期待が高まっています。
長期的な貿易黒字
マレーシアは貿易が活発なことで知られており、長期的な貿易黒字となっています。貿易が盛んな理由としては、マレーシアが多民族国家であり、多様な言語が入り交じる人的資源があることが挙げられます。
日本はマレーシアにとって主要貿易相手国です。2021年にはマレーシアの貿易総額の6.7%を占め前年比20%の増加、さらには貿易額360億米ドル(4.5兆円)を記録しています。
緩やかな物価上昇率
マレーシアは低いインフレ率が特徴的で、物価は日本の3分の1程度といわれていますが、年々物価は上昇傾向にあります。しかし、物価上昇率はタイなどと比較して緩やかです。
近年、マレーシアへの移住が注目されており、2006〜2019年には日本人が移住したい国に14年連続1位に選ばれました。リタイア後の移住先としても絶大なる人気を誇っているので、投資先としても身近に感じられています。
クアラルンプール進出における3つのメリット
クアラルンプールが進出先として注目されている背景には、次の3つのメリットが挙げられます。
- 外資規制が緩和されてきている
- インフラが発展している
- 日本との時差が少ない
外資規制が緩和されてきている
マレーシアは外資企業の誘致を積極的に実施していることがメリットとして挙げられます。製造業、流通・サービス業では、一部を除き、100%外資が認められているので、日本企業のマレーシア進出の後押しにもなっています。
かつては「ブミプトラ政策」というマレーシア原住民を優遇する政策により、外資規制が行われていました。しかし、2009年4月にナジブ新政権がスタートすると、サービス産業と金融部門で外資規制を緩和し、投資促進策が導入されました。それをきっかけに、現在はブミプトラ政策が緩和されてきています。コンビニエンスストアなどの卸・小売業分野ではいまだに規制が残っているので注意が必要です。
インフラが発展している
2つ目のメリットとして、クアラルンプールのインフラが発展していることが挙げられます。近年、高速道路やモノレールなどのインフラ開発が進んだことで、タイやベトナムと比べても先進的な経済発展を遂げてきました。特にクアラルンプール国際空港は、東南アジアのハブ空港としても機能し、重要な役割を担っています。ASEAN諸国の首都とクアラルンプール間を各国のLCCが繋いでおり、ASEAN諸国の中心地といっても過言ではありません。
また、公共交通機関、電気、水道、電話、インターネットはほぼ止まることがないので、安定したビジネス運用が可能と言えるでしょう。特にITインフラは急成長しており、高度インターネット回線のほか、5Gの商用化も着々と進められています。
日本との時差が少ない
クアラルンプールに進出するメリットの3つ目は、日本との時差が1時間である点です。コロナ以降、リモート会議などのオンラインツールを利用したビジネスが主流となってきているので、日本とクアラルンプール間であればさほど時間を気にせずに予定をセッティングできます。時差が少ない分、レスポンスの遅れ等もなくスムーズに仕事を進められるので、海外進出先の中では連携が取りやすい環境と言えます。
海外進出を検討する場合、その国の経済状況などを優先して考えてしまいますが、社員の働きやすさを考える上で時差も重要な判断材料です。ビジネスを滞りなくスピーディーに進めるには、時差が少ない国選びも大切なポイントだと言えるでしょう。
クアラルンプール進出における3つのデメリット
クアラルンプールへ進出する際に知っておきたいデメリットについて、次の3つをご紹介します。デメリットをおさえて、進出後のギャップを減らしておくことが大切です。
- マレー系優遇政策の影響によるリスクが伴う
- 人件費が高騰する可能性がある
- 移民国家によるジョブホッピングが起こりやすい
マレー系優遇政策の名残がある
クアラルンプールに進出するデメリット1つ目は、マレー系優遇政策の影響によるリスクが伴うことが挙げられます。マレー系先住民を多方面から優遇するブミプトラ政策は、2009年以降緩和傾向にありますが今も名残が残っているのが現状です。
ブミプトラ政策とは、中国系人またはインド系人の移民から経済的にマレー人を守り、マレー人の経済的地位向上を目指すために行われた政策です。マレーシアの企業によってはマレー系の人を優遇する方針をとっていることもあるので、進出する際には気をつける必要があります。
人件費が高騰する可能性がある
クアラルンプール進出において、人件費が高騰傾向にあることがデメリットに挙げられます。新興国は日本に比べると経済発展のスピードが速く、近年は人件費の拡大が顕著にあらわれているので注意が必要です。
数年かけてやっと進出できても、その間に人件費が高騰してしまう場合があります。実際にマレーシアに進出した日本企業にも、人件費の高騰により事業縮小や撤退を余儀なくされた事例があります。
クアラルンプールに進出する際には、現地での人件費も考慮して計画を立てると良いでしょう。
移民国家によるジョブホッピングが起こりやすい
クアラルンプール進出のデメリットとして、移民国家によるジョブホッピングが起こりやすいことが挙げられます。ジョブホッピングとは、比較的短い期間に転職を繰り返すことを指し、マレーシアにも根付いています。35歳以下は、80〜90%が5年以内に辞めるというデータもあるのだそう。
マレーシアは多民族国家のため、ジョブホッピングに対する対応策も多様化してきています。定着率を向上させるためには、それぞれの人種に合った引き止め方法が必要であることも知っておくと良いでしょう。
クアラルンプールに進出するためのポイント
クアラルンプールに進出する上で、おさえておくべきポイントをご紹介します。ここでは次の2つのポイントについて解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
- 日本企業の進出地域は業種によって異なる
- 宗教・文化の違いとハラル認証への理解が必要となる
日本企業の進出地域は業種によって異なる
マレーシア政府は、首都のクアラルンプールやセランゴール州の計10自治体を含めた地域のことを「大クアラルンプール」または「クアラルンプール都市圏」と呼んでいます。
日本企業がマレーシアへ進出する場合、業種によって進出地域が異なっています。例えば、製造業の場合、機械設備、食品・飲料製造、輸送機器、ライフサイエンスなどの業種が集結しているセランゴール州に進出する事例が多いです。サービス業では、ホテルなどの商業施設が建ち並ぶクアラルンプールに進出するケースが多くみられます。
クアラルンプールに進出を考えている際は、首都のクアラルンプールだけではなく、クアラルンプール都市圏を範囲として業種に合った地域を検討すると良いでしょう。
宗教・文化の違いとハラル認証への理解が必要となる
マレーシアの多民族多宗教国家の文化は日本には馴染みがないので、注意が必要です。日本人は無宗教の割合が多いため、クアラルンプールへ進出した際には現地の文化や商習慣を理解し、多様性を受け入れる姿勢が大事だと言えます。
また、マレーシア進出においてイスラム教のハラル認証を理解しておく必要があります。イスラム教では豚やアルコールを含む食品・調味料を食することは禁止されています。ハラル認証とは、「イスラム法の定める適正な方法で処理、加工された食品である」ことを証明したものです。マレーシア進出において、ハラル認証が取得できずに苦労する場合があることを知っておくと良いでしょう。
まとめ
今回は、クアラルンプールの経済状況や、進出した際のメリット・デメリット、進出するためのポイントについて解説しました。
マレーシアの多民族多宗教という特性上、日本とは異なる考え方があるため、事業進出するにあたって注意や配慮するべき点が多くあります。
しかし、人口ボーナス期にあるマレーシアは経済成長が見込まれており、首都クアラルンプールはインフラ設備の成長が急成長を遂げているため、海外進出先として検討しやすいことでしょう。
今回紹介したポイントをおさえて、「想像と違った」と思うことがないように準備していくことが必要です。