今年、投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェット氏が日本の総合商社株をまとめて購入したことがニュースになりました。その際、バフェット氏が日本の総合商社株になぜ目を付けたのかという疑問だけでなく、「そもそも商社は何をやっているのか」と感じた人も多かったようです。
総合商社のサービスは多岐に渡っていることから、一言で言い表すことは難しく、総合商社のビジネスは「ラーメンからロケットまで」と例えられてきました。
元々の商社の事業の柱はトレーディング事業でした。
しかし、時代の変化によってトレーディング事業だけでは利益を成り立たせることが厳しくなり、近年は投資や事業運営に手を伸ばしています。
これら3機能揃える特種性から「世界に類なき業態」と言われています。
ここでは、商社業界、5大総合商社(三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅)の事業概要、今後の新しいビジネス展開についてご紹介します。
商社の成り立ちと歩み
総合商社の商材は、専門商社と違って、専門的な商品に限定されません。幅広い分野の商品を扱い、調達、生産、加工流通、販売までの、川上から川下までのバリューチェーンを構築しています。最近ではトレーディング事業のシェアを縮小させ、事業投資、事業経営に力を入れている総合商社が増えています。総合商社の事業は多種多様なため、特定の分野の利益が低下しても、他の分野でカバーする事業リスクの分散が可能です。「商社や何をやっているのか」を知る前に、日本の総合商社がどのような歴史をたどって今日のビジネスモデルに至ったのか、経緯を見てみましょう。
江戸時代末期~戦後
1853年、日本に黒船が来航し、約200年もの鎖国状態を解除し、開国しました。1865年、坂本龍馬と勝海舟によって組織された「亀山社中」が日本で最初の商社と言われています。
戦前では、三井物産と三菱商事のみが複数分野の商品を取り扱っていましたが。戦後はGHQによる財閥解体が行われ、1954年に三菱商事が、1959年に三井物産が誕生しました。
1960年代に叫ばれた商社不要論とは?
1960年代に突入すると、「商社不要論」が叫ばれます。高度経済成長期を経て急成長した一部の自動車メーカーや家電メーカーが、事業規模や豊富な資金力を生かし、独自の原材料調達を始めました。メーカーが独自の販売網を構築すれば商社は必要ありません。このような課題に直面する中で、総合商社は、より高度な物流のネットワーク構築、海外の市場開拓、高度な情報提供などの付加価値を提供していきました。
1970年代のオイルショック
1971年のニクソン・ショック、1973年10月からの第四次中東戦争を契機とする第一次オイルショックが起こります。このことが招いた社会不安は非常に大きく、小売店では石油
関連商品だけでなく、生活必需品までもが争奪されました。「狂乱物価」と呼ばれるほどの物価高騰となり、消費者の行き場のない不満は、輸出入を支えていた商社へと向けられたのです。
1980年代の二度目のオイルショックの影響
1980年代は、2度目のオイルショック、貿易摩擦、国内不況などの課題に直面します。総合商社は、この課題に対して、アメリカとの関係改善を図り、輸入品目を拡大させることに成功します。収益源を増やすために、新規事業としての先端技術の事業化、金融機関機能を強化しました。
1990年代のインターネットによる二度目の「商社不要論」
1990年代は、バブルが崩壊し、不良資産の償却という経営課題に直面します。この課題に対して、総合商社は発展途上国の経済発展をサポートする形で事業投資に注力しました。1990年代に入ると、インターネットの台頭によって「商社不要論」を再び唱える人々も出てきました。
2000年代から現在まで
このように、時代の移り変わりの中で、総合商社は何度も存亡の危機を乗り越えてきました。商社不要論が唱えられてきましたが、商社は衰退するどころか著しい成長を遂げています。
業界動向SEARCH.com の調査によると、2019年の総合商社の市場規模は53.7兆円で、業界規模ランキングの第6位に入っています。商社不要論やインターネットの台頭などの不遇の時期を乗り越えて将来性のある業界の1つと言えるでしょう。
https://gyokai-search.com/5-kibo.html
その理由は、商社だけが提供できる付加価値を追求したこと、2000年代に入り「総合事業運営・事業投資会社」に注力し、連結子会社化を通じた多様な製造業・サービス業への進出。事業投資会社化を行ってきたからです。
下記を見ていただくと、年代と社会背景に対して商社がどのように機能を変化させてきたかが分かると思います。
丸紅経済研究所丨最新総合商社の動向とカラクリがよーくわかる本
https://career-books.com/idy32/
就職活動においても根強い人気業界
https://diamond.jp/articles/-/231279
慶應をはじめとして、東大・早稲田といった大学から依然として就活生の人気企業ということがわかります。
商社の主なビジネスモデル
ただ右から左にモノを流すだけでは商社や消滅していたでしょう。しかし、数々の危機を乗り越える過程で、商社だけが提供できる付加価値を追及してきました。
総合商社が提供しているサービスの一覧を見てみると、下記のように幅広いですが、一般的には「トレーディング」と「事業投資」が主軸になっています。
https://career-books.com/idy32/
商社が提供する付加価値とはどのようなものなのでしょうか。その一つが「ギャップを埋め合わせ障害を取り払うこと」です。需給の格差、価格格差、情報格差など、ビジネスの世界には様々なギャップが存在しています。そのギャップが原因でビジネスに在庫リスクや取引コストが発生しますが、商社の役割は、ギャップを埋め合わせスムーズな物流を実現させることです。
※伊藤忠商事のサイトに伊藤忠が提供する「付加価値」についての説明がありますので、是非ご参考になさってください。
https://www.itochu.co.jp/ja/files/ar2014j_02.pdf
それではトレーディング事業と、事業投資について詳しくご説明します。
トレーディング
トレーディングとは、「貿易の仲介」のことです。原料・製品・販売などのサプライチェーンにおける各フェーズにおいて橋渡しをします。その仲介手数料で利益を得る仕組みです。過去に何度か「商社不要論」が唱えられてきましたが、なぜ商社はトレーディングビジネスを存続できるのでしょうか。トレーディングは、川上(原料)・川中(製品)・川下(販売)で行っており、バリューチェーン全体をカバーします。全体をカバーする中で安全な輸送経路の確保や保険の提供などの付加価値を付けているのです。
事業投資
https://br-campus.jp/articles/report/121
事業投資とは、商社が所有する経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報を投資して、リターンを得るビジネスのことです。総合商社の行う事業投資の特徴は、人員の派遣や国内外のネットワークを活用した情報提供である点です。
事業投資の事例
事例①:コンビニ
伊藤忠商事はファミリーマートを、三菱商事はローソンを経営しています。コンビニである投資先企業に「経営者」としての人を派遣し、オペレーションを回します。
各商社はこの事業経営に注力するにあたって、経営人材の育成に注力しています。
事例②:三菱商事によるコメダ珈琲店への出資
三菱商事は、コメダ珈琲を展開するコメダホールディングスに出資しています。コメダの海外進出を念頭に置き、事業経営を強化していく考えで、コメダは三菱商事からの人材派遣を受け入れています。
5大商社の主な事業内容と今後の展開
5大商社の主な事業内容と、今後どのような展開を狙っているかを見てみましょう。
三菱商事
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20201027/se1/00m/020/055000c
<主な事業>
三菱商事は、電力や自動車、食品産業などの幅広い事業に強みを持っています。ポートフォリオのバランスの良さが特徴と言われています。ローソンの事例にもあるように、経営人材の育成に最も力を入れているのも三菱商事です。
新型コロナウイルスによる経済活動の停滞によって、収益柱である原料炭や天然ガスの市況が悪化しており、自動車関連の収益も大きく後退しています。2021年3月期の当期純利益の見通しは2000億円と、2020年3月期と比べて約6割減となっています。
次の一手として、東南アジア諸国におけるスマートシティ開発を推進しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63749910R10C20A9910M00/
三井物産
三井物産は、資源・エネルギー分野でNo.1で、インフラ事業も強い商社です。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20201027/se1/00m/020/055000c
<主な事業>
これまで鉄鉱石やLNG(液化天然ガス)などの資源事業が利益を上げていましたが、コロナウイルス感染拡大や資源価格下落によって影響を受けています。
2021年3月期の純利益は1800億円と見通しで、2020年3月期実績の3915億円から半減すると予測されています。
2016年の4月にアグリカルチャー事業の部署を立ち上げ、化学品と食料の領域で新たな収益基盤を作ってきたのですが、コロナウイルス渦の下支えとなる事業にさせたいと考えています。
伊藤忠商事
エネルギー・化学品セグメントからの収益が最も大きく1.5兆円です。
<主な事業>
令和2年8月中間決算では、デジタル技術で事業を変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)を取り入れ、ファミマの事業立て直しを進めると述べました。
住友商事
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20201027/se1/00m/020/055000c
<主な事業>
住友商事は5大商社の中では最も国内事業に強いと言われています。また、J:COMやユナイテッドシネマなどを有するしており、メディア事業に定評があります。消費者に近いビジネスを行っているのも特徴でしょう。
しかし、コロナウイルスの影響だけでなく、アフリカ・マダガスカルで行われているニッケル生産プロジェクト「アンバトビー」が足かせとなり、5大商社の中で住友商事だけが大幅な赤字の見通しとなっています。
住友商事は、ICT(情報通信技術)による予防医療・診療サービス事業に力を入れています。2018年4月にオンライン診療が保険適用されたこともあって、オンライン診療事業を展開し、急速な普及を図っています。
丸紅
https://after-10years-work.com/company-marubeni/
<主な事業>
電力・インフラ領域に強みを持つ商社ですが、着実に利益を出しているのが食料事業。今期の純利益のうち約2割弱を食料事業が占めています。
2020年3月期では、新型コロナウイルスの影響によって、約4000億円もの一過性損失を計上。純利益は1974億円の赤字に転落しました。しかし、食糧事業がコロナ禍でも足腰の強さを見せ、期初の想定よりも上振れています。特に好調なのは食肉関係です。
また、2020年から始まったアメリカの小売り大手・ウォルマート社への長期契約も追い風となったようです。
最後に
長い商社の歴史の中で何度も唱えられた「商社不要論」にも屈せず、総合商社がいかに幅広い事業を展開し、商社ならではの「付加価値」を追求してきたかを知っていただけましたでしょうか。
商社の強みは良い意味で「どんな事業も展開できる」点にあるのではないでしょうか。
今後、IoTやAIの急速な発展やビックデータの活用によって第4次産業革命と呼ばれる時代がやってきます。
総合商社はこのような時代の流れのニーズに合わせて柔軟にビジネスモデルを変革していくことが期待されるでしょう。
https://career-books.com/idy32/
https://toyokeizai.net/articles/-/381520
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/25133
https://diamond-rm.net/management/60289/
https://diamond-rm.net/management/62663/
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2010/22/news132_2.html
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00081/031300057/
mitsubishicorp.com/jp/ja/mclibrary/roots/1954/vol08/
https://www.onecareer.jp/articles/174