
米中関係の悪化が続く中、多くの企業が中国への依存を見直し、他国にも拠点を分散させるチャイナプラスワン戦略を進めています。その中で、進出先として注目されているのがASEAN諸国です。しかし、ASEAN諸国への進出に対して不安を感じる経営者様も少なくないでしょう。
そこで本記事では、海外進出を検討されている経営者様に向けて、ASEANが注目される背景、主要6カ国の法人税・税制の比較、各国の法人設立の手続きについてわかりやすく解説します。
海外進出先としてASEANが注目される理由
日本企業が海外進出先としてASEANに注目する理由は次の3つです。
人口増加による内需の拡大
ASEANの人口は、2023年時点で6億7,800万人と、日本の1億2,500万人の5.4倍にのぼります。経済規模でも、ASEAN全体のGDPは3兆8,620億ドルに達しており、日本の4兆2,308億ドルの9割に相当します。さらに、ASEANの一人あたりGDPは過去20年間で4倍に成長しました。こうした背景から、ASEAN諸国では内需の拡大が期待されており、海外進出先として魅力が増しています。
参考:国際機関 日本アセアンセンター「ひと目で分かる日ASEAN基本情報」
高い経済成長率
ASEAN諸国は高い経済成長を続けており、2025年には日本の経済規模を上回る見込みです。その市場規模は、アメリカ、中国、EUに次いで、インドと並びます。さらに、今後も経済成長が続くと予測されていることから、ASEANはビジネスチャンスの多い地域として注目を集めています。

出典:ERIA「成長著しいアジア(ASEAN・インド等)と日本」
外資規制の緩和
以前のASEAN諸国は、自国産業を保護する目的で、厳しい外資規制を設けていました。しかし2021年以降、チャイナプラスワン戦略の広がりを受けて、規制緩和の動きが進んでいます。これは、企業の誘致を目的とした政策転換です。この政策転換により、日本企業も進出しやすくなっています。
ASEAN主要6カ国の法人税・税制の比較一覧
企業が海外に進出する際、確認すべき内容の一つは法人税などの税制です。この違いにより、必要なコストが変わるためです。そこで、ASEAN主要6カ国の法人税・税制に関する情報を表にまとめました。
ASEAN 主要6カ国 | 法人税 | 消費税・ 付加価値税 | 優遇税制制度 | 二国間租税条約 |
インドネシア | 22% | 11% (一部12%) | ・法人税の減免 ・課税所得の 控除 ・減価償却期間 の短縮 ・外国配当課税 率の引き下げ | あり |
マレーシア | 24% | 5~10% (消費財により異なる) | ・法人税の免除 ・投資控除 ※推奨業種 | あり |
フィリピン | 25% | 12% | ・法人税率の 引き下げ ・付加価値税 免除 の対象拡大 | あり |
シンガポール | 17% | 9% | ・法人税率の 引き下げ ・国外源泉所得 の免除 ・ワン・ティア 法人税制度 | あり |
タイ | 20% | 7% | ・法人税の免税 | あり |
ベトナム | 20% | 10% (一部0%・5%) | ・法人税の優遇 ・輸入関税の 免除 ・付加価値税の 免除 | あり |
ASEAN主要6カ国の法人設立の手続き
ここからは、ASEAN主要6カ国の法人設立の手続きを紹介します。
インドネシア
インドネシアで法人を設立するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 払込資本金が100億ルピア以上
- 土地・建物を除いた投資計画が100億ルピアを超えていること
さらに、業種によっては外国資本の出資比率に制限があるため、事前の確認が必要です。
法人設立の手続きの流れは以下のとおりです。
法人設立の手続き
1. 会社設立の登記
2. 事業基本番号の取得
3. 事業許認可の取得
4. 環境承認の取得
5. 建物建築承認と建物機能適正認証の取得
6. 外国人雇用の許可
7. 資本財・原材料の輸入便宜の取得
8. 立地許可の取得
参考:JETRO「インドネシア 外国企業の会社設立手続き・必要書類」
マレーシア
マレーシアで外国企業が法人を設立する場合、株式有限責任会社を選択するのが一般的です。法人設立の手続きの流れは以下のとおりです。
株式有限責任会社の設立の手続き
1. 会社名の使用許可申請
2. 書類の提出および会社設立
3. 30日以内に会社秘書役を任命
4. 監査済財務諸表の送付
5. 実質的所有者の情報の届出
参考:JETRO「マレーシア 外国企業の会社設立手続き・必要書類」
フィリピン
フィリピンの法人設立は、払込資本金によって条件が異なります。
- 払込資本金20万ドル以下の場合、株式の60%以上がフィリピン資本でなければならない
- 「スタートアップ」または「スタートアップ支援機関」と承認されておらず、15人以上直接雇用しない場合、20万ドル以上の払込資本金で100%子会社を設立できる
- 「スタートアップ」または「スタートアップ支援機関」と承認されている、もしくは15人以上直接雇用し、かつ10万ドル以上の払込資本金で100%子会社を設立できる
100%子会社設立の手続きは以下のとおりです。
100%子会社設立の手続き
1. 登録必要書類の準備
2. 納税者番号を書類に記載
3. 事業許可証と住民税納付証明書を取得
4. 設立から30日以内に証券取引委員会へ登録
ただし、一部の事業についてはフィリピン資本が保有している企業のみにしか許可されていないので注意が必要です。
参考:JETRO「フィリピン 外国企業の会社設立手続き・必要書類」
シンガポール
シンガポールでは、資本金に関する制約がないため、1シンガポール・ドルから現地法人を設立できます。ただし、駐在員の就労ビザを取得するためには、10万シンガポール・ドル程度の資本金が望ましいとされています。法人設立の手続きは次のとおりです。
法人設立の手続き
1. 事前準備
2. 代行業者の決定
3. 会社設立必要情報の決定
4. 設立必要書類の準備と署名
5. 会社および支店設立登記
6. 銀行口座の開設
7. 資本金の入金と増資手続き
8. 法人設立
参考:JETRO「シンガポール 外国企業の会社設立手続き・必要書類」
タイ
タイでは次の手順により法人の設立が可能です。
法人設立の手続き
1. 商号の予約・許可申請
2. 基本定款の登記
3. 設立総会の開催
4. 会社の登記
また、タイでは法人に対して次の履行を求めています。
- 付加価値税(VAT)登録
- 社会保障基金への拠出
- 労働者補償基金への拠出
参考:JETRO「タイ 外国企業の会社設立手続き・必要書類」
ベトナム
ベトナムでは次の手続きにより法人の設立が可能です。
法人設立の手続き
1. 必要書類の準備
2. 登録プロジェクトの登録
3. 企業登録証明書の発行申請書を提出
4. 法人設立
なお、創造的スタートアップ中小企業および創造的スタートアップ投資基金の設立の場合は、提出書類の一部が免除されています。
参考:JETRO「ベトナム 外国企業の会社設立手続き・必要書類」
ASEAN進出時に考慮すべきポイント

ASEAN諸国は日本と多くの違いがあるため、思わぬトラブルが発生することもあります。こうしたリスクを避けるためには、進出の際に次のポイントを十分に考慮することが大切です。
インフラ整備状況
ASEAN諸国では、国や地域によってインフラ整備の状況に大きな差があります。例えば、道路網が未発達、あるいは慢性的な交通渋滞が発生している地域では、物流の遅延やトラブルが起きやすくなります。このようなインフラ整備状況に関する課題は、進出後に気付いてもすぐに改善することは困難です。スムーズな事業運営のためには、進出前にインフラの状況を十分に調査・確認しておくことが大切です。
商習慣の違い
ASEANでは、国や地域によって商習慣が大きく異なります。例えば、タイでは価格交渉が日常的に行われており、金額を提示すると値下げ交渉が始まるのが一般的です。そのため、価格設定の際には、こうした値下げを踏まえて決定する必要があります。しかし、ビジネスモデルによっては合わないこともあるでしょう。円滑に事業を進めるには、進出前に現地の商習慣を把握しておくことが大切です。
地政学的リスク
ASEAN諸国の中には、必ずしも政治的に安定している国ばかりではありません。例えば、フィリピンのように政治が不安定な地域もあります。また、近隣諸国との関係が悪化しているケースも見られます。このような地政学的リスクは、海外進出において大きな懸念材料です。進出を検討する際は、地政学的リスクを十分に考慮した上で、慎重に判断することが大切です。
海外進出には税制や手続きの把握が必須
ASEAN諸国への海外進出で成功するには、各国の税制や法人設立の手続きを把握する必要があります。また、インフラ環境や商習慣、地政学的リスクといった現地特有の事情を把握することも大切です。しかし、これらの情報は専門性が高く、現地でしか得られないものも多くあります。
プルーヴでは、ASEAN進出を検討する企業様に向けて、海外市場調査により確かな情報を提供しています。ASEAN諸国への進出を検討中の経営者様は、ぜひお気軽にご相談ください。