高級車ブランドのメルセデス・ベンツの戦略を売上高・利益から考察

メルセデス・ベンツは高級車ブランドとして日本でも人気の自動車メーカーです。1886年にカール・ベンツにより創設され、世界初の自動車として特許を取得しています。

100年以上の歴史を持つベンツがガソリン車から電気自動車にシフトする時代において、どのような成長戦略を持っているかは参考になる点が多いでしょう。

本記事ではビジネスパーソンに向けて、メルセデス・ベンツの会社概要や経営状況、成長戦略について紹介します。

そもそもメルセデス・ベンツとは

出典:メルセデス・ベンツ日本

まずはメルセデス・ベンツの基本情報として会社概要や企業理念、事業内容を紹介します。

会社概要

メルセデス・ベンツの会社概要は以下のとおりです。

会社名メルセデス・ベンツ グループ社 英文社名:Mercedes-Benz Group AG
本社ドイツ
設立1926年
売上高1,532億ユーロ(2023年)
世界販売台数275万台(2021年)
従業員数172,425人(2021年)

メルセデス・ベンツは世界の37カ所に現地法人を設立し、200カ国以上に進出しています。日本においてはメルセデス・ベンツ日本株式会社があり、日本国内の販売拠点数は204カ所です。2021年の日本国内の販売台数は51,678台でした。

企業理念

メルセデス・ベンツの企業理念は、ドイツ語で「最善か無か」を意味する「Das Beste oder nichts(ダス ベステ オーダー ニヒツ)」です。創業者のひとりであるゴットリープ・ダイムラーの言葉で、妥協せずに完璧を目指す意思を表しています。この企業理念をもとに、多くの核心的な技術や概念を生み出すことで現在の地位を築いています。

事業内容

メルセデス・ベンツの主要事業は、「Mercedes-Benz Cars」「Mercedes-Benz Vans」「Mercedes-Benz Mobility」の3つです。各事業の内容を紹介します。

Mercedes-Benz Cars:自動車部門

Mercedes-Benz Cars(メルセデス・ベンツ・カーズ)は、その名のとおり自動車事業を担う部門です。ガソリン車だけではなく、電気自動車の開発・販売も含みます。

Mercedes-Benz Vans:バン専用ブランド

Mercedes-Benz Vans(メルセデス・ベンツ・バン)は、商用車部門で主にバンの製造・開発をしている部門です。バンとは、荷台が貨物室の自動車の総称で、簡単にいえば箱型の貨物自動車のことです。メルセデス・ベンツ・バンは大型から小型までさまざまなバンを販売しています。

Mercedes-Benz Mobility:金融やモビリティサービス部門

Mercedes-Benz Mobility(メルセデス・ベンツ・モビリティ)は、金融やサブスクリプションサービス、リース、保険などの分野を担う事業です。車を購入するためのローンの提供や、自動車のリースが主力事業となります。

メルセデス・ベンツの歴史

メルセデス・ベンツは世界最古の自動車メーカーで、その歴史もブランド価値を高めている要因の1つです。ここではメルセデス・ベンツの歴史を簡単に紹介します。

1886年:カール・ベンツが世界で初めて自動車(三輪車)の特許を取得

同時期、ゴットリープ・ダイムラーが世界初の四輪自動車の開発に成功

1888年:カール・ベンツの妻と息子が約100kmの長距離走行に成功

1926年:ダイムラー社とベンツの2社が合併し「ダイムラー・ベンツ社」を設立

その後、ダイムラー・クライスラーやダイムラーなど社名変更を経て、2022年に「メルセデス・ベンツ・グループ」となりました。1926年の合併以降ブランド名は「メルセデス・ベンツ」で一貫しており、ブランド名と企業名を一致させた形です。

メルセデス・ベンツの経営状況

メルセデス・ベンツの売上高・純利益の推移は以下のとおりです。

参考:メルセデス・ベンツ「Annual Reports

メルセデス・ベンツの2023年の売上高は、1,500億ユーロ(24兆円)で前年比2.1%の増加でした。一方、純利益は160億ユーロ(2兆3,200億円)で前年比1.9%の減少でした。

※1ユーロ=160円

2017年~2019年と比較すると売上が少ないものの、純利益が増えていることから、近年は純利益率が改善していることがわかります。ちなみに2019年の純利益率は1.6%で、2023年は9.5%でした。

2023年の地域別売上高の割合は以下のとおりです。

参考:メルセデス・ベンツ「Annual Reports

メルセデス・ベンツの主要な地域はヨーロッパ・北米・アジアです。そのなかでもドイツが15.4%、アメリカが23.9%、中国が18.2%を占めています。

メルセデス・ベンツの各事業の売上高・粗利の推移

メルセデス・ベンツの3つの事業が売上に占める割合は以下のとおりです。

参考:メルセデス・ベンツ「Annual Reports

この章では各事業の売上高・粗利の推移から各事業について考察します。

Mercedes-Benz Cars

メルセデス・ベンツ・カーズの売上高・粗利の推移は以下のとおりです。

参考:メルセデス・ベンツ「Annual Reports

メルセデス・ベンツ・カーズ全体の販売台数は、2023年に204万台に達しました。そのなかでもマイバッハ・Gクラス・メルセデスAMG・Sクラスなど、高級モデルが順調に売上を伸ばしています。

なお電気自動車はメルセデス・ベンツ・カーズ全体の12%を占めており、今後も拡大が期待されています。

Mercedes-Benz Vans

メルセデス・ベンツ・バンの売上高・粗利は以下のとおりです。

参考:メルセデス・ベンツ「Annual Reports

メルセデス・ベンツ・バンは順調に拡大している事業です。2023年の売上高は202億ユーロで、販売台数は過去最高の44万台でした。前年比で32,500台の増加となります。販売台数の内訳は以下のとおりです。

大型バン:237,400台

中型バン:178,900台

小型バン:31,500台

また2023年から電気自動車のバンも投入しており、今後の事業拡大が期待されています。

Mercedes-Benz Mobility

メルセデス・ベンツ・モビリティの売上高・粗利の推移は以下のとおりです。

参考:メルセデス・ベンツ「Annual Reports

メルセデス・ベンツ・モビリティは売上高・粗利ともに減少傾向にあります。2023年の売上高は267億ユーロで前年比0.8%減、2021年と比べると4.0%の減少となります。

一方、2023年の粗利は30億ユーロで前年比22.2%減、2021年と比べると39.0%の減少です。これほど粗利が悪化している要因は、借り換え金利の上昇と金融サービス部門の競争激化による影響と考えられています。

メルセデス・ベンツの成長戦略

出典:メルセデス・ベンツ日本「Café / RESTAURANT

メルセデス・ベンツは高級ブランドのイメージが強いものの、富裕層だけではなく一般層の獲得にも取り組んでいます。例えば、「メルセデスミー」のカフェやレストランです。

「メルセデスミー」とは、一般客向けにメルセデス・ベンツの魅力を発信するために、ショールームを併設したカフェやレストランのことです。自動車に興味がない人でも来店できるため、これまで同社と接点のなかった人と接点を作ることを目的としています。

またメルセデス・ベンツは成長戦略として電気自動車の規模拡大を掲げています。

EV市場のシェア獲得や富裕層以外を取り込めるかがカギ

今後はサステナブルな観点から世界中でEV需要が高まるとみられるなか、メルセデス・ベンツがEV市場でどれほどのシェアを獲得できるかが注目すべきポイントです。また高級車ブランドとして定着したイメージを毀損することなく、富裕層以外も取り込めるかが成長のカギといえるでしょう。

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