チャイナプラスワン戦略とは?候補の国やメリットをわかりやすく解説

チャイナプラスワン戦略は、多くの企業から注目されています。しかし、「どのような意味なのか」や「有力な移転先が知りたい」など、疑問をお持ちのビジネスパーソンもいらっしゃるでしょう。そこで本記事では、チャイナプラスワン戦略の基本的な概念や注目される背景、候補の国、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。 

チャイナプラスワン戦略とは? 

チャイナプラスワン戦略とは、中国だけでなく、他の国にも拠点を置く経営戦略です。
例えば、「中国+韓国」や「中国+ベトナム」といった形で、複数の国に拠点を置きます。
この戦略の目的は、中国への過度な依存によって生じるリスクを回避することです。 

チャイナプラスワン戦略が注目される背景 

多くの日本企業がチャイナプラスワン戦略に注目し、実際に拠点を移転させる動きが広がっています。ここでは、その背景について解説します。 
なお、日本企業が具体的にどの国や地域を進出先として選んでいるか気になる方は、「日本企業の海外進出国ランキングTOP10」の記事も併せてご覧ください。 

米中対立の激化 

2018年、アメリカのトランプ大統領は対中貿易赤字の是正を目的に、中国製品に対して25%の関税を課しました。これに中国も報復関税で応じたことから、両国は関税の応酬に突入し、いわゆる「貿易戦争」が勃発。その後、大統領がバイデン氏に交代しても、アメリカ国内世論の対中強硬論を背景に、中国に対する政策方針は大きく変わりませんでした。 

2025年にトランプ氏が大統領に再選すると、中国製品への関税を再び引き上げました。これに対抗して中国側も報復関税を発動し、一時は関税率が最大145%にまで達しました。現在は30%にまで引き下げられていますが、交渉次第では、再び関税の応酬合戦になる可能性もあります。 

こうした米中関係の悪化により、中国で製造した製品をアメリカへ輸出するビジネスモデルはリスクが高まっています。そこで、リスク回避のために、チャイナプラスワン戦略が注目されているのです。 

サプライチェーン強靭化 

新型コロナウイルスの世界的な流行によって、従来のサプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになりました。中国で実施されたロックダウン措置により部品の供給が滞り、多くの企業が深刻な打撃を受けたためです。 

このような経験から、中国に生産拠点を集中させるサプライチェーンはリスクが高いと広く認識されるようになっています。その結果、サプライチェーンの強靭化を目指し、中国以外にも生産拠点を分散させるチャイナプラスワン戦略が注目を集めているのです。 

技術流出のリスク回避 

中国は、2023年7月に反スパイ法を改正しました。スパイ行為の定義が大幅に拡大され、運用基準があいまいなため、技術流出や安全保障上の懸念が高まっています。このようなリスクを回避するために、中国から拠点を移転する動きが広がっています。 

チャイナプラスワン戦略の候補の国 

チャイナプラスワン戦略を進める上で、最も重要なポイントの一つが「どの国に進出するか」という選択です。各国には異なる特徴やリスクがあるためです。ここでは、有力な候補として注目される4カ国を紹介します。 

インド 

インドは人口の多さと高い生産力を背景に、チャイナプラスワン戦略における有力な進出先として注目されています。原料の調達から製品の製造までを国内で行える体制が大きな強みです。
ただし、日本への海上輸送に時間がかかるという課題もあり、物流に関しては工夫や対策が必要です。 

ベトナム 

ベトナムは人件費の安さ、安定した国内情勢、親日的な国民性などからチャイナプラスワン戦略の有力な候補の一つです。一方で、新興国ゆえに現地で部品が調達しにくいといった課題もあります。 

タイ 

タイはもともと日本企業の進出が盛んな地域の一つです。自動車産業を中心に多くの企業が生産拠点を置いています。しかし、2011年の大洪水では多くの企業が被害を受けました。この件は、中国以外の国でも生産拠点を一つに集中させることの危険性を示す事例となりました。現在のタイでは、人件費の高騰や人材の確保が大きな課題となっています。 

フィリピン 

フィリピンは積極的にインフラ整備を進めているのに加え、英語を話せる人材を確保しやすい点が大きな魅力です。さらに、海外企業に対して手厚い優遇制度を提供していることも特徴です。これらの理由から、フィリピンはチャイナプラスワン戦略の進出先の候補として注目されています。 

その他 

上記で紹介した国以外にも、カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラデシュなどが候補として挙げられます。これらの国々は人件費の安さが魅力ですが、一方でインフラに課題がある場合も珍しくありません。進出先として選定する前に、インフラの整備状況を確認することが大切です。 

チャイナプラスワンの渦中での中華系企業の動き 

日本企業がインドや東南アジアへ拠点を分散する中、中華系企業でも製造拠点を海外に移転する動きが広がっています。新型コロナウイルスによるロックダウンの経験や米中対立の悪化を受けて、中国国内だけに生産拠点を置くことのリスクが明確になったためです。 

中華系企業はリスク分散を図るため、日本、タイ、ベトナムなどへ進出しています。この動きによって、それらの地域では新たな需要が生まれ、ビジネスチャンスが拡大しています。 

チャイナプラスワン戦略のメリット 

企業がチャイナプラスワン戦略を採用するメリットは次のとおりです。リスク回避だけでなく、成長機会の創出という視点でも注目されています。 

メリット① サプライチェーンの安定化 

中国以外にも生産拠点を確保しておけば、中国で再びロックダウンの措置が実施されたとしても、サプライチェーン全体が止まるリスクを回避できます。つまり、複数の拠点を持つことで、供給の分散が可能となり、サプライチェーンの安定化につながるのです。これにより、企業は安定した事業運営が可能になります。 

メリット② 米中対立の影響の緩和 

現在、アメリカが中国に課している関税は一時的に30%になっていますが、そのまま引き下げられるかは不透明です。こうした情勢の中、チャイナプラスワン戦略はリスク回避のために多くの企業が採用しています。中国製品に高関税が課された場合でも、他国の拠点からアメリカへ製品を出荷できるためです。つまり、チャイナプラスワン戦略を採用するメリットは、米中対立による影響を低減できることです。 

メリット③ 新市場の獲得 

チャイナプラスワン戦略はリスク回避だけでなく、新たなビジネスチャンスの創出にもつながります。インドや東南アジア諸国は、人口増加や経済成長が著しく、今後も市場拡大が期待されるためです。また、新興国市場に早期に参入することは、将来の競争優位性の確保にも役立ちます。 

チャイナプラスワン戦略のデメリット 

チャイナプラスワン戦略には多くのメリットがある一方、注意すべきデメリットもあります。成功のためには、実施する前にデメリットをあらかじめ把握しておくことが大切です。
ここでは、4つのデメリットについてわかりやすく解説します。 

デメリット① 進出先の人件費の高騰リスク 

インドや東南アジア諸国に拠点を移す大きなメリットは、人件費の安さです。しかし、当初は安くても、時間が経つと人件費が上昇するリスクがあります。他社が同様にチャイナプラスワン戦略を採用することで、人材の争奪戦が激化する可能性があるためです。 

デメリット② 輸送期間の延長・費用の負担増リスク 

拠点を分散すると、製品の輸送距離が長くなり、輸送期間の延長や輸送コストの増加が避けられません。特にインフラが未発達な国では、物流の効率化が難しい場合もあります。
これにより、納期遅延やコスト増が発生するリスクがあります。 

デメリット③ 政治・制度リスク 

新興国や発展途上国の場合、政治的な不安定さや法制度の未整備といったリスクがあります。このような政治・制度リスクは突発的なコスト増や事業停止の原因になりかねません。
そのため、進出前に綿密なリスク評価と現地情報の収集が必要です。 

デメリット④ 現地パートナーや人材の確保難 

チャイナプラスワン戦略のデメリットは、信頼できる現地パートナーや優秀な人材を確保するのが難しいことです。言語や商習慣、文化の違いに加え、良好な関係を築くまでに時間がかかることもあるからです。さらに、現地パートナー選びを誤ると、事業の運営に支障をきたす可能性があります。選出の際は細心の注意が必要です。 

チャイナプラスワン戦略を成功に導くために 

米中関係の悪化により、チャイナプラスワン戦略は企業にとって重要な選択肢となっています。一方で、海外進出にはリスクが伴うのも事実です。 

プルーヴでは、海外市場の調査や進出の支援を通じて、チャイナプラスワン戦略を成功に導くサポートをしています。候補地の市場調査や選定、現地パートナーの紹介など幅広く対応できます。まずはお気軽にご相談ください。 

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