
2024年のフィリピンのGDP成長率は5.6%で、ASEAN主要6カ国の中ではベトナムに次ぐ水準となりました。また、フィリピン経済開発庁によると、同国は2025年に「上位中所得国」入りを果たす可能性があるとされています。
このようにフィリピンは経済成長が堅調です。そのため、今後さらなるビジネスチャンスが期待されます。
そこで本記事では、同国への進出を検討しているビジネスパーソンに向けて、フィリピン経済に強い影響力を持つアボイティス財閥の概要と主要事業について解説します。
※「上位中所得国」とは、世界銀行が各国を一人当たり国民総所得に基づいて分類する4つの経済区分の一つです。分類は、低所得国、中所得国、高中所得国、高所得国の4つに分かれています。
アボイティス財閥とは

出典:Aboitiz
アボイティス・グループは、電力や銀行・金融サービス、食品、インフラストラクチャーなどの事業を展開するフィリピン財閥です。100年以上の歴史があり、フィリピン経済に大きな影響力を持っています。ここでは、同財閥の歴史や理念を紹介します。
歴史
アボイティス財閥の始まりは、1800年代後半にスペイン・バスク地方出身の船乗りパウリーノ・アボイティス氏が、「アボイティス・アンド・カンパニー」を設立したことにさかのぼります。同社は雑貨商として事業を開始し、その後、パウリーノ氏の次男であるドン・ラモン・アボイティス氏が事業を大きく拡大しました。
2代目のドン・ラモン氏は様々な分野に進出し、現在のアボイティス財閥の基盤を築き上げた人物です。アボイティス財閥は5世代にわたり家族経営を継続しており、その成功の背景には、ドン・ラモン氏の経営哲学と、長年かけて培われた卓越した伝統があります。
現在では、アボイティス家はフィリピンを代表する財閥へと成長しました。Forbes誌の「フィリピン富豪50人ランキング」によると、アボイティス家の総資産は22億ドルに達し、第10位にランクインしています。
理念
アボイティス財閥が重視する価値観は次の4つです。
誠実
約束を守り、公正なプロセスを実行し、自らの行動とその結果に責任を持つ
チームワーク
チーム全体の力を結集することで、より大きな成果と指数関数的な成長を実現する
革新
顧客を中心に考え、大胆かつ勇気ある革新に取り組む
責任
人類、地球、そして持続可能性に対して、継続的にアプローチする
アボイティス・エクイティ・ベンチャーズとは
アボイティス財閥の中核企業はアボイティス・エクイティ・ベンチャーズです。同社は持株会社で、子会社を通じて様々な事業を展開しています。ここでは同社の会社概要と経営状況について紹介します。
アボイティス・エクイティ・ベンチャーズの会社概要
アボイティス・エクイティ・ベンチャーズは、国内外の8カ国にまたがる子会社や関連会社を通じて事業を展開しています。同社の会社概要は以下のとおりです。
社名 | Aboitiz Equity Ventures Inc. |
本社 | フィリピン |
設立 | 1989年 |
従業員数 | 15,411人(2025年1月31日時点) ※子会社含む |
売上高 | 3,028億フィリピンペソ(2024年度) |
アボイティス・エクイティ・ベンチャーズの経営状況
アボイティス財閥の影響力や事業規模を把握するために、アボイティス・エクイティ・ベンチャーズの経営状況を紹介します。同社の売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。

参考:アボイティス・エクイティ・ベンチャーズ「Disclosures」
同社の2024年度の売上高は3,028億フィリピンペソ(7,570億円)で、営業利益は506億フィリピンペソ(1,265億円)でした。グラフから近年の売上高は3,000~3,100億フィリピンペソを推移しています。※1フィリピンペソ=2.5円換算
また、同社の地域別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:アボイティス・エクイティ・ベンチャーズ「Disclosures」
グラフからは、アボイティス財閥の事業がフィリピン国内に深く根ざしており、売上の大部分を国内市場で占めていることがわかります。
アボイティス財閥の主要事業
アボイティス財閥は様々な分野に進出しているコングロマリットです。ここでは、その中でも6つの主要事業を紹介します。
発電
アボイティス財閥は、アボイティス・パワー・コーポレーションを通じて、発電および配電事業を展開しています。同社はフィリピンで2番目に大きな電力配電網を構築しており、2024年時点での販売可能容量は6,049メガワットです。火力発電と再生可能エネルギーを組み合わせたエネルギーミックスにより、フィリピン国内で高まるエネルギー需要に対応しています。現在、同社は国内に8つの配電設備と45の発電設備を保有しています。
銀行・金融サービス
アボイティス財閥は、ユニオンバンク・オブ・ザ・フィリピンスやシティ・セービング・バンクなどの子会社を通じて、フィリピン国内で銀行・金融サービスを展開しています。ユニオンバンク・オブ・ザ・フィリピンは、国内有数のユニバーサルバンクです。事業全体で1,390万人の顧客を抱えており、決済関連ソリューションの提供も行っています。
食品
アボイティス財閥は、アボイティス・フーズを通じて、食品事業を展開しています。同社はアジア最大級の食品・農業企業の一つです。フィリピン、シンガポール、中国、ベトナム、マレーシア、インドネシア、タイ、ブルネイの8カ国で事業を展開しています。
また、2023年にはコカ・コーラの欧州法人と共同で、同社のフィリピン現地法人を買収。これにより、フィリピンにおけるコカ・コーラ製品のボトリング事業を担うことになりました。現在、18の製造施設と約70の配送センター・営業所を運営し、9,000人以上の正社員を雇用しています。
インフラストラクチャー
アボイティス財閥は、アボイティス・インフラキャピタルを通じて、インフラストラクチャー事業を手掛けています。同社は、国の経済を支える基盤の一つとなることを目指しており、経済開発、水道、交通などの開発や運営に携わっています。
不動産
アボイティス財閥の不動産事業を担っているのは、アボイティス・ランドです。同社は25年以上にわたり、フィリピンの人々により良い住まいを提供するために、住宅開発を行っています。
データサイエンス・AI
アボイティス財閥のデータサイエンス・AI事業を担っているのは、アボイティス・データ・イノベーションです。同社は「人間中心のアプローチ」を掲げる先進的なスタートアップで、幅広い分野の企業に対して、AIを活用した革新的なソリューションを提供することを目指しています。スマートで持続可能な都市づくり、リスク管理の強化、エネルギー効率の向上といった社会課題の解決に貢献できるとしています。
アボイティス財閥は外国の製造業の誘致を推進
アボイティス財閥は、電力、銀行・金融サービス、食品など多岐にわたる事業を展開し、100年以上にわたりフィリピン経済を支えているコングロマリットです。その影響力は国内にとどまらず、アジア各国にも広がっています。
近年ではルソン島中部に工業団地を開発し、空港・港湾への優れたアクセスや税制優遇を生かして、海外からの製造業誘致を積極的に進めています。フィリピンへの進出を検討している経営者様は、アボイティス財閥との提携を検討してみてはいかがでしょうか。 なお、フィリピンで大きな影響力を持つフィリピン財閥の一つに「SMグループ」があります。同財閥について知りたい方は、「フィリピン財閥のSMグループとは?歴史や理念、主要事業を紹介」もぜひチェックしてみてください。