周波数応答デバイスの事業性検証
業界 : 電力・石油・ガス
対象国・地域 : 英国・オランダ
クライアントは送配電事業者向けの系統設備メーカーです。再エネ発電の拡大に伴う周波数低下の課題に対し、先行する欧州市場での事例を分析し、日本及びアジア等の同社事業展開エリアでの事業見通しを策定しました。欧州では、周波数低下の課題に対し、電力取引市場内で周波数のみを応答取引する制度を実証的に取り組んでおり、同実証事業内で一部地域で金銭授受を伴う事業性検証段階でした。
欧州の同実証プロジェクトを参考事例とし、取引制度、市場見通し及び技術要件等を調査分析しました。将来的な日本及びアジア市場での周波数応答事業の事業展開へ向け装置・システムの開発を進めることとなりました。
課題
クライアントは送配電事業者向けの系統設備メーカーで、これまでは超高圧変電所から柱上まで多様な製品展開し、国内外の安心安全な電力供給に貢献してきました。
カーボンニュートラル政策の進行により、太陽光/風力等の再エネ発電が増加しています。発電源の特性により電力需給が急変する環境において、変電所での計測技術を進化させ、電力需給のリアルタイム把握及び最適化へ向けたソリューションを国内で展開しています。
再エネの拡大は電力需給の変動だけでなく、系統内の周波数低下による大規模停電リスクが顕在化しており、系統に周波数を供給する設備が求められていました。しかしながら、系統へ周波数のみを供給する取引制度は日本国内に存在しないため、再エネ発電で先行している欧州市場の制度変化を調査し、日本国内における周波数安定を実現する手段を検討する必要がありました。
しかし以下の2点の理由により、事業性検証については外注するという結論に至ります。
- 欧州各国の政策や制度は複雑多岐に及ぶものであること
- 周波数供給への参加事業者への金銭の流れや収益性、将来見通し等の網羅的な調査が困難であること
上記の理由に加えて、「エネルギー業界の実績が豊富」、「欧州エネルギー市場へのネットワークを有している」という観点からPROVEに支援を依頼されます。
支援内容
PROVEがクライアントに対して行った支援内容は主に以下の4つです。
- 欧州の電力取引市場の調査
- 電力取引市場における周波数取引の実態把握
- 入応札価格分析を通じた市場規模及び採算性分析
- 日本市場での実装を仮想した際の採算性試算
支援内容において課題となったのは情報量でした。周波数取引は英国の一部地域で実証的に取り組まれており文献情報が限定的だったため、文献情報に加えて当実証事業に参加するプレイヤーへの取材も行い、制度理解及び将来展望について調査しました。
また、系統運営上のリスクは顕在化しているものの日本では未成立な取引制度のなかで、先行事例を基に根拠の伴う日本での事業見通しを作成することは困難でした。欧州で生じている課題や制度、実証実験の結果等を読み解き、事実を基に事業性を検証しました。
欧州はカーボンニュートラル政策の進行に伴い生じうる多様な課題を認知し、先行的に解決へ着手しています。社会制度・技術や事業の視点でも、欧州での先行的な事例を研究することで、将来的な日本市場での事業展開へ向けた事業展望を描くことができると予測しました。
このように、ファクトを基に根拠の伴う事業性の試算を行った点が今回の支援のポイントとなりました。
支援内容からも以下のPROVEの強みが生かせた事例といえます。
- 海外事業の知見・経験を基に、欧州でしか手に入らない先行者のファクト情報を集めることができる
結果
PROVEが支援した結果、欧州の周波数取引市場の現況と課題を参考に、日本及びアジア各国での事業展開を行う事業方針を策定し、同市場向けの装置・システムの開発を進めることとなりました。
同時に、事業成立要件である周波数取引市場の実現へ向けては顧客である送配電企業とともに制度確立へ向けた取り組みを進めていく方針です。
クライアントからは「日本市場での事業性を欧州を根拠として説明することができ、スムーズな意思決定が行えた」との声をいただきました。
海外市場は事業の進出先だけではなく、先行事例の学びの場でもあると実感した事例となりました。