コロナで変わる中国ECと店舗、重要なのはデジタルとオフラインの「融合」!現地日系小売企業の動きも併せて紹介

2020年も残すところ1カ月半となりました。新型コロナウイルスはいまだ世界各国で猛威を振るっており収束の兆しが見えません。そんな状況の中、いち早く経済を立て直したとされる中国ではアフターコロナの新様式がその姿を見せつつあります。

今年は外出を控える消費者が多かったためにネット通販の需要が大きく伸びました。

特にライブコマースの成長は目覚ましく、阿里研究院は2020年のライブコマース流通総額が2019年の4338億元(約6兆9408億円)を大きく上回る1兆500億元(約16兆7000億円)に達すると予測しています。

薇婭(ウェイヤー)氏と李佳琦(Austin)氏

中国を代表するインフルエンサー 薇婭(ウェイヤー)氏と李佳琦(Austin)氏
https://new.qq.com/rain/a/20201028A0H7R300

一方では日系企業を含め中国に実店舗を出店する外資系企業も増加傾向にあり、「アフターコロナ」の消費動向がどうなるのか、深く観察する必要がありそうです。

本コラムでは新型コロナウイルスで中国のEC、小売業界に起こった変化、ECと店頭のすみ分け、日系企業の動向などについて紹介していきます。

好調なEC業界

中国のEC業界は近年急成長しています。以下は2019年のEC業界のBtoC市場規模を国別に表したグラフです。

中国は1兆9348億ドル(約203兆円)となっており、各国と比較してもその規模は群を抜いていることが明確です。

中国EC市場規模

経済産業省がeMarketer, May 2019 をもとに作成https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200722003/20200722003-1.pdf

コロナ後初の大イベント、「618」セールは好調

「618」セールは中国の大手EC企業「京東(ジンドン)」がアリババグループの「独身の日(11月11日)に対抗するために始めたショッピングイベントです。今年の「618」は新型コロナウイルス拡大後初の大型ショッピングイベントでしたが、好調な結果となりました。

セール期間は6月1日から18日までで、ジンドンの流通総額は同イベント最高額の2692億元(約4兆380円)を記録し、ライバルのアリババはそれを上回る6982億元(約10兆4730億円)に達したとしています。

京東流通金額

ジンドンが公開した流通総額
http://finance.sina.com.cn/stock/relnews/hk/2020-06-20/doc-iirczymk8033017.shtml

好調の背景

好調だった背景には、新型コロナウイルス感染防止のため外出を控える「巣ごもり消費」の増加があります。ジンドンによると、今回の「618」では71%の新規ユーザーが地方都市在住者でした。

また、新型コロナウイルスの影響を受けた経済の回復のため、中国政府がEC企業と提携してクーポンを発行したのも要因です。各地方政府やメーカーと共同で発行したクーポンの額はアリババが140億元(約2000億円)、ジンドンが約100億元(約1600億円)でした。

天猫2

アリババが同社のECサイト「天猫(Tmall)」に掲載したクーポンをPRする画像
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1669756842462377997&wfr=spider&for=pc

2020年の「独身の日」アリババ流通総額

なお、2020年のアリババの「独身の日」の流通総額は約4982億元(約7兆8000億円)を記録し、昨年の2680億元(約4兆1000億円)を大きく上回りました。

日系企業も中国ライブコマースに続々参入

今年、新型コロナウイルスで打撃を受けた多くの日本企業が新規販路開拓のため中国ライブコマース市場に参入しています。日本経済新聞などは、日本から中国へのEC参入は2020年2兆円規模になると伝えています。

越境EC市場規模2

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60957590Q0A630C2FFE000/?n_cid=SNSTW005

以下の動画は渋谷パルコが中国ECに参加した際の撮影風景です。

小売の状況

EC業界は好調だと紹介しましたが、国家統計局発表の2020年第一四半期(Q1)全国平均実質可処分所得は8561元(約13万6000円)、前年同期比3.9%減となるなど、新型コロナウイルスが中国に大きな打撃を与えたのは確かです。店頭を持つ小売業界も深刻な影響を受けました。

中国可処分所得

2013年~2020年Q1全国平均実質可処分所得推移(単位:元)https://baijiahao.baidu.com/s?id=1664550191331964841&wfr=spider&for=pc

コロナ前後の客数推移-上海市内の各百貨店

以下は百度(バイドゥ)地図慧眼と中国同済大学が共同で2019年2月から2020年6月までの上海市内の各百貨店における来客数を総合的に分析したものです。

今年2月、中国で新型コロナウイルスの蔓延が最も深刻だった際、来客数は前年同期比66%まで落ち込みました。

上海政府の消費喚起策が功を奏し4月には来客数が前月比67%増加し大幅に回復しましたが、6月でもまだ前年と同水準には戻っていませんでした。

小規模店舗

新型コロナウイルスが深刻化した2020年1月以降、小規模店舗の来客数は激しく落ち込みました。中国の民間評論チャンネル「暁報告」の調査によると、今年1月から2月の間での企業の倒産件数は24.7万件に上っています。

特に感染者が集中した地域では卸、小売業の倒産が多く全体の34.4%(8.6万社)を占めました。

中国国家統計局によると、同期間の社会消費財小売総額は5兆2130億元(約79兆円)で、前年同期比20.5%の減少となっています。

社会消費財小売総額月ごとの成長速度

社会消費財小売総額月ごとの成長速度
https://www.chinanews.com/cj/2020/10-19/9316356.shtml

ECと店頭のすみわけ

どちらも消費者にとっての「選択肢」

ECと店頭を今後どうすみ分けていくのか。「もう店頭は淘汰される時代か?」という声もチラホラ聞こえますが、そんなことはありません。どちらにも魅力があり、店頭もECも消費者にとっての「選択肢」になっているのです。

新小売

「新小売」という言葉があります。これは2016年にアリババ創業者のジャック・マーが提唱した考えですが、「オンラインとオフラインの購入体験」を「融合」させるという意味合いです。アリババの小売スーパー「盒馬鮮生」を例に見ていきましょう。

会員店

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1669642868558994755&wfr=spider&for=pc

このスーパーでは以下の4つの選択肢を自由に組み合わせることができます。

  1. 来店して自分で商品を選び、購入する(従来の買い物スタイル)
  2. 来店して自分で商品を選び、その商品を配達してもらう
  3. スマホで注文して、自宅へ配達してもらう(ECサイトでの買い物スタイル)
  4. スマホで注文して、店頭受け取り(O2O(Online to Offline)モデル)

大きなポイントは、上述1)~4)の商品がすべて同一店舗で動くという点です。

実店舗を倉庫として活用することにより、本来EC専用に設けられるはずの物流センター(=倉庫)が不要となり、物流、冷蔵施設、温度管理などのコストが省略されます。

なお、上記4)については店頭にロッカーが設けられた店舗もあり、消費者は人との接触なしに商品を受け取れるようになりました。

Pickon

http://www.linkshop.com.cn/web/archives/2020/446078.shtml

ECと小売は「融合」すべき

ECは確かに便利ですが、店頭での「対面での会話」「商品に触れる、見る」という体験は大きな強みであり娯楽でもあります。今後は「盒馬鮮生」のように実店舗を拠点とし、ECにも来客にも対応できるスタイルの小売が普及していくと予想されます。

日系企業動向

最近の日本企業はコロナ禍の中どのように中国で事業展開しているのか、また今後どういった計画を持っているのか。その動向を見ていきましょう。

ファーストリテイリング

「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、上述した「新小売」スタイルを早くから採用しています。実店舗が倉庫の役割を担っており、ECでのオーダー時に配送か店舗受け取りの選択が可能です。

ユニクロ中国

ユニクロ中国の公式ECサイトより抜粋

ファーストリテイリングによると、今年8月末時点で中国のユニクロの直営店数は767店となり、日本の直営店数と同数となりました。

同月は19店舗出店し、その中には浙江省桐郷市(同省嘉興市の県級市)や江蘇省丹陽市(同省鎮江市の県級市)、安徽省蚌埠(ほうふ)市などの地方都市6都市が含まれており、今後も中国地方都市への出店を進める方針です。

株式会社アイスタイル

コスメ、美容のセレクトショップと美容総合サイト「@cosme」を運営するアイスタイル。2015年から天猫国際(Tmall Global)に出店しており、中国でも「最も大きな日本の化粧品販売サイト」として広く認知されています。

同社は今年10月、日本のコスメブランドの中国市場進出におけるテストマーケティングを支援する「Tmall Global×@cosme 中国直輸出プロジェクト」を開始しました。

遠隔表彰

遠隔署名式の様子(同社HPより抜粋)

同社HPによると、本プロジェクトでは天猫国際の海外直送店舗内に「@cosme」専用ページを開設し、直輸出方式で商品を顧客へ届けられるようになりました。

商品は日本のアリババの倉庫で管理するため、在庫の調整が柔軟になり、認知度の低いブランドでも少量の在庫で中国市場にチャレンジできるということです。

中国SCM

株式会社アイスタイルが紹介する今回の直輸出方式(上の「直送モデル」)
https://www.istyle.co.jp/news/press/2020/10/1016.html

ローソン

新型コロナウイルスの影響を受けて来店数が減るコンビニも柔軟な策で需要の掘り起こしを狙っています。

コンビニ大手のローソンは今年8月、中国江蘇省南京市に「プレハブ式」のコンビニ2店舗を出店しました。

中国ローソン

南京市にオープンしたプレハブ式ローソン
http://www.soupu.com/news/716259

ローソンは同店舗の構造について「外壁・屋根の断熱材を増やし外壁・屋根面からの熱伝導を抑制することで店内の熱負荷軽減が可能となり、また、遠隔監視により店内で使用する要冷機器の使用量の省エネルギー効果が期待できます」(同社サイトより引用)としています。

建設コストも従来よりも約4割抑えられ、店舗の移動や再設置が可能となるため、公園や駐車場、建設現場などでの出店が可能になりました。

在宅勤務が増える中国では、コンビニは近所にスーパーがなく遠方まで外出が困難な人の貴重なライフラインになっています。同社は2020年内にプレハブ式コンビニを中国国内で10店舗以上出店を目指すとしています。

中国ローソン2

ローソン公式サイトより抜粋
https://www.lawson.co.jp/company/news/detail/1403554_2504.html

狙うべき中国エリア

ここでは事業展開の今後のポテンシャルが高いエリアについて紹介します。ここでは「2級都市」「3級都市」といった「級」を用います。

都市につけられる「級」とは?

まず、中国の都市の「級」についてですが、こちらは中国メディアの第一財経週刊がビジネスリソースの密集度、都市の中枢機能、市民の活性度合い、生活様式の多様性、将来の柔軟性という5項目を基に中国大陸337都市を·1級から5級まで格付けしたものです。

中国政府の公式見解ではなく、民間の見解だと思って良いでしょう。都市の発展レベルを表す目安としてビジネスシーンでもよく耳にするかと思います。

2020年は、1級都市(主要都市)が北京、上海、広州、深センの4都市、新1級都市が四川省成都や江蘇省杭州、重慶など15都市、2級都市は浙江省寧波や雲南省昆明、福建省福州など30都市となっています。3級都市は河北省唐山や海南省海口などです。

1級都市
2級都市

 

3級都市

http://www.zhicheng.com/gncj/n/338327_5.html

地方都市に攻勢をかける外資系飲食、小売

ピザハットやケンタッキーを運営する米ヤム・ブランズは、近年河南省の周口市や商丘市に出店しています。どちらも3級都市に分類される都市です。

中国メディアの新浪網によると、同店舗はコンセプトを「小鎮餐庁(直訳で「小さな街のレストラン」)」とし、通常のメニュー以外にその店独自のメニューを提供しています。また、価格もその土地の物価に合った設定をしています。

ケンタッキー中国

河南省新郷市にオープンしたKFC
https://www.sohu.com/a/414077199_120144005

化粧品専門店を展開する仏セフォラは今年、2級都市とされる江西省の南昌市に出店しました。同社の担当者は「新型コロナウイルスの封じ込みに成功した中国の消費は上向き。ハイブランド化粧品市場には勢いがある」と話し、今後も中国への投資を続ける考えです。

日本の小売業

海外企業が中国の2級、3級都市などに進出する中、ローソンは今年8月3級都市の河北省唐山市へ6店舗同時出店を果たしています。

ローソン行列

唐山市にオープンしたローソン

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1674069978281900136&wfr=spider&for=pc

小売企業は「オンラインとオフラインの融合」をキーワードに、現地に合わせた営業方法を取り入れるなど小回りを利かせた上で中国の地方都市で需要の掘り起こしを狙えるチャンスがあるはずです。

また、大都市ですが新1級都市の四川省成都市へは2021年にロフトが出店予定、TSUTAYAやホテルオークラも同市への進出を表明しています。成都市が今後さらに発展していけばその周辺都市に経済効果が波及し、新たなビジネスチャンスが生まれるでしょう。

終わりに

コロナ抑制に成功したとされる中国では、地域差はありますがすでに消費熱がヒートアップし、新たなビジネスチャンスが生まれているようです。多くの日本国内の企業が海外でもチャンスをつかんでコロナ禍を乗り切ってほしいと願います。

<参考>
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1658849555938363622&wfr=spider&for=pc

https://new.qq.com/omn/20201029/20201029A0BFMS00.html

https://new.qq.com/rain/a/20201028A0H7R300

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1669282015347559541&wfr=spider&for=pc

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00150/102200010/?P=2

https://www.cifnews.com/article/81457

https://news.goo.ne.jp/article/recordchina/business/recordchina-RC_799490.html

https://36kr.com/p/786329800257920

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1682297690880553415&wfr=spider&for=pc

https://dy.163.com/article/FPCN3UAF0519QIKK.html

https://diamond-rm.net/market/53967/

http://finance.sina.com.cn/stock/relnews/hk/2020-06-20/doc-iirczymk8033017.shtml

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1674610615960788826&wfr=spider&for=pc

https://gentosha-go.com/articles/-/27194

https://digital-shift.jp/china/0603

http://www.linkshop.com.cn/web/archives/2020/446078.shtml

https://www.mag2.com/p/money/967934

https://www.sbbit.jp/article/cont1/37403

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO64855820Z01C20A0TJC000/

https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%83%AD-%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AB19%E5%BA%97%E8%88%97%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%B3-6%E9%83%BD%E5%B8%82%E3%81%AB%E5%88%9D%E5%87%BA%E5%BA%97/ar-BB180F65

https://t.cj.sina.com.cn/articles/view/7361705526/1b6cab63600100yvpr?from=tech&subch=internet

https://news.duote.com/202010/204584.html

https://www.fastretailing.com/jp/group/strategy/tactics.html

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62089300Q0A730C2916M00/

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1675232605028128448&wfr=spider&for=pc

http://k.sina.com.cn/article_5281491251_13acd293302000wlns.html?from%3D

https://senken.co.jp/posts/shibuya-parco-201102

関連する事例

海外進出および展開はどのように取り組めば良い?
とお悩みの担当者様へ

海外進出および展開を検討する際に、
①どんな情報からまず集めればよいか分からない。
②どんな観点で進出検討国の現場を見ればよいか分からない。
③海外進出後の決定を分ける、「細かな要素」は何かを知りたい。

このような悩みをお持ちの方々に、プロジェクト時には必ず現地視察を行う、弊社PROVE社員が現地訪問した際に、どんな観点で海外現地を視察しているのかをお伝えさせていただきます。