中国の有名な「代理婚活」とビジネスに通じる現実的な価値観

先日中国を訪れた際に、日本でも有名な代理婚活の現場を見ることができました。その光景を見ながら「どうして中国ではこのようなイベントが盛んなのだろう?」と考えた結果、この代理婚活とビジネスの場面での接し方に少し共通点があるのではないかと感じましたので、紹介したいと思います。

中国の代理婚活とは

中国の代理婚活の実情

親による代理婚活の現場 中国

 
上海や北京など中国の都市部では、週末になると公園に50代以上の男女が集まり、熱心に会話をしている光景が見られます。現地では「公园相亲角」と呼ばれるこの光景は、日本でもニュースになるほど有名な「親による代理婚活の現場」です。

 
中国の代理婚活は、親世代の男女が息子や娘の情報を書いた用紙を傘に貼り付けて置き、それを見て声をかけたり話し合ったりすることによって、彼らの子どもの将来の結婚相手を探すイベントです。結婚する当人同士は参加せず、あくまで親同士が交渉をします。用紙に書かれる子どもたちの情報は、主に年齢・職業・収入・学歴・戸籍・結婚相手に求める条件などです。性格や人柄といった事柄よりも、これらのようなスペックが重視されます。

 
戸籍が重視されることが、中国の代理婚活の特徴でもあります。中国では北京か上海の都市戸籍を持っていることが結婚の際の最大の強みです。中国では都市戸籍(北京や上海などの都市部に生まれると付与される)を持っていると不動産を自由に売り買いすることができます。なぜこのことが重視されるのかというと、中国の人にとって不動産は最大のステータスだからです。

中国の不動産に対する考え方と結婚との関係

ここで、中国の不動産事情について少々触れておきます。中国で家を買うと、その土地に対する70年の借用権が与えられます。期限が到達した土地は新たに期限を更新した上でまたお金を払うか、国に返還するかのどちらかとなります。

 
このような仕組みになっているにも関わらず家を買う人が多いのは、中国では「家を買ってこそ一人前」「家を持ってないと生活が不安定なのではないか」という価値観が特に親世代に強く、結婚する当人(特に娘)の親は家を所有していない相手とは結婚させたくないという風潮があるためです。そのため、中国の若者は自身ががお金を持っていなくても、子どもを結婚させるために親が頭金やローンを払って契約するということが当たり前のように行われています。

中国の親世代が婚活に熱心な理由

中国では結婚しても名字が変わらず、一人っ子政策の時に生まれた20~30代が多いため、日本のように結婚によって名字や家を継がせるという意識は昔ほど強くありません。それにも関わらず、中国の親世代が代理婚活をしてまで子どもを結婚させたい理由は以下の通りです。

結婚が最大の親孝行

孔子の論語など儒教でも教えられる通り、中国では子どもは親孝行をすることが最大の善です。その親孝行とはどんなことかというと、結婚することなのです。

 
中国では女性の就業率が高く、女性は男性と平等の立場に見えますが、その中で選択できるライフコースはまだまだ限定的です。「幸せ」とされているライフコースの中ではいまだに「結婚」がマストということもあり、現代の中国でも「結婚=親孝行=幸せ」という考えは根強いものがあります。また、子どもが生まれた後、親は都市部に出稼ぎしたまま、田舎や郊外で4人の祖父母が1人の子供の面倒を見るケースも多いです。

女性は25歳になったら結婚するのが常識

中国には「剰女」という言葉があります。売れ残りの女、つまり結婚していない女性を指します。中国では剰女は25歳から始まり、この年をすぎて未婚の女性は周りからの結婚へのプレッシャーが顕著になります。例えば、春節に剰女が親戚に会った際には「你今年多大(今年で何歳)?你还没结婚吗(まだ結婚しないの)?」とストレートに聞かれます。聞きたいことをダイレクトに聞くのが当然の国民性なので、日本のように婉曲的に聞くことはしません。

 
日本の基礎化粧品ブランド・SK-Ⅱは2016年にこのことをを題材にした動画広告を製作し、ターゲットとなる中国の20代~30代の女性から多くの共感や感動を集めました。

親は子どもの結婚相手に「職業の安定性」を求める

中国の親世代の人々は、子ども、特に娘の結婚相手について、娘が相手をどう思っているのかよりも相手の職業の安定性を優先する傾向にあります。というのも、中国は近年まで一人っ子政策を導入していたため子どもは一人だけというケースが多く、その一人の子どもの結婚相手の家庭状況が自分たちの老後の経済状況を大きく左右するという考え方が主流となっています。

 
中国人が考えている「結婚」は、恋愛の先のゴールではなく、現実的な条件の擦り合わせという位置付けである、と言った方が正確かもしれません。

中国の婚活への価値観は、ビジネスにも通じるものがある

人民公園風景 中国

 
中国の代理婚活やその背景にある結婚への価値観を見ると、中国でのビジネスにも通じるものがあると感じます。

 
中国の人は酒を酌み交わすほど親しい間柄になれば、たとえビジネス上の関係でも親戚や友人のように接します。彼らは「困っていることがあったらなんでもします」という態度で接してくれますし、実施にあらゆる手立てを打ってくれます。しかし、そのような関係ではない初めて会う人などには「時間をかけて対応する見返り=メリット」がないと動いてもらえないことが多いです

 
そのため、中国のビジネスの現場で最初に会う人に対しては、明らかに相手にとってメリッとなる事柄や取引希望条件を提示することが一般的です。日本のように熱意や人間性をアピールしたり、「とりあえず視察してから考えたい。まずはお会いしてお話を」という考えでは、見学やミーティングすら応じてもらえないという実情があります。

 
今回、中国の代理婚活の現場を見て、婚活のような日常のトピックでもビジネスに通じる価値観を見いだせる良い例だと感じました。


【参考文献】
「北京お見合い広場」に親たちが殺到するワケ
https://toyokeizai.net/articles/-/175218

知っておこう中国の土地使用権https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/05001564/05001564_001_BUP_0.pdf

「SK-Ⅱ」のCMに中国女性が感動したワケ
https://toyokeizai.net/articles/-/152296

SK-II: Marriage Market Takeover
https://www.youtube.com/watch?v=irfd74z52Cw

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