海外進出を検討する上では、まず進出候補先となる国・都市の調査を行い、市場や現地の実態を把握することが重要です。しかし、国によってはさまざまな民族・宗教・文化などが入り混じっており、それらを安易に一括りにして調査を行うことはできません。
今回はそうした多民族国家における市場把握の難しさと、ターゲティングの重要性についてお伝えします。
多様性のある国ならではの市場把握の難しさ
多民族国家の市場や実態を把握したい場合、まず気を付けなければならないのが調査対象のリクルーティングです。
日本で市場調査をする際は主に男女別・年齢別・職業別などで調査対象を区分しますが、多様性のある国ではそう簡単にはいきません。
例えばインドネシアは約300種の民族を抱える多民族国家であり、イスラム教を筆頭にキリスト教、仏教などさまざまな宗教・文化が入り混じる国です。
実際にインドネシアで30の家庭を訪問したところ、民族や宗教、勤務先などによって家庭の様子も大きく異なっていました。勤務先がローカル企業なのか外資系企業なのか、また外資系企業の中でも欧米系か日系かなど、その属性は多岐にわたります。
いわゆる富裕層と呼ばれる家庭もインドネシアの場合は非常に幅が広く、ある程度のイメージがつく日本の富裕層とは違い、それぞれに住居の形や生活スタイル、交友関係も全く異なっています。
このように多様性のある国では調査対象を狭めすぎると結果が偏ってしまい、反対に広くしすぎると今度は結果にかなりのバラつきが出てしまうことがあるため、調査対象のリクルーティングには注意が必要です。
また、そもそも国が出している統計データ自体が怪しいケースもあり、日本のように緻密な市場把握が難しい場合があるということも理解しておく必要があります。
ターゲットの解像度を高くすることが重要
多民族国家を進出先として検討する場合、もう一つ注意したいのがターゲティングです。
我々が依頼を受ける中で、よく「ASEANに進出したい」「アメリカで事業展開したい」といった声を聞くことがありますが、一括りに東南アジアといっても国によってその様相は全く異なり、またアメリカの場合は州によっても法律が変わってきます。
海外進出を検討する上では、日本での事業展開よりもターゲット像がぼやけやすいため、狙いたいエリアや顧客層などを絞り込む作業が必要不可欠です。
特に多様性のある国の場合、ターゲット像が漠然としたまま調査を行ってしまうと結果も非常に幅が広く不明瞭なものとなり、現地の実態を把握することが難しくなってしまいます。
まずはクライアント自身が「自社の製品・サービスをどういう人たちに届けたいか」を明確に定め、ターゲットの解像度を高くすることが大切です。
ただし、ピンポイントに絞った調査は全体での調査とは乖離した結果になることもあります。そういった場合は統計データなどマクロな視点から全体像を掴み、情報のバランスを取ることにも気を配らなければなりません。
小さい市場から現地での実績を作っていくという発想
ターゲットを絞り込んだ調査で現地の実態を把握し、少しでも可能性が見えてきたら、そこで足踏みせずに次の一手を打つことが何よりも重要です。
日本は諸外国に比べてビジネスのスピード感が非常に遅く、海外進出に関しても入念な調査を繰り返すばかりでなかなか展開までの一歩が踏み出せない企業が多くいます。
特に市場が完成しきっていない東南アジアなどの場合はなおさらです。日本企業の多くは最初から大きい市場を狙っているため、「小さい市場で実績を作っても意味がない」と思いがちですが、決してそんなことはありません。
第一どんなに日本で需要がある製品やサービスでも、海外での実績がゼロの状態からいきなり大きい市場を狙うことは難しいでしょう。また、市場が大きくなればなるほど他の外資系企業やローカル企業も参入してくるため、余計に進出が厳しくなってしまいます。
むしろ市場が出来上がっていないからこそ、早いうちから虎視眈々と狙いを定めておくべきなのです。
そもそも日本の製品やサービスを海外で展開するにあたっては言語や文化の壁があり、現地に合わせたカスタマイズが不可欠です。ローカライズするための期間も考えると、ローカル企業に先んじて最初の一手を打っていかなければなりません。
これからの海外進出においては、少しでも可能性が見えたら躊躇せず一歩を踏み出し、小さい市場から実績を作って現地でのシェアを広げていくという発想が欠かせないものとなっていくのではないでしょうか。