日本でも以前は活気のあった電動二輪(オートバイ)市場。昨今は運転時の危険性や雨、寒さなどを理由に一般ユーザーのオートバイ離れが加速しています。
ところが、新型コロナウイルスの蔓延以降、家で食事をする機会が増えフードデリバリーを利用する人が急増しました。出前館や、蕎麦、中華、ビザなどの宅配など企業専属のデリバリーはオートバイを使用していることが多いのではないでしょうか?新聞配達や、郵便局の配達もオートバイが多いですよね。
燃料の高騰や、環境に対する考え方によりオートバイの商業利用が注目されています。そしてより環境に配慮するため、電動化されたオートバイが普及し始め、市場を変化させていくでしょう。
この記事では、コロナ禍において変化が起こったオートバイ市場やその電動化について記述します。
フードデリバリー業界の変化
今オートバイ普及のカギとなるのがフードデリバリー業界。新型コロナウイルスが蔓延する前までは、フードデリバリーサービスは4000億円弱の規模で推移していました。その中でウーバーイーツなどの新規企業の参入もあり、毎年数パーセントですが、着実に市場が拡大して来ている状況でした。
そしてコロナ禍では、平日のリモートワークや週末のステイホームのため、外に食事に行かずデリバリーで食事を自宅に届けてもらう需要が急増。2019年には4183億円だった市場が、2020年には、一気に1.5倍の6264億円へと跳ね上がりました。
新型コロナウイルス蔓延が解消されたとしても、この利便性を踏まえるとそれほど市場が衰えるということも考えられず、さらにはフードデリバリーの新規企業も多数参入してきました。日本でも、「楽天デリバリー」をはじめ、海外からも中国の「DiDi Food」、フィンランドの「Walt」、ドイツの「foodpanda」、そしてアメリカの「DoorDash」など多くの企業がフードデリバリー事業を開始し、将来的な価格競争なども含め市場の活性化をより促している状態です。
そんな活気あふれるフードデリバリーで使用されているのが自転車やオートバイ。ウーバーイーツでよく見かける配達員は自転車の人が多いですが、50cc以下のいわゆる原付や125cc未満のオートバイでは、使用する際に申請の必要がないため、個人事業主として配達をしている人の中でも今後使用率が高まってくることが考えられます。
世界の電動二輪市場規模
日本と異なり世界では、オートバイの方が自動車より販売量が多い国々もあります。それはインド、バングラデシュ、東南アジア諸国など温暖な気候の新興国。中国も以前はオートバイの販売台数が世界有数のものでしたが、最近では自動車の販売と製造に力を入れているためオートバイ生産は減少してきています。それに伴いオートバイ生産市場の国別勢力図も変化しています。
現在の世界のオートバイ販売台数は、2019年に5700万台、その中でインドは2018年に2100万台ものオートバイを販売しています。日本でも最多販売台数が650万台ほどなので、世界の販売は桁が全く違いますね。日本ではオートバイの販売台数が減少してしまったものの、現在でもホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキなど多数の有名オートバイメーカーが存在し、特に先進の環境技術開発が盛んに行われています。
そんなオートバイの環境性能とはいったいどのようなものなのでしょうか?
オートバイの環境性能
環境性能の観点からすると、以前は小型で、特に50CC以下の原動機付自転車の区分に入るオートバイは、2ストロークエンジンという種類のエンジンを使用していた車種が大半でした。その2ストロークエンジンというのが環境に対してかなりの曲者。
通常の乗用車のエンジンは、4ストロークエンジンと呼ばれ、燃料を動力に変えるためエンジンの中の工程「吸気、燃焼、圧縮、排気」を全てそれぞれの行程で4つに分け行われています。しかしながら、2ストロークエンジンはその工程を2つに集約し、燃焼に不安定な要素が発生し、コンパクトで軽量ではあったものの燃費や排気ガス性能に関しては悪影響をもたらしていたのです。
現在この悪名高き2ストロークエンジンは、2006年の廃ガス規制により環境性の規定を達成することができず、オートバイ用としてはほとんどのものが廃止され、環境性能のより良い4ストロークエンジンへと変更されました。さらにその排ガス規制は、2016年、2020年にも行われ、4ストロークエンジンであっても、環境性能が悪い車種は販売が難しくなってきたのです。
そこで注目されているのが、電気を動力としたEV。国内オートバイ販売台数・売り上げは減少し、より厳しくなる排ガス規制にあわせてエンジンを開発するのも莫大な費用がかかります。であれば、EVにシフトしてしまうのもおかしくはない流れです。さらに現在ではハイブリッドカーの普及により、EVに使用されるバッテリーの性能向上や価格下落もEVへの後押しをしています。そして乗用車では世界的にも、将来的に乗用車も完全にEVへ移行するという宣言が出ている地域もあります。そのことも、オートバイのEV化をバックアップする力となるでしょう。
ビジネス用電動バイクの経済性と環境性能
電動バイクは電気を使用しモーターで動く物なので、ガソリンなどを使用せず、オートバイそのものから排気ガスは出ません。排気ガスが出ないということで、環境にはもちろんいいことはわかりますが、通常利用するとして、電動バイクはどのくらいの性能があるのでしょうか?
例えば、どこかの旅番組で使用されているヤマハ電動スクーター、「E-Vino」は、一回の充電は約3時間で走行距離は約29キロ。フル充電の価格はなんと約14円!通常の自動車と比べると走行距離も短く、充電時間もかかってしまいますが、デリバリーや買い物など、スクーターとしての活用方法を考えると29キロ走行可能なのは十分。
ちなみに東京都23区の直径は29キロよりもすこし小さいくらい。普段使いのスクーターであれば何も問題ない数値ですよね。そこで注目したいのが、経済的・環境的にも電動バイクを効率よく使用できるデリバリーなどのビジネス業界。
ビジネスで使用するとして、車両価格自体は通常の乗用車のオートバイより高額になるものの、維持費の低さは相当なものになります。ホンダのビジネス用電動オートバイ、「ジャイロ e」は税込販売価格550,000円。一方の通常のガソリンエンジン、「ジャイロ x」は444,800円。この価格差は約10万円ほど。
しかしながらガソリンエンジンのジャイロ xの燃費は1リッターあたり60キロ。ビジネス用と考え、単純計算で毎日30キロ走るとすると、電動ならば1日14円。ガソリンなら1リッター140円として半分の70円。その差1日当たり56円。 年間で20,440円の差となります。
昨今は燃料が高騰していることもあり、更なる高騰が懸念されています。電動であれば燃料費だけでも5年あれば元が取れますね。電動車両の購入に際し補助金を受け取れたり、オイル交換などの整備費用が抑えられることで、商業利用としての維持費はかなり抑えられるでしょう。さらに、排気ガスの臭いもエンジンの音もない電動オートバイを使用しているとなれば、環境についてよく考えている企業としてのイメージ上昇にも貢献するはずです。
電動オートバイ普及の推移
東京都では、2035年までに東京都内で新車として販売されるオートバイを全て電動化するという指針を掲げています。まずは乗用車に注力するという事なのか、日本ではオートバイの電動化に対する普及の試みはそれほど具体的に進んでいるものがありません。しかしながら世界では、環境の意識の高まりによって、自動車のみならずオートバイにもその意識が求められ、電気自動車の普及もそれに合わせて進められています。
企業にはCorporate Social Responsibilities (CSR)という、従業員、消費者、投資家、環境など、幅広く社会への責任を負わなくてはならない、という義務が求められます。それを踏まえ、二輪車の使用により、公共機関が満員になることを防いだり、1人で使用するには効率の悪い自動車の使用を控えることでもCSR達成が可能というわけです。環境への配慮などは、まずは国民の意識を変えてそこから国や地方の政策へという流れになる形でしょう。
そのような中、世界、特にインドやバングラデシュなどのオートバイの一大生産国では電動化に関してどのような状況なのでしょうか?
インドの二輪車と電動化
インドでも電気自動車の開発、製造が活発に行われています。既述のようにインドは世界一のオートバイ生産国で、二輪車生産が活発なため二輪車においても電動化も進んできています。
インド西部の州である、グシャラート州の政府は二輪、四輪にかかわらず電動の自動車に補助金を支給すると発表しました。二輪車の補助金は最大で2万ルピー(約3万円)。四輪車の補助金も最大15万ルピーを支給する予定です。さらに充電施設の拡充化も図り、現在の倍の数にまで増加を予定しています。この政策により、州内の電動自動車を20万台増加させることが目標となっています。
インド政府も電動二輪車に関しての補助金を1.5倍に増額することを発表しました。普及台数は、四輪、三輪、二輪、バスなどに目標が分けられており、四輪は5万5000台、三輪は50万台、そして二輪は100万台と設定されています。二輪車は四輪車に比べて価格が低いので補助金の額も少なく、補助件数が多く取れることに加え、インドでの二輪の普及率の高さからも目標台数が四輪よりかなり高く設定されています。
インドの都市部では特に自動車やオートバイの普及を始め工場の増加などで、大気汚染が深刻な状況にあります。この大気汚染を打開するためにも自動車、オートバイの電動化は急務となっているわけです。
バングラデシュの電動化
インドのお隣、バングラデシュでもオートバイや自動三輪の生産が盛んです。電動化のニュースとしては、アメリカの電気自動車メーカー、テスラがバングラデシュの大手オートバイメーカー、「ランナー・オートモービルズ・リミテッド」と電動の車両や製造、そして販売を行う合弁会社を設立することを2015年にすでに発表しました。
さらに2021年には、インドのアングリアン・オメガ・グループの、電動自動三輪メーカーオメガ・セイキ・モビリティーが電気自動車の工場を建設することも発表されました。
このようにバングラデシュでも電動化普及のための足場を着々と固めているような状況です。インドと同様に、オートバイや自動三輪は商業用に多く活用され、主にタクシーや、運送目的で使用されています。
バングラデシュで生産が盛んなこの自動三輪というのは、既述の日本の三輪オートバイとは異なり、リアに大きな荷物や人を乗せることが可能なタイプとなります。リクシャーやトゥクトゥクなどといえば形の想像がつく人も多いかと思います。
南アジアや東南アジアでは、三輪に加え、二輪のオートバイも運送やタンデムで乗車する形のタクシーとしても利用されており、モータリゼーションの活性化により頻繁に起こる渋滞の回避や、その経済性の高さによって将来的には電動化されていくことが考えられます。バングラデシュのオートバイの生産拠点も増えており、その中で電動化されたオートバイの生産も確実に増加するとみられています。
まとめ
二輪車の電動化にかかわる政策は、日本や世界各国もようやく発案し出したというフェーズのようです。その前に、各企業が新たな需要の確保として、四輪自動車の電動化とともに二輪車の電動化も推し進めているような状況です。
これから新型コロナウイルスの問題が収束したとしても、フードデリバリーや宅配など、いったん便利に思ってしまったサービスに関してはまだまだ市場の伸びしろがあると考えられます。その中でも電動化された二輪車は企業においても、環境においてもメリットがあるため、あと一押しの政府のバックアップがあればさらに普及を見込むことが可能です。
このようなEVの更なる普及により、便利で美しい環境の未来を創造できるといいですね。
フードデリバリーサービスの市場の推移
https://jobs-magazine.com/posts/30418
^ホンダ ジャイロ
https://www.honda.co.jp/news/2021/2210318-gyro.html
インドの電動化政策
https://news.yahoo.co.jp/articles/82593d0a3b5a9e8630f1da932866a4c5c0af4a5c
テスラ、ランナーと協業
https://response.jp/article/2015/02/18/244617.html