新型コロナウイルスの蔓延で、毎日のニュースは感染者数やワクチンの安全性、効果、入院者数などが中心になっていますよね。緊急事態宣言が発令されている地域も多く、いつになれば外に出て今まで通りの活動ができるのか、不安になっている人々も多いのではないでしょうか。
その中で日本や他国においても、いわゆる「ワクチン・パスポート」を作成し活用しようという動きがあります。これにはメリットやデメリットもあり、さまざまな立場からの意見も存在しますが、どのような可能性を秘めているのでしょうか。各国の取り組みを紹介していきます。
ワクチン・パスポートとは
ワクチン・パスポートとはワクチンを打った人を容易に確認するために書類や証明書を発行し、個人のスマートフォンなどにも表示可能にしてワクチン接種の証明をすることができるものです。そしてそれを使用し、感染が心配されるサービスごとに利用可能か否かを判定できるようにしたものです。
国民は接種証明がなければ利用不可能なサービスが出てきます。そのため政府側は国民にワクチンをできる限り接種させ、普及率を上げるという目的と、比較的感染リスクや重症化リスクの低い人が選別可能で、主に外出時の不特定多数が集まるサービス利用の際に接種の有無によって選別するという目的でもあります。
しかしながら問題点として、ワクチンが未だ国民の50パーセントも打てていない状況で、接種したいものの難しいという若い世代が多数存在し、全員が接種していない中では、利用できないサービスが発生してしまうことへの不公平さが生じてしまいます。
もともと体質としてワクチンが打てない体の人にも不利な制度ですし、ワクチンを接種しても完全に感染しないわけではないので、接種して感染した人が外出し余計にウイルスを蔓延させてしまうなどの問題も存在します。さらには、接種してもワクチンの抗体が持続しない可能性や、接種時期によるワクチン・パスポートの期限の必要性なども議論に上がっています。そして、モデルナやファイザーといったワクチンの違いによる 効果の議論や、ワクチンを接種した人としていない人などにより、差別の助長やプライバシーの侵害になる可能性も考えられています。
世界のワクチン・パスポート普及状況は
ワクチン・パスポートを普及させ、接種した国民から経済活動を再開可能なようにする必要性と、このようなさまざまな問題を抱えているワクチン・パスポートですが、それでは海外での状況は現在どのような形になっているのでしょうか。
アメリカのワクチン・パスポート普及状況
アメリカでも高齢者から徐々にワクチン接種が行われ、若年層にも接種が浸透しています。2回接種は65歳以上で約80%、18歳以上でも半数が接種を完了しています。このように接種は進んでいますが、未だ多くの感染者を出し、感染者数のコントロールが難しい状況です。国土が広大で州によって感染率・感染者数・ワクチン接種率も異なるため、更なる蔓延を防止するためワクチン証明書の必要性が高まっています。
証明書はスマートフォンや携帯電話で表示が可能なデジタル方式で、日本と同様に「Vaccine Passport」(ワクチン・パスポート)と呼ばれています。「Excelsior Pass」とよばれる政府のホームページやアプリで登録した後、QRコードが発行され使用する形で、使用時にそれを提示し、証明書の紙へのプリントも可能です。その 証明書は、ワクチン接種済みの場合と検査で陰性になった場合の証明も可能です。
州によりワクチン・パスポート使用の有無は変わってきますが、多くの州では現在法整備の構築中で将来的な施行を目指す形になっています。しかしながら個人や企業では、それぞれにワクチン・パスポートを 所持している人のみ入店可能な場所も増加しています。全体的には、公共の施設や不特定多数の集まる場所であるジム、映画館、レストラン、バーなどでの使用が想定されています。
ワクチンパスポート普及による差別に対する懸念も
このように普及が始まる中で、ワクチン・パスポートによる個人情報や社会的格差に広がりを懸念する動きも出ています。貧困層ではスマートフォンを持つことができない層にさらに差別が広がることや、病気等によりワクチンを受けることができない人が、社会的不利益を被ること、ワクチンパスポートを所持していないことそのものへの差別へと広がりを見せる可能性があるためです。そしてニューヨークのワクチン接種率は白人が53%接種しているのに対し黒人は30%とかなり低く、人種差別や格差の助長につながるとの問題が議論されています。
さらに2021年8月には、アメリカの放送局であるCNNでワクチン未接種の従業員を3名解雇するという出来事が起こりました。CNNでは全社員にワクチン接種を義務付けており、グーグル、フェイスブックなどの有名企業も社員にワクチン義務付けを指示しています。CNNが行った解雇のような厳しい形での処分はまだそれほど行われていませんが、ワクチン接種義務化を強行する動きもあり、こちらも議論の対象になっています。
その状況下で、アメリカは国全体の法律と、州ごとに定められた法律が存在します。ジョー・バイデン大統領は2021年5月時点ではワクチン・パスポートについて消極的な見解を表明していましたが、8月にはワクチンの接種ペースが落ちてきたことや感染の拡大などを理由に、積極的にワクチン接種推進を行いはじめました。しかしながら連邦職員や医療関係者を除き、義務化には至りませんでした。これはアメリカは自由の国であり、接種を受ける受けないは個人の権利として認められているということがネックになっていることが要因になります。
このような問題からもともと差別に関して厳しく規制があるアメリカでは強行的に推進することが難しく、ワクチン・パスポートの導入で接種率の上昇を狙いたいバイデン大統領も結局はそれぞれの州や民間に委ねる形となりました。
イスラエルのワクチン・パスポート普及状況
ワクチン2回目の接種率が8月末時点で78%と世界一高いイスラエル。ファイザー社製のワクチンを主に使用し、デルタ株対策のブースター接種として3回目の接種も必須となり、8月から接種を開始しています。イスラエルではこの接種証明が「Green Pass」(グリーン・パス)とよばれています。
この接種証明は有効期間が定められ 、2回目もしくは3回目を接種し、そのワクチン接種から6ヶ月以内が有効となっています。イスラエルでもアプリや書面でQRコード証明を発行可能で、証明書の提示時に免許証などの本人確認書類も必要とされています。
イギリスのワクチン・パスポート普及状況
イギリスでもワクチン接種はかなり進んでいます。国民の約65%が2回目のワクチンを接種済みです。そしてイギリスでのワクチン・パスポートの名称は「NHS COVID Pass」(エヌエイチエス・コビッドパス)と呼ばれます 。
NHSはNational Health Serviceのことで、日本の国民保険のような制度のことです。この接種証明は海外への渡航、国内イベントへの参加などで提示が必要になる場合があります。他国と同じように政府のホームページで登録後、QRコードが発行されアプリや印刷して使用可能です。
フランスのワクチン・パスポート普及状況
フランスでもワクチンの接種が進み、60%ほどの国民に2回目の接種が終了しています。フランスでの接種証明の名称はEU圏内そして近隣の協力国内共有で使用されているものと同様の「Digital Green Certificate」(デジタル・グリーン証明)を使用しています。
フランスでは2021年の4月にEU内でもいち早く接種証明のテストが始めました。そして現在はアメリカよりも強硬に接種証明を義務づける方針を示しています。
他のヨーロッパ諸国のワクチン・パスポート普及状況
EU各国に加え、アイスランド、リヒテンシュタイン、北マケドニア、ノルウェー、サンマリノ、スイス、トルコ、ウクライナ、バチカンもフランスと同様、デジタル・グリーン証明書のシステムを利用しています。他国と同じようにスマートフォンや紙にプリントしたQRコードが 使用可能です。
EU内ではフランスと同様に、イタリアなども接種証明を義務づける動きが強くなっています。このグリーン・パス証明書を使用しているヨーロッパと周辺の国々ではイギリス、スペイン、フランス、ポルトガル、ドイツ、イタリアなど西側の接種率が60%以上と高く、東側は多くとも50%ほどと接種率が低くなり、協力国内でも接種率の違いが存在しています。
これはワクチンの確保には経済的な負担が重くなるということ。つまり経済的に豊かな国はワクチンが確保可能だが、そうでない場合は供給が不足するという一面も存在します。
中国のワクチン・パスポート普及状況
中国では自国生産の「科興控股生物技術」(シノヴァク・バイオテック)と「中国医薬集団」(シノファーム)製のワクチン接種が義務づけられており、都市部のワクチン接種率は非常に高く、80%ほどの市民がワクチン接種を終えています。
ワクチン・パスポートは「疫苗证明」と呼ばれており、これは直訳するとそのままワクチン証明となります。これは「騰訊」(テンセント)社の「微信」(ウィーチャット)という日本でのLINEのように普及しているチャットアプリにて、接種証明を利用可能で、この接種証明は身分証にも紐づけられています。そしてこの接種証明は中国製のワクチンにのみ有効です 。
中国では一党独裁体制のため、アプリで個人情報を登録し、さらに人々の動きを検閲する、というのも思惑にあるようで、中国国内では移動制限が解除される中、接種証明が義務化されつつあります。そしてこれにより、省をまたぐ移動や公共移動機関の使用を許可するような流れになっています。
ニュージーランドのワクチン・パスポート普及状況
ニュージーランドは南半球、オーストラリアの隣に位置する日本のような島国です 。感染者数は少なく抑えられている状態で、現状では日常生活での接種証明の必要性はそれほどは叫ばれていませんが政府は来年の2022年導入の動きをみせています。それよりも感染者の入国を防ぎ、国内での感染を広げないことを重点に置いています。
ニュージーランドでワクチン接種を受けた場合、紫のワクチン接種カードを受け取ることが可能です。しかしながら、海外渡航の際にはこのワクチン接種カードでは不十分なことが多く、別途渡航用の接種証明フォームを記入してメールを送信、そして渡航の際に証明書を受け取るような形です。
まとめ
現在のところ各国の接種証明の普及に関して、政府はさまざまな問題により、接種証明提示の義務法制化よりも、接種率を上げることを目的にしている所がほとんどです。世界でもワクチン・パスポートに関してはこれからの議論の中心となり、利用方法もその議論の中で、国民の不利益にできる限りならないよう、さまざまな形で案が出されています。
新型コロナウイルスに関しては不確実な要素が多く、接種証明があることでのメリット、そしてデメリットをよく考え、国民の納得がいく形で遂行していってほしいものですね。
アメリカのワクチン接種率
https://www.mayoclinic.org/coronavirus-covid-19/vaccine-tracker
アメリカのワクチンパスポートについて
https://www.google.co.jp/amp/s/amp.cnn.com/cnn/2021/08/09/us/how-to-show-vaccination-proof-on-phone-wellness-trnd/index.html
https://covid19vaccine.health.ny.gov/excelsior-pass
CN
https://www.bbc.com/japanese/58125530
イスラエル接種証明
https://corona.health.gov.il/en/directives/green-pass-info/
イギリスの接種証明
https://www.nhs.uk/conditions/coronavirus-covid-19/covid-pass/
EU Digital Green Certificate
https://ec.europa.eu/info/live-work-travel-eu/coronavirus-response/safe-covid-19-vaccines-europeans/eu-digital-covid-certificate_en
世界のワクチン接種率
https://graphics.reuters.com/WORLD-CORONAVIRUS/VACCINATION-TRACKER/jznvnyzjqpl/
中国のワクチン接種証明
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021030901059&g=int
https://news.yahoo.co.jp/articles/9dc55774ed4889d36666d3e87888268f0d510841?page=2