1月も後半となりました。今年のお正月はどのように過ごしたでしょうか。外出を自粛し家で「寝正月」だった、という方も多いのではないでしょうか。
さて、日本ではお正月といえば陽暦、つまり元旦の1月1日から3日までを指しますが、中国で新年と言えば旧暦の「春節」=旧正月です。
2021年の春節は2月11‐17日(7連休)の予定です。
今回は来たる中国の春節について、慣習や帰省・Uターンラッシュ、IT業界が繰り広げるビジネスなどについてご紹介します。
http://j.people.com.cn/n3/2020/1126/c94475-9791126.html
春節には何をするのか?
家族や親戚と食事
基本的には日本と同じで家族、親戚が集まって食事、会話などを楽しんで過ごします。
食事は中国の北と南でそれぞれ習慣が異なります。例えば北は水餃子や魚料理、南は火鍋や揚げ春巻きなどです。
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餃子の一例。親戚一同で集まることが多いため量は多めに用意される
揚げ春巻きの一例
なお、揚げ春巻きを食すのには「新春の到来を祝う」という意味と、きつね色が金を連想させることから「金運、仕事運に恵まれるように」という縁担ぎの意味があります。
「圧歳銭(お年玉)」の習慣
こちらも日本と同じですが、お年玉を子どもたちに渡す習慣があります。
赤い袋にお金を入れて渡すことから、「紅包(ホンバオ)」(赤い包みの意)と呼ばれています。
アントグループのアリペイ、テンセントのWeChatペイなどモバイル決済が急速に進んだ中国。
2014年、WeChatペイでユーザー間の送金ができるようになったことを機にお年玉もモバイルでのやり取りが進みました。
日本では昨年末に新型コロナウイルスによる外出自粛を機にリモートお年玉が議論され始めたばかりです。以下のANNニュース動画の後半でリモートお年玉について紹介されています。この分野は中国がかなり先を進んでいる印象です。
旅行熱も上昇
毎年春節の期間になると、テレビやネットで中国からの旅行客でにぎわう百貨店や観光地の様子が伝えられてきました。
日本でも例年ですとこの期間はインバウンド需要が見込まれ、中国人旅行客向けに事業者は様々なキャンペーンを展開しています。
中国のアリババ系旅行サイト「飛猪(フリギー)」によると、2019年の春節期間中に旅行した全体の延べ人数は前年比19%増加し、海外旅行者は同28%増加していました。海外旅行の行先はタイや日本が、国内の旅行は広州や上海が人気なようです。
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結婚の催促を嫌煙する若者たち
若い頃、実家に帰ると「結婚はまだか」と聞かれ、適当に話をごまかしたという経験がある方もいるのではないでしょうか。中国でも同じです。
近年、家族や親戚からの結婚の催促を嫌い、あえて実家に帰らず旅行する若者が増えているようです。中国メディアの21世紀経済報道は、2020年の春節直前、「春節単身游(春節一人旅)」という言葉がネットのホットワードになったと伝えています。
今年の春節は2月11日~17日
1週間の休暇
中国では毎年、春節と国慶節(建国記念日)は全国的に1週間の休暇となります。
中国国務院は昨年11月、2021年の春節を含む休暇、祝日のスケジュールを公表しました。今年の春節休暇は2月11日~17日までとされています。
11日は「除夕(大晦日)」と言われています。上部カレンダーの7日、20日のところに「班」という文字がありますが、こちらは「出勤」を意味し、「振替出勤」を指します。
春節前の大移動について
春節時期、中国では「人民大移動」とも揶揄される帰省・Uターンラッシュが起こります。これは「春運」と呼ばれます。日本の年末年始の帰省ラッシュとは比較にならないほど鉄道、飛行機などあらゆる交通手段のチケットが入手困難な状況に陥ります。
筆者も中国留学時代、春節期間に旅行先から戻る鉄道チケットが買えず、泣く泣く深夜列車の「無座(座席なし)」に乗車した経験があります。すし詰めの車内で友人と励まし合いながら8時間ほど立ちっぱなしでした。
列車チケットの購入方法
中国では比較的低コストかつ短い移動時間で済む鉄道が移動手段として大人気です。ただ、春節期間の鉄道チケットを購入するのは非常に困難とされています。
インターネットでの購入が主流
ITが発達した現在はインターネット購入が主流です。主に中国鉄道部の公式サイト・アプリ「中国鉄路12306」、から予約を行います。オフィシャルサイトである本サイトへはアクセスが集中しサーバーがダウンすることもあるようです。
中国鉄路12306の公式ホームページ
筆者が中国の複数の友人に本サイトからチケットを購入できなかった場合を尋ねると、その場合は旅行代理店への問い合わせや、携程(シートリップ)、去哪儿(Qunar)などオフィシャル以外のサイトを徹底的に探すなどあらゆる手段を取るのだそうです。
チケットの購入期間
今年の春運期間は1月28日から3月8日の40日間と定められており、ネット・電話による予約は30日前から、窓口での予約は28日前からとなります。
鉄道部が公開したチケット購入カレンダーは今日時点でいつのチケットが購入できるのかをネット・電話、窓口に分けて緑と黄色で、特に込み合う期間は赤で明記しています。例えば大晦日2月9日のチケットは1月13日からネットで予約購入が可能です。
コロナ禍の影響
近年の春運
2019年、春運期間(1月21日~3月1日)の旅客輸送量は延べ30億人、鉄道旅客輸送量は4億1000万人に上りました。昨年2020年は新型コロナウイルスの影響で同14億7600万人、2億1000万人まで減少しています。
2020年の春運の旅客推移
以下は2020年春運期間(1月10日~2月18日)前半の旅客数の前年比率の推移を示したグラフです。図には十七~廿五とありますが、これは中国での旧暦の日付の呼び方で、1月11日~19日までを掲載しています。
https://www.chyxx.com/industry/202003/841126.html
グラフを見ると、初一(元旦)までは鉄道、道路、水運、飛行機いずれも前年比増または横ばいですが、元旦から後半は前年比減となっていることがわかります。
春運前半15日間の旅客輸送量はのべ11億4300万人、前年同期比2%増でしたが、後半25日間は3億3300万人、同82%も減少しました。春節後半15日間の各交通手段における旅客輸送量も飛行機は前年比78%減、道路は同82.3%減、鉄道83.4%減、船89.2%減など大幅に減少しています。
コロナ禍で懸念される今年の春運
現在、北京に隣接する河北省で新型コロナウイルスの感染者が増加傾向にあり、1000万人都市の省都、石家庄市は今月9日から1週間のロックダウン措置が取られました。
石家庄市副市長会見の様子
バス、地下鉄、タクシーなど公共交通機関はすべてストップ、商業施設も営業停止となりました。同市内のすべての住民を対象にPCR検査も実施し、春運の大移動を前になんとか抑え込もうとしています。
鉄道旅客数は回復する兆しも…
今年の鉄道旅客輸送量について中国鉄道部は4億人にまで回復すると見込んでいます。ただ、河北省以外でも北京、黒竜江省、遼寧省などで感染例が続発しており、国家安全委員会はできるだけ移動を控えてほしいと呼びかけています。
春節期間のビジネス
春節期間、一般企業は基本的に休暇となります。家でスマホを見ながらダラダラすることが増えるこの時期ですが、そんな時期を狙って中国IT各社は電子マネーを利用したお年玉キャンペーンを展開しています。その具体例を見ていきましょう。
春節聯歓晩会とタッグ
2015年、テンセントは日本の紅白歌合戦に相当する中国中央テレビの「春節聯歓晩会」(以下「春晩」と表記)と提携し、テレビの掛け声に合わせてスマホを振ると抽選で電子マネーのお年玉が送られるキャンペーンを展開しました。
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1623903295264676884&wfr=spider&for=pc
「春晩」は毎年除夕(大晦日)の夜に放送され、高視聴率を誇る国民的番組です。キャンペーン参加にはアプリのインストールが必至となるため、「春晩」と提携することはユーザーを爆発的に増やせるチャンスを掴むことでもあるのです。
2014年の春節前、800万人しかいなかったWeChatペイのユーザーは2015年5月には3億人にまで増えました。2015年大晦日から6日間、テンセントは総額5億元(約80億円)のお年玉を放出しましたが、ユーザーが急増した実績に各社が注目します。
なお2015年当時、モバイル決済のシェアはアリペイが68%、WeChatペイは同20.6%でしたが、2018年にはほぼ拮抗状況になりました。転機は「春晩」だったとされており、アリババ内ではテンセントによる「奇襲」だったとの声も出ているほどです。
アリババ、バイドゥも続く
この「春晩」との連携はその後春節の名物となり、2016年から2018年までの3年間はアリババが、2019年はバイドゥが連携しています。バイドゥは番組放映中だけでも9億元(約147億円)を放出し、大きな話題となりました。
アリペイの「集五福」
春晩との連携以外でも、IT各社は春節期間中に様々なお年玉キャンペーンを展開します。中でも有名なのはアリペイが2016年から始めた街中の「福」の字をスマホで撮影し全5種類のカードを集める「集五福」。
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1624611901341990017&wfr=spider&for=pc
開始当初の2016年は79万人の参加者が総額2億元(約31億6000万円)を山分けし、平均で一人当たり272元(約4400円)のお年玉が得られ、注目されていましたが、年を追うごとに参加者が増えお年玉の額は微々たるものになっています。
2017年はお年玉総額2億元に対し1億6800万人が参加し一人に割り振られるお年玉はたった1元(16円)程度に下がり、昨年2020年も総額5億元(約80億4220万円)に対し3億1800万人の参加で同1.5元(24円)程度でした。
得られる金額はそう多くはないですが、友人とのカード交換、街中での「福」探しなど、カード5種類を集めるのに必要な体験そのものをゲーム感覚で楽しんでいるユーザーが多いようです。
https://wannianli.tianqi.com/news/264062.html
2021年春晩とのコラボは拼多多(ピンドゥドゥ)
今年の春晩はEC事業者の拼多多が提携権を勝ち取りました。ユーザーが購入したいと思う商品についてSNSで親戚や友人に呼びかけ、複数人で共同購入することで割引特典を受けられるサービスを展開しています。
同社は商品の支払いにこれまでアリペイやWeChatペイなど外部サービスと連携してきました。前述のとおり、春晩は爆発的にユーザーを増やせる大チャンスです。21世紀商業評論などの中国メディアは「これを機に自社の支払いサービスを本格的に展開させるはずだ」と予測しています。
ピンドゥドゥ選出の理由-「双循環」がカギ
ピンドゥドゥ選出の理由には、中国政府が新発展モデルとして掲げる「双循環」構想とのマッチングが大きいとの声があります。本構想は「消費の底上げと力強い国内市場の発展を目指す」(2020年12月28日付ロイター記事より引用)ものです。
ピンドゥドゥは農産物のオンライン販売からスタートしました。同社が展開するオンラインの共同購入と産地直送を組み合わせたビジネスで多くの農家が市場開拓のチャンスを手に入れています。
CCTVの扶貧助農戦略合作(農村部の貧困扶助戦略協力プロジェクト)のパートナーでもある同社のビジネスモデルは、内需を拡大させ脱貧困・格差社会を目指す中国政府のビジョンに沿うと言えるのでしょう。
終わりに
いかがでしたか?春節の習慣、民族大移動、電子マネーを利用したお年玉キャンペーンなど日本の年末年始とは異なる点を楽しんで読んでいただけたでしょうか。
新型コロナウイルスの封じ込めに成功していた中国ですが、最近は感染者が増加傾向にあります。今年は例年通りの春節とはいかない地域もあるようです。世界各国が「毎年の習慣」を当たり前に過ごせる日常が早く戻るよう願うばかりです。
参考URL
https://www.afpbb.com/articles/-/3324603
https://www.afpbb.com/articles/-/3262974
https://news.livedoor.com/article/detail/19460838/
https://new.qq.com/rain/a/20210107a0fvib00
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1688569333224054403&wfr=spider&for=pc
https://www.163.com/dy/article/FV13E0EA0514R9KQ.html
http://j.people.com.cn/n3/2020/1229/c94475-9804047.html
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020123000759&g=int
https://www.chyxx.com/industry/202003/841126.html
https://www.sohu.com/a/299001447_120051966?sec=wd
https://news.mydrivers.com/1/617/617702.htm
https://www.chunichi.co.jp/article/182798
https://new.qq.com/rain/a/20210106a0d1oz00
https://ashu-chinastatistics.com/news/707396-93409016170
http://www.gov.cn/guowuyuan/2020-12/31/content_5575952.htm
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021010700984&g=int
https://www.huffingtonpost.jp/2019/02/05/hongbao-dazhan_a_23660578/
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1624611901341990017&wfr=spider&for=pc
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1622967566137050886&wfr=spider&for=pc
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1623903295264676884&wfr=spider&for=pc
http://www.mnw.cn/news/digi/2351376.html
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1678791151250545080&wfr=spider&for=pc
https://www.asahi.com/business/reuters/CRBKBN29201L.html
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1678815611353304354&wfr=spider&for=pc
https://www.sohu.com/a/421019567_393779
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1625504281824146691&wfr=spider&for=pc