バイデン次期大統領就任間近、バイデン氏に対する中国ネットの見方・評価を調査

大混乱となった2020年米大統領選から2カ月あまり。トランプ大統領は「選挙に不正があった」と訴え続けていますが、バイデン次期大統領の勝利は確実となり、今月20日に第46代大統領の就任が予定されています。

トランプ大統領のアメリカ第一主義とは異なり、「国際協調」を重んじるバイデン氏。

温暖化対策などの方面では中国との協力を模索するとの予測もありますが、中国との貿易問題、海洋進出問題、人権問題などでは当面強硬路線を維持すると見られています。

今回はそのバイデン氏について、同氏の選挙優勢、当選確実が伝えられた際や、対中政策などについて中国のSNS上でどのように議論されているのかを探ります。

バイデン氏優勢~当選までの声

まずは大統領選において、バイデン氏が優先であるとメディアが伝えていた11月初旬の頃のネットの様子です。

中国版「Yahoo!知恵袋」とも言える「知乎」では以下のようなトピックで議論がなされていました。

「紙談風月」さんの投稿

2万30000人以上から関心を集めている「紙談風月」さんが投稿した、「バイデン氏が当選したら中国へはどう影響する?」と題した投稿に様々な意見が集まりました。投稿の概要を紹介します。

  • 「中米関係が悪化し続けると、両国の争いの間にロシアや軍事的に再強化した欧州が覇権争いで得をしてしまうのではないか」
  • 「米国は欧州と協力し中国に対抗するだろうが、トランプ氏のような同盟国の『搾取』はしないと思う。」
  • 「アジアの国々とはアジア版NATOの構築やTPPへの参加で軍事、政治、経済から中国を孤立させ圧力をかけてくる」

バイデン氏は各国との協調を大切にしながら、中国には圧力をかけ続けるが、そのやり方はトランプ氏のような大胆かつ攻撃的なものではなくなる、ということですね。

「紙談風月」さんの投稿へのコメント

上記の見解に対してはコメントが多数集まり、議論となっています。大まかに3タイプほどの意見がありましたので、分けて紹介します。

紙談風月

https://zhuanlan.zhihu.com/p/273979672

悲観的意見

  • 「バイデンさんは中国統一問題では僕らと考え方が違うから…。最初は中国と良好な関係を築けてもそういう違いから関係が悪化するんじゃないかな」
  • 「コロナ、経済、財務、社会の分断…どれをとってもトランプさんよりバイデンさんが良いと思う。ただ、バイデンさんの年齢を考えると、次の4年間の政策の長期的維持は難しいだろうな」

香港や台湾問題を背景にしたと思われる要因、年齢的な要因からバイデン政権に懐疑的な見方が多いように思えます。

紙談風月2

今後4年は中国にとっての準備期間

  • 「バイデンさんは4年しか持たないだろう。4年後にトランプ2号が出てくることを考えて、中国はこの4年間を準備期間と捉えるべき」
  • 「4年ごとに中国の耐性は強くなってきているから問題ない」
  • 「トランプ本人が4年後再当選する可能性もあるよな」
  • 「トランプじゃなくてもイバンカならあり得る」
  • 「トランプ本人は無理でも保守強硬派が地盤巻き返しを達成する可能性は多いにある」

そもそも今後4年がどうなるか、の議論ではありません。この4年間を「共和党候補者再選に備えた準備期間」と捉える議論が見られました。

紙談風月3

楽観的意見

  • 「中国は総合工業生産大国。貿易問題で重工業が制限されても軽工業がある。最悪の事態にはならない」
  • 「機械化も発展したし、第二子も産める時代だ。人口規模も優勢、どんな種類の工業も揃っているのは中国だけだ」

自国の力を信じているからこそのコメントですね。「どんな種類の工業も揃っている!」とはっきり言えるのは日本からしたら羨ましい部分もあります。

バイデン氏の当選が確実となった後

バイデン氏が当選確実となったのは2020年11月8日。世界中で同氏当確の速報が流れ、中国の環球時報も世界のメディアに追随する形で伝えました。同社の公式ウェイボーアカウントでも伝えられていたので、その際のネットの反応を見てみます。

バイデン

安堵の声

  • 「よかった、まずは早くコロナを何とかしてくれ!」
  • 「慈悲深い人も必要なんだよ」
  • 「ひとまず、穏やかになってくれるかな」
  • 「科学、新エネルギー、ソーラー発電…、中国もまた注力できることになる」
あんど

「ひとまず現状が落ち着くだろう」という意味でバイデン氏の当選に安堵を示すコメントは多く見受けられますが、同氏の対中政策や今後の展望に対して歓迎を示すユーザーは少ないようです。

トランプ大統領に関連したコメント

  • 「まだトランプさんが何かしてくるでしょう。争い事が大好きだから」
  • 「トランプが大暴れするぞ、周りを罵り散らかして物を投げ散らかして叫んで…、それからどうするだろう?」
  • 「トランプは言うぞ『俺はホワイトハウスを動かない』」
  • 「トランプの春も終わりか」
  • 「えー面白くない。トランプさんの次の一手が見れないなんて」
  • 「トランプは4年後また出て来るさ」
トランプコメント

実際にトランプ氏は1月になっても敗北を認めず、支持者の議会襲撃を扇動したとして2度目の弾劾訴追まで受け退任直前に大混乱となっています。最後の「4年後に再出馬」についての報道は多くのメディアも取り上げていますね。

トランプ氏が引き続き大きな影響力を持つとの予測は多いようです。

懐疑的コメント

「バイデンはトランプよりも恐ろしい。トランプは毎回常套手段で派手に中国を攻撃していたけど、バイデンは思慮深いし慎重。経済的にも政治的にも中国を『叩きのめす』ために世界中の国と連携して中国を孤立させると思う。」

トランプコメント3

このようにバイデン氏を警戒するコメントも目立ちます。日本のメディアでもバイデン氏は同盟国との関係を修復し、香港問題、ウイグルなどの人権問題を切り口に中国に厳しい姿勢で臨むことは伝えられています。

トランプ氏は他国との協調よりも「自国第一主義」を掲げて単独で中国を「口撃」する行動も目立ちました。地固め、根回しをしっかりしてくると考えられるバイデン氏を予測しづらいと感じているネットユーザーは多いようです。

勝利確定時

昨年12月14日にバイデン氏が270人の選挙人を獲得し、正式に勝利が確定しました。その際、米国民へ向けて団結を促すスピーチを行いましたね。中国ネットではどのような反応があったのでしょうか。

勝利

反発の声

  • 「団結?こんなにも分裂したアメリカに呼び掛けてるのか?」
  • 「明らかにトランプさんが勝っただろう!選挙を盗んだんだ」
  • 「全部ウソに聞こえてしまう」

バイデン氏に否定的な声が多い理由

分裂した米国を嘲笑しているようにも思えます。ここまで見てきて、バイデン氏に否定的な声が多いと思われた方もいるのではないでしょうか。実は中国ではトランプ氏の再選を祈っていた人たちが圧倒的に多いのです。

同氏が再選すれば米国の分断、混乱はさらに進むでしょう。それは結局、超大国としての威信を傷つけ、激化する米中覇権争いにおいて確実に中国を優位に立たせることになるからです。中国にとって米国の混乱は都合がいいのです。

「川建国」

中国には「川建国」という言葉があるのをご存じでしょうか。

川は中国語のトランプという意味の「川普(ChuanPu)」から取っています。「トランプが中国を建国してくれた」という意味で、米国の混乱が進むほど中国には有利だとネットでは喜ばれていたのです。

トランプ中国

https://www.sohu.com/a/404480831_100277189

前途多難なバイデン氏の対中政策

中国とEUの包括的投資協定

各国と協調して中国包囲網を作るとされるバイデン氏ですが、そう簡単ではないでしょう。2020年12月30日、EUと中国は包括的投資協定に原則合意しました。ジェトロによると本協定の目的は「市場開放や公正な競争環境の確保など投資環境の整備」です。

また「中国の国家補助や、合弁企業への技術移転の強制、環境基準など、公正な競争環境に関する規定が設けられた」としており、EUと中国のビジネスバランスの均衡化や、EUの中国市場拡大が見込まれます。

これがバイデン氏就任直前に合意に達したことに大きな意味がありそうです。実際バイデン陣営は合意前にEUに警告も発しています。

中国EU

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1687498605405413187&wfr=spider&for=pc

観察者網の報道

中国メディアの観察者網は本件を「EUはバイデン次期大統領の対中政策をさらに困難にした」という見出しで伝え、「EUは米中関係において中立を維持するメッセージを発した。しかし経済連携では今後米国より中国との関係を重視せざるを得なくなってくる」などと論じています。

中国EU2

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1688218409996683555&wfr=spider&for=pc

これに対し中国ネットでは以下のような声が上がっています。

  • 「なんでEUがアメリカのいう事聞かなきゃいけないんだ?」
  • 「アメリカと協力して中国を攻撃する国があればその国はアメリカと一緒に穴に落ちるよ」
  • 「簡単なことだ。バイデンが世界の情勢を見極めて現実を受け入れればアメリカは良くなる」
中国EU3

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1688218409996683555&wfr=spider&for=pc

「包括的投資協定」「バイデン」で検索

この他、ウェイボー上で「包括的投資協定」「バイデン」を検索ワードとして入力したところ、以下のような声がありました。

  • 「バイデンはある程度予測できたんじゃないかな。英国に離脱され、トランプのやり方にも焦りを感じていた。今回議論をリードしてきたドイツは中国と良好な貿易関係を保ってきたわけだし。アメリカと距離を置いて中国と近づこうと思ったんだよ」
  • 「トランプが米国の影響力を下げてしまったから、バイデンの警告も聞き入れられなかったんだろうな」

米国の孤立化が進み、国際社会で影響力が下がっていると考えるユーザーは多いようですね。

なお、現段階では協定は合意の段階です。

このため「まだ、合意しただけでしょう。ぬか喜びに終わる可能性もある」「重要なのは、いつ署名されるか」といった冷静なコメントも見られました。

米中関係は好転するのか、悪化するのか

「孤煙暮蝉」さんの投稿

最後に紹介するのは600万人以上のフォロワーを持つウェイボー公式アカウント「孤煙暮蝉」さんの「バイデン氏の対中政策は米中関係を好転させるのか、悪化させるのか」という投稿とそのコメントです。投稿の一部を紹介します。

孤煙暮蝉

最初に「バイデン氏は引き続き中国の産業に圧力をかけるのか、南シナ海、台湾や香港問題への対応はトランプ政権とどう変わるのか?」と投げかけ、ネットでは関係改善と悪化両方の予測があるとしながらも「大局的には米中が争うのは変わらない」としています。

そして「バイデンは、オバマ政権時失敗に終わったアジアの『最重点化』『リバランス政策』を再度行おうとしているように感じる」と指摘。この政策は日本のメディアでも中国に融和的だったとの批判が出ています。重点が中東に偏っていました。

そして「オバマ政権の8年間何も変化は起きなかった。中国はオバマ政権時より強くなっている。包囲網を心配することは何もない」としています。

オバマ

http://mil.news.sina.com.cn/china/2016-09-21/doc-ifxvyqvy6967707.shtml

ユーザーの反応

上記投稿へは多くのユーザーが反応しました。

  • 「バイデンはオバマ2号みたいなもんだしな。アメリカは08年当時より弱体化してるし大丈夫」
  • 「トランプさんみたいに狂ったやり方はしなくてもオバマさんより陰険に思う」
  • 「結局、表面上は関係回復と見せかけて、実際は悪化するでしょう」

両国の関係改善に否定的な見方が多いですが、中にはこんな意見もありました。

  • 「アメリカがまずやらなくちゃいけないのはコロナ対策。その次に、もう一度大国としてのイメージを作り上げること。一定の関係改善は必要だと思う」
  • 「現実は厳しいのかもしれないけど、悪化しないのが一番いいに決まってる」

最後に

いかがでしたか?現状、バイデン氏の当選を喜ばしくないように思っているユーザーの方が多いようです。最後に両国の関係改善を願うコメントがあることも紹介しましたが、国民同士が関係改善を望むことこそ希望になるのではと思います。

4年後、ネット上では米中関係についてどんな議論が交わされているのでしょうか。今よりも友好的な声が多くなっていることを願います。

<参考URL>
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210101/k10012793451000.html

https://zhuanlan.zhihu.com/p/273979672

https://www.visiontimesjp.com/?p=11402

https://president.jp/articles/-/40618

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1688218409996683555&wfr=spider&for=pc

https://weibo.com/ttarticle/p/show?id=2309404590849848639503

https://news.yahoo.co.jp/articles/e557469ae3dbb7305444794961dec6ff82c41a4a?page=1

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2018pdf/20180801109.pdf

http://mil.news.sina.com.cn/china/2016-09-21/doc-ifxvyqvy6967707.shtml

https://weibo.com/ttarticle/p/show?id=2309404573622277636550

https://www.sankei.com/premium/news/160130/prm1601300022-n2.html

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/78996?page=5

https://jp.reuters.com/article/china-usa-idJPKBN299020

https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/01/b8cedc72aa64dbb8.html

https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/435286.html

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00046/?P=2

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020072100324&g=int

https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20201024-00204474/

https://www.sohu.com/a/404480831_100277189

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1687498605405413187&wfr=spider&for=pc

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020111300736&g=int

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