中国の自動車業界のトレンド。電気自動車普及の道のりは明るいのか

中国といえば、近年さまざまな分野で世界一を誇ります。中でも重要な自動車産業では、自動車の販売台数ダントツ世界一の国。自国メーカーでの生産や、海外のメーカーと協業しての生産をしており、人口の多さ、景気の良さ、国土の広さによる車の重要性などの要因で販売量が多くなっています。

そして昨今の大気汚染が原因で、通常のガソリンエンジンを使用する自動車から電気自動車の開発も進んでいます。そんな今一番熱い、中国の自動車トレンドについてこの記事では説明します。

中国の市場規模

中国の2019年の自動車保有台数は、なんと約2億6000台。日本の人口など優に超える数字ですよね。ちなみに日本の所有台数は8000万台ほど。ただし、世帯数から換算した保有率を比べると、日本の保有率は、世帯数より車の台数が多い計算になります。

自動車

しかし中国は人口が20これほど多くの保有台数があったとしても、保有率としては少ない現状です。その分、まだ自動車を所持していない2億もの世帯が存在するため、購買に関するポテンシャルはかなり高いことがわかります。この側面からも中国の自動車販売は手堅く伸びて行くと考えられます。

そして、中国の自動車販売は現在世界一。2019年のデータから、2576万台を1年間で売り上げています。2位はアメリカで1748万台、3位が日本でグッと下がって519万台になります。新型コロナウイルスや、米中摩擦の関係でここ2.3年は売り上げが若干減少しましたが、2021年はまた回復してきています。

さらに将来的には2025年に3000万台を売り上げるとの予想も出ています。

中国が自動車販売台数1位になったのは2013年のこと。その時期で1600万台を売り上げていました。近年は米中の貿易摩擦や、排ガス規制の影響により販売台数が若干減少に転じていますが、1995年から2017年まで平均15から20パーセントほど販売台数が増加しています。

日本の主要の産業である自動車販売も中国の販売台数と比べてしまうと日本はたったの6分の1。ちなみにバブルの1990年の日本の自動車販売台数でも777万台でした。バブル期の販売台数でもこの数なので、中国の販売台数には全く歯が立たない数字ですね。

コロナ禍で日本の自動車販売台数がどうなるのか予想が難しいですが、もはや中国の販売台数に追いつくことは難しいかもしれません。

グラフイメージ

中国発の自動車メーカー

中国には独自の自動車メーカーがあり、その自動車メーカーと海外の自動車メーカーが協業して現地で生産し、それを販売している形になります。

日本では、ほぼ知られていない中国の自動車メーカー。ここではそんな中国の五大自動車メーカーについてご紹介します。

第一汽車

毛沢東指導のもと、国産車開発を行なってきたメーカー。赤旗という共産党のVIP向けの高級車を販売している国営メーカーです。

上海汽車

SAIC MOTORとも呼ばれています。名前の通り上海に拠点を持ち、古くからフォルクスワーゲンと合弁し、「サンタナ」を販売し人気を博していました。最近ではアメリカのゼネラル・モーターズとの合弁企業、上汽通用五菱汽車から「43万円の電気自動車」として「宏光mini ev」を発売し、日本でも話題になりました。

東風汽車

商用車での販売は中国でも1位の自動車メーカー。トラック販売にも強く、2位の販売力がある。もちろん乗用車も販売しています。

長安汽車

重慶を拠点とする自動車メーカー。清時代の中国の政治家、李鴻章(り・こうしょう)により興された。LandwindというSUVのブランドを設立し、ヨーロッパにも輸出をしています。

奇瑞汽車

チェリー自動車、とも呼ばれています。エンブレム部分にはCHERYとのっています(さくらんぼのCherryとはスペルが違い、”r”が1つのみ)。過去に販売された”QQ”がシボレー・スパークにデザインが似ているため訴えられたことで有名。

その他の主要メーカー

北京汽車集団

BAIC グループとも呼ばれています。ダイムラーとヒュンダイと共に、1958年に設立されたメーカーです。

浙江吉利控股集団/Geely

この自動車会社は、2010年にスウェーデンの自動車メーカー、ボルボを買収したことで有名です。その他にも、マレーシアで大きな販売規模を誇る自動車会社「プロトン」、ロータス・カーズの株の半数近くを取得。メルセデス・ベンツを販売する「ダイムラーAG」の筆頭株主でもあります。

比亜迪汽車/BYD

二次電池も生産している会社で、リチウムイオン電池は世界でもトップレベルの製造量。特に近年では電気自動車開発用の二次電池開発に力を入れており、トヨタと共同でEVの研究開発をする合弁会社「BYD TOYOTA EV TECHNOLOGYカンパニー有限会社(BTET)」を設立しています。自動車ボディ用の金型を製造する日本の大手企業「オギハラ」を、2010年に買収したことでも有名です。

さらにこの会社は、バークシャー・ハサウェイの筆頭株主で、アメリカで最も有名な投資家ウォーレン・バフェットもこの会社に投資をしているなど話題に事欠かない会社です。

このほかにも、中国には多数の自動車メーカーがあり、海外のメーカー買収や、新テクノロジーを使用した自動車の開発などで、五大メーカーの牙城を崩そうと群雄割拠入り乱れての競争が行われています。

中国外の資本企業との提携

握手

中国のトレンドを超えてスタンダードとなるものといえば、外資系メーカーとの協業。既述しましたが、中国は外資系の自動車メーカーが中国国内で自動車を販売する場合、中国の自動車メーカーと合弁して生産をしなくてはならないと言う規制があります。そのため世界各国の自動車メーカーはさまざまな中国自動車メーカーと共同で生産を行なっています。ここでは日本との協力企業、合弁会社をリストアップします。

トヨタ自動車の中国における合弁会社

天津一汽夏利汽車 第一汽車傘下の企業

以前はトヨタのヴィッツなど小型車を生産していましたが、現在はトヨタのパーツを使用し独自ブランドとして販売しています。

天津一汽豊田 第一汽車傘下企業

トヨタのカローラ、クラウンなどを生産しています。

日産の中国における合弁会社

東風汽車有限公司 東風汽車傘下

日産の日本国外で販売する海外仕様での乗用車を販売している。現在外観や仕様が日本と似ているものは「エクストレイル」「GT-R」などのみです。

鄭州日産汽車 東風汽車傘下

ピックアップトラック、ミニバン、SUVを生産。

ホンダの中国における合弁会社

東風本田汽車 東風汽車傘下

日本のラインナップに近いですが、フロント、リアデザインは若干中国専用のものに手直ししているものが多いです。

広汽本田汽車 広汽汽車集団傘下

東風と同じ車種もあるが、名前前後デザインを変更して販売しています。

中国における電気自動車の普及

ev充電

今世界で一番注目されている自動車関連の最新ニュースは電気自動車に関するものです。特に、中国は現在深刻な大気汚染に見舞われ、健康被害につながっています。大気汚染の主な原因としては工場からの排煙、家庭用の熱源等に使用する粗悪な石炭による排煙、そして自動車による排ガスなどが挙げられます。その中で、自動車の排気ガス低減と自動車産業のさらなる発展を目指して、電気自動車の開発に力を入れています。

電気自動車開発に関しては排気ガス低減のほかに、もうひとつ重要な要素があります。

中国独自の自動車メーカーは現在、他国の自動車の品質にはまだ追いつけていない段階です。そこで新規の電気自動車開発であれば、動力の部分において他国の自動車メーカーと水をあけることなく開発が可能と考えているわけです。

電気自動車はすでに中国でも発売されており、既述の「五菱宏光ミニEV」は電気自動車にも関わらず、日本円換算で約43万円からというリーズナブルさで中国国内で大ヒット。最低価格モデルは装備も簡素でエアコンもつかないようなモデルですが、エアコンをつけても約49万円に収まるといいます。

外観は軽自動車のハイトワゴンのようなスタイルで、車高が高く、その代わり全長は切り詰めたような形になっています。全長2917mm、全幅1493mm、全高1621mmの短くて背の高いプロポーション。日本の軽自動車の規格では全幅が1480mmまでと決められているので、ほんの僅かに日本の軽自動車よりも幅が広くなっています。最高速度は100km/hまでしか出せませんが、120kmの航続距離を誇ります。乗車人数も、全長が短い割には4名まで乗車することが可能です。

日産の電気自動車「リーフ」だと322kmの航続距離がありますが、新車価格は332万円からとなっています。装備も十分で3倍の距離は走れますが、価格は6倍以上。

走りや質感などは日本車のレベルには達しておらず急速充電もありません。しかし、近所の買い物やそれほど遠くない仕事先の通勤用用途、加えて充電を夜中にできる環境が整っている場合には、雨風も防げて、ガソリン代もかからないため、こだわらない人にはこの価格はかなり魅了的でしょう。

衝突安全のレベルや快適性など、この価格で日本で販売するにはまだまだ高い壁がありますが、中国生産の利点を活かし低価格で輸入されることがあれば、日本の自動車メーカーにとってかなりの脅威となるでしょう。

ev充電2

中国におけるEV・HV普及促進の政策

まず2013年には電気自動車、プラグインハイブリットには補助金を支給し、購入を促すことから始まりました。そして2020年10月には、2035年までに全ての自動車販売を、電気自動車、新エネルギー車、ハイブリッド車のみにする、という考えを明らかにしました。

世界最大の販売規模を持つ中国で、全ての販売する自動車を新しい動力を使ったものに入れ替えるとなると、他の国々へ影響が及ぶことは必至です。中国に合弁企業を持つ外国の自動車メーカーもそれに合わせる必要がありますし、中国での開発が進めば他国もそれに合わせて開発競争を繰り広げる必要があります。このような電気自動車や新エネルギー車への技術開発が新たなトレンドとなっています。

自動運転技術の開発

電気自動車と関連して語られる技術が自動運転技術。電気自動車メーカーとして有名なアメリカの「テスラ・モーターズ」も、自動運転技術を発表しています。これも他の自動車メーカーと足踏みを揃えて新規開発にあたるので、資本力のある中国メーカーには大いに有利です。すでに中国では、バスやタクシーなどの自動運転の実験をしており、タクシーは試験運転を開始しています。

さらに中国の通信機器大手メーカー「ファーウェイ」やIT企業「バイドゥ」なども自動運転技術の事業に190億ドルを投資しています。自動運転技術は今までの自動車の技術と違い、AIや、通信技術などを駆使するため、電気自動車とあわせて、現在の中国の得意分野でもあるわけです。

中国の自動車用バッテリーの発展

自動車用バッテリー

電気自動車について話を進めるには、バッテリーのことについても話す必要があります。中国では自動車用のバッテリーの生産が盛んに行われており、中国の電気自動車用電池メーカーである、寧徳時代新能源科技、通称「CATL」は2017年に日本のパナソニックを抜き、世界一のシェアを誇っています。このメーカーのバッテリーはさまざまな自動車メーカーの電気自動車用バッテリーとして使用され、トヨタ、ホンダ、日産を始め、ヒュンダイ、フォルクスワーゲン 、BMWなど世界中の主要電気自動車メーカーで取り扱われています。設立はまだ2011年と、10年余りの会社ですが急激な成長を遂げています。

このメーカーの自動車用バッテリーは、コストが大変低いため採用されることが多いようです。特に価格が高いコバルトを使用しないバッテリーを使用したテスラ・モーターズの「Model 3」は、前のモデルより約10パーセントの値下げをしています。

そのほかにも自動車メーカーとして既述したBYDも世界のトップレベルのシェアがあり、中国が自動車用電池に力を入れていることが伺えます。このように中国の自動車用バッテリーは日本のメーカーを追い抜き、世界のシェアのトップを独走している状態です。

まとめ

このように中国では、中国独自の自動車メーカーと、外国の自動車メーカーとが、合弁企業を作り、そこで自動車を、生産しています。その中で、今電気自動車関連の開発と販売に力を入れており、低価格な電気自動車、低価格で信頼性の高いバッテリー、自動運転技術の開発などにより、中国の強みを活かした技術で自動車市場を席巻しようとしています。

信頼性の高い商品であれば、携帯電話や家電が続々と中国メーカーに変わってきたように、中国製の電気自動車が日本に輸入され、人々が当たり前のように使用する日が来るかしれません。電気自動車関連技術を中国が昨今得意としているエレクトロニクスや、IT産業と繋げることにより、トレンドの波に乗せ自動車市場を牽引していく形となります。

かつてのあらゆる電子機器、家電メーカーが、中国に買収され、そして世界売り上げもトップとなっている企業が多い中国。これからは中国市場のトレンドは世界のトレンドになりうる価値があります。日本の自動車メーカーにも、今までのように品質が良く、さらに低価格で、中国自動車メーカーが電気自動車を日本で販売しても、負けないような車作りをして欲しいものですよね。

世界の自動車販売
https://www.globalnote.jp/post-11249.html

中国の自動車販売予測
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/12/2feec76b3f181da6.html

中国の販売推移
https://www.eyjapan.jp/library/issue/info-sensor/pdf/info-sensor-2014-02-07.pdf

中国の自動車保有台数
http://japanese.cri.cn/20200108/fa7e1386-a81d-8795-b3e2-8d9e52829aa5.html

東風汽車
https://www.dfl.com.cn/sp/html/catalog/catalog1-eg.html

中国のガソリン車全廃
https://www.google.co.jp/amp/s/www.asahi.com/amp/articles/ASNBW75L8NBWULFA034.html

無人タクシー
https://forbesjapan.com/articles/detail/38554/1/1/1

自動運転投資
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-05-10/QSV5QADWLU6M01

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