リチウムイオン電池はスマホやタブレット、電気自動車など、現代の豊かな生活を支える製品に欠かせない技術です。今後も需要が拡大するとみられており、注目の産業といえます。
本記事ではリチウムイオン電池の概要や世界ランキング、国内企業3選を紹介します。
リチウムイオン電池とは
リチウムイオン電池とは、正極(+)と負極(-)の間をリチウムイオンが移動することで、充電と放電ができる二次電池です。マンガン乾電池のように一度しか放電できない電池を一次電池、充電して繰り返し使える電池を二次電池と呼びます。
リチウムイオン電池の用途
リチウムイオン電池は大容量・小型・軽量が特徴です。その特徴からさまざまな用途に使われています。ここではリチウムイオン電池の用途を紹介します。
・電気自動車
脱炭素化の意識の高まりから世界的に普及が進んでいるのは、電気自動車やプラグインハイブリッド車です。リチウムイオン電池は大容量で軽量、さらにさまざまな形状に対応できることから、電気自動車各種でよく用いられています。
・スマホ・タブレット
リチウムイオン電池の代表的な用途は、スマホやタブレット、パソコンといった電子機器です。軽量かつ小型化しやすいためです。大容量のリチウムイオン電池により、1回の充電で長時間利用できるなど、現在のスマホやタブレットにはなくてはならないパーツといえます。
・蓄電器
リチウムイオン電池の用途に、電気をためて利用する蓄電器があります。太陽光発電などの再生可能エネルギーは、二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーです。しかし、電力を必要な分だけ生産するといった調整が難しいのがデメリットです。そこで、過剰に生産したエネルギーを蓄電器にためることで、エネルギーを無駄なく使えます。
蓄電池の市場規模の推移
リチウムイオン電池の将来の市場規模を考えるうえで、参考となるのは蓄電池の市場規模です。リチウムイオン電池はその性能の高さから、今後も蓄電池の重要な技術と考えられるためです。
経済産業省の資料によると、蓄電池の2019年の市場規模は約5兆円でした。2030年には40兆円、2050年には100兆円の規模に達するとみられています。とくに車載用の蓄電池の需要は、今後急速に拡大すると予測されています。
出典:経済産業省「蓄電池産業戦略(案)」
なお定置用とは、主に一般家庭や施設などに設置する蓄電器用の蓄電池のことです。
リチウムイオン電池メーカーの世界ランキング
次世代を担う産業として注目を集めているリチウムイオン電池ですが、世界のシェアを占めているのは、中国と韓国です。日本は両国と比較するとやや出遅れています。リチウムイオン電池のメーカーの世界ランキングからも読み取れます。
順位 | 会社名 | シェア率 | 国 |
---|---|---|---|
1位 | CATL | 30.0% | 中国 |
2位 | LG Energy Solution | 21.5% | 韓国 |
3位 | Samsung SDI | 13.2% | 韓国 |
4位 | TDK | 12.1% | 日本 |
5位 | BYD | 11.6% | 中国 |
6位 | パナソニック | 9.6% | 日本 |
参照:ディールラボ「リチウムイオン電池の市場シェアの分析」
上位5つのメーカーだけで中国は41.6%、韓国は33.7%です。対して日本は13.2%と差があることがわかります。
世界で活躍する日本のリチウムイオン電池メーカー
リチウムイオン電池の分野において、世界で活躍している企業は以下の3社です。
- TDK
- パナソニックエナジー
- 村田製作所
この章では、3社の特徴や取り組みについて解説します。
TDK:CATLとの合弁会社を設立
出典:TDK
TDKは受動部品・センサ応用製品・磁気応用製品・エナジー応用製品を主軸に、世界で活躍する企業です。30カ国以上に250を超える拠点があります。2023年3月期の売上高は、2兆1,808億円で過去最高を更新しました。そのうち、海外売上比率は91.9%です。
出典:TDK「TDKについて」
TDKのリチウムイオン電池は、「エナジー応用製品」の事業の1つです。2023年3月期のエナジー応用製品事業は1兆1,734億円で全体の53.8%を占めます。
TDKのリチウムイオン電池に関する取り組みは、世界トップシェアを誇るCATLとの合弁会社の設立です。TDKはスマホなどの小型・軽量のバッテリーに強みを持ち、CATLは車載用のバッテリーに強みを持つ企業です。その2社が合弁会社を設立することで、戦略的な協業関係を構築するとしています。
また、TDKは世界初の全固体電池の開発に成功するなど、リチウムイオン電池以外でも注目を集めています。
パナソニックエナジー:コバルトフリーの開発を推進
出典:パナソニックエナジー
パナソニックエナジーは、パナソニックグループの事業会社の1つで、電池関連事業を統合した企業です。2022年のパナソニックの事業会社制への移行にともない設立されました。2022年の売上高は9,718億円で、事業構成は以下のとおりです。
出典:パナソニックエナジー「会社概況」
パナソニックエナジーは事業構成からもわかるように、車載用リチウムイオン電池が主力商品です。
パナソニックエナジーのリチウムイオン電池における特徴的な取り組みとして、コバルトフリーがあります。コバルトフリーとは、リチウムイオン電池に含まれる希少金属のコバルトを使わないことです。
コバルトには「価格が高い」「供給が安定しない」などの問題点に加えて、「児童労働」という問題も抱えています。世界最大のコバルト産出国のコンゴでは、2万5,000人もの子どもがコバルト採掘場で働いているとされています。
つまり、サステナビリティの観点からもコバルトフリーの実現が求められているのです。パナソニックエナジーでは、コバルトフリー電池を2025年までに量産できるように開発が進められています。
村田製作所:2025年に黒字化の予定
出典:村田製作所
村田製作所は京都に本社を置く電子部品メーカーです。売上高は1兆8,125億円で国内電子部品大手のなかでもトップレベルの売上高を誇ります。また海外売上比率は90%以上あり、多くの製品でトップシェアを獲得しています。
出典:村田製作所「ムラタを取り巻く業界」
村田製作所は2017年にソニーエナジー・デバイスを買収した際に、リチウムイオン電池事業も譲り受けました。そもそもソニーが事業を売却した理由は、赤字を脱却できなかったためです。
村田製作所に事業が譲渡された現在も、赤字を解消できていません。その大きな理由は、世界的な需要拡大を受けて積極的な設備投資をしているためです。これらの設備投資により、2025年の黒字化を目指しています。
村田製作所のリチウムイオンの特徴は、耐衝撃性・小型化を実現させるパッケージ技術です。数多くの製品でトップシェアを獲得している企業なので、今後の活躍が期待されています。
日本のリチウムイオン電池は再びシェアを獲得できるのか
日本のリチウムイオン電池は世界シェア率を減らし、中国と韓国にシェアを奪われているのが現状です。今後は需要が拡大し、2050年には蓄電池産業の市場規模は100兆円になるとの予測もあります。
リチウムイオン電池のシェアを回復できるかは日本経済にも大きな影響があります。日本が研究開発をリードしてきた分野だからこそ、今後の巻き返しに向けた動きに注目しましょう。