新型コロナウイルスの感染拡大以降、私たちの働き方は劇的に変化しました。多くの企業で在宅勤務やテレワークが導入され、賃料削減のために、オフィスを閉鎖したり、縮小したりする企業も増えています。オフィス戦略は経営戦略とも直結した重要なものです。本記事では、コロナ禍で変化したオフィスのあり方や、企業の新しいオフィスへの取り組みについてご紹介します。
日本企業も、多くがオフィス戦略の見直しをしている
『月刊総務』を発行する株式会社月刊総務が、全国の総務担当者を対象に、オフィスに関する調査を実施したところ、303名のうち約60%以上が、「オフィスの見直しを検討している」と答えました。


https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000060066.html
オフィスの見直しをしている企業は、「コスト削減」だけでなく、「テレワークの定着」「新型コロナウイルス感染予防」などが理由と答えています。
テレワークならではの弊害
コロナ禍に入りテレワークが推進されてきましたが、オフィスならではの価値も再認識されるようになったきっかけの一つが「コミュニケーション不足」です。ZoomやTeamsを使ってのWEB会議が主流になりましたが、どうしても対面でのコミュニケーションが希薄化するため一部の業務がやりにくく、「限界を感じる」という声もあるようです。特に新入社員・中途採用社員・社内の他部門など今まで面識のなかった人同士で仕事をする場合に、人間関係をどう構築していくかという壁にぶつかるケースも多く見受けられます。共有スペースを充実させるなど、社内コミュニケーションの活性化を目的とした新機能を持つオフィスを模索する企業も出てきています。
コロナ禍のフェーズとテレワーク形態の変化
家具・産業用機器等の製造を主とする大手メーカーの株式会社オカムラは、コロナ禍のフェーズを下記のように定義づけ、それぞれの期間に必要な働き方や働く場について議論をしています。
- 緊急事態宣言が出されている状況:エマージェンシーコロナ
- 緊急事態宣言が解除されたものの、まだ感染の恐れがある状況:ウィズコロナ
- ワクチンや特効薬が開発されて、感染の危険性がなくなった状況:アフターコロナ

https://www.okamura.co.jp/company/wil-be/pdf/202004_FlexibleWorkReport_WorkStyle-WorkPlace.pdf
特に、緊急事態宣言中のエマージェンシーコロナの状況下では、外出自粛が呼びかけられ、企業がテレワーク中心の働き方にシフトしました。多くの人がテレワークを強いられるフェーズが、エマージェンシーコロナのオフィス戦略です。ウィズコロナ、アフターコロナを見据えた長期的な視点でのオフィス戦略も積極的に推進されています。代表的なオフィス戦略のタイプをいくつか紹介します。
コロナ禍で選択されるオフィス戦略の種類とは
ハイブリッド型
ハイブリッドとは、異種のものを組み合わる・掛け合わせて生み出されたものという意味です。ハイブリッド型の働き方とは、テレワークとオフィスワークの掛け合わる働き方です。

https://network.yamaha.com/solution/hybrid_workstyle
新型コロナウイルスのデルタ株は世界中の国々で影響を拡大しました。一方でワクチン接種が進むことでオフィスへ回帰への兆しも見えています。
テックジャイアント企業では、アップルがオフィスワークへの復帰を推し進めています。コロナ禍に入ってしばらくした後、「リモートか」「オフィスか」の二元論で語られることが多かったのですが、現在では多くの企業が「どちらも」という選択肢を取りつつあります。
インプット業務や集中して取り組む業務などの在宅でできる業務はテレワークとして、生の会議や活発なコミュニケーションによるアイデア創出などはオフィスで行うといったそれぞれのメリットを活かしています。
リモートとオフィス勤務を兼ね備えるハイブリッド型を取るために、オフィスを縮小する流れに反して、拡張する企業もあります。国外の事例を見てみると、Facebookは在宅勤務制度を拡大していますが、コロナ収束後であっても従業員の半分は在宅勤務になるとの予測しており、ニューヨークで大規模なオフィスの賃貸契約を締結しています。このハイブリット型を進める動きは、IT系企業が多い傾向にあります。
サテライトオフィス
オフィスワークとして実施する必要のない業務、例えば集中して取り組むソロワークやインプット業務はテレワークに向いています。しかし、テレワークでは家族がいるなどの理由でどうしても集中できない、あるいはそもそもインターネット環境も整備されておらず、仕事ができる環境でないといった問題も発生してきます。そこで導入が進められているのが、サテライトオフィスです。
サテライトオフィスとは、企業から離れた場所に設けられた小規模なオフィスのことをいいます。支店や支社のように固定された職場で働くのではなく、従業員が各自の都合に合わせて働く場所を選択できます。
サテライトオフィスの導入により、働く場所が制限されることがないためストレス削減効果、あるいは通勤時間の削減、生産性の向上にもつながります。一方でテレワーク同様、コミュニケーションの不足や逆に怠けてしまうことで生産性が低下するというデメリットもあります。
拡張現実オフィス・仮想現実オフィス
ARやVR技術は様々な分野への応用が進んでいますが、オフィスにも導入事例が増えてきています。それが拡張現実(AR)オフィスと仮想現実(VR)オフィスです。拡張現実オフィスは、ARグラスをかけることで360°の空間をバーチャルデスクとして使用できます。もちろん出社する必要はなく、自宅で勤務が可能です。

https://gigazine.net/news/20181027-spatial-collaborate-anywhere/
またこのグラスを利用することで、目の前に画像として情報を映し出すことができるので、これらの映像を互いに共有し、遠隔でコミュニケーションを取り合いながら業務に取り組むことができます。仮想現実オフィスでは、バーチャルのオフィスに従業員が集まり、会議やプレゼンなどもバーチャルオフィスの空間で行われます。自分の分身であるアバターを作成し、アバターが自分自身に代わってバーチャルオフィスに出勤します。
オフィス内のアバターは全員、実在する従業員です。現実のオフィスを設ける必要がないため、コスト削減にも繋がります。さらにテレワークではありますが、アバター同士で他の従業員とコミュニケーションを取ることで、実際のテレワークの課題である孤独感を感じることもなく、チームの一体感を高めることができます。
多様化するワークプレイス – 各社のワークプレイス戦略
新型コロナウイルス対策によって社会にさまざまな変化がもたらされている中で、注目を集めているオフィスのあり方。これまでオフィスは「社員がそろって働く場所」と、ごく当たり前に捉えられてきましたが、テレワークが実施されるとオフィスには空きスペースが発生し、不要コストが問題視されるようになりました。社会経済の停滞が続く現在、企業運営の効率化・コスト削減は、企業にとってこれまで以上に大きな課題となっています。新型コロナウイルス感染症拡大によって急速にテレワークなどの導入が加速しましたが、感染拡大前からニューノーマルの働き方に着目し、働き方の多様性を受け入れている企業も多いです。それぞれの企業の戦略を見てみましょう。
カルビー
まずは日系企業の中でも先鋭的なオフィス戦略が目立つカルビーです。当社では新型コロナウイルスの感染拡大前からすでに在宅勤務制度、2017年にはモバイルワーク制度を導入しています。テレワークの一つであるモバイルワークは、在宅勤務とは区別され、カフェや移動中の電車など、働く場所を問わない働き方です。新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、これまで制度を利用してこなかった従業員に対しても、原則在宅勤務が命じられました。
さらに2020年6月25日には「Calbee New Workstyle」を発表し、どうしても必要な場合を除いて、オフィス勤務者をモバイルワークを中心とした働き方へとシフトしました。「Calbee New Workstyle」を導入することで通勤時間の削減はもちろん、業務に支障をきたさない場合は単身赴任が解除されます。
また契約書の捺印など、ITの活用による業務の効率化を図ることにも成功しました。
KADOKAWA
ABW(Activity Based Working)と呼ばれる働き方が導入され、従業員が時間や場所に縛られることなく、能動的に行動する仕組みを構築しました。ABWの導入によって、働く場所がどこであっても業務の質を低下させない環境づくりが実現しつつあり、従来のオフィス出社から解放され、生産性と創造性を向上できる新たなワークプレイスの概念も取り入れられています。さらには、サテライトオフィスの利用、在宅勤務手当の支給などを盛り込んだ「サテライトワーク制度」を開始し、個人の働き方のスタイルを尊重できる環境づくりを整備しています。
週3日をオフィスで働き、残り2日を自宅などの自分に合った場所で働くというハイブリッド型のワークプレイスモデルを提唱しています。コロナ禍をきっかけにテレワークを推進することで生産性が向上し、これまでオフィス出社でかかっていた通勤時間をプライベートの自由な時間に充てられることに満足している従業員が多くいます。さらには、より柔軟な働き方を実現するため、上司の許可を得たうえで年に4回、観光地などの他の場所で働ける制度(ワーク・フロム・エニウェア)制度を導入しています。
しかし、在宅勤務が恒常化している中、2021年9月にニューヨークマンハッタンの21億ドル(約2300億円)のオフィスビルを購入するとの発表もありました。様々なビジネスの中心地にオフィスを構え、さらには追加で2000人を雇うと述べ、Googleがオフィスならではの価値を見出していることも伺えます。
Twitter社では「WFH」制度が導入されています。WFHとはWork From Homeの略で、希望があれば永続的に在宅勤務を選択できる制度であり、現在ほぼ全ての従業員がWFHの制度下で勤務しています。在宅勤務の課題である生産性ですが、コロナ以前と同等、むしろ向上したといわれています。
それはTwitter社のカルチャーが大きく関係しています。Twitter社ではもともと積極的に発言、提案する機会が多くあり、それを評価してくれる風潮がありました。そのため、オンラインでのコミュニケーションにおいても障壁はなく、誰でも簡単にチャットでミーティングを設定して相談・提案できる環境が整っています。
さいごに
オフィスは、働く人のマインドに影響し、パフォーマンスを左右する重要な経営の課題です。今回のコロナ禍を経験したことで、多くの企業がオフィスの役割の再定義や、オフィスとテレワークのバランス最適化などの課題にも取り組むことが迫られます。自社の特性や優先順位を踏まえて試行錯誤し、最適解を得ていく必要があるでしょう。
■参考
https://workmill.jp/webzine_about.html
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/ONB/20/economicmedia0722/vol2/
https://www.okamura.co.jp/company/wil-be/pdf/202004_FlexibleWorkReport_WorkStyle-WorkPlace.pdf
https://www.zac-zac.com/office_relocation/strategy/detail10/
https://www.mecyes.co.jp/library/work-style-innovation/001
https://www.workersresort.com/jp/facility/office-space-trends/
https://www.nice2meet.us/what-is-a-satellite-office
https://www.essam.co.jp/hall/column/post_5959.html
https://project.nikkeibp.co.jp/HumanCapital/atcl/column/00016/101600001/?P=2
https://www.calbee.co.jp/newsrelease/200625b.php
https://group.kadokawa.co.jp/workstyle/
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00351/00001/
https://news.yahoo.co.jp/byline/kokuboshigenobu/20210506-00236472
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO71711820Q1A510C2XY0000/
https://en-ambi.com/featured/571/
https://www.bbc.com/japanese/52643971
https://soken.xymax.co.jp/hatarakikataoffice/viewpoint/column042.html
https://www.nytimes.com/2021/09/21/nyregion/google-buys-building-hudson-square.html