ASEANで拡大するオートローン市場。EVシフトとはどう連動しているか?

自動車の購入。結婚や転居などで生活スタイルが変わる際購入する人が多いと言われます。マイホームに次ぎ、数百万の高額な買い物となり、簡単に購入できるものではありません。そのため、なかなか一括で購入することは難しく、購入の際には自動車ローンを使用することも多いのではないでしょうか?

世界でも同様に自動車ローンを使用して購入するケースが多く、特に発展めざましいASEAN諸国での利用率は大きくなっています。本記事ではASEANの自動車ローン市場と関係の深いEV(電気自動車)の市場について解説します。

オートローンとは

金融イメージ

自動車ローンのことを「オートローン」と表現する場合もあります。このオートローンは、さまざまな形態で貸与が行われ、通常のクレジットカードなどを運営する信販会社や、銀行などの金融機関のオートローン、そして自動車会社そのものが取り扱うオートローンなどがあります。

自動車販売台数

昨今の自動車販売規模の縮小や、小型車、軽自動車などの低価格車の販売増加により、世界のオートローン市場は4500億円前後と、横ばいもしくは低迷状態となっています。オートローンの利用率も残価設定ローンを含めて35パーセントほど。しかしながら内訳としては、全体のオートローン利用率は横ばいで、残価設定ローンの利用率は増えているような状況です。

さらに、新車販売台数の伸びが低下している中、追い討ちをかけるように新型コロナウイルスの感染拡大が発生しました。これにより2020年は日本でも新車販売台数が前年比11.5パーセントも減少し、世界では、中国が1.9パーセントの減少にとどめたものの、アメリカで14.7パーセント、ヨーロッパは24.5パーセントの大幅な下げ幅となりました。その新車販売台数の低下に伴いオートローン市場にもその影を落としています。

EVと経済、オートローンとの関係

evアイコン

経済の状況と自動車販売台数、そしてオートローンの利用数とは大きな相関関係があります。経済の状況が悪くなると自動車販売数は減少し、それに伴いオートローン利用数も減少するためです。東南アジア、中国、南アジアなどの新興国では自動車販売台数が増加していますが、日本、北米、オセアニア、ヨーロッパなどでは既に頭打ちの状態。そこで、自動車販売に欠かせない話題がEV(電気自動車)。通常の内燃機関を使用する自動車から、電気を使用するEVへと将来転換することを方針として掲げている国が多く存在します。EVを販売、開発することにより、新しい産業が産み出されることや、EVの充電施設などの充実を図るための公共投資も必要になるため、経済効果には非常に期待ができます。このEVやHV(ハイブリッド自動車)販売が自動車販売を下支え、そして牽引する形となっています。さらに、このEVやHVのガソリンエンジン車よりも高額な車体価格が、オートローンの利用を促すきっかけともなっています。

通常の自動車販売自体は低迷しているものの、EV、HVの販売は堅実に伸びており、2020年には日本での新車自動車販売台数販売比率が3割を越え、36.2パーセントとなりました。

各企業でもEV販売の後押しもあり、ファイナンス各社では、EV、HVに限った特別なオートローンサービスも開始しています。例えば日本の広島みどり信用金庫では、「ECOマイカーローン」として、年利3パーセントの専用オートローンサービスも存在し、低金利のオートローンサービスを提供することで、EV、HVの販売の底上げが見込まれます。

EV販売を足掛かりとして経済が上向きになれば、さらに自動車の購入の原動力となり、オートローンの使用も増加していくことが考えられます。経済の活性化と、自動車生産や販売を増加、またはサポートするEVが、このオートローン市場には欠かせない話題の一つとなります。

このような中、世界の国々では、オートローン市場、そして連動するEV市場は現在どのような状況にあるのでしょうか?

東南アジアのオートローン市場

道路

世界でもオートローンは活発に使用されています。特に東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国は経済の発展が目覚ましく、輸入台数の増加や、世界の有名自動車企業の工場建設、自国での自動車開発を行い、モータリゼーションがさらに活発になってきています。特に新車価格は平均年収に対して高額なこともあり、オートローンの利用率も高い傾向にあります。そして自動車生産や販売が活性化するとともに、環境負荷や、新しい産業の発展を目指した、EVの生産、販売に向けての動きも活発化してきている状況です。

タイのオートローンは高利用率

タイの道路

世界でももちろん自動車など高額な商品を購入する際はローンを使用します。タイでのモータリゼーションは昨今活発になり、各国の自動車メーカーがこぞってタイへ自動車製造工場を設置しました。タイ国内でも自家用車が普及し始め、それに伴い、オートローン市場も拡大を見せてきました。

タイではオートローンの使用率は2017年でなんと約80パーセント。さらに政府の金利政策に伴い、2018年には85パーセントにまで上昇しており、日本と比較してもかなり多い利用率だということがうかがえます。金額が高いものの貸付により利子が支払われるということで、利益も高く貸付業者がさらに増加し、貸付を勧め利用率が上がっていったことも理由の一つです。そしてオートローンの利用内訳としては、新車に対しての利用率と中古車に対しての利用率は8割が新車、残りの2割が中古車となります。

コロナ禍での影響

しかしながらオートローンで問題になるのは、借り入れをしたとしても、様々な理由により返済が難しくなってしまうこと。特に昨今の新型コロナウイルスの蔓延により、会社が倒産したり、仕事を失ったり、収入が少なくなってしまう人々が増加しました。そのため各国ではオートローンの返済猶予措置などを取り入れ国民を保護しています。

タイでも、クルンシィアユタヤ銀⾏は、オートローンをはじめ、各種個人ローン、法人、クレジットカードのローンに関して、返済猶予や、分割支払額の減額などの措置を行っています。

タイの2020年自動車販売台数は、主に新型コロナウイルスの影響により、21.4パーセントも下落してしまいました。しかしながら、2021年上半期はは減税や経済支援が功を奏し、回復傾向にあります。そして、経済の回復には新しい産業を興すのがとても重要。ここでもその足掛かりとなるのがEV。タイ政府も2030年までに、生産する自動車の半数をEVにするという方針を発表しました。さらにインフラの整備も準備しており、2020年には300カ所の、充電スペースを設置する予定としています。

2025年までにはEVの累計販売台数を、105万1000台にまで引き上げたい考えを表明しており、EVの生産をタイ国内で行うことにより経済の活性化につなげたい狙いも垣間見えます。

インドネシアのオートローン市場も活発化

道路2

インドネシアの人口は日本の約2倍強の、約2億7千万人。GDPは1兆200億ドル。ASEANの中では最も経済が発展した国です。経済の発展していくにつれ、インフレ対策として金利は非常に高い状態にありました。しかしながら経済の発展と自動車販売台数の伸びによって自動車ローンの利用も大幅に拡大しています。

インドネシアでのオートローンの使用率は8割を超える規模となっています。さらに、オートローン市場の拡大と共に、オートローンを取り扱う企業も増加しており、市場の活性化に拍車をかけています。

インドネシアのオートローン市場には、「キャプティブ」と呼ばれる保険の子会社や、地元の銀系、そしてノンバンク系が存在しています。キャプティブの中には日本の企業が出資した会社、アストラ(トヨタ系)、プロスペクト(ホンダ系)、インドモビル(日産系)などの会社が存在しています。

インドネシア内には現在、200社あまりのファイナンス企業が存在しており、これからも経済の発展に伴いファイナンス企業の増加により、利用率がさらに増加し、市場が活発になっていくことが考えられます。

コロナ禍での影響

経済が発展していく中で、インドネシア経済にも新型コロナウイルスが影響を及ぼしました。インドネシア政府は、自動車ローン返済の猶予を2020年に行いましたが、9月に終了。その後は債務不履行が増加してしまったため、逆にオートローンの審査が厳しくなり、オートローン使用での購入の際には、頭金率を上げるようになってしまいました。

返済を確実に回収するためにはこの措置は有効ですが、人々の直面した経済のひっ迫や、オートローン利用へのハードルが高くなったことにより、利用率の低下、さらには新車販売台数の低下につながりかねない措置にもなり、市場には大きな影響が出ることが予想されています。そのため、金利の引き下げを行い、影響をできる限り抑える政策も行っています。

しかしながら2021年4月、インドネシアの中古車向けのオートローンはこの新型コロナウイルス蔓延下でも前年比1.6パーセントの増加となりました。新車市場は停滞するものの、価格が低く、電車バスを使用せずに感染の心配のない中古車販売が伸びたために、中古車の自動車ローンも増加したというわけです。

ev充電

新型コロナウイルスの経済状況を抜きにすると、全体的に経済が伸びているインドネシアですが、話題のEVの販売状況はというと、世界と比べてもかなり少ない数字となっています。2020年の販売台数は、全自動車販売数、約53万台に対して120台(約0.02パーセント)。日本ではかなり普及しているHVでさえも1000台(約0.2パーセント)。しかしながら、政府は税金の減免などを行い、生産台数を60万台にまでに増やすと発表しています。

このような政策のもと、これからも伸びしろのあるインドネシアがさらにEVの販売、生産を増加させることで、オートローン市場をより活性化させることが可能になるでしょう。

まとめ

このように経済の拡大とともに自動車産業は拡大し、それに伴いオートローン市場も活発化されていきました。しかしながら新型コロナウイルス蔓延による人々の経済状態の悪化のため、それぞれの国や企業が返済の猶予を与えるなどの措置をしています。

長引くこの新型コロナウイルス蔓延を原因とする不況で、今後さらに補償を延長をするのか、それともインドネシアのように返済不履行リスクを抑えるのか、新しい問題にも直面してきています。その中で、価格の低い車種である中古車が販売を伸ばし、そのオートローン比率が上昇させ、経済の活性化を下支えすることや、各国では、この状況を脱出するために新しい産業であるEV、HVの販売強化、助成などを行い、さらなる経済発展の足掛かりにする考えです。

経済とはどんな出来事により後退してしまうかわからない流動的なもの。しかし人々が生きていくためには、経済の発展は不可欠なものです。

EV転換への大きな波に乗り、自動販売台数の増加、そしてオートローン市場の活性化、そして経済の回復繋がることを祈るばかりです。

オートローン市場
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n0604re3.pdf

市場規模試算
https://www.jmar-bi.com/report/00730I.html

自動車ローン利用率
https://www.jama.or.jp/lib/invest_analysis/pdf/2019PassengerCars.pdf

EV比率
https://www.aba-j.or.jp/info/industry/14322/

広島みどり信用金庫
https://www.shinkin.co.jp/midori/kariru/kojin/mokuteki/ecocar.html

タイの自動車ローン
https://www.lapita.jp/2015/09/kawasaki-clmn05.html

タイでの自動車ローン猶予措置
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/covid-19/asia/th/list0421.pdf

インドネシアオートローン
https://www.lapita.jp/2016/02/kawasaki-clmn13.html

インドネシアのオートローン2
https://arayz.com/columns/car_business_202010/

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